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第三章 平民の実習期間

54 魔法は生活に直結します。

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歩きながら、魔法の説明を受ける。
魔法というのは、稀有な才能である。
属性は大きく分けて火、水、風、木、土、光、闇。
詠唱や陣によって行使される。
行使できる力に応じて初級、中級、上級、最上級に別れる。
魔力がある場合でも、人に応じて適性のある属性は変わる。多くは一属性、ただ、どの適性であっても、七属性の初級魔法を行使できる場合が多い。
生活に必要な小規模な魔法に関しては、研究が進んでいるが、ダンジョン攻略や領地運営にかかるような広範囲・大規模な魔法については発展途上である。
「修道女のおばさまたちが、魔法使ってたでしょ。カマドに火を入れたり、洗濯する時の水を回したり、抜いたり」
「あれは魔石に込めた術式を起動させたに過ぎません。魔石の起動にはたしかに魔力が必要です。逆に言えば、魔石がないと魔法が発動できないんですよ」
魔石は魔力を吸収できる。充電式の乾電池みたいなものだ。
更に魔法が使えるなら、魔石に普段利用する魔法を記憶させて、その初動だけを契約者に渡す、という商売があるのだ。「風よ」と言って乾かすくらいの風を起こす。「火よ」と言って、スープを煮込むくらいの火を起こす。
「私の制服にも、魔法が付与されていたわ」
「そうですね、魔石を粒子状にした状態で陣を描く、という形式であれば付与できます」
それは、最近の生活で知ったことだ。貴族であったときには、そんな職業があるなんて知らなかったし、気にかけることもなかった。あることは知っていても、その仕組に目を向けることはなかった。
「――私の知っている人たちは、詠唱なしでも魔法を使っていた」
「あれは、発露した、ということだと思いますよ」
ヨーイ君が思い浮かべているのは、母親が私に対面したあの場面だろう。だったらイメージしやすいかもしれない。
「詠唱なし、陣なし、魔石なしで起動するほど、魔法は簡単なものじゃありません。そして詠唱によって魔法を発現できるのなら、サラさんは立派な『魔力持ち』です。魔法の訓練を受けるべきです」
「……そうなの?」
ならば、やはり貴族と基準が違うのかもしれない。
「でも、もう遅いでしょ? 私年齢を重ねているし」
「魔法を身につけるのは、確かに時間と努力が必要です。でもそうしなければ先程の方が言ったように体調に異常をきたします。必要な鍛錬ですし、稀有な力なんですから、国や教会から補助が出ますよ。年齢は関係ありません。」
「……」
「普段使っている魔石に魔力を込めたり、守護の刺繍を衣服に施したり……街に必要な、専門職なら、魔力を込めることさえできれば、難しいことじゃありません。これなら、日々の糧を得られる……」
「本当?」
声が跳ねた。
絵本の通り、ちゃんと専門職があって、なおかつ私でも習得可能なの?
立ち止まりかけた私に、強く手を握り直してヨーイ君は歩くよう促す。ちなみに、ネネルちゃんも歩幅を大きくして小走りでついてきてくれている。手はちゃんと私が繋いでいる。
「色々規定はありますし……職業集団に弟子入りする必要があるかもしれません。それはそれで、教会にいる僕達と同じように住込みだからサラさんには合っているかもしれませんね」
「住込み!」
つまり住居がある!
え、なにそれ予想外過ぎて嬉しいんですけど!
「私は、生活基盤の光明を得たと考えていいの?」
「キバン……コウミョウ?」
「えっと、生活するのに」
「いいです! 僕だってちゃんと調べられます」
「うん」
「とにかく、サラさんの今後の生活にとって重要な能力です。想定と違うので、とりあえず総司祭様に報告して、ちゃんと測定し直しましょう」
誰。この子誰?
「ヨーイ君、おっきくなって……」
こんなにしっかりするなんて、お姉さん予想外だよ。
「えぇ? えへへ」
「ヨーイお兄ちゃんは小さいよ」
ネネルちゃんがボソ、と余計な一言を言ってしまい、照れかけたヨーイ君は真顔に戻って足を早めた。
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