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46.サーシャの期待と誤算
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サーシャは今しがたイデオンに言われた言葉を「夢じゃないべね?」などと思い返しながら歩いていた。
すると自室に戻る途中の廊下でばったりマリアーノに出会った。彼ははじめのうちはダンスパーティーに参加していたが、途中から姿が見えなくなったので焚き火でも見に行っていたのだろう。
「サーシャこんなところでどうしたの? ダンスはもう終わり?」
「あ、うん……」
「イデオン様はその衣装気に入ってくれた?」
「うん……」
「あれ? ちょっと~、口紅とっちゃったの? だめじゃない。せっかく色っぽく迫れるチャンスだったのに」
「うん……」
「どうしたの? なんか変だよ」
「マリアーノ……イデオン様は口紅なんていらないって」
「はあ?」
「そのままでいいってさ」
「どういうこと?」
◇
二人でサーシャの部屋のソファに腰掛ける。そしてマリアーノにさっきのことを話した。
「ふーん、なるほど? で、今日こそ抱いてもらえそうってわけだ。これってやっぱり僕が口紅塗ってあげたおかげだよね~」
(ん? そうだべか。ちがうと思うけど……)
「それはそうと、どうしたらいいべか。最近イデオン様と夜に会ってなくて、ちゃんとできるかな――」
「サーシャ、大丈夫だよ」
「マリアーノはその、したことある? 後ろの方に……挿れてもらったことある?」
「もちろん、あるに決まってるじゃない。オメガなんだから好きなアルファにされたら最高に気持ちいいよ」
「そうなんだ。な、なんか、いまさらだけど緊張してきたかも……」
「やだなぁ、落ち着きなよサーシャ」
くすくす笑いながら立ち上がったマリアーノは、キャビネットから酒の瓶を取り出した。
「ほら、これ飲んで準備しなよ」
そう言ってグラスに酒を注いでくれる。琥珀色の液体からは蜂蜜の甘い香りがした。初夜の時にも飲んだあの酒だ。
「つがいになろうって言われたんでしょ? これ飲んである程度発情する準備しておかないとちゃんとつがい成立しないよ」
「そうなの?」
「そうだよ。ほら飲んで」
「うん」
サーシャはマリアーノに促されて蜂蜜酒を飲んだ。その後もいろいろ話しながらサーシャは勧められるままに酒を2杯飲み干した。
「ま、マリアーノ……もう目が回ってきたんだけど」
「大丈夫? ほらこっち。ベッドに横になって」
「ん……ごめん……」
体を支えられてベッドに横たえられる。マリアーノはその隣に座って僕を見下ろした。彼はサーシャの胸元からシンビジウムのコサージュを手に取り鼻を近づけた。そして「嫌な匂い」と言ってそれを床に放り投げる。
(あ……ミカルくんが作ってくれたのに……)
マリアーノがサーシャの髪の毛をゆっくり撫でた。
「同じ髪型なのに、サーシャのはつやつやで柔らかい髪の毛だなぁ。顔も体も全部綺麗。イデオン様を振り向かせたくてずっと一生懸命肌のお手入れしていたんだもんね」
マリアーノがサーシャの頬に指を滑らせた。サーシャは全身に酔いが回ってぐったりし、かろうじて薄目を開けていることしかできない。
「唇はそうだね……何も塗らなくてもピンク色だし、お酒のせいで頬も赤い。ああ、美味しそう」
「おい、し……?」
「サーシャ、僕には悪気はないんだよ。嫉妬することもあるけど、君のことは友達だと思ってる。頼まれてこうしてるだけだから許してね」
(――頼まれて……?)
「それに以前のことも許してくれたよね。だから今回もまたいつか許してもらえるといいな」
ぼんやりとしたシルエットのマリアーノがサーシャの顔を覗き込んできた。視界が霞むと余計に彼の姿は自分とそっくりに見える。
何をそんなにしげしげと眺めているんだろうと思っていたら、驚くべきことにマリアーノの唇がサーシャの唇に重なった。
(え――? なしてマリアーノが僕にキスするの?)
ゆっくりと唇を押し付けられ、わけがわからなくなる。酒のせいで目は回るし、頭がくらくらしてだんだん眠気まで襲ってきた。
「目を瞑ってサーシャ。僕のことをイデオン様だとでも思ってて」
「な……に……?」
今度は唇だけじゃなく、舌まで入り込んでサーシャの口の中を這い回る。愛撫というより、サーシャの唾液を吸い尽くそうとでもいうようにマリアーノが舌と唇を動かした。
(く、苦しい――……)
「ん~、サーシャの口の中ってすごく甘くて美味しい。もうこれだけ吸えばフェロモンうつったかな」
マリアーノの手がサーシャの額から目元を撫でると瞼が閉じて何も見えなくなった。
耳元でマリアーノが囁く。
「僕が君の代わりになってあげるから後は任せてもうおやすみ、可愛いサーシャ」
(何? どういうこと……? マリアーノは何を言ってるんだべ……)
「カルロ! サーシャを連れてって。それからそこに掛かってる変な匂いのするマントを持ってきて」
侍従のカルロに抱き上げられ、サーシャの体がベッドから降ろされる。どこへ連れて行かれるのか薄目を開けて窺えば、そこは寝室の奥のウォークインクローゼットの中らしい。床に寝かせられ、逃げ出したいのに体は指一本自由に動かせなかった。
(なしてこんなことに――せっかくイデオン様が初めて向こうから来るって言ってくれたのに……)
やがてサーシャの意識は遠のいていった。
すると自室に戻る途中の廊下でばったりマリアーノに出会った。彼ははじめのうちはダンスパーティーに参加していたが、途中から姿が見えなくなったので焚き火でも見に行っていたのだろう。
「サーシャこんなところでどうしたの? ダンスはもう終わり?」
「あ、うん……」
「イデオン様はその衣装気に入ってくれた?」
「うん……」
「あれ? ちょっと~、口紅とっちゃったの? だめじゃない。せっかく色っぽく迫れるチャンスだったのに」
「うん……」
「どうしたの? なんか変だよ」
「マリアーノ……イデオン様は口紅なんていらないって」
「はあ?」
「そのままでいいってさ」
「どういうこと?」
◇
二人でサーシャの部屋のソファに腰掛ける。そしてマリアーノにさっきのことを話した。
「ふーん、なるほど? で、今日こそ抱いてもらえそうってわけだ。これってやっぱり僕が口紅塗ってあげたおかげだよね~」
(ん? そうだべか。ちがうと思うけど……)
「それはそうと、どうしたらいいべか。最近イデオン様と夜に会ってなくて、ちゃんとできるかな――」
「サーシャ、大丈夫だよ」
「マリアーノはその、したことある? 後ろの方に……挿れてもらったことある?」
「もちろん、あるに決まってるじゃない。オメガなんだから好きなアルファにされたら最高に気持ちいいよ」
「そうなんだ。な、なんか、いまさらだけど緊張してきたかも……」
「やだなぁ、落ち着きなよサーシャ」
くすくす笑いながら立ち上がったマリアーノは、キャビネットから酒の瓶を取り出した。
「ほら、これ飲んで準備しなよ」
そう言ってグラスに酒を注いでくれる。琥珀色の液体からは蜂蜜の甘い香りがした。初夜の時にも飲んだあの酒だ。
「つがいになろうって言われたんでしょ? これ飲んである程度発情する準備しておかないとちゃんとつがい成立しないよ」
「そうなの?」
「そうだよ。ほら飲んで」
「うん」
サーシャはマリアーノに促されて蜂蜜酒を飲んだ。その後もいろいろ話しながらサーシャは勧められるままに酒を2杯飲み干した。
「ま、マリアーノ……もう目が回ってきたんだけど」
「大丈夫? ほらこっち。ベッドに横になって」
「ん……ごめん……」
体を支えられてベッドに横たえられる。マリアーノはその隣に座って僕を見下ろした。彼はサーシャの胸元からシンビジウムのコサージュを手に取り鼻を近づけた。そして「嫌な匂い」と言ってそれを床に放り投げる。
(あ……ミカルくんが作ってくれたのに……)
マリアーノがサーシャの髪の毛をゆっくり撫でた。
「同じ髪型なのに、サーシャのはつやつやで柔らかい髪の毛だなぁ。顔も体も全部綺麗。イデオン様を振り向かせたくてずっと一生懸命肌のお手入れしていたんだもんね」
マリアーノがサーシャの頬に指を滑らせた。サーシャは全身に酔いが回ってぐったりし、かろうじて薄目を開けていることしかできない。
「唇はそうだね……何も塗らなくてもピンク色だし、お酒のせいで頬も赤い。ああ、美味しそう」
「おい、し……?」
「サーシャ、僕には悪気はないんだよ。嫉妬することもあるけど、君のことは友達だと思ってる。頼まれてこうしてるだけだから許してね」
(――頼まれて……?)
「それに以前のことも許してくれたよね。だから今回もまたいつか許してもらえるといいな」
ぼんやりとしたシルエットのマリアーノがサーシャの顔を覗き込んできた。視界が霞むと余計に彼の姿は自分とそっくりに見える。
何をそんなにしげしげと眺めているんだろうと思っていたら、驚くべきことにマリアーノの唇がサーシャの唇に重なった。
(え――? なしてマリアーノが僕にキスするの?)
ゆっくりと唇を押し付けられ、わけがわからなくなる。酒のせいで目は回るし、頭がくらくらしてだんだん眠気まで襲ってきた。
「目を瞑ってサーシャ。僕のことをイデオン様だとでも思ってて」
「な……に……?」
今度は唇だけじゃなく、舌まで入り込んでサーシャの口の中を這い回る。愛撫というより、サーシャの唾液を吸い尽くそうとでもいうようにマリアーノが舌と唇を動かした。
(く、苦しい――……)
「ん~、サーシャの口の中ってすごく甘くて美味しい。もうこれだけ吸えばフェロモンうつったかな」
マリアーノの手がサーシャの額から目元を撫でると瞼が閉じて何も見えなくなった。
耳元でマリアーノが囁く。
「僕が君の代わりになってあげるから後は任せてもうおやすみ、可愛いサーシャ」
(何? どういうこと……? マリアーノは何を言ってるんだべ……)
「カルロ! サーシャを連れてって。それからそこに掛かってる変な匂いのするマントを持ってきて」
侍従のカルロに抱き上げられ、サーシャの体がベッドから降ろされる。どこへ連れて行かれるのか薄目を開けて窺えば、そこは寝室の奥のウォークインクローゼットの中らしい。床に寝かせられ、逃げ出したいのに体は指一本自由に動かせなかった。
(なしてこんなことに――せっかくイデオン様が初めて向こうから来るって言ってくれたのに……)
やがてサーシャの意識は遠のいていった。
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