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第二章 教会生活
29 生き直すために必要なこと
しおりを挟む私の返答に、おばさまはなぜか悲しそうに目を伏せた。そして、整えるように深呼吸をして、私が握りしめた手を握り返す。
「ユーフェミア様、そのお心遣いに、わたくしこそ感謝いたします」
頭を下げるおばさまは、野暮ったい聖職者の服を着ていても、優雅に見えた。その洗練された仕草が、高貴な身分であったと改めて教えてくれる。――気づかなかった自分の、視界の小ささに舌打ちしたいくらいだ。
生意気ツンツン悪役令嬢系お嬢様だった私と違い、その言葉も仕草も、性格に溶け込んだ、自然な佇まいだ。
「わたくしは、わたくしの矜持でこの判断をとりました」
「はい」
私が答える声と一緒に、ぐ、と強く手が握られた。
「けれど、簡単に許してはいけないわ。
わたくしが、言うべきことではないのだけれど」
しん、と静まり返る部屋で、私は問いかける言葉をためらった。同時に息が止まり、ただただおばさまを見つめ返す。
おばさまは言葉を続ける。
「貴女はこれから、自分を愛するということを覚えなければなりません」
「愛?」
なかなかこっ恥ずかしい言葉だな、愛って。でへへ照れちゃう。
茶化すことのできる雰囲気でもなく、私は視線を迷わせる。私の戸惑いを受けて、おばさまは小さく首を振った。
「――わたくしがそうであったから、貴女がそうとは限らないけれど」
「はい」
「自分を大切に思って。――守り、気遣い、心配して」
「……?」
見返す私に、おばさまは微笑む。
「貴女が、そうであるとは限らないけれど……わたくしが生き直すために必要なことだったのです。他の人達には、当たり前すぎて、意識できないそれが、わたくしには欠けていたの」
「当たり前、ですか」
「今はまだ、意味がわからないかもしれないわね。そう――できれば、私の思い違いであれば、それが一番いいのだけれど」
私が置かれた状況を考えれば、その心配は当然かも知れない。
家族は私を大切にしなかったし、私は自殺なんてやらかしてしまったし。
――でも。
上手く言えないんだけど、私は前世を思い出す前も、自分自身を大事に思っていたと思う。
プライドを持って、自分自身の心をを保つために葛藤した結果が、自殺だったんじゃないだろうか。
モヤッとした苛立ちが自分の中に起こって、だけどそのまま下を向いた。
その苛立ちをおばさまに伝えるには、まだ思考が整理できない。うまく言葉にできない。きちんと説明できる自信がない。
だから私は、おばさまから手を離し、自分の頬についた涙を拭った。
「ありがとうございます。
すこし、理解できる気がします」
これからは、もっと大丈夫なはずだ。私には前世の記憶があって、愛された記憶があるから。
今度こそは、自分のために、生きられると、思う。
――よね?
なぜかぼんやりとした不安が、まつげの影みたいに思考の端によぎったけれど、それを振り払うように、私は微笑み返した。
今度は自殺なんてしない。
必要だったら、生きるために、逃亡だってしてみせる。
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