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勘違いの初恋(5)
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二人で初めて観た映画。期待し過ぎたからかもしれないけど、僕には少し合わなかった。面白くないわけじゃないけど、シリーズの中ではあんまりかなぁ……。
そんなことを思いつつ、二人で和牛ハンバーガーのお店に入る。隆之介に何が好きか聞いたらしきりに僕の方の好きなものを食べようと言われた。だけど、お詫びのつもりだからとなんとか説き伏せた。
僕はあまり外でマスクを外したくないので、お店もあまり知らない。行くにしても空いていて、いつも決まったお店しか行かないからたまには新しい店に行ってみたかった。
「スミくん、本当にここで良かった? ハンバーガーなんていつもは食べることないんじゃ……」
「うん、普段はあまり食べないよ。でもいつもと違う所で食べてみたかったし、このお肉すごく美味しい」
「そっか、よかった」
彼がホッとするのを見てつい笑ってしまう。すると彼は不安そうに眉を寄せた。
「どうしたの?」
「いや、隆之介くん昔は何でも俺が俺が~って決めたがったじゃない?」
「え、ああ……」
「なのに大きくなったらすごく気を遣ってくれるんだなって、不思議な感じでね」
「昔は俺、わがままばかり言ってたからほんと恥ずかしい。ごめん……」
「いいのいいの。甘えてくれてるんだなぁって、可愛かったよ」
あの隆之介くんがこんなに大きくなっちゃって……。
「僕こそごめんね。気の利いた店の一つも知らなくて恥ずかしいよ。隆之介くんみたいに社交的じゃないから」
「じゃあさ、また今度違う店行こうよ。今度はスミくんの好きなもの食べに。俺、スミくんのためならどこでも行くよ」
優しい笑顔でそう言われて急に胸がギュッとなる。僕のために――? ただ懐かしんでくれてるだけでも嬉しい。
「ありがとう。なんか照れちゃうな。隆之介くんみたいに優しくしてくれる友達って周りにいないし」
「そうなの?」
「うん。いつも映画も一人で見にくるしね。あ、そういやさっきの隆之介くんはどう思った? 僕は今回のは――」
「すっっっげー良かったよね! 俺、今まではN監督のが一番だったけど今日観て今回のが一番になったかも。あの冒頭シーンとかやばくない? すげぇドキドキしてさぁ」
「あ……そ、そうだね……」
――嘘、そんなに良かったの?
僕はいまいちピンと来なかったと言おうとしていたから焦った。
「あれ? もしかしてスミくん的にはあんまりだった?」
「あの……うん、そうなんだ。実はあんまりラストの方がよくわかんないなって……僕的にはこれまでみたいなもっとわかりやすいエンタメを求めてたっていうか」
「ああ、なるほど! たしかに今回アクションより少し推理要素強めだったしね。ラストに関しては俺も敵が誰なのかわからないような感覚はあったかも。でも俺、今回の重苦しいノワールっぽい雰囲気すごく好きだったな」
僕が水を差すようなことを言って彼が気を悪くするんじゃないかと思った。だけどそんなことは全然なくて、彼は僕の意見を尊重しつつ自分の好きな点を話してくれた。
「そうだね。絵的にすごくかっこよかった」
「ちなみにスミくんが今年観た中で一番良かったのって何?」
彼は目を輝かせながら尋ねてくる。
「あー、と……隆之介くんは若いからあんまり好きじゃないかもしれないけど……あの有名作品の続編かなぁ」
「ああ! 俺も観たよ。そっかスミくんあれ好きなんだね」
「うん、僕も前作はリアルタイム世代じゃないんだけど少し前に観た時感動したんだよね。昔ながらの、誰が観ても楽しめるストーリーで……」
「そっかぁ~。俺の感覚的には逆にちょっとご都合主義なんじゃない? って思っちゃったんだ。でも王道で間違いない展開だよね」
一緒に同じ映画を観られるようになったとはいえ、やはりジェネレーションギャップはある。何もかも同じように感じるわけじゃないのは当然だ。わかってはいたけど、自分の感覚が時代遅れだと突きつけられた気がしてショックを受けてしまった。
「俺、前作の方観てなかったんだよね。でもスミくんが好きなら今度会うまでに観ておく!」
僕の不安な気持ちを吹き飛ばすように彼はにっこり微笑んだ。
「ずっと長いこと会えなかったからさ、俺スミくんの好きなもの何でも知りたいんだ。音楽でも、気に入ってる場所でも、ハマってるゲームでもなんでも」
隆之介は分厚いパテや野菜たっぷりのハンバーガーにかぶりついた。
眩しいくらいの笑顔、親切な気遣い、豪快な食べっぷり。
途端に自分がつまらないことで不安になっていたのが恥ずかしくなった。
――そうだよ。今までずっと離れてたんだ。お互いいきなりわかり合えなくて当然だし、同じものを好きにならなくたって当然じゃないか。
僕も彼が普段から何をどんなふうに考えてるのか知りたい。
そんなことを思いつつ、二人で和牛ハンバーガーのお店に入る。隆之介に何が好きか聞いたらしきりに僕の方の好きなものを食べようと言われた。だけど、お詫びのつもりだからとなんとか説き伏せた。
僕はあまり外でマスクを外したくないので、お店もあまり知らない。行くにしても空いていて、いつも決まったお店しか行かないからたまには新しい店に行ってみたかった。
「スミくん、本当にここで良かった? ハンバーガーなんていつもは食べることないんじゃ……」
「うん、普段はあまり食べないよ。でもいつもと違う所で食べてみたかったし、このお肉すごく美味しい」
「そっか、よかった」
彼がホッとするのを見てつい笑ってしまう。すると彼は不安そうに眉を寄せた。
「どうしたの?」
「いや、隆之介くん昔は何でも俺が俺が~って決めたがったじゃない?」
「え、ああ……」
「なのに大きくなったらすごく気を遣ってくれるんだなって、不思議な感じでね」
「昔は俺、わがままばかり言ってたからほんと恥ずかしい。ごめん……」
「いいのいいの。甘えてくれてるんだなぁって、可愛かったよ」
あの隆之介くんがこんなに大きくなっちゃって……。
「僕こそごめんね。気の利いた店の一つも知らなくて恥ずかしいよ。隆之介くんみたいに社交的じゃないから」
「じゃあさ、また今度違う店行こうよ。今度はスミくんの好きなもの食べに。俺、スミくんのためならどこでも行くよ」
優しい笑顔でそう言われて急に胸がギュッとなる。僕のために――? ただ懐かしんでくれてるだけでも嬉しい。
「ありがとう。なんか照れちゃうな。隆之介くんみたいに優しくしてくれる友達って周りにいないし」
「そうなの?」
「うん。いつも映画も一人で見にくるしね。あ、そういやさっきの隆之介くんはどう思った? 僕は今回のは――」
「すっっっげー良かったよね! 俺、今まではN監督のが一番だったけど今日観て今回のが一番になったかも。あの冒頭シーンとかやばくない? すげぇドキドキしてさぁ」
「あ……そ、そうだね……」
――嘘、そんなに良かったの?
僕はいまいちピンと来なかったと言おうとしていたから焦った。
「あれ? もしかしてスミくん的にはあんまりだった?」
「あの……うん、そうなんだ。実はあんまりラストの方がよくわかんないなって……僕的にはこれまでみたいなもっとわかりやすいエンタメを求めてたっていうか」
「ああ、なるほど! たしかに今回アクションより少し推理要素強めだったしね。ラストに関しては俺も敵が誰なのかわからないような感覚はあったかも。でも俺、今回の重苦しいノワールっぽい雰囲気すごく好きだったな」
僕が水を差すようなことを言って彼が気を悪くするんじゃないかと思った。だけどそんなことは全然なくて、彼は僕の意見を尊重しつつ自分の好きな点を話してくれた。
「そうだね。絵的にすごくかっこよかった」
「ちなみにスミくんが今年観た中で一番良かったのって何?」
彼は目を輝かせながら尋ねてくる。
「あー、と……隆之介くんは若いからあんまり好きじゃないかもしれないけど……あの有名作品の続編かなぁ」
「ああ! 俺も観たよ。そっかスミくんあれ好きなんだね」
「うん、僕も前作はリアルタイム世代じゃないんだけど少し前に観た時感動したんだよね。昔ながらの、誰が観ても楽しめるストーリーで……」
「そっかぁ~。俺の感覚的には逆にちょっとご都合主義なんじゃない? って思っちゃったんだ。でも王道で間違いない展開だよね」
一緒に同じ映画を観られるようになったとはいえ、やはりジェネレーションギャップはある。何もかも同じように感じるわけじゃないのは当然だ。わかってはいたけど、自分の感覚が時代遅れだと突きつけられた気がしてショックを受けてしまった。
「俺、前作の方観てなかったんだよね。でもスミくんが好きなら今度会うまでに観ておく!」
僕の不安な気持ちを吹き飛ばすように彼はにっこり微笑んだ。
「ずっと長いこと会えなかったからさ、俺スミくんの好きなもの何でも知りたいんだ。音楽でも、気に入ってる場所でも、ハマってるゲームでもなんでも」
隆之介は分厚いパテや野菜たっぷりのハンバーガーにかぶりついた。
眩しいくらいの笑顔、親切な気遣い、豪快な食べっぷり。
途端に自分がつまらないことで不安になっていたのが恥ずかしくなった。
――そうだよ。今までずっと離れてたんだ。お互いいきなりわかり合えなくて当然だし、同じものを好きにならなくたって当然じゃないか。
僕も彼が普段から何をどんなふうに考えてるのか知りたい。
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