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4.弟からの贈り物
ヴィンセントは感極まって僕の体をギュッと抱きしめた。彼の素肌から直に温もりが伝わってきて僕も安堵する。しかし、あまりに長いこと腕の中にいると段々居心地が悪くなってきた。彼の背中に回した手が筋肉の隆起に触れると、なんだか緊張して手が汗ばみそうだ。これは単なる兄弟の抱擁だというのに、変に意識してしまう自分が恥ずかしい。
「ヴィンス、苦しいよ」
「ああ、すみません」
彼が名残惜しそうに僕を解放した。この雰囲気なら言ってもいいかな――。
「あの、もう一つお願いがあるんだけど」
「お願いですか?」
「言いにくいんだけど――さっきパーティーのときいらないって言ったプレゼント、今更だけどやっぱりもらいたいなって思って……」
ヴィンセントはそれを聞いてパッと顔をほころばせた。彼の神経質そうな青白い肌に赤みがさす。
「もちろんです! 今お持ちしますね」
彼は室内のキャビネットから箱を持って戻ってきた。
「今年もお気に召さなかったかと落ち込んでいたんです。貰っていただけるなんて嬉しい……」
「ごめん……。本当は素敵だなって思ったよ」
「お兄様の誕生石をあしらった靴なんです。珍しいし、きっとお似合いになると思って」
僕は礼を述べて箱を開けた。さっきもちらっとだけ見たけど、かなり品質の良い絹の靴下と僕の誕生石であるアメジストが散りばめられた美しい黒ビロードの靴が入っている。
「良ければここで試しに履いてみてください。どうぞ、こちらへ」
彼に促されて僕は椅子に腰掛けた。するとヴィンセントがさっと床にかがみ込み僕の足から靴を脱がせた。
「お、おい。やめてくれ、自分で履けるよ」
「いいえ。どうか僕にさせてください。久しぶりにお兄様との時間を過ごせるのが嬉しいんです」
「そうか……?」
笑顔で言われてつい納得してしまう。ヴィンセントは今度は僕の靴下も剥ぎ取った。そしてすぐに新しい靴下を履かせるでもなく、なぜか僕の素足を愛おしそうに手で撫でてくる。
くすぐったいしなんだかぞわぞわする――。
「あの……ヴィンス。くすぐったいんだけど?」
「兄さん。僕の元に帰ってきてくれてありがとう……」
そう言って彼は僕の足の甲にうやうやしく口づけし、頬ずりした。
「なっ――、何をするんだ?」
驚いて足を引こうとしたが、彼の手で強く掴まれた。
「逃げないでください。もう僕から離れて行かないで」
またすがるような目で見上げられて僕は抵抗をやめた。彼は僕に冷たくされて不安なんだ――好きにさせてあげるのが良いのかもしれない。半裸の青年が跪いて兄の足を抱きしめているという奇妙な光景だけど、昔僕の背中を追いかけていた小さな弟の姿が重なり妙な懐かしさを覚えた。
「ヴィンス、わかった。僕は逃げたりしないよ」
そう言うとやっと安心したのか彼は絹の靴下を肌に滑らせるようにして履かせてくれた。そしてその後アメジストの靴も――。紫色の宝石に室内灯が反射して、僕を見上げる彼の瞳がきらめいた。うっとりした顔で彼がため息混じりに言う。
「綺麗です、兄さん……」
「ああ。本当に綺麗な靴だ。ありがとうヴィンセント」
彼が僕の手を取って立たせてくれる。姿見の前に連れて行かれ、全身を見た。平凡な容姿の僕が履くには少し派手な気がする。むしろ、後ろに立つ美青年にこそふさわしいように思えた。
「綺麗だけどちょっと……僕には派手じゃないか?」
「いいえ。こんな宝石よりもずっとあなたのほうが美しい」
「え?」
「このまま僕の部屋に兄さんごと飾って永遠に眺めていたいくらいです」
「……なに?」
「ふふ、冗談です。もう遅い時間ですから、お休みになってください」
「あ、ああ。そうだな。遅い時間にすまなかった。プレゼントありがとう」
「久しぶりに一緒に寝ますか?」
ヴィンセントがふざけて後ろからハグしてくる。笑顔の彼に至近距離で覗き込まれドキッとした。
「冗談ですよ。でも、お休みのキスはしてくださいますね?」
当然のように言われて僕は数年ぶりに彼の頬に口づけした。少し背伸びをしなければ届かないほど大きくなった弟――しかも裸の彼にキスする状況に戸惑い僕の心臓は早鐘を打っていた。なんとか悟られないように平然と済ませられた……と思う。
彼のひんやりとした頬の感触が妙に印象的でベッドに入った後もしばらく寝付けなかった。
「ヴィンス、苦しいよ」
「ああ、すみません」
彼が名残惜しそうに僕を解放した。この雰囲気なら言ってもいいかな――。
「あの、もう一つお願いがあるんだけど」
「お願いですか?」
「言いにくいんだけど――さっきパーティーのときいらないって言ったプレゼント、今更だけどやっぱりもらいたいなって思って……」
ヴィンセントはそれを聞いてパッと顔をほころばせた。彼の神経質そうな青白い肌に赤みがさす。
「もちろんです! 今お持ちしますね」
彼は室内のキャビネットから箱を持って戻ってきた。
「今年もお気に召さなかったかと落ち込んでいたんです。貰っていただけるなんて嬉しい……」
「ごめん……。本当は素敵だなって思ったよ」
「お兄様の誕生石をあしらった靴なんです。珍しいし、きっとお似合いになると思って」
僕は礼を述べて箱を開けた。さっきもちらっとだけ見たけど、かなり品質の良い絹の靴下と僕の誕生石であるアメジストが散りばめられた美しい黒ビロードの靴が入っている。
「良ければここで試しに履いてみてください。どうぞ、こちらへ」
彼に促されて僕は椅子に腰掛けた。するとヴィンセントがさっと床にかがみ込み僕の足から靴を脱がせた。
「お、おい。やめてくれ、自分で履けるよ」
「いいえ。どうか僕にさせてください。久しぶりにお兄様との時間を過ごせるのが嬉しいんです」
「そうか……?」
笑顔で言われてつい納得してしまう。ヴィンセントは今度は僕の靴下も剥ぎ取った。そしてすぐに新しい靴下を履かせるでもなく、なぜか僕の素足を愛おしそうに手で撫でてくる。
くすぐったいしなんだかぞわぞわする――。
「あの……ヴィンス。くすぐったいんだけど?」
「兄さん。僕の元に帰ってきてくれてありがとう……」
そう言って彼は僕の足の甲にうやうやしく口づけし、頬ずりした。
「なっ――、何をするんだ?」
驚いて足を引こうとしたが、彼の手で強く掴まれた。
「逃げないでください。もう僕から離れて行かないで」
またすがるような目で見上げられて僕は抵抗をやめた。彼は僕に冷たくされて不安なんだ――好きにさせてあげるのが良いのかもしれない。半裸の青年が跪いて兄の足を抱きしめているという奇妙な光景だけど、昔僕の背中を追いかけていた小さな弟の姿が重なり妙な懐かしさを覚えた。
「ヴィンス、わかった。僕は逃げたりしないよ」
そう言うとやっと安心したのか彼は絹の靴下を肌に滑らせるようにして履かせてくれた。そしてその後アメジストの靴も――。紫色の宝石に室内灯が反射して、僕を見上げる彼の瞳がきらめいた。うっとりした顔で彼がため息混じりに言う。
「綺麗です、兄さん……」
「ああ。本当に綺麗な靴だ。ありがとうヴィンセント」
彼が僕の手を取って立たせてくれる。姿見の前に連れて行かれ、全身を見た。平凡な容姿の僕が履くには少し派手な気がする。むしろ、後ろに立つ美青年にこそふさわしいように思えた。
「綺麗だけどちょっと……僕には派手じゃないか?」
「いいえ。こんな宝石よりもずっとあなたのほうが美しい」
「え?」
「このまま僕の部屋に兄さんごと飾って永遠に眺めていたいくらいです」
「……なに?」
「ふふ、冗談です。もう遅い時間ですから、お休みになってください」
「あ、ああ。そうだな。遅い時間にすまなかった。プレゼントありがとう」
「久しぶりに一緒に寝ますか?」
ヴィンセントがふざけて後ろからハグしてくる。笑顔の彼に至近距離で覗き込まれドキッとした。
「冗談ですよ。でも、お休みのキスはしてくださいますね?」
当然のように言われて僕は数年ぶりに彼の頬に口づけした。少し背伸びをしなければ届かないほど大きくなった弟――しかも裸の彼にキスする状況に戸惑い僕の心臓は早鐘を打っていた。なんとか悟られないように平然と済ませられた……と思う。
彼のひんやりとした頬の感触が妙に印象的でベッドに入った後もしばらく寝付けなかった。
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