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第二章 聖教の黒炎、ドミニクの狂信
第22話:無実の商人の絶叫とドミニクの悦楽
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摂政レジナルド公爵と、聖都から来た若き異端審問官ドミニク・ギルフォードが、密やかな会談を持った数日後のことである。二人の間で交わされた、血塗られた盟約は、既にアキテーヌの運命を、破滅へと向かう暗い軌道へと乗せていた。
その最初の標的として選ばれたのは、王都でも指折りの大商人、ジャン=ピエール・マルシャンだった。
マルシャンの屋敷では、その朝もいつものように穏やかな時間が流れようとしていた。彼はその卓越した商才で一代にして莫大な富を築き上げたが、決して強欲ではなく、むしろ信心深く貧しい人々への施しを惜しまない、慈悲深い人物として王都の民衆からも篤い信頼を得ていた。
そして何よりも彼はヴァロワ家とは古くからの付き合いで、亡きアンリ公爵の良き相談相手であり、その経済的な最大の支援者でもあった。そのことが、彼の運命を決定づけた。
「人生とは、神から与えられた一時的なもの。富もまた然り。」
マルシャンは毎朝の祈りの後、窓辺に飾られた質素な十字架に向かい静かに呟くのが常だった。
「その富を、いかに正しく用い、多くの人々のために役立てるか…それこそが、我ら人間に課せられた、神の御心に適う道であろうな」
彼は、その言葉通り、自らの屋敷の一室を、貧しい子供たちのための私塾として無償で開放し、多忙な仕事の合間を縫って、自らも時折、子供たちに読み書きや算術を教えていた。子供たちの屈託のない笑顔と、学ぶことへの純粋な喜びが、彼の何よりの慰めであり、生き甲斐でもあった。
しかし、その日の朝はどこか空気が重く、不吉な予感が彼の胸を微かにざわつかせていた。窓の外の空はいつもよりも暗く、時折カラスの不気味な鳴き声が凶事を告げるかのように屋敷の庭に響き渡っていた。
マルシャンが、私塾に集まった数人の子供たちに、優しい笑顔で物語を読み聞かせようとしていた、まさにその時だった。
屋敷の重厚な樫の扉が、けたたましい轟音と共に乱暴に蹴破られた。
「きゃあああ!」
子供たちは突然の暴力的な音に恐怖し、泣き叫びながらマルシャンの足元にしがみついた。マルシャン自身も、驚きで言葉を失い、その場に立ち尽くした。
土足で踏み込んできたのは、異端審問官ドミニク・ギルフォードと、彼が率いる十数名の血も涙もないと噂される聖堂騎士の一団だった。彼らは獲物を狩る獣のように、その瞳に冷酷な光を宿し抜き身の剣を煌めかせている。
「ジャン=ピエール・マルシャン!」
ドミニクの声は一切の感情を排した、まるで鋼のような冷たさと、神の代理人を気取る者の傲慢な響きを帯びていた。
「神聖なる聖教の名において、そしてアキテーヌ国王ギヨーム陛下の厳命により、貴殿を異端の容疑で逮捕する! 抵抗すれば神罰が下り、その場で打ち首となるものと知れ!」
マルシャンは、そのあまりにも理不尽な宣告に一瞬自分の耳を疑った。
「し、審問官殿! これは一体何の誤解ですかな!? この私が…この私が異端ですと!? 私は、生涯を通じて聖教の教えを忠実に守り、神に仕え、そして貧しき者たちに手を差し伸べてきたつもりですが…何かのお間違いではございませんか! どうか、お調べ直しを!」
しかし、ドミニクはマルシャンのその必死の訴えに、嘲るような冷たい笑みを浮かべるだけだった。
「誤解だと? 愚かな異端者めが。神の目は節穴ではないわ。貴様のその敬虔な信者を装った仮面の裏に隠された、忌まわしき罪は、全てお見通しなのだ。…何をためらっておる! この屋敷の隅々まで、徹底的に捜索せよ! 異端の証拠が、必ずや、埃と共に姿を現すはずだ!」
ドミニクのその命令一下、聖堂騎士たちは飢えた狼の群れのように屋敷の中を荒らし回り、書物を床に叩きつけ、高価な調度品を破壊し、そして怯える使用人たちを脅迫した。
やがて、一人の聖堂騎士がギルバート男爵の指示で、事前にピエール・ド・ブロワがマルシャンの書斎の奥深くに巧妙に仕込んでおいた、「禁じられた古文書」
――実際には、ヴァロワ家から盗み出された、マルシャンとは何の関係もない古代の歴史に関する記述や、エルフの伝説を記したごく普通の羊皮紙の束――や、「異教の神々を祀るための、怪しげな偶像」――実際には、マルシャンが東方の国々との交易で手に入れた異国情緒豊かな美術品や、ただの美しい装飾品に過ぎないもの――
を、さも今、大変なものを発見したかのように、大げさな身振りでドミニクの前に差し出した。
ドミニクは、その「証拠」を手に取ると、まるで勝利を確信したかのようにその顔に狂信的な笑みを浮かべた。
「これを見よ、ジャン=ピエール・マルシャン! これが、貴様の隠された異端の動かぬ証拠だ! まだ白を切るつもりか! この神をも恐れぬ、偽善に満ちた大罪人めが! 貴様のその汚れた魂は地獄の業火で焼かれて当然なのだ!」
*
その頃、ヴァロワ家の元会計係ピエール・ド・ブロワは、ギルバート男爵から与えられた血塗られた金貨を握りしめながら、王都の安酒場で震える手で深酒をしていた。彼の心は自らの卑劣な裏切り行為が、いつか露見し、マルシャンやヴァロワ家の亡霊に裁かれるのではないかという、狂気に近い恐怖で完全に引き裂かれそうだった。
(マルシャン殿…申し訳ございません…本当に、本当に申し訳ございません…! あなた様には、何の罪もないことを、この卑しい私が一番よく知っているのです…。しかし、私には…私には、こうするしかなかったのだ…あのギルバート男爵の蛇のような冷たい目…摂政レジナルド公爵の、全てを見透かすような恐ろしい権勢…そして何よりも、私の愛する妻と、まだ何も知らぬ幼い子供たちを守るためには…誰かが、誰かが犠牲にならなければならなかったのだ…それが、たまたま、あなた様だったというだけで…私ではない…私が悪いのではない…悪いのは、この腐りきった、救いのない世の中なのだ…! そうだ。私は悪くない…私は、ただ、弱い人間だったということなんです…!)
彼はそう心の中で必死に自分に言い聞かせ、自らの罪から逃れようとした。だが、その言葉は彼の魂の奥底で嘲笑う悪魔の囁きのように虚しく、そしておぞましく響くだけだった。
*
ジャン=ピエール・マルシャンは、何の罪状も具体的に告げられぬまま、聖教の光も届かぬ薄暗く湿った異端審問所の地下牢へと、家畜のように引きずられていき、冷たい石の壁に重い鉄の鎖で無残に繋がれた。
そこは、過去に無実の罪で捕らえられた者たちの絶望と苦痛の匂いだけが充満する、まさに生き地獄のような場所だった。
やがて、ドミニク審問官が数名の屈強な、その顔には一切の人間的な感情を浮かべない拷問吏を伴って、その地下牢に姿を現した。ドミニクの手には血で汚れた聖書と、そして見ているだけで背筋が凍りつくような、禍々しい様々な形状の尋問具が、彼の歪んだ信仰心の象徴のように握られていた。
「さて、ジャン=ピエール・マルシャン。神の御前で貴様の犯した全ての忌まわしき罪を、正直に、そして詳細に告白する時が来たようだ」
ドミニクの声は静かだが、その奥には底知れぬ冷酷さとサディスティックな悦びが隠されていた。
「貴様は、その莫大な富を使い、聖教が厳しく禁じる魔道書を収集し、夜な夜な自宅の地下に隠した秘密の祭壇で忌まわしき異教の神々を祀り、このアキテーヌ王国を呪詛する、おぞましい黒ミサを行っていたのであろう! そして、あのヴァロワ家と共謀し、我らが国王ギヨーム陛下と、そしてこの私、神の聖なる代理人たる異端審問官ドミニク・ギルフォードを暗殺しようと企てていたことも我々は全て掴んでおるのだ! さあ、その汚れた口で、洗いざらい白状せよ! さすれば、神の無限なる慈悲によりいくらかの魂の救いはあるやもしれんぞ! さもなくば…」
ドミニクは、そこで言葉を切り、傍らに控える拷問吏たちに顎で合図を送った。拷問吏たちは、まるで飢えた獣が獲物を見つけたかのように、そして残忍な笑みを浮かべながら、マルシャンにじりじりと歩み寄る。
「滅相もございません、審問官殿! 私は、断じてそのような大それたことは、夢にも考えたことはございません! 屋敷から発見されたという書物や偶像も、私には全く無関係のものばかりです! どうか、私の言葉を信じてください! 私は無実です! これは、何者かによる卑劣な罠なのです!」
マルシャンのその無実の叫びは、ドミニクの耳には悪魔の戯言としか聞こえなかった。むしろ、その必死の抵抗が、ドミニクの歪んだ嗜好をさらに刺激した。
「まだそのような、見え透いた嘘を…! よろしい。ならば、その頑なで罪深き魂が神の絶対なる真実の前に、完全に砕け散るまで聖なる試練を与えてやろうではないか! やれ! この愚かなる異端の罪人に、神の愛の鞭を存分にくれてやれ! その肉体が朽ち果て、その魂が永遠の苦しみに喘ぐまで、決して手を緩めるでないぞ!」
拷問吏たちの手によって、マルシャンの老いた体には次々と残忍で非道な拷問が加えられていく。肉を裂く鞭の音、骨の軋む鈍い音、そしてマルシャンの、もはや人間のものではないかのような絶叫が、薄暗い地下牢に朝まで何度も何度もこだました。
ドミニクは、その地獄のような光景を神聖な宗教儀式でも執り行っているかのように、恍惚としたそして悦に満ちた表情で見つめていた。彼の目にはマルシャンのその想像を絶する苦痛は、罪深き魂が聖なる試練によって浄化されていくこの上なく美しく、そして神聖な過程にしか映っていなかったのだ。
*
ヴァロワ家の屋敷。
イザボー・エレオノール・ド・ヴァロワの元に、ジャン=ピエール・マルシャンが異端の容疑で逮捕され、異端審問所の地下牢で過酷な拷問を受けているという衝撃的で、詳細な報せが聖教内部の密告者からもたらされたのはその日の夕暮れ時のことだった。
イザボーはその報告を聞き、全身の血が凍りつくような感覚と、そして内臓が焼け付くような激しい怒りに襲われた。これが、レジナルドとドミニクによるヴァロワ家への、そして自分たちに与する者たちへの、完全な殲滅作戦であること。そしてマルシャンが完全に無実であることを、彼女は改めて確信した。
「マルシャン殿まで…! あの者たちは本当に人の心を持たぬ、血も涙もない悪魔だわ…! このままでは、ヴァロワ家に関わった全ての者が、一人残らずあの狂信者のドミニクの手によって無残に惨殺されてしまう…! 何とかしなければ…! マルシャン殿を何としてでも救い出さなければ…!」
しかし、彼女の力はあまりにも小さく敵はあまりにも強大だった。そして残された時間は限られていた。
その最初の標的として選ばれたのは、王都でも指折りの大商人、ジャン=ピエール・マルシャンだった。
マルシャンの屋敷では、その朝もいつものように穏やかな時間が流れようとしていた。彼はその卓越した商才で一代にして莫大な富を築き上げたが、決して強欲ではなく、むしろ信心深く貧しい人々への施しを惜しまない、慈悲深い人物として王都の民衆からも篤い信頼を得ていた。
そして何よりも彼はヴァロワ家とは古くからの付き合いで、亡きアンリ公爵の良き相談相手であり、その経済的な最大の支援者でもあった。そのことが、彼の運命を決定づけた。
「人生とは、神から与えられた一時的なもの。富もまた然り。」
マルシャンは毎朝の祈りの後、窓辺に飾られた質素な十字架に向かい静かに呟くのが常だった。
「その富を、いかに正しく用い、多くの人々のために役立てるか…それこそが、我ら人間に課せられた、神の御心に適う道であろうな」
彼は、その言葉通り、自らの屋敷の一室を、貧しい子供たちのための私塾として無償で開放し、多忙な仕事の合間を縫って、自らも時折、子供たちに読み書きや算術を教えていた。子供たちの屈託のない笑顔と、学ぶことへの純粋な喜びが、彼の何よりの慰めであり、生き甲斐でもあった。
しかし、その日の朝はどこか空気が重く、不吉な予感が彼の胸を微かにざわつかせていた。窓の外の空はいつもよりも暗く、時折カラスの不気味な鳴き声が凶事を告げるかのように屋敷の庭に響き渡っていた。
マルシャンが、私塾に集まった数人の子供たちに、優しい笑顔で物語を読み聞かせようとしていた、まさにその時だった。
屋敷の重厚な樫の扉が、けたたましい轟音と共に乱暴に蹴破られた。
「きゃあああ!」
子供たちは突然の暴力的な音に恐怖し、泣き叫びながらマルシャンの足元にしがみついた。マルシャン自身も、驚きで言葉を失い、その場に立ち尽くした。
土足で踏み込んできたのは、異端審問官ドミニク・ギルフォードと、彼が率いる十数名の血も涙もないと噂される聖堂騎士の一団だった。彼らは獲物を狩る獣のように、その瞳に冷酷な光を宿し抜き身の剣を煌めかせている。
「ジャン=ピエール・マルシャン!」
ドミニクの声は一切の感情を排した、まるで鋼のような冷たさと、神の代理人を気取る者の傲慢な響きを帯びていた。
「神聖なる聖教の名において、そしてアキテーヌ国王ギヨーム陛下の厳命により、貴殿を異端の容疑で逮捕する! 抵抗すれば神罰が下り、その場で打ち首となるものと知れ!」
マルシャンは、そのあまりにも理不尽な宣告に一瞬自分の耳を疑った。
「し、審問官殿! これは一体何の誤解ですかな!? この私が…この私が異端ですと!? 私は、生涯を通じて聖教の教えを忠実に守り、神に仕え、そして貧しき者たちに手を差し伸べてきたつもりですが…何かのお間違いではございませんか! どうか、お調べ直しを!」
しかし、ドミニクはマルシャンのその必死の訴えに、嘲るような冷たい笑みを浮かべるだけだった。
「誤解だと? 愚かな異端者めが。神の目は節穴ではないわ。貴様のその敬虔な信者を装った仮面の裏に隠された、忌まわしき罪は、全てお見通しなのだ。…何をためらっておる! この屋敷の隅々まで、徹底的に捜索せよ! 異端の証拠が、必ずや、埃と共に姿を現すはずだ!」
ドミニクのその命令一下、聖堂騎士たちは飢えた狼の群れのように屋敷の中を荒らし回り、書物を床に叩きつけ、高価な調度品を破壊し、そして怯える使用人たちを脅迫した。
やがて、一人の聖堂騎士がギルバート男爵の指示で、事前にピエール・ド・ブロワがマルシャンの書斎の奥深くに巧妙に仕込んでおいた、「禁じられた古文書」
――実際には、ヴァロワ家から盗み出された、マルシャンとは何の関係もない古代の歴史に関する記述や、エルフの伝説を記したごく普通の羊皮紙の束――や、「異教の神々を祀るための、怪しげな偶像」――実際には、マルシャンが東方の国々との交易で手に入れた異国情緒豊かな美術品や、ただの美しい装飾品に過ぎないもの――
を、さも今、大変なものを発見したかのように、大げさな身振りでドミニクの前に差し出した。
ドミニクは、その「証拠」を手に取ると、まるで勝利を確信したかのようにその顔に狂信的な笑みを浮かべた。
「これを見よ、ジャン=ピエール・マルシャン! これが、貴様の隠された異端の動かぬ証拠だ! まだ白を切るつもりか! この神をも恐れぬ、偽善に満ちた大罪人めが! 貴様のその汚れた魂は地獄の業火で焼かれて当然なのだ!」
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その頃、ヴァロワ家の元会計係ピエール・ド・ブロワは、ギルバート男爵から与えられた血塗られた金貨を握りしめながら、王都の安酒場で震える手で深酒をしていた。彼の心は自らの卑劣な裏切り行為が、いつか露見し、マルシャンやヴァロワ家の亡霊に裁かれるのではないかという、狂気に近い恐怖で完全に引き裂かれそうだった。
(マルシャン殿…申し訳ございません…本当に、本当に申し訳ございません…! あなた様には、何の罪もないことを、この卑しい私が一番よく知っているのです…。しかし、私には…私には、こうするしかなかったのだ…あのギルバート男爵の蛇のような冷たい目…摂政レジナルド公爵の、全てを見透かすような恐ろしい権勢…そして何よりも、私の愛する妻と、まだ何も知らぬ幼い子供たちを守るためには…誰かが、誰かが犠牲にならなければならなかったのだ…それが、たまたま、あなた様だったというだけで…私ではない…私が悪いのではない…悪いのは、この腐りきった、救いのない世の中なのだ…! そうだ。私は悪くない…私は、ただ、弱い人間だったということなんです…!)
彼はそう心の中で必死に自分に言い聞かせ、自らの罪から逃れようとした。だが、その言葉は彼の魂の奥底で嘲笑う悪魔の囁きのように虚しく、そしておぞましく響くだけだった。
*
ジャン=ピエール・マルシャンは、何の罪状も具体的に告げられぬまま、聖教の光も届かぬ薄暗く湿った異端審問所の地下牢へと、家畜のように引きずられていき、冷たい石の壁に重い鉄の鎖で無残に繋がれた。
そこは、過去に無実の罪で捕らえられた者たちの絶望と苦痛の匂いだけが充満する、まさに生き地獄のような場所だった。
やがて、ドミニク審問官が数名の屈強な、その顔には一切の人間的な感情を浮かべない拷問吏を伴って、その地下牢に姿を現した。ドミニクの手には血で汚れた聖書と、そして見ているだけで背筋が凍りつくような、禍々しい様々な形状の尋問具が、彼の歪んだ信仰心の象徴のように握られていた。
「さて、ジャン=ピエール・マルシャン。神の御前で貴様の犯した全ての忌まわしき罪を、正直に、そして詳細に告白する時が来たようだ」
ドミニクの声は静かだが、その奥には底知れぬ冷酷さとサディスティックな悦びが隠されていた。
「貴様は、その莫大な富を使い、聖教が厳しく禁じる魔道書を収集し、夜な夜な自宅の地下に隠した秘密の祭壇で忌まわしき異教の神々を祀り、このアキテーヌ王国を呪詛する、おぞましい黒ミサを行っていたのであろう! そして、あのヴァロワ家と共謀し、我らが国王ギヨーム陛下と、そしてこの私、神の聖なる代理人たる異端審問官ドミニク・ギルフォードを暗殺しようと企てていたことも我々は全て掴んでおるのだ! さあ、その汚れた口で、洗いざらい白状せよ! さすれば、神の無限なる慈悲によりいくらかの魂の救いはあるやもしれんぞ! さもなくば…」
ドミニクは、そこで言葉を切り、傍らに控える拷問吏たちに顎で合図を送った。拷問吏たちは、まるで飢えた獣が獲物を見つけたかのように、そして残忍な笑みを浮かべながら、マルシャンにじりじりと歩み寄る。
「滅相もございません、審問官殿! 私は、断じてそのような大それたことは、夢にも考えたことはございません! 屋敷から発見されたという書物や偶像も、私には全く無関係のものばかりです! どうか、私の言葉を信じてください! 私は無実です! これは、何者かによる卑劣な罠なのです!」
マルシャンのその無実の叫びは、ドミニクの耳には悪魔の戯言としか聞こえなかった。むしろ、その必死の抵抗が、ドミニクの歪んだ嗜好をさらに刺激した。
「まだそのような、見え透いた嘘を…! よろしい。ならば、その頑なで罪深き魂が神の絶対なる真実の前に、完全に砕け散るまで聖なる試練を与えてやろうではないか! やれ! この愚かなる異端の罪人に、神の愛の鞭を存分にくれてやれ! その肉体が朽ち果て、その魂が永遠の苦しみに喘ぐまで、決して手を緩めるでないぞ!」
拷問吏たちの手によって、マルシャンの老いた体には次々と残忍で非道な拷問が加えられていく。肉を裂く鞭の音、骨の軋む鈍い音、そしてマルシャンの、もはや人間のものではないかのような絶叫が、薄暗い地下牢に朝まで何度も何度もこだました。
ドミニクは、その地獄のような光景を神聖な宗教儀式でも執り行っているかのように、恍惚としたそして悦に満ちた表情で見つめていた。彼の目にはマルシャンのその想像を絶する苦痛は、罪深き魂が聖なる試練によって浄化されていくこの上なく美しく、そして神聖な過程にしか映っていなかったのだ。
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ヴァロワ家の屋敷。
イザボー・エレオノール・ド・ヴァロワの元に、ジャン=ピエール・マルシャンが異端の容疑で逮捕され、異端審問所の地下牢で過酷な拷問を受けているという衝撃的で、詳細な報せが聖教内部の密告者からもたらされたのはその日の夕暮れ時のことだった。
イザボーはその報告を聞き、全身の血が凍りつくような感覚と、そして内臓が焼け付くような激しい怒りに襲われた。これが、レジナルドとドミニクによるヴァロワ家への、そして自分たちに与する者たちへの、完全な殲滅作戦であること。そしてマルシャンが完全に無実であることを、彼女は改めて確信した。
「マルシャン殿まで…! あの者たちは本当に人の心を持たぬ、血も涙もない悪魔だわ…! このままでは、ヴァロワ家に関わった全ての者が、一人残らずあの狂信者のドミニクの手によって無残に惨殺されてしまう…! 何とかしなければ…! マルシャン殿を何としてでも救い出さなければ…!」
しかし、彼女の力はあまりにも小さく敵はあまりにも強大だった。そして残された時間は限られていた。
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