家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう

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第三章 平民の実習期間

56 今後の予定と急

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「総教会に戻るのは明後日にしよう。
 僕達の仕事は一段落ついたよ。ドリムイ様に報告しないといけない。
 サラさんは、名付けの儀式、魔力の再測定、今後の受け入れ先の確認ってところだね」
ヨーイ君たちに割り当てられた部屋で、今後の予定を告げられた。
「了解しました」
び、と敬礼の形をとる。
外は暗く、部屋の明かりも最低限だ。とはいえ、台所と違って白い光が隅々まで渡っている。魔石を使っているんだ。
「にしても、サラさんに魔力があったなんてね」
「私も驚きました」
「教会の選定の儀式には参加したんだよね?」
頷く。
しましたとも。そこで「魔力なし」の判定受けて朝に冷たい水かけられたり、食事制限されたり、一晩中女神様に祈るために部屋に閉じ込められたりしたよ、総教会で。
今はしてないだよね、あれは虐待だと思うから、その方がいい。
「年齢を経て発露、って言う可能性もあるのか……」
「いいえ。あの頃から私の魔力は変わっていないと思います」
母親の精霊の加護と言う名の束縛から逃れて、確かにスムーズにはなったけれど、その前から初級の魔法は使えました。
言い切ったら、微妙な沈黙が流れる。ヨーイ君、スタ君、テル君、みんな苦い顔をしている。
私の主張は、「教会が間違えたんじゃないですかね?」ということだから、修道士三人組が苦い顔をするのは当たり前だろう。
「五歳の頃、半年ほど教会で身を清める生活を送りました」
「――ふうん。
 その時、どういう人が対応したか覚えてる?」
スタ君の、少年故に高い声が低く響く。丁寧に聞くその様子がちょっと怖い。
「白髪のお年を召した女の方、だったのは憶えていますけれど……名前までは」
ふう、とため息の後、スタ君は顎をつき、ヨーイ君は頭を抱えた。
「嫌な予感が……」
「俺も」
テル君はテーブルを見つめている。
「スタ?」
「なんで、かばったんだ?」
目も合わさないまま、そう急に言われて理解できなかった。
かばった?
「ネネル……ちゃん?」
午前中の図書館の時だろうか。
思い当たることがそれしかないけれど、なぜ、と理由を求められることじゃない。戸惑って他の二人を見るけれど、二人も困惑してテル君を見ている。
「……獣人、だろ」
その言葉にカチンとくる。
「それがなんだって言うの。
 あんな言い方酷いわ。
 テル君だって、傍にいたら同じことをしたでしょう」
と、同時に図書館の職員に警吏を呼ぶよう連絡したはずだ。
「それは……そう、だけど」
テル君は、テーブルを見たまま目を泳がせる。ふるふると首を小さく振るので、ふわふわの癖っ毛が揺れた。眼鏡に光が反射する。
「獣人については、書籍や講義でしか触れたことはなかったから、意識しなかったけれど、『差別』が根強いのね。ネネルちゃんと仲のいい子どもたちですら、時々特徴をからかうもの」
私の周囲にいたのは獣人オネエの最低野郎だし、――もう一人っていうかグループの人たちは、何も言わなかった。きっと、無意識で繰り返した私の無礼を許してくれたんだろう。孤児院の訪問で出会わなかったのは、今思えば隠されていたのかもしれない。
「あんなことしても、好きな子の気は引けないのに」
よくよく見ていると、からかっている子どもたちは、ネネルちゃんのこと気にかけてるんだよね。ネネルちゃんは外見はまんま獣人だけど、お母さんは人族だったらしい。本来、獣人は筋力・体力に秀でているはずなんだけど、ネネルちゃんはまだ、なのか本来、なのか人族の要素が強いのかあまり運動が得意じゃないという。洗濯物が持てなかったり、皆で作業する時も一人だけ遅かったりする。そういう時に、絶対フォローに入ってくれはするんだよね、で、照れ隠しにからかっちゃう、って感じ。
「暴言を」
ぽつり、テル君の口が動いた。
「深淵の森の領主に、暴言を、言ったって」
『やだぁ、そんなに怒ると皺だらけになっちゃうわよぉ』
深淵の森の領主は、攻略対象の一人だ。
女の子たちに囲まれて、おしゃれ談義に花を咲かせる。キャットファイトの仲裁をしては、耳をピンとさせてニコニコと微笑んで――獣人で、オネエのあいつ。茶色に黄色メッシュ、金色の目の、ルジェルガ。
思い出すだけで腹が立つ。
と、同時にそれが筋違いだとも、今は思っている。
「もしあいつが」
少女の中に、見知った顔を思い出す。
戸惑って、それでも最後には優しく微笑んだ。
泣きはらして、倒れ込んだあの子。
『ユーフェミア様、私――私は、どうすればよいのでしょう。
どうすれば』
消え入りそうに、それでも前を向いたあの子。
「アレが、人族でも、婚約者でも、教師でも、――王様だって、私は許さないわ」
絶対に、許さない。
誰に許されても――あの子が、私を裏切ることで、何を得たとしても。
『貴方は最低の人間よ、獣だわ』
憤りにまかせて睨みつけて叫んだ。落ち着けばそんな言葉言わなかったのかもしれない。でも色々うまく行っていない中で、起こったことだったから。
「言ったことは取り消さないわ」
全ては秘密になったんだろう。
当事者同士が納得した以上、私はもう何も言わない。そもそも言う資格があったのかもわからない。
ただ、あいつへの憤りだけは、ちゃんと胸に持っていく。
それが私の、決着の付け方だ。

「テル君は、私が何を言ったか知っているのね」
びく、と体が動いた。
ま、なんだかんだ浸透しつつある『爆誕平民の星アリアたんとうつくしの王子様――スパイスは悪役令嬢』だからね。ここ一週間は子どもたちのままごとにも取り入れられている。悪役令嬢役も、もちろんルーティーンで回ってくる。とりあえず地響きを起こして『ワタクシを倒すなら、奥義・回転真技を身に着けてからにしていらっしゃい!』とか言ってチャンバラごっこに移行させてたら、悪役令嬢が魔王っていう独自の設定が加わってしまった。冒険に出たり、アリア役の子が不治の病に陥ったりして大筋からズレにズレて、私もダメージを受けることなく、楽しく参加してます。ありがとう教会の子どもたち。
そもそも最初に会った時の『童話の魔女』の発言からしても、テル君をはじめ総教会の人には状況が漏れていたみたいだし、テル君が学園内の私の言動を知っているのは仕方がない。
ユーフェミアの言葉や、行動の一部分を切り取れば――そしてアリアを擁護するために物語を作り上げるつもりならば――立派に悪役になる要素を持っている。
そういう意味で、私に敵意を向けてたのかな、と思うと悲しい。でも、今のテル君は私の荷物も持ってくれるし、心配してくれる。なら、嬉しい。
それでいいかな、とのんきに納得して笑顔を向けると。

「ごめんなさい」
急にテルくんが謝った。
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