もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる

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もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

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「テオ様っ!ランチに行きましょっ!」
「ミランジュ、今日も王家専用の個室で食べようか」
「やったぁ!」


私テオバルトは、この国の王太子で今年王立学園の最終学年になった。

私の周りには、私の肩書きにすり寄って来る者ばかりで、王太子としては褒められたものではないが、正直辟易している。
   
そんな時に出会ったのが、男爵令嬢のミランジュだった。
彼女は王太子の私にもはっきりものを言う、私の周りにはいないタイプで、彼女といると素の自分でいられる気がした。
側近達が苦い顔をしているのは知っているが、学園にいる間は大目に見てくれているのだろう、直接何か言ってくる事はなかった。



「テオ様ぁ、今日もリアン様に嫌な事を言われましたぁ。ミラ、怖かったですぅ」

「はぁ、またか。私からきつく言っておく」


リアンはこの国の筆頭公爵家の三男で、私と歳が同じという事もあり、幼い時に婚約者になった。

この国には神聖な力を持つ教会があり、《子授けの水》をもらって飲めば男でも子を産む事が出来る為、同性同士の結婚も珍しくなかった。

私が王になった際には、公爵家が大きな後ろ盾になるのは理解しているが、リアンはいつもかしこまった態度で愛想笑いもせず、一緒にいると息が詰まるようだった。

それに最近リアンがミランジュを虐めていると、噂で聞くようになった。
あのリアンが、と疑う自分もいるが、こうして直接話を聞いてしまうと、疑う余地はないだろう。


ミランジュと二人で学食へ向かっていると、ちょうど前からリアンが歩いて来た。
  
「きゃっ!リアン様がミラを睨んでますぅ」
「えっ、そうか?」
「そうですよぉ、テオ様注意してくださよぉ」

「リアン、この頃君は、この男爵令嬢のミランジュを虐めているそうじゃないか。何故そんな事をする」
「私はその方を虐めてなどおりません」

「うそよっ!この前だって、私とテオ様が一緒にいるのは良くないって、言ったじゃない!」
「それは、殿下は婚約者のいる身ですので、あまり近くに侍られるのは殿下にとって良くないのでは、と申し上げました」

「私達の事は学園にいる間は許されている。もう二度とミランジュに近付く事は許さん。いいな」

私は少しきつくリアンに言い渡した。

「⋯はい、出過ぎた真似をして申し訳ありませんでした」





リアンと出会ったのは、まだ年端も行かぬ子供の頃だった。出会う前から決まっていた婚約者に興味津々だった私は、何かにつけてよく公爵家に会いに行った。

幼い頃はよく笑う可愛らしい子供だった。
いつ頃だったろうか、あれは確か王配教育が始まった頃だったと思う、リアンと会う機会も減り、会ってもあまり話さなくなった。

そしてリアンは笑わなくなった。

王配教育が辛いのか尋ねた事もあったが、リアンは何も言わず、首を横に振るだけだった。

あの頃は私もまだ、会話はなくともリアンに歩み寄ろうと必死だった。

でもあの時、リアンが私の知らない指輪を後生大事に着けているのに気づいた時、私の僅かな希望は砕け散った。

「リアン、その指輪はなんだ」
「これは⋯、申し訳ございません」

私はリアンの返事に苛立った。
私という婚約者がいながら、他に心を寄せる相手がいると思った。

それからだ、私がリアンに冷たく当たるようになったのは。




その日、学園が終わり、馬車へ向かっている時だった。
ミランジュが制服を乱れさせ、泣きながら私の所へ走って来た。

「テオ様っ、うわぁん、怖かったぁ。リアン様が、ううぅ、私の事を男達に襲わせようとしました。私っ、リアン様が、男達に命令する所を見ましたっ!」
「なっ!?それは本当か?」
「ぐすっ、はい。テオ様、怖かったぁ」

ミランジュは私にしがみついて泣きじゃくった。

私は怒りが込み上げてきて、ミランジュを側近に任せると、リアンの教室に向かった。
教室の扉を開けると、帰り支度をするリアンが目に入った。

リアンもこちらに気づき、礼をろうとするその冷静な態度を見て、又怒りが込み上げた。

私は無言でリアンに近付くと、頬を張ろうとして手を上げた。

リアンは抵抗もせずに、固く瞳を閉じていた。

こんなに細く、華奢だったか?
目の下には隈ができていて顔色も悪い。疲れているのか?

そんな事を思い、振り上げた手は下ろしたが、又怒りに飲み込まれ、私は立ち尽くすリアンに、ミランジュから聞いた事を一方的にまくし立てた。

リアンは言い返すでもなく、ただ黙ってそれを聞いていた。

「お前には失望した!婚約も破棄する!」

「⋯はい、仰せの通りに」

リアンは一言そう言った。

一瞬、悲しそうな顔をした気がした。





その日の夜だった。私は陛下に呼ばれ、王の執務室を訪れた。


「テオバルト、リアンが亡くなった」
「えっ⋯?」
「リアンは毒を飲んで自害した」
「う、嘘ですよね⋯」
「こんな嘘を言って何になる。リアンは今日、学園の教室で見知らぬ男達に無理矢理穢されようとして、自ら毒を飲んでその身を守った。父である公爵から、万が一の為にと、毒を仕込んだ指輪を渡されていたそうだ」
「指輪⋯そんな⋯」
「お前に影が付いているのは知っているな?」
「は⋯い」
「私はお前の行動を全て知っている。あの男爵令嬢とは何もなかったようたが、まさか、私の知りえぬ所で子種を注ぐ様なことはしておるまいな」
「そ、そんな事、しておりません!」
「それならばよい。お前も少しは王太子としての自覚はあったようだな」


陛下曰く、リアンの実家の公爵家と敵対していた公爵の差し金で、ミランジュは私に近付いた。
リアンに虐められていると嘘をつき、私とリアンを引き離しておいて、ミランジュに既成事実を作らせようとした。
私がリアンと婚約破棄をしたところで、ミランジュをその敵対している公爵家の養子にして、私の婚約者に仕立て上げようとした。
ところが計画通りにいかず、焦ってリアンを男達に襲わせるという強硬手段に出た。


そして、リアンは毒を飲んで亡くなった。


「リアンの事は本当に残念だった。あの子はお前を一途に愛していたからな。辛い王配教育も、お前の為なら頑張れると言っておったそうだ。きっとお前が王になった時には、大きな力になっただろう」
「な、何故、その事を私に教えてくださらなかったのですか?」
「お前は他人ひとから教えてもらわないと、人の本質に気づけないのか?それに例え教えていたとして、お前はそれを信じたか?」
「くっ⋯それは⋯」

「しかし、今回の一件で、反王家の貴族が芋ずる式に捕らえられた。その事だけは良かったと思うしかない。もしかしたら、リアンはその事に気づいていたのかもしれん。あの子は聡い子であったからな」

陛下も最後は泣いておられた。




それからどうやって部屋まで戻ったのか分からないが、気づいたら私は自室のベッドに腰掛けていた。

リアンが死んだ?

もう二度と会えない?

リアンが私を愛していた?

「あ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!」

涙が止まらなかった。流れても流れても、どこにこんなに涙があるのか、私は一晩中泣き続けた。



次の日、私はリアンの実家の公爵邸を訪ねた。
公爵に会って言わなければならない事がある。

「殿下、今日はどのようなご用件でしょうか」
「公爵、すまなかった。リアンは私の愚かな行いのせいで亡くなった。どんなに償っても償いきれない」
「頭を上げてください、殿下。リアンは殿下の幸せをいつも願っておりました。どうか、もうあの子の事は忘れてください。そしてあの子の為にも立派な王になってください」
「公爵⋯私は決してリアンを忘れない」
「ありがとうございます」



それからひと月が過ぎ、私はリアンの存在の大きさに、今更ながら気づかされた。

気を抜けば涙が溢れてきそうになるのを、必死にこらえる日々だった。

ほがらかだったリアンの態度が変わったと勝手に思い込んでいたが、リアンが変わったんじゃない。
私のリアンに対する態度が変わったんだ。
悲しかっただろう。悔しかっただろう。



王家への謀反を企てた事と、筆頭公爵家の子息が亡くなった事で、異例の早さで今回の一件に関わった者達の処分が決まった。

首謀者である公爵はお家取り潰しの上、極刑になった。ミランジュも操られていたとはいえ、最後は自分の意思で動いていたのが分かり、同じく極刑になった。二人とも毒による刑だった。

残りの貴族達は、二度と王家に謀反を起こさない旨の誓約書を書かせ、爵位の格下げと領地没収の処分となった。おそらく領地を没収された貴族は税金が払えず没落していくだろう。



私はその事の報告と、少しでもリアンの近くに行きたくて、リアンの墓参りに来た。

「確かここが公爵家の墓地だと聞いたんだが⋯」

リアンが埋められているとすれば、新しく土を掘った跡があるはずだが、いくら探しても、そんな跡もリアンの墓碑も見当たらなかった。


私は急いで公爵家に向かった。
私の考えが当たっているなら、もしかしてリアンは、いや、そうであってくれ!


「公爵!リアンは、もしかして生きているのではないか?!」
「殿下、リアンの事は忘れてくださいと申し上げました」
「だが!さっき墓参りに行って来たが、リアンの墓がなかった!」
「墓参りに⋯、殿下は変わられましたね」
「今までの私は、人の上辺ばかりを見て、本質を知ろうとしなかった。結局私自身が、自分が毛嫌いしていた者達と同じだったんだ」


「殿下、こちらへ」

私は公爵に案内されて、何度か来た事がある2階の奥の部屋の前に来た。

「ここは⋯」
「ええ、リアンの自室です。後は二人にお任せ致します」
「二人⋯?」

公爵は柔らかく微笑んで去っていった。




扉を叩く拳が、強く握っているのに、震えて弱々しい音しか出なかった。

心臓が暴れて早鐘のように打ち付ける。


「はい」


消え入りそうな、か細い声が聞こえた。

夢で何度も聞いて、そして目覚めて絶望した。
間違えるはずがない、私が求めて止まない、リアンの声だった。


そっと扉を開けて中に入った。

奥の寝室に近付くと、真っ白なシーツが目に入り、ふわりと清潔な石鹸の香りがした。


「リ⋯、アン」

「殿下⋯?」


私はすまなかったと懺悔の言葉を何度も口にしながら、リアンを抱き締めた。




「私は幼い頃から口下手で、思っている事の半分も口に出して言えませんでした。学園に入り、殿下の私に対する態度が変わられ、それも自分の至らなさのせいだと思っていました。あの日、殿下から身に覚えのない事で叱責され、弁解も出来ず、私は王配になる自信をなくしました。ですが突然知らない男達に襲われた時、殿下以外の者から触れられる事が気持ち悪くて、穢されるよりいっそ死んだ方がいいと思い、父から渡されていた毒を飲みました。あの時、死んだはずだったんです⋯」

「リアン、全て私が未熟なばかりに起きた事だ。本当にすまなかった。事件に関わった者達は既に刑に処された」
「そうですか。あの、殿下、もう離してもらっていいですか?私達はもう婚約破棄した者同士、このように抱き合ってはいけません」
「婚約破棄⋯?」
「ええ、あの日、殿下から言い渡されました」
「ああっ!あれは、違う!つい、いや、ついでは済まされないが、私が馬鹿だったんだ!」
「馬鹿なんて仰らないでください。殿下は立派な方です」
「リアン⋯、私はこんなに大切にされていたんだな。もう絶対、リアンを悲しませない」
「殿下⋯」


「リアン、愛してる。私の伴侶になって、生涯私の隣にいてくれないか」


私は、驚いて目を瞬かせるリアンを力いっぱい抱き締めた。





あの日リアンが飲んだ指輪の中の毒には、遅効性の解毒剤が含まれていて、リアンはひと月眠り続けた後、目を覚ました。


リアンの体調が戻るのを待って、陛下と公爵に改めて二人の気持ちを伝えた。

「やれやれ、やっと自分の気持ちに気づいたか」
「陛下はリアンの事、ご存知だったんですね」
「さあ、なんの事だか」

「殿下、また今回のような事があれば、婚姻を結んだ後でもリアンは公爵家に連れて帰ります」
「うっ⋯」




私とリアンは、今までの時間を取り戻すように、学園で仲睦まじく過ごした。

リアンと一緒にいて分かったのは、リアンは無口だが、案外思っている事が顔に出て、そのころころと変わる表情が可愛くてたまらなかった。



そして無事に学園を卒業した私達は、国民に祝福されながら、厳かに結婚式を挙げた。





5年後、《子授けの水》のお陰で、可愛い王子を二人授かった私達は、今生きている幸せを噛み締めながら、あの日誓ったように、片時も離れずに隣に寄り添い合っている。



終わり

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