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第一章 断罪から脱出まで
8 家族は天才、私は凡才
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セカンド断罪は、濁濁と続いている。
私は反論を紡ぎもせず、ただただぼんやりとした視界を相手方に向けている。
魔法の照明は点灯もせず、ゆらぎもせず、ただ怒号のような言葉だけが積み重なって、私を萎縮させようと迫る。
家で開かれる音楽会の会場にもなるここは、音響も照明も効果もバッチリだ。
「人の話を聞いているのか!」
どん、と心臓に響くくらいに、父親の一等大きい声が聞こえて、それでも私の目は彼らを捉えない。
私に話しかける言葉に、どれだけ起伏があろうとも、それは私を想っての言葉ではない。
前世を思い出して、それが分かった。以前ならその怒号に怯え、非難の目に胸がキリキリと傷んだ。自室で泣きながら、次回はこんなことにならないようにと机に向かった。嘲笑の響く学校にも、笑顔で赴いた。
この断罪に、私と家族をつなぎ直す意味なんてない。
だったら、私が心を痛めることなんて、なんにもない。
「お姉さま……」
ぽと、とミルフィーの目から涙が落ちた。
「……」
「そこまで、私たちがお嫌いだったのですか」
あーあ。
苦笑いに口が歪む。
「ミルフィー、こいつに何を言っても、意味なんかない」
そう言って義理の弟シャルトが私を睨んだ。
眉間に皺を寄せ、私を見る彼は、不思議と私と良く似ている。親戚だから、ずっと一緒に暮してきたから、当たり前か。
『――お前が男に生まれていれば。せめて、魔力が人並みにあれば』
思い出す言葉。一度しか発せられなかったそれに、何百と傷つけられた。
でも大丈夫。
今の私は、傷つくと同時に、憤りを感じているから。
冷静に、この二人を見返すことができるから。
「そうおっしゃるのでしたら、もう一人代わりを用意すればいいのではありませんか」
「何?」
訝しげに父親の顔がひそめられる。
ああ、コレはもしかして。
弟を見ると、は、と一瞬目を見開くしぐさがあった。
私には、『父上もご存知のこと』とか言ってたくせに、どうやら事情は違ったようだ。
だったら代わりに伝えてやろうじゃないか。
「私とは別に、もう一人子どもを設けたらよろしい、と申し上げました。
お父様の生殖能力が朽ちているとも思えません。
お母様は……わかりませんけれど、愛情故に慮っているのであれば、それこそ貴族としての役割を果たしていないのではありませんか? 妾でも何でもご用意すればよろしいのでは」
「……は?」
間抜けなお顔がひとつ、ふたつ。つられて揃える顔ひとつ。意味のわからぬ言葉に、変わらない顔ひとつ。
「貴族、と自負されているのであれば、またこの国を支える人材が不足しているというのであれば――一族の責務の範囲であると、そうおっしゃるのであれば、私の咎とともに、もう一度ご自身の役割を果たされてはいかがかと」
要するに妾でもなんでもいいから子ども作れば? っていうことだ。
そこまで一族の~貴族の~、って言う割に、この家族子どもが少ないんだよね。私と妹だけって。そんなん貴族で許されるんかーい。おじさんのところは義弟含めて六人、第二夫人、第三夫人にそれぞれ二人ずつ。――まあ才能がなくって市井落ちやらよくわからないまま「病死」した方もいたけれど、それはそれ、これはこれ。
だって貴族の責任があるんでしょ? 血のつながった優秀な死兵が必要なんでしょ。純愛に身を置きつつも、その責務は果たしたいって、すごく都合のいい話だって聞えるよね、ってさ。
「――お前に、言われる話ではない!」
「この家はシャルトラトを迎え、世継ぎも確定している、お前一人を失ったところで何もゆるぎはしない」
「意味の分からない。お前は一族としてばかりか、この二人の娘である誇りも持っていなかったのか」
「私が国にこの身をささげると決まってから、お母様から再三再四言われていたことをお伝えしただけですわ。――そうですわね、私がお二人の娘であるなどと、やはり最初から間違いだったのでしょう。――貴族も、あの方の婚約者であったことも、何もかも」
ちくりと嫌味を返しては見たものの、ヒステリックに叫びたいお年ごろの母親と、悲劇のヒロインになりたいお年ごろの妹と、その二人を愛する男性陣が聞くはずもなく。ていうか、ようやく追いついたな妹。
その後一層大きくなった罵詈雑言に耐えていました。あ、空気を圧迫して作った防護壁を耳に用意していたので、何言ってるかはよくわかんないです。
ほんっと地味だけど使えるわー、魔法。前世思い出してから、より使い勝手がよくなってる気がする。ナイス。
罵声に影響されなかったから、弟が周りに気づかれないよう、気まずそうに目を逸らしたのもすぐわかった。
おーけい、全ては闇に葬り去ると。
妹は涙をこぼして、そんな義弟にすがりついていた。
ふ、と溜息のような嘲笑がもれる。
そんな私に母親が近寄ると、頬に鋭い平手打ちを食らった。
私は反論を紡ぎもせず、ただただぼんやりとした視界を相手方に向けている。
魔法の照明は点灯もせず、ゆらぎもせず、ただ怒号のような言葉だけが積み重なって、私を萎縮させようと迫る。
家で開かれる音楽会の会場にもなるここは、音響も照明も効果もバッチリだ。
「人の話を聞いているのか!」
どん、と心臓に響くくらいに、父親の一等大きい声が聞こえて、それでも私の目は彼らを捉えない。
私に話しかける言葉に、どれだけ起伏があろうとも、それは私を想っての言葉ではない。
前世を思い出して、それが分かった。以前ならその怒号に怯え、非難の目に胸がキリキリと傷んだ。自室で泣きながら、次回はこんなことにならないようにと机に向かった。嘲笑の響く学校にも、笑顔で赴いた。
この断罪に、私と家族をつなぎ直す意味なんてない。
だったら、私が心を痛めることなんて、なんにもない。
「お姉さま……」
ぽと、とミルフィーの目から涙が落ちた。
「……」
「そこまで、私たちがお嫌いだったのですか」
あーあ。
苦笑いに口が歪む。
「ミルフィー、こいつに何を言っても、意味なんかない」
そう言って義理の弟シャルトが私を睨んだ。
眉間に皺を寄せ、私を見る彼は、不思議と私と良く似ている。親戚だから、ずっと一緒に暮してきたから、当たり前か。
『――お前が男に生まれていれば。せめて、魔力が人並みにあれば』
思い出す言葉。一度しか発せられなかったそれに、何百と傷つけられた。
でも大丈夫。
今の私は、傷つくと同時に、憤りを感じているから。
冷静に、この二人を見返すことができるから。
「そうおっしゃるのでしたら、もう一人代わりを用意すればいいのではありませんか」
「何?」
訝しげに父親の顔がひそめられる。
ああ、コレはもしかして。
弟を見ると、は、と一瞬目を見開くしぐさがあった。
私には、『父上もご存知のこと』とか言ってたくせに、どうやら事情は違ったようだ。
だったら代わりに伝えてやろうじゃないか。
「私とは別に、もう一人子どもを設けたらよろしい、と申し上げました。
お父様の生殖能力が朽ちているとも思えません。
お母様は……わかりませんけれど、愛情故に慮っているのであれば、それこそ貴族としての役割を果たしていないのではありませんか? 妾でも何でもご用意すればよろしいのでは」
「……は?」
間抜けなお顔がひとつ、ふたつ。つられて揃える顔ひとつ。意味のわからぬ言葉に、変わらない顔ひとつ。
「貴族、と自負されているのであれば、またこの国を支える人材が不足しているというのであれば――一族の責務の範囲であると、そうおっしゃるのであれば、私の咎とともに、もう一度ご自身の役割を果たされてはいかがかと」
要するに妾でもなんでもいいから子ども作れば? っていうことだ。
そこまで一族の~貴族の~、って言う割に、この家族子どもが少ないんだよね。私と妹だけって。そんなん貴族で許されるんかーい。おじさんのところは義弟含めて六人、第二夫人、第三夫人にそれぞれ二人ずつ。――まあ才能がなくって市井落ちやらよくわからないまま「病死」した方もいたけれど、それはそれ、これはこれ。
だって貴族の責任があるんでしょ? 血のつながった優秀な死兵が必要なんでしょ。純愛に身を置きつつも、その責務は果たしたいって、すごく都合のいい話だって聞えるよね、ってさ。
「――お前に、言われる話ではない!」
「この家はシャルトラトを迎え、世継ぎも確定している、お前一人を失ったところで何もゆるぎはしない」
「意味の分からない。お前は一族としてばかりか、この二人の娘である誇りも持っていなかったのか」
「私が国にこの身をささげると決まってから、お母様から再三再四言われていたことをお伝えしただけですわ。――そうですわね、私がお二人の娘であるなどと、やはり最初から間違いだったのでしょう。――貴族も、あの方の婚約者であったことも、何もかも」
ちくりと嫌味を返しては見たものの、ヒステリックに叫びたいお年ごろの母親と、悲劇のヒロインになりたいお年ごろの妹と、その二人を愛する男性陣が聞くはずもなく。ていうか、ようやく追いついたな妹。
その後一層大きくなった罵詈雑言に耐えていました。あ、空気を圧迫して作った防護壁を耳に用意していたので、何言ってるかはよくわかんないです。
ほんっと地味だけど使えるわー、魔法。前世思い出してから、より使い勝手がよくなってる気がする。ナイス。
罵声に影響されなかったから、弟が周りに気づかれないよう、気まずそうに目を逸らしたのもすぐわかった。
おーけい、全ては闇に葬り去ると。
妹は涙をこぼして、そんな義弟にすがりついていた。
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