気弱なΩと不機嫌なα~次期辺境伯は運命の番を認めたくない~

まんまる

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アルフレッド様、肩の怪我、大丈夫かな⋯。

僕は医務室を出て、弟が待っている馬車乗り場まで急いだ。

「ニコ兄さん、遅かったね。朝は何も言ってなかったけど、何か急用でもあったの?」
「待たせちゃってごめんね、ジーク。ちょっと寄るところがあって⋯」
「どこ?」
「えっ!?え、えっと、あっ、図書室!そうそう図書室に用があったんだ」
「へぇー、何でそんなに慌ててるの?」
「あ、慌ててないよ!ジーク、ほ、ほら、もういいでしょ。明日、剣術大会に出るなら、帰って練習するんでしょ?」
「一応ね。でも僕の実力なんて、辺境伯家のアルフレッド様に比べたら、大人と子供くらい差があるよ」
「えっ!?ア、アルフレッド様!?」
「兄さん、どうしてそんなに驚くの?アルフレッド様は騎士科で一番強いって有名だよね?」
「そ、そうだよね、あは、あはは」
「普通科の皆も知ってるでしょ。それより、兄さん、明日応援席にいる時は周りのαにくれぐれも気をつけてね。2年の伯爵家のニコ様は天使の様に可愛いって、みんな噂してるよ。はぁ、兄さん見てると、無防備すぎて心配になるよ」
「だ、大丈夫だよ、ジーク。僕のフェロモン弱すぎて、誰も分かんないから」
「それはそうだけど⋯」
「ねっ、だから大丈夫」



僕がアルフレッド様を知ったのは、学園に入ったばかりの頃だった。
人見知りの僕は、クラスで過ごすだけで緊張してしまい、その日も頭痛が酷くて、医務室のベッドで休んでいた。
その時、騎士科の制服を着た男子生徒が一人、怪我の手当てをしに医務室に入って来た。

顔が見えなくて、誰かは分からなかったけど、ふわっと爽やかな香りを感じた瞬間、僕の体全部が心臓になったみたいに激しく脈打った。
体が熱くなって、心がその人を求めてしまうような、切なくて、でも安心するような不思議な感覚だった。


それからしばらくして、その時の生徒がアルフレッド様だと分かった。
漆黒の髪に鋭い瑠璃色の瞳のアルフレッド様は、長身で大人の貫禄さえ湛えた立派な方だった。

最初はその容姿に圧倒されたけど、すれ違う時、あの爽やかな香りがして、僕はその場で動く事ができなくなってしまった。
アルフレッド様は固まる僕を見て、何故か目を見開いて、とても驚いた顔をされていた。
アルフレッド様は目を見開いたまま、僕に手を伸ばし掛けて、はっと我に返ったように、足早に去って行かれた。

僕はアルフレッド様と一度お話ししたくて、毎朝騎士科のある棟まで行って、こっそりアルフレッド様を覗き見していた。
でも、いざアルフレッド様の顔を見ると、緊張してしまって、声を掛ける事ができなかった。



今日も声を掛けられないまま、授業が終わって学園から帰ろうとした時、アルフレッド様が怪我をしたと、騎士科の生徒が話しているのを聞いた。
僕は胸騒ぎがして、後先考えずに急いで医務室まで走って行った。
だけど医務室に着いてから、僕はアルフレッド様から嫌われてるのを思い出して、中に入るのが怖くなった。

でもやっぱり心配で、そっと中を覗いてみたら、右肩をかばいながら、苦しそうにベッドに横になるアルフレッド様が目に入った。
僕は弾かれたように体が勝手に動いて、ベッドの前に立ち尽くしていた。

アルフレッド様、あなたの爽やかな香りを感じると、体が熱くなるのはどうして?
あなたを見ると、ぎゅうっと胸が苦しくなるのはどうして?

アルフレッド様、お願い、僕を嫌わないで⋯。

「くっ、ううぅっ⋯」

「アルフレッド様っ!」

眉間に皺を寄せて苦しそうにするアルフレッド様を見て、僕は咄嗟に右肩に触れていた。
触れた瞬間、触れている所が温かくなる感じがして、不思議な事にアルフレッド様の苦悶の表情がみるみる和らいで、呼吸も落ち着いてきた。

「アルフレッド様、もう辛くないですか?」

何が起こったのか分からなかったけど、僕は静かに眠っているアルフレッド様を見て、ほっと胸を撫で下ろした。


あっ、いけない!
僕は気が動転していて、大事な事を忘れていた。

アルフレッド様が起きた時に僕がいたら、また嫌な思いをさせてしまうと思い、アルフレッド様が目を覚ます前に、慌てて医務室を後にした。

 
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