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本編
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しおりを挟む食事を終えて皆さんにお茶を淹れていると、ルーナさんが鞄から紙の束を取り出します。
「桜華さん、申請書お願いします」
「はい。……そういえば、ミッケさんとルルはどこに行ったのでしょうか」
「そういえば、見ていないですね」
家に帰ってきた様子もないし、何をしているのでしょう。いい大人なので心配する必要はないのかもしれませんが……まあ、無茶はしないですよね。
二人の事はひとまず横に置いて、申請書に先程作った噴水を記入してルーナさんに手渡し、お茶をもう一杯。
「桜華さん。この後の予定は?」
ディンさんがお茶を片手に話しかけてきました。
「一度噴水の起動に行った後は、ゴーレムを避難所の建設現場に連れて行って、後は家の奥で作業ですね」
「まだ作るのですか」
「まだまだですね」
少々呆れ顔のヨハンさんとディンさん。ルーナさんは泣きそうな顔になっていますね。大丈夫です。申請が必要になる物はないはずです。
申請書に問題がないことをルーナさんが確認し終えて、全員がお茶を飲み終わったので行動開始です。
まずは牧場へ。未起動の噴水にメリちゃんとカウルベルが集まっています。どうやら、先程の試運転の時に溜まった水が目当てのようです。
その周辺には女の子達。お昼をもう食べ終えてきたようですね。元気です。
メリちゃんとカウルベル達を掻き分けて噴水の中へ入って魔法陣を起動すると、メリちゃん達が上を見上げて水浴びを始めました。気持ち良さそうにうっとりしています。
次に隅で待機していたゴーレムに声をかけて、避難所建設現場へ向かいます。
村の人達を驚かせないように人通りの少なそうなところを通りますが、向こうから人が。
「やはり人通りが全くないという事はないようですね。……すみません。ご迷惑おかけしております」
「いやいや。問題ないよ。しかし、大きいねぇ」
ゴーレムを笑いながら見上げると、何度か頷いてから私が歩いてきた方へと去っていきます。
私達も歩き出しますが、少し歩けば別の人が。
「すみません。ご迷惑おかけしております」
「おや。他の処にもいたのか。やっぱり近くで見ると大きいねぇ」
「他の処……ですか?」
「ほら、避難所の方。村のもんは皆一度は見に行ってるぞ」
どうやら注目の的になっているようですね。まあ、村という環境では、目新しい物、珍しい物は話題の的になるのは避けて通れないものですが。
「こりゃ、御大仕事が捗りそうだ。今度、畑の方で頼んでもいいかい?」
「今は避難所の方へ連れていきますが、そこが終われば衛兵の皆さんに任せようと思っています。どちらにしろ、先方で余っている様ならいいですよ」
「あい分かった。相談してみるよ」
うきうきと歩いていく小父さんを見送って再び歩き出します。この後も、出会う村の人達は見上げて大きいねと呟きます。驚かないのと迷惑に思ってないのは嬉しいのですが、余計に委縮してしまうのは私だけでしょうか。
さてはて。そんなこんなで、避難所の建設現場にやっと到着しました。
まずは監督に挨拶しないといけないですね。えっと……あ。現場の横にいました。
「こんにちは。今大丈夫ですか?」
「ん? おお。だいじょ……ぶ……だが……」
「他の処で頑張っていた子ですが、そちらが終わったので連れてきました」
「そ、そうか。まだいたのか。こっちとしては助かるが……すごいな」
少し引き攣っているように見える笑顔が気になりますが、連れてきたゴーレムを先に作業していたクストース達と合流させます。
ところで。肝心の建設状況ですが、今は地下室の天井部分を作っているようです。公衆浴場に比べるとゆっくりに見えますが、これでも早い方ですね。うん。グレンさんはすごいです。
「では、失礼します。クストース達を宜しくお願いします」
「おう。任された。気をつけてな」
「はい」
避難所の建設現場から帰る途中で食料の買い足しを行ってから帰宅すると、買ってきた物を手早く片付けてから奥の作業部屋で織布を始めます。
足元に作業用の布を敷いて、鞄から糸球を取り出して織り機に糸を通して織布開始。魔力を流すと艶が良くなったので、慎重に状態を見ながら織っていきます。
この時、ルーナさんは部屋の入り口近くで読書。ディンさんとヨハンさんは扉の傍でチェスみたいなのをやっています。どこから取り出したのでしょうか。
――しばしの時間経過です――
部屋の中が薄暗くなってきので作業の終了です。後片付けをしてリビングに戻ると、晩御飯の準備をする前にお待ちかねの実験です。
ダガンさんが作ってくれた角灯の新しい傘に、予め考えておいた魔法陣を貼り付けます。出来栄えを確認すると、角灯の傘を付け替えて、早速起動させます。
明るさは弄っていないので前と同じ。次は新しくつけた機能を実験するために、テーブルの上に置いて手を放します。
すると、私の頭上、三十センチ程まで浮かび上がりました。実験成功です。
「か、角灯が、飛んでる!」
三人が似たような顔で、同時に同じことを呟きました。
「うう。お桜華さん、申請書お願いします」
角灯を消して部屋の照明をつけると、涙目のルーナさんから書類を受け取って記入します。
一通り書き終わってルーナさんに渡すと晩御飯の準備です。ところが、台所へ行こうとすると外から元気な声が聞こえてきました。
「ただいまー。大量だよ」
「大量、大量」
振り返ってみれば、ミッケさんが満面の笑顔で大きめの魚籠を掲げていました。ルルも自慢げにしていますね。
「おかえりなさい。魚を取りに行っていたのですか?」
「ご飯を食べ終わったら、村の男の子達が魚を取りに行くって言うから、ついて行っちゃった」
「そうですか。折角なので夕飯のおかずにしましょう」
魚籠を受け取って台所で調理を始めます。魚籠に入っている魚は内臓を処理してから塩を振って焼きます。
串も作っておいた方がいいかな。あっ。卓上囲炉裏とかいいかも。
ミッケさんとルルがお風呂に入っている間に料理を進めていきます。
「あ。皆さんも食べていきますか?」
「私達は飲みに行くので、大丈夫です」
「私は頂きたいです」
ディンさんとヨハンさんは飲みに行くと。どんな会話をするのか想像もつかない二人組ですね。
お風呂から上がってきたミッケさんとルルがルーナさんと話しているのを聞きながらで、料理と準備を終わらせます。
食事を終えて帰っていくルーナさんを見送り、二人の今日の成果を聞きながら日課となっている作業を行って就寝します。
その日の夢は、何故か皆で川の主を釣り行くという物でした。何かの暗示でしょうか。
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