気弱なΩと不機嫌なα~次期辺境伯は運命の番を認めたくない~

まんまる

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「ニコ、騎士科の、ええっと、名前なんだっけ。ほら、今日決勝戦に出た人だよ。その人が呼んでるよ」
「わわっ、あ、ありがとう」

放課後、僕がそわそわしながら、アルフレッド様を待っていると、クラスメイトが伝言を頼まれてきてくれた。
ドキドキしながら入り口を見ると、扉の隙間から騎士科の制服が見えた。

アルフレッド様だ!

僕はクラスメイトにお礼を言って、急いで教室から出た。


「お待たせしました!アルフレッド様!えっ⋯?どうして⋯?」





◇◇◇◇◇

「アルフ、少し話があるんだけど⋯」
「リオ、悪いが、今日は用があるんだ」
「⋯ニコと会うの?」
「リオ、何か言ったか?」
「あっ、ううん、何も。アルフ、ほんのちょっとでいいんだ」
「⋯分かった。5分だけなら」
「アルフ、ありがとう!」

放課後、急いで普通科棟に向かおうとしていたら、リオから声を掛けられた。
一度は断ったが、リオの様子がいつもと違う気がして、強く断る事ができなかった。


「リオ、ここは、空き教室だが、こんな場所で話って何だ?」

リオは、俺に背中を向けたまま立っていて、俺が声を掛けると、ゆっくりと振り向いた。

何だこの香りは⋯?

「アルフ!」

「リオ!よ、よせ!やめろ!」

今まで嗅いだ事のない、甘ったるい香りに気を取られていたら、リオがいきなり、俺の背中に腕を回してしがみついてきた。

「僕、ずっとアルフが好きだったんだ!」
「リオ!離れろ!」
「嫌だ!こうでもしないと、アルフは僕に触れてくれないでしょ!」
「リオ、まさか⋯、発情促進剤か⋯?」
「そうだよ」
「何、で、こんな、事、くそっ!」

普段ならリオの力くらい、簡単に振りほどけるのに、Ωの発情の凄まじいフェロモンに当てられ、体が思うように動かない。

「アルフ、僕を辺境領に連れて行って。僕をアルフの番にして。お願い、好きなんだ、アルフ」
「はぁはぁ、リオ、こんな風に番になっても、後で後悔、する、ぞ、くっ⋯」
「後悔なんてしない!」
「リオ、お前は、友人、だ。くっ⋯、お前を抱ける訳がないだろ!」

俺の拒絶の言葉にひるんだのか、リオはふらふらと後ずさりした。

「⋯っ!リオっ!何するつもりだ!」

リオは涙を流しながら、上着のボタンに手を掛け、ぷつっ、ぷつっと、外し始めた。

途端に甘い香りが濃くなった。
αを惹きつける、Ωのフェロモンがこれ程とは。
俺はいつまで正気を保っていられるだろうか。

だが、回らない頭でも思い出すのは、今日初めてこの胸に抱いた、愛しいニコの甘い香りだった。

考えろ、何かあるはずだ。

俺は、上着を脱ぎかけているリオに声を掛けた。

「はぁはぁ、なあ、リオ。リオは俺の怪我を治してくれたんだろ?」
「そう、だよ、はぁはぁ、アルフ、僕はアルフの運命の番なんだ。だから、今すぐ、抱いてぇ」

「運命の番⋯」

その時、ずっと俺の頭のもやがかかっていた部分に、眩しい程の光が差した気がした。

俺の魂が求めている、運命の番は⋯。

俺は上着の左袖を肘までまくり、腕を出した。
ふらつく足で踏ん張りながら、腰に下げていた剣を、どうにか鞘から抜いて、自分の腕に当てた。

「アルフ⋯?何をする気?」

「リオが俺の運命だと、証明してくれ」

俺はリオを見て意味ありげにニヤリと笑い、剣を一気に引いた。

途端に、真っ赤な血が一直線に滲み出た。
痛みを感じるというより、むしろ俺の頭はすっきりしてきて、思考が回るようになってきた。

「アルフ!何するの!?血が出でる!!」
「さあ、リオ、早く治してくれ」

リオは脱ぎかけていた上着から手を離し、おろおろしながら、俺に近づいてきた。

俺がリオに腕を差し出すと、リオはぴたりとその場に立ち止まり、今度はじりじりと、後ずさりし始めた。

「できない⋯」
「リオ、何だって?」
「できない!僕にはできない!だって、アルフの怪我を治したのは、僕じゃない!」
「どういう事だ?リオ」

リオはぼろぼろと泣き出した。

「ぐすっ、アルフの怪我を治したのは⋯、ニコなんだ。ニコがアルフの肩に触ったら、怪我が治ったんだ。僕は隠れて見てただけ」

ああ、やはりあの時、医務室に残っていた香りはニコだったんだ。

俺は確信した。
ニコが俺の運命の番だと。

そう思った時、俺を地獄に突き落とすセリフを、リオが吐いた。

「アルフ、今頃気づいても、もう遅いよ。ずっとニコの好意に気づかないふりをしてたのは、アルフ自身でしょ?」
「どういう事だ?」

嫌な予感がして、酷い吐き気を覚えた。

「今頃もう、オルドー様がニコを番にしてるよ」

「⋯っ!」

俺は今になって、ようやく腑に落ちた。
何か違和感があった。高価な薬まで使って、リオが一人でこんな事を考える訳がない。何故もっと早く気づかなかったんだ。オルドー、あいつが裏で糸を引いていたんだ。

「くそっ!!」

俺は腕から血が滴り落ちるのも構わず、ニコの香りを探してひたすら走った。


俺の脳裏によぎったのは、オルドーに怯えて泣く、あの時のニコの姿だった。

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