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33.サーシャのお茶会
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その後コンサバトリー内をぐるっと見て回り、どこをどう直すかミカルと話し合った――といってもミカルは無言で、サーシャが一方的に喋っていたのだが。
「ここのお花はそのまま生かして、あっちは伸び過ぎだからカットして~……」
そうやってウロウロしているうちに、ヘラジカ作業員は窓ガラスの入れ替えを終えたらしい。
「サーシャ様、ガラス交換終わりました」
声を掛けられたサーシャはミカルを抱っこしたまま見に行く。するとさっきまで穴が空いていたなんて信じられないくらい綺麗にガラス窓が直っていた。
「わあ、ありがとう! 二人共外で作業して体冷えてるしょ。ちょっと温室の中で待ってて、今お茶持ってきてもらってるから」
サーシャは先程ヨエルに声を掛けて、お茶を淹れてくるように頼んでいた。
少し待つと温かいポットをワゴンに載せたヨエルが現れた。
「サーシャ様お待たせいたしました」
「ありがとうヨウちゃん。皆の分のお茶、お願いね」
「かしこまりました」
ヨエルが手際よくお茶をカップに注いでくれる。サーシャは作業用具を片付けていたヘラジカ獣人を呼び寄せた。
「さあ、こっち来てお茶にしよう!」
「いえいえ、とんでもございません。私達は作業した後で汚いですから……」
作業服の二人は恐縮して首を振る。工具箱を持って帰ろうとする二人をサーシャは引き止めた。
「大丈夫大丈夫。このハンカチで手を拭いてくれればいいから。ここは外みたいなもんだし、なんも気にしないで飲んでいって」
二人は迷った末、王妃の誘いを断りきれずにカップに手を付けた。
「それでは……いただきます」
「どうぞ~。あ、ヨウちゃん。ミカルくんの分は?」
「ミカル様にはホットチョコレートをお持ちしております」
そう言ってヨエルは小さなカップにとろっとした茶色の飲み物を注いでくれた。サーシャは一度ミカルを地面に下ろす。しゃがんでミカルにカップを渡すと雪豹の子どもは両手でそれを受け取ってくんくんと嗅いだ。
そして甘い匂いに目を輝かせてこちらを見る。
「どうぞ。飲んでいいんだよ」
サーシャに言われてミカルはカップに口を付けた。味が気に入ったようでフーフー冷ましながら夢中で飲んでいる。
「美味しいねぇ。さあ、ヨウちゃんも一緒にお茶しよう」
「いえ、私は結構です」
「いいからいいから。作業の後だもん、皆で休憩しようよ」
サーシャは手頃な木の箱を見つけてきてミカルを座らせた。こうして立ったまま皆で輪になって飲み物を飲んでいると、前世の記憶を思い出す。
(実家の工事に来た大工さんにばあちゃんが缶コーヒーを渡してたんだよね。子どもの僕もジュースもらって、大工さんとおしゃべりしながら飲んだっけ。懐かしいな……)
獣人はある程度人間より寒さに強いらしいけれど、それでもこの時期に外で作業するのは寒かったようだ。屈強なヘラジカ獣人二人は頬や鼻を赤くしていた。
コンサバトリーは生い茂った雑草とつるのせいでドアが閉まらず、暖房設備も故障していてまだ動かない。そのため、外よりは温かいものの少し冷やっとした空気が漂う。ほとんど外みたいな中で飲む紅茶は特別に美味しく感じられた。
「サーシャ様、大変体が温まりました。ごちそうさまです」
作業員は喜んで帰っていった。
「ヨウちゃんありがとうね。僕もなまらあったまったわ~。こん中はまだ雑草だらけだけども、植物見ながらお茶するのっていいね」
するとそれを聞いたミカルが口の周りをチョコだらけにしたままこくこくと頷いた。サーシャはハンカチで彼の口の周りを拭いてあげた。
「ミカルくんもそう思う? ふふ、また今度皆でお茶しようよ。中がもっときれいになったらイデオン様も呼んで、ここでお茶会するのもいいんでないかな」
(マリアーノに何言われても焦ることないさ。ミカルくんとも仲良くなれたし、僕なりのやり方でイデオン様と仲良くすれば――)
「ここのお花はそのまま生かして、あっちは伸び過ぎだからカットして~……」
そうやってウロウロしているうちに、ヘラジカ作業員は窓ガラスの入れ替えを終えたらしい。
「サーシャ様、ガラス交換終わりました」
声を掛けられたサーシャはミカルを抱っこしたまま見に行く。するとさっきまで穴が空いていたなんて信じられないくらい綺麗にガラス窓が直っていた。
「わあ、ありがとう! 二人共外で作業して体冷えてるしょ。ちょっと温室の中で待ってて、今お茶持ってきてもらってるから」
サーシャは先程ヨエルに声を掛けて、お茶を淹れてくるように頼んでいた。
少し待つと温かいポットをワゴンに載せたヨエルが現れた。
「サーシャ様お待たせいたしました」
「ありがとうヨウちゃん。皆の分のお茶、お願いね」
「かしこまりました」
ヨエルが手際よくお茶をカップに注いでくれる。サーシャは作業用具を片付けていたヘラジカ獣人を呼び寄せた。
「さあ、こっち来てお茶にしよう!」
「いえいえ、とんでもございません。私達は作業した後で汚いですから……」
作業服の二人は恐縮して首を振る。工具箱を持って帰ろうとする二人をサーシャは引き止めた。
「大丈夫大丈夫。このハンカチで手を拭いてくれればいいから。ここは外みたいなもんだし、なんも気にしないで飲んでいって」
二人は迷った末、王妃の誘いを断りきれずにカップに手を付けた。
「それでは……いただきます」
「どうぞ~。あ、ヨウちゃん。ミカルくんの分は?」
「ミカル様にはホットチョコレートをお持ちしております」
そう言ってヨエルは小さなカップにとろっとした茶色の飲み物を注いでくれた。サーシャは一度ミカルを地面に下ろす。しゃがんでミカルにカップを渡すと雪豹の子どもは両手でそれを受け取ってくんくんと嗅いだ。
そして甘い匂いに目を輝かせてこちらを見る。
「どうぞ。飲んでいいんだよ」
サーシャに言われてミカルはカップに口を付けた。味が気に入ったようでフーフー冷ましながら夢中で飲んでいる。
「美味しいねぇ。さあ、ヨウちゃんも一緒にお茶しよう」
「いえ、私は結構です」
「いいからいいから。作業の後だもん、皆で休憩しようよ」
サーシャは手頃な木の箱を見つけてきてミカルを座らせた。こうして立ったまま皆で輪になって飲み物を飲んでいると、前世の記憶を思い出す。
(実家の工事に来た大工さんにばあちゃんが缶コーヒーを渡してたんだよね。子どもの僕もジュースもらって、大工さんとおしゃべりしながら飲んだっけ。懐かしいな……)
獣人はある程度人間より寒さに強いらしいけれど、それでもこの時期に外で作業するのは寒かったようだ。屈強なヘラジカ獣人二人は頬や鼻を赤くしていた。
コンサバトリーは生い茂った雑草とつるのせいでドアが閉まらず、暖房設備も故障していてまだ動かない。そのため、外よりは温かいものの少し冷やっとした空気が漂う。ほとんど外みたいな中で飲む紅茶は特別に美味しく感じられた。
「サーシャ様、大変体が温まりました。ごちそうさまです」
作業員は喜んで帰っていった。
「ヨウちゃんありがとうね。僕もなまらあったまったわ~。こん中はまだ雑草だらけだけども、植物見ながらお茶するのっていいね」
するとそれを聞いたミカルが口の周りをチョコだらけにしたままこくこくと頷いた。サーシャはハンカチで彼の口の周りを拭いてあげた。
「ミカルくんもそう思う? ふふ、また今度皆でお茶しようよ。中がもっときれいになったらイデオン様も呼んで、ここでお茶会するのもいいんでないかな」
(マリアーノに何言われても焦ることないさ。ミカルくんとも仲良くなれたし、僕なりのやり方でイデオン様と仲良くすれば――)
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