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第二章 教会生活
37 私は歩ける。
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私が起きた後、一番に駆けつけてくれたのはマーガレットおばさまだった。気付けに少しレモンみたいに酸味のあるジュースを飲ませてくれた。うん、美味しかった。
「疲れているところ、申し訳ないのですけれど……総司教様が今後のことについて話合いたいと」
言いにくそうにしているその後ろから、修道士三人組のうちの、一人がついてきていた。テル、君だっけ? ねずみ色のモジャモジャ頭に眼鏡にフードをいっつもかぶっている。修道士のトリオコントのときじゃないと、一切接触のない子だ。ヨーイ君はだいぶ慣れてきたんだけど、この子は結構クール対応なんだよね。
テル君は、部屋の中には入ってこない。扉を固定する役目に従事しているようだ。いつも通り、目も合わず、への字に口を結んで、ただ扉を押さえているだけだ。
目には目を、無視には無視を、なんちゃって。ただ自分に余裕がないだ。私はベットからニッコリと微笑んで、痛みを押さえながら体を起こした。
「――それはありがたいお話ですわ」
腕は細く、足はムニムニと水を含み重い。
むくんでいるのか、硬いベッドの布地の後がランダムに私の皮膚に模様を描いている。
でも、それでも、力を入れるとピクリと動き、体を起こすことができた。
うん、疲労回復。あの、加護の欠片が抜け落ちた時の喪失感はだいぶ減って、どちらかというと倦怠感っていう言葉が似合うレベルに収まってくれている。
「すぐにお伺いいたします。整えますので、少々お待ちください」
靴を履くために頭を下げると、扉の方から声が聞こえた。
「……無理に」
「はい?」
最初のほうが聞き取れなくて、視線を向けると、張本人は私が顔を向ける前と同じ形で固まっていた。空耳?
マーガレットおばさまに目を向けても、苦笑いを返される。もう一度視線を向けると、彼の眉にいっちょ前に皺が寄せられていた。
顰め面なその彼は、きっと自分が尊敬するドリムイ様そっくりになってるなんて気が付かない。
なんかね、この子達、うるさい教師と生徒の関係なのかなと思ってたら、実は父ちゃんとズッコケ息子達だったみたい。いいねえ、ズッコケ三人修道士。
ぷ、と思わず笑みがこみ上げてきて、お腹の力が抜けてしまう。よろけかけた私に、マーガレットおばさまが慌てて駆け寄った。
「ありがとうございます」
それでも、別に一人で立てないわけじゃない。
立ちくらみもせずに、それでも慎重に足を動かす。とんとん、と靴を整えて姿勢を正した。
「ユーフェミア様、ご無理は禁物ですよ。
――体調が思わしくなければ、こちらでお話することもできますわ」
「総司祭様がお呼びなのですよね?」
服は、そのままだ。乱れた皺を整えて、私は背筋を正した。キリ、顔は緩まない。緩ませない。
「だから、無理、すんなよ!」
声が大きく響いた。
確実に、こちらに向いた声。そして私を見つめるその顔は、――あらま、可愛い男の子だこと。
「無理ではありません。私は立てますし歩けます」
だいたい、総司祭は、体を無理やりに起こしてでも、向き合わないといけない相手だ。
あの人が唯一、私の平民への道を握ってる。
ちゃんと平民訓練してもらわないと、あっさり挫折してルート逆戻りとか笑えないからね。
マーガレットおばさまは、苦笑したその顔のまま歩き出した。
私に添える手はない。
おばさまは、私が歩けるって、知っているから。
「……なんでだよ」
自分でいっぱいいっぱいだった私は、小さく吐き出された言葉に返事はしなかった。
「魔女、なんだろ」
ただ、視界の端に映った顔が泣きそうな感じで、それがちょっと心配になった。
子どもは嫌いじゃないからね。
「疲れているところ、申し訳ないのですけれど……総司教様が今後のことについて話合いたいと」
言いにくそうにしているその後ろから、修道士三人組のうちの、一人がついてきていた。テル、君だっけ? ねずみ色のモジャモジャ頭に眼鏡にフードをいっつもかぶっている。修道士のトリオコントのときじゃないと、一切接触のない子だ。ヨーイ君はだいぶ慣れてきたんだけど、この子は結構クール対応なんだよね。
テル君は、部屋の中には入ってこない。扉を固定する役目に従事しているようだ。いつも通り、目も合わず、への字に口を結んで、ただ扉を押さえているだけだ。
目には目を、無視には無視を、なんちゃって。ただ自分に余裕がないだ。私はベットからニッコリと微笑んで、痛みを押さえながら体を起こした。
「――それはありがたいお話ですわ」
腕は細く、足はムニムニと水を含み重い。
むくんでいるのか、硬いベッドの布地の後がランダムに私の皮膚に模様を描いている。
でも、それでも、力を入れるとピクリと動き、体を起こすことができた。
うん、疲労回復。あの、加護の欠片が抜け落ちた時の喪失感はだいぶ減って、どちらかというと倦怠感っていう言葉が似合うレベルに収まってくれている。
「すぐにお伺いいたします。整えますので、少々お待ちください」
靴を履くために頭を下げると、扉の方から声が聞こえた。
「……無理に」
「はい?」
最初のほうが聞き取れなくて、視線を向けると、張本人は私が顔を向ける前と同じ形で固まっていた。空耳?
マーガレットおばさまに目を向けても、苦笑いを返される。もう一度視線を向けると、彼の眉にいっちょ前に皺が寄せられていた。
顰め面なその彼は、きっと自分が尊敬するドリムイ様そっくりになってるなんて気が付かない。
なんかね、この子達、うるさい教師と生徒の関係なのかなと思ってたら、実は父ちゃんとズッコケ息子達だったみたい。いいねえ、ズッコケ三人修道士。
ぷ、と思わず笑みがこみ上げてきて、お腹の力が抜けてしまう。よろけかけた私に、マーガレットおばさまが慌てて駆け寄った。
「ありがとうございます」
それでも、別に一人で立てないわけじゃない。
立ちくらみもせずに、それでも慎重に足を動かす。とんとん、と靴を整えて姿勢を正した。
「ユーフェミア様、ご無理は禁物ですよ。
――体調が思わしくなければ、こちらでお話することもできますわ」
「総司祭様がお呼びなのですよね?」
服は、そのままだ。乱れた皺を整えて、私は背筋を正した。キリ、顔は緩まない。緩ませない。
「だから、無理、すんなよ!」
声が大きく響いた。
確実に、こちらに向いた声。そして私を見つめるその顔は、――あらま、可愛い男の子だこと。
「無理ではありません。私は立てますし歩けます」
だいたい、総司祭は、体を無理やりに起こしてでも、向き合わないといけない相手だ。
あの人が唯一、私の平民への道を握ってる。
ちゃんと平民訓練してもらわないと、あっさり挫折してルート逆戻りとか笑えないからね。
マーガレットおばさまは、苦笑したその顔のまま歩き出した。
私に添える手はない。
おばさまは、私が歩けるって、知っているから。
「……なんでだよ」
自分でいっぱいいっぱいだった私は、小さく吐き出された言葉に返事はしなかった。
「魔女、なんだろ」
ただ、視界の端に映った顔が泣きそうな感じで、それがちょっと心配になった。
子どもは嫌いじゃないからね。
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