追放されたΩの公子は大公に娶られ溺愛される

grotta

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3章.新たな人生のはじまり

22.離宮内の特殊な施設を見学する

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 湖畔を散歩した後屋敷に戻ってすぐに食事の時間となった。ダイニングテーブルは美しい花と燭台で飾られ、気持ちよく整えられていた。
「さあ、食べよう。君を初めて招くから、シェフに一番美味いものをと言って用意させたんだ」
「ありがとうございます。美味しそうです」
 どの料理もすごく美味しかった。子宮が大きくなっていてあまり量は食べられなかったけど、少しずつ味見させてもらった。もちろん無理に食べろと言う人もいない。
「酒が飲めないのが残念だな。出産したら好きなだけ飲もう」
「あ、いえ。僕はあまりお酒は……」
「そうなのか? ああ、まだ成人したばかりだったな」
 既にお酒が入っている殿下は機嫌良く喋っていたが、僕が成人したばかりということに気付いて少し表情を曇らせた。
「どうかしましたか?」
「いや……、まだお前は子どものようなものなのに、酷いことをされたものだと思ってな」
 殿下は僕の膨らんだお腹を見ていた。義兄に無理矢理された件を指しているんだろう。僕も妊娠したとわかって最初はショックだったけど、徐々に胎動も感じるようになり、お腹の子については愛しいと思えるようになった。お陰で今となってはそこまで悲観的でもない。
 手でお腹を撫でながら言う。
「お気遣いありがとうございます。でも、僕はオメガですからいずれは子をなすのが宿命です。それが少し早かったというだけですから」
「そうだな。オメガは多産の象徴で、この国ではとても貴重で尊敬される存在だ。リュカシオン公国でオメガがどう扱われていたのかはわからないが、ここでは皆敬意を持ってお前に接するよ」
「そうなのですか? でも、ベサニルでは……」
「あそこはちょっと特殊なんだ。元々この辺りとは住んでいる民族が違って、信仰やものの考え方がクレムス王国内の他の地域とは若干異なっている」
「そういうことでしたか。リュカシオンからベサニルに移される前は、クレムス王国は第二の性に差別が無いと聞いていたのにオメガへの対応が冷たかったのでどこも同じなんだなと思ったんです」
 僕がそう言うと殿下は首を振って否定した。そしてこちらを真っ直ぐに見て断言した。
「いや、それは違うぞ。オメガを蔑ろにする気質はここには無い。だから安心していい」
 殿下がこのように強く断言されるのだからおそらく間違いないのだろう。
「それを聞いて安心しました」
「とはいえ、結婚を前にして花嫁に俺以外の子が宿っているというのはさすがにまずいんでね。暫くの間だけここに身を隠すような形になるが我慢してくれ」
「もちろんです、殿下」
「君は病気で、ここへは療養のために滞在しているということにしておく」
(なるほど。それなら僕がここに籠もっていても違和感がない)
「わかりました」
(……とはいえ、そこまでしてどうして僕を妻になどしようというのだろう。もっとふさわしい方がおいでだと思うのだけど……)
「さあ、腹は満たされたな。ルネ、お前に見せたいものがある」
「え? なんですか?」
「見てのお楽しみだ。きっとお前なら喜ぶはずだ」
(なんだろう。これ以上まだ僕が喜ぶことがあるの?)
 殿下の活き活きとした様子を見ているだけで僕も元気が出てくる気がした。

◇◇◇

「う……わぁ……」
 僕は殿下に連れてこられた部屋を覗いて感嘆の声を上げた。扉の中は、広々とした浴場だった。古い本の挿絵でなら見たことがある。中央に噴水が設置され、水がふんだんに流れている。広々とした浴槽はまるで泉のようで、白いタイル張りの室内はガラスドームの天井から差す月明かりを弾いてきらめいていた。
「古代の公衆浴場のようですね。こんなものが実際に存在するなんて……」
「どうだ? 気に入ったか?」
「すごいです……この水は、どのように……?」
「実はこの辺りは温泉地でね。ポンプを設置して汲み上げているんだ」
「すごい……温水ということですか? なんてすごいんだ!」
「ははは、叔父の酔狂でこんなものまで造ったんだが、お前に喜んで貰えたなら俺も嬉しいよ」
「まるで夢のようです。リュカシオンは水を扱う技術が未熟なので、このように湯に浸かるという習慣はありません。僕もごくごくたまにしか浴槽に湯を満たすことはできませんでした。バケツでお湯を汲まないといけませんからね……ポンプですか、すごい……」
 その後どのように汲み上げられているのか、設備も少し見せてもらった。殿下は技師ではないので詳しい説明はいずれ出産後にでも技術者を呼んで聞かせてくれるそうだ。
「さあ、せっかくだから入ろうじゃないか」
「いいんですか?」
「勿論だとも。入らないでどうする」
 殿下は面白そうに笑った。
「こんな浴槽は初めてです……これだけで、ここに連れてきて貰えた価値があります!」
「ははは、わかったわかった。さあ、入ろう」
「はい」
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