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3章.新たな人生のはじまり
21.湖畔の離宮に到着し侍従と会う
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「さあ、着いたぞ。ここがしばらく滞在してもらう離宮だ」
馬車が到着したのは街の喧騒を離れた豊かな自然の中、湖畔に建てられた白亜の屋敷だった。建物の裏手が湖に面しているらしい。
「狭くてすまないが、出産までここで過ごしてもらいたい。設備は整っているから不自由はしないはずだ」
「ありがとうございます。僕一人で過ごすには十分すぎるくらいです」
「ルネ、俺もお前と共になるべくここで寝起きするつもりだ」
「え、そうなんですか?」
(殿下も来てくださるんだ――)
「少なくともお前がここに慣れるまでなるべく一人にはしないつもりだ」
「それは――お気遣いありがとうございます、殿下」
(本当に優しい方だ。こんな素敵な男性にこのように親切にされたら令嬢たちならすぐに好きになってしまうだろうな。それにしても、僕ごときにこんなに優しくしてくださらなくても良いのに……。律儀な方だなぁ)
そう考えていたら、建物の奥からパタパタと誰かが走ってくる足音が聞こえた。
「申し訳ございません! お出迎えに遅れてしまいました!」
慌てて駆けて来たのは、栗色の巻き毛の少年――いや小柄だけれど近くで見ると青年だろうか。走ってきたので頬が上気して、健康的な白い肌がピンク色に染まっている。
「お帰りなさいませ、殿下。そしてはじめまして! ルネ様。僕はニコラと申します。本日よりルネ様付きの侍従をさせていただきますのでどうぞよろしくお願いします!」
「ニコラだね、こちらこそよろしく」
オメガの青年を付けてくださると言っていたから彼はオメガなのだろう。華奢で可愛らしい見た目の青年だ。溌剌としていていて好感が持てる。
「ああ、噂通りなんて綺麗な……あ、失礼いたしました! 長旅でお疲れでしょう。お部屋にご案内します」
「ルネが着替え終わったら俺の部屋に案内してやってくれ」
「はい、かしこまりました!」
僕は一旦殿下とは別れて今後過ごすことになる部屋に案内された。フェリックスの屋敷で過ごしていた時の粗末な部屋とは違い、使い心地の良さそうな上等な家具が揃っていた。そして何よりも、塵一つなく綺麗に掃除されている部屋に安堵した。
「このお屋敷はあまり大きくはありませんが、とても生活しやすくなっておりますのでご安心下さいね」
「十分大きいし僕なんかにはもったいないくらいだよ」
「いえいえ、宮殿はもっともっと立派ですから。ルネ様はご出産までの間だけこちらで過ごされるのですよね」
「うん、殿下はそう仰っていた」
「なんと言ってもここは静かで空気も綺麗ですから、妊娠中ゆっくり過ごされるのにはちょうど良いと思います。ルネ様のお気に召すと良いのですが」
ニコラはこちらを見て微笑んだ。
「ここへ来る時遠くからこの建物を見てすごく綺麗で驚いたよ。湖の近くになんて住んだことがないからとても楽しみで仕方がないんだ」
「さようでございますか! それは良かったです。お着替えが済んだら殿下と湖畔を散歩なさってみて下さい」
「うん、そうだね」
そして僕は久々に身の回りの世話をする者がついてくれ、まるでオメガ判定を受ける前の生活に戻ったような安心感を覚えた。
◇◇◇
「殿下、ルネ様のお支度が済みました」
「ああ、入れ」
「失礼します」
殿下の部屋は僕の部屋よりも一回りほど広かった。僕も身軽な服装に着替えさせてもらったが、殿下もくつろいだスタイルに変わっていてなんだか新鮮だった。
「さて……、少し屋敷内を案内してからそのまま湖畔へ散歩にでも行こう。いや、待てよ。それとも疲れているから休みたいか? お前はそういえばお腹が大きいんだったな」
「いいえ、せっかく初めて訪れたので少し見て回りたいです」
「わかった。じゃあ無理しない範囲で少しだけ歩こう」
「はい」
「ニコラ、戻ったら食事にするよう伝えておいてくれ」
「かしこまりました」
◇◇◇
その後屋敷内のダイニングルームや応接間、図書室などを軽く案内してもらってから裏口を出た。ドアから外へ出て蔦の絡んだアーチを抜けると、ノットガーデンが広がっている。その向こうは湖だった。
「綺麗……!」
「だろう? 元々は叔父が建てた屋敷なんだが、俺はここが子どもの頃からお気に入りでね」
「僕もひと目で気に入りました。素敵なお屋敷に連れて来てくださってありがとうございます」
話しながら歩いていて、階段でちょっとよろけてしまった。
「あっ」
「おっと!」
隣を歩いていた殿下がすぐに身体を支えてくれた。
「ありがとうございます。すみません、このお腹で足元がよく見えなくて……」
「気をつけろ、何かあったらどうする」
すると殿下が肘を突き出してきた。
「……?」
「掴まって歩け。危なっかしくてこちらが見ていられない」
「ありがとうございます……」
僕は殿下の肘に手を添えた。まるでエスコートされているみたいで柄にもなくドキドキしてしまう。
「お前は一見しっかりしていそうに見えるが意外とそそっかしいところがあるのか?」
「え……と、どうでしょうか。でも妊娠してから、少し注意散漫になりがちかもしれません」
「そういうものか。妊婦と生活したことがないから気付かないことも多い。困ったことがあれば遠慮なく言うんだぞ。俺でもいいし、ニコラに言ってもいいから」
「はい。ありがとうございます」
(お腹の子は殿下の子というわけでもないのに、こんなに気を遣わせてしまって申し訳ないな……)
馬車が到着したのは街の喧騒を離れた豊かな自然の中、湖畔に建てられた白亜の屋敷だった。建物の裏手が湖に面しているらしい。
「狭くてすまないが、出産までここで過ごしてもらいたい。設備は整っているから不自由はしないはずだ」
「ありがとうございます。僕一人で過ごすには十分すぎるくらいです」
「ルネ、俺もお前と共になるべくここで寝起きするつもりだ」
「え、そうなんですか?」
(殿下も来てくださるんだ――)
「少なくともお前がここに慣れるまでなるべく一人にはしないつもりだ」
「それは――お気遣いありがとうございます、殿下」
(本当に優しい方だ。こんな素敵な男性にこのように親切にされたら令嬢たちならすぐに好きになってしまうだろうな。それにしても、僕ごときにこんなに優しくしてくださらなくても良いのに……。律儀な方だなぁ)
そう考えていたら、建物の奥からパタパタと誰かが走ってくる足音が聞こえた。
「申し訳ございません! お出迎えに遅れてしまいました!」
慌てて駆けて来たのは、栗色の巻き毛の少年――いや小柄だけれど近くで見ると青年だろうか。走ってきたので頬が上気して、健康的な白い肌がピンク色に染まっている。
「お帰りなさいませ、殿下。そしてはじめまして! ルネ様。僕はニコラと申します。本日よりルネ様付きの侍従をさせていただきますのでどうぞよろしくお願いします!」
「ニコラだね、こちらこそよろしく」
オメガの青年を付けてくださると言っていたから彼はオメガなのだろう。華奢で可愛らしい見た目の青年だ。溌剌としていていて好感が持てる。
「ああ、噂通りなんて綺麗な……あ、失礼いたしました! 長旅でお疲れでしょう。お部屋にご案内します」
「ルネが着替え終わったら俺の部屋に案内してやってくれ」
「はい、かしこまりました!」
僕は一旦殿下とは別れて今後過ごすことになる部屋に案内された。フェリックスの屋敷で過ごしていた時の粗末な部屋とは違い、使い心地の良さそうな上等な家具が揃っていた。そして何よりも、塵一つなく綺麗に掃除されている部屋に安堵した。
「このお屋敷はあまり大きくはありませんが、とても生活しやすくなっておりますのでご安心下さいね」
「十分大きいし僕なんかにはもったいないくらいだよ」
「いえいえ、宮殿はもっともっと立派ですから。ルネ様はご出産までの間だけこちらで過ごされるのですよね」
「うん、殿下はそう仰っていた」
「なんと言ってもここは静かで空気も綺麗ですから、妊娠中ゆっくり過ごされるのにはちょうど良いと思います。ルネ様のお気に召すと良いのですが」
ニコラはこちらを見て微笑んだ。
「ここへ来る時遠くからこの建物を見てすごく綺麗で驚いたよ。湖の近くになんて住んだことがないからとても楽しみで仕方がないんだ」
「さようでございますか! それは良かったです。お着替えが済んだら殿下と湖畔を散歩なさってみて下さい」
「うん、そうだね」
そして僕は久々に身の回りの世話をする者がついてくれ、まるでオメガ判定を受ける前の生活に戻ったような安心感を覚えた。
◇◇◇
「殿下、ルネ様のお支度が済みました」
「ああ、入れ」
「失礼します」
殿下の部屋は僕の部屋よりも一回りほど広かった。僕も身軽な服装に着替えさせてもらったが、殿下もくつろいだスタイルに変わっていてなんだか新鮮だった。
「さて……、少し屋敷内を案内してからそのまま湖畔へ散歩にでも行こう。いや、待てよ。それとも疲れているから休みたいか? お前はそういえばお腹が大きいんだったな」
「いいえ、せっかく初めて訪れたので少し見て回りたいです」
「わかった。じゃあ無理しない範囲で少しだけ歩こう」
「はい」
「ニコラ、戻ったら食事にするよう伝えておいてくれ」
「かしこまりました」
◇◇◇
その後屋敷内のダイニングルームや応接間、図書室などを軽く案内してもらってから裏口を出た。ドアから外へ出て蔦の絡んだアーチを抜けると、ノットガーデンが広がっている。その向こうは湖だった。
「綺麗……!」
「だろう? 元々は叔父が建てた屋敷なんだが、俺はここが子どもの頃からお気に入りでね」
「僕もひと目で気に入りました。素敵なお屋敷に連れて来てくださってありがとうございます」
話しながら歩いていて、階段でちょっとよろけてしまった。
「あっ」
「おっと!」
隣を歩いていた殿下がすぐに身体を支えてくれた。
「ありがとうございます。すみません、このお腹で足元がよく見えなくて……」
「気をつけろ、何かあったらどうする」
すると殿下が肘を突き出してきた。
「……?」
「掴まって歩け。危なっかしくてこちらが見ていられない」
「ありがとうございます……」
僕は殿下の肘に手を添えた。まるでエスコートされているみたいで柄にもなくドキドキしてしまう。
「お前は一見しっかりしていそうに見えるが意外とそそっかしいところがあるのか?」
「え……と、どうでしょうか。でも妊娠してから、少し注意散漫になりがちかもしれません」
「そういうものか。妊婦と生活したことがないから気付かないことも多い。困ったことがあれば遠慮なく言うんだぞ。俺でもいいし、ニコラに言ってもいいから」
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