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腹減り雀

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本編

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 いつもの時間に起床すると簡単に身支度を整え、二人が起きてくるまで昨日終わらなかった細かい部分の加工の続き。
 作業が終わるのと前後して起きてきた、ほんの少し眠そうな二人に身支度を促して一緒に朝ご飯を食べに笹熊亭へ向かいます。

 狩猟者達の朝は早いし、畑をやっている人の朝もそれなりに早い。普段のこの時間は朝の忙しさも収まり始めている時間。それにも拘らず、普段より大勢の人がいてピエナさんが跳ね回っています。

 不思議に思っていると、知り合いになった狩猟者の皆さんが厨房の方へ顎を動かしています。促されるまま視線を厨房の方へ向けると、厨房との境近くにある席を占拠しているエレノアさんが満面の笑みを浮かべています。皆さん、あの席近くを避けているようです。
 私と視線が合うと手招きを始めたので、エレノアさんの向かい側の席に座ります。

「おはようございます。エレノアさん」
「おはようございます。桜華さん、ミッケさん、ルルさん」

 朝食と弁当の注文をしていると、一瞬だけエレノアさんの目が怪しく光りました。気のせいでしょうか。

「さて、念のために確認しますが、監視者の事は聞いていますよね?」
「私には警邏隊のカレンさんと聞いていますが、ミッケさんの担当は聞いていませんでした」
「ミッケさんの担当は私です」
「うええ!」
「やはり、そうなりましたか」
「もう少し反応してほしかったですね」
「何となく予想できていましたので」
「ミッケさん、そんなに嬉しそうな声を出すなんて。ご期待に沿えるよう、狩猟者の基礎を教えて差し上げますね」
「いや、監視者ですよ? 指導者じゃないですよ?」

 ミッケさんが漸く会話に加わるも、捕食者もといイジリ甲斐のある玩具を見つけた子供の様な目をしたエレノアさんに早くも腰が引けています。

「見ているだけより鍛えた方が、時間を有意義に使えます。さ、早く食べて出発しましょう」

 ミッケさんが助けを求めて瞳を潤ませながらこちらを見てくるけど、顔の前で合掌しておきます。私にはどうにもできません。
 朝から燃えつきかけたミッケさんがテーブルに突っ伏すと、ピエナさんが朝食を手に近寄ってきました。

「母がすみません」
「ありがとう。気にしないで」

 エレノアさんがせっつく様に催促してくる為、いつもより早めに食べ終えます。

「さ、行きますよ!」

 エレノアさんに首根っこを掴まれて引き摺られるミッケさんが、最後の抵抗とばかりに手を伸ばして合唱していたルルを捕獲。驚くルルを掴んだまま連行されていきます。私は助けを求めてくる二人にもう一度合掌。
 朝食と弁当の代金を払い、弁当を受け取って外に出ると、買いたかった物があるので雑貨屋へ。

「おはようございます」

 声を掛けながら中に入ると、何かに呼ばれた様な不思議な感覚。原因を探して周囲を観察すると、隅の方に置かれた角灯が目に留まりました。

 大きさは五十センチほど。横面と下面は木のフレームで区切られてガラスが嵌め込まれていて、底部の形は六角形で上に行くほど外側へ広がるようになっている。上部は三角錐で頂点に輪が取り付けられています。

「これは、随分と古い角灯ですね」
「おや。それが気になるのかい?」

 声に振り返れば、カームさんがすぐ近くまで来ていました。

「よく分からないけれど、呼ばれた様な気がして」
「そうか。これは魔具の角灯だよ」

 角灯を手に取ったカームさんが上部を少し回して屋根を外す。

「壊れているらしくてね。詳しい事は私にも分からないんだ」

 外された屋根の内側に、何かを嵌め込むような物とかなり複雑な様式の魔方陣が書き込まれています。手帳を呼び出して魔法陣や文字を比較していきます。

「う~ん。魔石を源に光量、持続時間を段階的に調整できるようにしているみたいですね」
「ほ~う。そういう事なのか。それで、今日はどうした?」
「縄が欲しくて。あと、この角灯も」

 すっかり忘れていましたが、我が家には明かりがありません。私は夜目が効くので必要性がなく、ミッケさんも何も言わないのでと、言い訳をしてみます。早いうちに考えておかないといけないですね。

「縄は二十カーナで、角灯はタダでいいよ。ああ、明後日に商隊が来て市が立つんだ。そのときに注文していた物を含む商品を入荷するんだけど、ちょっと手を貸してくれないかな」
「明後日ですね。分かりました。角灯ですが、タダですか?」
「ここに置きっぱなしでは、可哀想でね」

 聞くところによると、十年以上昔から片隅に置かれていたらしい。この間掃除した時は気がつかなかったけど、人海戦術で片付けていたので見落としたのでしょうか。
 何度がお金を渡そうと試みるも、頑として受け取らないので諦めて角灯を貰い受けます。

 改めて観察すると、作られてから結構な年数が経過しているのかフレームの傷みが結構ひどい状態になっている。ガラスも曇りだけならいいけれど小さな傷が入っているようで、偽れても不思議ではない状態。このままでは忍びないですね。
 考えていた予定を少し変更して、ダガンさんの処へ行きます。

「おはようございます」
「おう。おはよう。昨日のやつならできているぞ」

 奥から出てきたダガンさんは顔が少し青い。どうしたのか聞いてみたら、昨夜エレノアさんと酒を飲んでいたそうです。

「ご愁傷様です。あ、角灯用のガラスもお願いします」
「角灯? 使っているのはただのガラスか。これなら、今有るやつを切るだけだな」

 支払いを済ませると、ガラスを切るダガンさんの横で耐火煉瓦を確認しながら縄で縛っていく。

「興味本位で聞くが、鋳物はどう使うんだ?」
「今回お願いしたのは、調理場に使います」

 キョトンとしているので、手に持って確認していた品から説明する。

「この鉤付きの輪は魔具の加熱器具に。耐火煉瓦の板は火を使うので火事にならない様に防護する板。本当は他にも作りたい器具がありますが、様々な問題があるのでどれもこれも先送りですね」
「調理器具か。ギルドに申請してみたらどうだ?」
「まだ魔方陣が完成してなくて」

 といっても、目処はついているけど。

「あ。今更ですが、鉤付きの輪に魔石を嵌め込めるようにしてほしくて」
「そうか。それなら追加料金なしでいいぞ。ちなみに、他に作りたい器具って何だ?」
「パンを焼く石窯です」

 焼きたてのパンを食べたいだけです。チーズを作る予定もあるので、ピッツァもいいですね。
 思考がわき道にそれている間にダガンさんが瞑目して考え込んでいます。どうしたのかと思えば、目を開けてニカッと笑いました。

「石窯なら、作ってやるぞ」
「え?」
「何、最近骨のある仕事がなくて、暇なんだよ」
「いや、鍛冶と石窯は関係ないですよね」
「俺が作りたいんだよ」

 実にいい笑顔で言い切りました。相当暇なようです。

「抵抗しても無駄そうですね」
「おう。楽しみだな」

 詳細を決めるためにダガンさんと家へ戻ると、中へ招いてキッチンの右奥に案内する。

「この辺りに作ろうかと思っています」

 高さと大まかな形、熱源は魔具としての機能で代替予定と伝える。

「分かった。材料は明日以降になる。最終的な部分は後になるかもしれないが、一日で形にはなるな」

 軽く呆れている私を置いて、ダガンさんは鼻歌混じりで意気揚々と帰っていきました。そんなダガンさんを見送っていると、入れ替わるようにカレンさんがやってきます。

 そういえば、監視者の事を忘れていました。が、無言で睨んでくるだけなので気にしないで今日も加工を頑張りましょう。
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