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腹減り雀

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本編

58

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 最初に、その他大勢から。

「今だ!」

 予定通り大きい個体が土埃を上げながら通り過ぎた直後に、盾を構えた衛兵と狩猟者達が進路に割り込むと、少し前に出て勢いをつける、腰を落として踏ん張る等それぞれの方法で、小さい個体の群れとぶつかり合う。
「メェェェ!」
「おおおお!」

 硬質な音が響き渡り両者が拮抗した瞬間、すぐ後ろにいた者達が盾持ちの脇を抜けて前に出ると、首根っこを掴んで抑え込みに入る。

「左側、抜けたぞ!」
「ぐはっ」

 抑え込む範囲から外れた個体が、盾持ちの側面から体当たりを敢行。魔法による拘束が行われるも、すり抜けた個体による側面からの攻撃に数人が空を舞う。

 倒れ込んだ者達への追撃が当たる直前に、カイゼルの鋭い一撃で意識を刈り取る。

「あ、隊長。それありですか」
「危ない時だけだ。毛を狩るのは後にして、ひっくり返して足を縛れ!」
「はい!」

 衛兵と一部の狩猟者達が縄を取り出すと、抑え込まれてもなお暴れる小さい個体の足を縛って転がしていく。

「くそっ。数が多すぎるぞ」
「泣き言を言っていないで、手を動かせ!」
「この! 暴れる――おふっ」
「ジャッッック!」

 暴れるメリちゃんを抑えようとしていた男が一人。潜り込んだメリちゃんによる渾身の体当たりが大切な処に当たり、白目をむいて倒れる。

 そんな一幕がありながらも、捕獲と毛刈りは順調に進んでいく。



 次は、エレノア組。

 大きい個体はエレノアと接触する直前で顎を引いて頭突きの姿勢に。一方、エレノアは大剣を左肩に担ぐように構えて力を溜めていく。

「メェエエ!」
「ハァっ!」

 頭突きと大剣の振り下ろしが激突する。両者ともに気合の入った一撃同士の衝突は、耳を塞ぎたくなる轟音を発する。

 拮抗は一瞬。すぐに大きい個体は弾き飛ばされ、三メートルほど地面に足跡を残しながら後退すると、白目を晒し口から泡を吹いて倒れ込む。

「ええええ!」

 目の前で繰り広げられた非常識な光景に、ミッケとルルは愕然とするほかなかった。

 倒れ込んだ大きい個体を観察していたエレノアは、起き上がる気配がないことを確認すると、青白い顔で魚の様に口を開閉させながら震えていたミッケとルルに語り掛ける。

「二人共。始めますよ」

ミッケとルルが動けたのは、エレノアが鼻歌混じりに巨体の毛狩りを開始してから、少し経ってからだった。


 最後は桜華一家。

 走る大きな個体はもう一方と同じように頭突きの姿勢へ。対する桜華は、魔力と気を練って体を強化しながら走る。
 一気に両者の距離が縮む。衝突の直前、桜華が大地を踏み割る勢いで踏み込むと、弾丸のような勢いで飛び上がる。

「メェエエ!」
「っ!」

 頭突きと飛び蹴りの衝突は、他方と同じように轟音を発生させも、拮抗するだけにとどまる。
 桜華が蹴った反動で飛び上がり、空中で姿勢を整えている間に大きい個体は目を回してゆっくりと倒れる。

『主上、お見事です』
「く~」
「……えぇ」

 桜華は地面に降り立つて後ろを振り返ると、目を輝かせている二人に気が付いて思わず笑顔になる。
 ゆっくりしていると怒られかねないので、クストースを呼んで毛刈りを始める。



 最初に毛刈りを終えたのは、衛兵と狩猟者の皆さんでした。盾や魔法を使って抑え込み、足を縛り上げて転がすことによって安全に毛刈りを行ったそうです。数が多いのも一因ですね。

 次に終わったのはクストースです。作業自体は慣れないことなのでたどたどしい手つきですが、ディンさんの的確な指示もあり、あっという間に終わりました。

 最後に、エレノアさんの方を作業が終わった皆さんも加わって行っていきます。

「おい、見ろよ、この跡」
「これは……まさか、あれを吹き飛ばしたのか」

 全員が群がっても作業に障りが出るので、現在はクストースを中心に数人が作業していて、暇を持て余した狩猟者と衛兵の方が地面に残された跡を調べています。

「エレノアさん、凄いですね」

 あの突進を防ぐだけでなく押し返すなんて、どれほどの力を持っているのでしょうか。
 思わずそう零すと、近くにいたルルが呆れたような顔をしています。

「いや、桜華も大概だと思うよ」
「どうして?」
「あっちの大きな個体。額に足跡があるんだけど? どういうこと?」

 呆れ顔のルルがビシッと私が担当した大きな個体を指さすと、近くにいた人々がルルの指の先を確認します。

「どうって、蹴ったからですよ?」

 何を当たり前なと思って返してみたら、ルルだけでなく近くにいた皆さんが大きなため息をつきました。

「何で蹴ったのかな。桜華、クストースが盾で受け止めるとかなかったの?」
「……あ」

 そういう方法もありましたね。うっかりしていました。

「今、あって言った! これ、忘れていたやつだ!」
「ちょっと忘れていただけじゃないですか」

 ルルの絶叫は他の方々にも聞こえたらしく、それぞれが近くにいた人と顔を見合わせます。

「さすが桜華ちゃん。俺たちの想像を超えていくねぇ」

 近くにいた狩猟者の小父様が苦笑交じりに呟くと、全員が失笑をしています。なお、衛兵の皆さんは少し元気のないディンさんの肩を叩いています。何故か理不尽なことを言われている気がします。

「まあ、なんにせよ、怪我人が出なくてよかった。桜華さん、ありがとう」

 一通り見て回っていたカイゼルさんが、ほっとした様子で声をかけてきました。

「いえいえ。あ、家の牧場にいる子達も毛刈りしないと駄目ですよね」
「ああ。早いうちにお願いします」

 カイゼルさんもその可能性に気が付いたようです。
 ところで、私が蹴った方のメリちゃんが起き上がりました。身軽になったことに気が付いたのか、機嫌がよさそうです。

 今毛刈りをしている個体に近づくと、じっと様子を窺っています。そういえば、と小さな個体を探せば、近くでゆっくりしていました。

「桜華さん、もう少しで終わるから待っているように言ってきてくれないか?」
「はい、分かりました」

 様子を窺っている個体にゆっくり近づくと、話しかけます。

「今、普通に話しに行っているけど、おかしいよな」
「うん。おかしい」
「なんで会話できることが前提なんだよ」
「それは、あれでしょ。桜華だから」
「ああ」

 大きい個体と話しをしている間に、ルルを始めとした数人が和やかに笑っています。またしても理不尽な扱いを受けたような気がします。

「カイゼルさん。この子達、移住を希望しています」
「そうか。牧場だな」
「牧場ですね」

 逡巡する間もなくカイゼルさんとエレノアさんの意見が一致しました。牧場主は置き去りですね。勿論、反対する理由はないのですが。

「そろそろ毛刈りも終わりますね。ミッケさん、ルルさん。カウルベルを探しに行きますよ」
「ええ、まだ行くのぉ?」
「い・き・ま・す・よ」
「はいさー!」

 素敵な笑顔のエレノアさんの背後で、竜が殺意全開の笑顔になっています。ミッケさんとルルだけでなく、数人の狩猟者の方々が青い顔で集結。いそいそと出かけていきました。
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