7 / 14
7
しおりを挟む
「ニコ、騎士科の、ええっと、名前なんだっけ。ほら、今日決勝戦に出た人だよ。その人が呼んでるよ」
「わわっ、あ、ありがとう」
放課後、僕がそわそわしながら、アルフレッド様を待っていると、クラスメイトが伝言を頼まれてきてくれた。
ドキドキしながら入り口を見ると、扉の隙間から騎士科の制服が見えた。
アルフレッド様だ!
僕はクラスメイトにお礼を言って、急いで教室から出た。
「お待たせしました!アルフレッド様!えっ⋯?どうして⋯?」
◇◇◇◇◇
「アルフ、少し話があるんだけど⋯」
「リオ、悪いが、今日は用があるんだ」
「⋯ニコと会うの?」
「リオ、何か言ったか?」
「あっ、ううん、何も。アルフ、ほんのちょっとでいいんだ」
「⋯分かった。5分だけなら」
「アルフ、ありがとう!」
放課後、急いで普通科棟に向かおうとしていたら、リオから声を掛けられた。
一度は断ったが、リオの様子がいつもと違う気がして、強く断る事ができなかった。
「リオ、ここは、空き教室だが、こんな場所で話って何だ?」
リオは、俺に背中を向けたまま立っていて、俺が声を掛けると、ゆっくりと振り向いた。
何だこの香りは⋯?
「アルフ!」
「リオ!よ、よせ!やめろ!」
今まで嗅いだ事のない、甘ったるい香りに気を取られていたら、リオがいきなり、俺の背中に腕を回してしがみついてきた。
「僕、ずっとアルフが好きだったんだ!」
「リオ!離れろ!」
「嫌だ!こうでもしないと、アルフは僕に触れてくれないでしょ!」
「リオ、まさか⋯、発情促進剤か⋯?」
「そうだよ」
「何、で、こんな、事、くそっ!」
普段ならリオの力くらい、簡単に振りほどけるのに、Ωの発情の凄まじいフェロモンに当てられ、体が思うように動かない。
「アルフ、僕を辺境領に連れて行って。僕をアルフの番にして。お願い、好きなんだ、アルフ」
「はぁはぁ、リオ、こんな風に番になっても、後で後悔、する、ぞ、くっ⋯」
「後悔なんてしない!」
「リオ、お前は、友人、だ。くっ⋯、お前を抱ける訳がないだろ!」
俺の拒絶の言葉に怯んだのか、リオはふらふらと後ずさりした。
「⋯っ!リオっ!何するつもりだ!」
リオは涙を流しながら、上着の釦に手を掛け、ぷつっ、ぷつっと、外し始めた。
途端に甘い香りが濃くなった。
αを惹きつける、Ωのフェロモンがこれ程とは。
俺はいつまで正気を保っていられるだろうか。
だが、回らない頭でも思い出すのは、今日初めてこの胸に抱いた、愛しいニコの甘い香りだった。
考えろ、何かあるはずだ。
俺は、上着を脱ぎかけているリオに声を掛けた。
「はぁはぁ、なあ、リオ。リオは俺の怪我を治してくれたんだろ?」
「そう、だよ、はぁはぁ、アルフ、僕はアルフの運命の番なんだ。だから、今すぐ、抱いてぇ」
「運命の番⋯」
その時、ずっと俺の頭の靄がかかっていた部分に、眩しい程の光が差した気がした。
俺の魂が求めている、運命の番は⋯。
俺は上着の左袖を肘までまくり、腕を出した。
ふらつく足で踏ん張りながら、腰に下げていた剣を、どうにか鞘から抜いて、自分の腕に当てた。
「アルフ⋯?何をする気?」
「リオが俺の運命だと、証明してくれ」
俺はリオを見て意味ありげにニヤリと笑い、剣を一気に引いた。
途端に、真っ赤な血が一直線に滲み出た。
痛みを感じるというより、むしろ俺の頭はすっきりしてきて、思考が回るようになってきた。
「アルフ!何するの!?血が出でる!!」
「さあ、リオ、早く治してくれ」
リオは脱ぎかけていた上着から手を離し、おろおろしながら、俺に近づいてきた。
俺がリオに腕を差し出すと、リオはぴたりとその場に立ち止まり、今度はじりじりと、後ずさりし始めた。
「できない⋯」
「リオ、何だって?」
「できない!僕にはできない!だって、アルフの怪我を治したのは、僕じゃない!」
「どういう事だ?リオ」
リオはぼろぼろと泣き出した。
「ぐすっ、アルフの怪我を治したのは⋯、ニコなんだ。ニコがアルフの肩に触ったら、怪我が治ったんだ。僕は隠れて見てただけ」
ああ、やはりあの時、医務室に残っていた香りはニコだったんだ。
俺は確信した。
ニコが俺の運命の番だと。
そう思った時、俺を地獄に突き落とすセリフを、リオが吐いた。
「アルフ、今頃気づいても、もう遅いよ。ずっとニコの好意に気づかないふりをしてたのは、アルフ自身でしょ?」
「どういう事だ?」
嫌な予感がして、酷い吐き気を覚えた。
「今頃もう、オルドー様がニコを番にしてるよ」
「⋯っ!」
俺は今になって、ようやく腑に落ちた。
何か違和感があった。高価な薬まで使って、リオが一人でこんな事を考える訳がない。何故もっと早く気づかなかったんだ。オルドー、あいつが裏で糸を引いていたんだ。
「くそっ!!」
俺は腕から血が滴り落ちるのも構わず、ニコの香りを探してひたすら走った。
俺の脳裏によぎったのは、オルドーに怯えて泣く、あの時のニコの姿だった。
「わわっ、あ、ありがとう」
放課後、僕がそわそわしながら、アルフレッド様を待っていると、クラスメイトが伝言を頼まれてきてくれた。
ドキドキしながら入り口を見ると、扉の隙間から騎士科の制服が見えた。
アルフレッド様だ!
僕はクラスメイトにお礼を言って、急いで教室から出た。
「お待たせしました!アルフレッド様!えっ⋯?どうして⋯?」
◇◇◇◇◇
「アルフ、少し話があるんだけど⋯」
「リオ、悪いが、今日は用があるんだ」
「⋯ニコと会うの?」
「リオ、何か言ったか?」
「あっ、ううん、何も。アルフ、ほんのちょっとでいいんだ」
「⋯分かった。5分だけなら」
「アルフ、ありがとう!」
放課後、急いで普通科棟に向かおうとしていたら、リオから声を掛けられた。
一度は断ったが、リオの様子がいつもと違う気がして、強く断る事ができなかった。
「リオ、ここは、空き教室だが、こんな場所で話って何だ?」
リオは、俺に背中を向けたまま立っていて、俺が声を掛けると、ゆっくりと振り向いた。
何だこの香りは⋯?
「アルフ!」
「リオ!よ、よせ!やめろ!」
今まで嗅いだ事のない、甘ったるい香りに気を取られていたら、リオがいきなり、俺の背中に腕を回してしがみついてきた。
「僕、ずっとアルフが好きだったんだ!」
「リオ!離れろ!」
「嫌だ!こうでもしないと、アルフは僕に触れてくれないでしょ!」
「リオ、まさか⋯、発情促進剤か⋯?」
「そうだよ」
「何、で、こんな、事、くそっ!」
普段ならリオの力くらい、簡単に振りほどけるのに、Ωの発情の凄まじいフェロモンに当てられ、体が思うように動かない。
「アルフ、僕を辺境領に連れて行って。僕をアルフの番にして。お願い、好きなんだ、アルフ」
「はぁはぁ、リオ、こんな風に番になっても、後で後悔、する、ぞ、くっ⋯」
「後悔なんてしない!」
「リオ、お前は、友人、だ。くっ⋯、お前を抱ける訳がないだろ!」
俺の拒絶の言葉に怯んだのか、リオはふらふらと後ずさりした。
「⋯っ!リオっ!何するつもりだ!」
リオは涙を流しながら、上着の釦に手を掛け、ぷつっ、ぷつっと、外し始めた。
途端に甘い香りが濃くなった。
αを惹きつける、Ωのフェロモンがこれ程とは。
俺はいつまで正気を保っていられるだろうか。
だが、回らない頭でも思い出すのは、今日初めてこの胸に抱いた、愛しいニコの甘い香りだった。
考えろ、何かあるはずだ。
俺は、上着を脱ぎかけているリオに声を掛けた。
「はぁはぁ、なあ、リオ。リオは俺の怪我を治してくれたんだろ?」
「そう、だよ、はぁはぁ、アルフ、僕はアルフの運命の番なんだ。だから、今すぐ、抱いてぇ」
「運命の番⋯」
その時、ずっと俺の頭の靄がかかっていた部分に、眩しい程の光が差した気がした。
俺の魂が求めている、運命の番は⋯。
俺は上着の左袖を肘までまくり、腕を出した。
ふらつく足で踏ん張りながら、腰に下げていた剣を、どうにか鞘から抜いて、自分の腕に当てた。
「アルフ⋯?何をする気?」
「リオが俺の運命だと、証明してくれ」
俺はリオを見て意味ありげにニヤリと笑い、剣を一気に引いた。
途端に、真っ赤な血が一直線に滲み出た。
痛みを感じるというより、むしろ俺の頭はすっきりしてきて、思考が回るようになってきた。
「アルフ!何するの!?血が出でる!!」
「さあ、リオ、早く治してくれ」
リオは脱ぎかけていた上着から手を離し、おろおろしながら、俺に近づいてきた。
俺がリオに腕を差し出すと、リオはぴたりとその場に立ち止まり、今度はじりじりと、後ずさりし始めた。
「できない⋯」
「リオ、何だって?」
「できない!僕にはできない!だって、アルフの怪我を治したのは、僕じゃない!」
「どういう事だ?リオ」
リオはぼろぼろと泣き出した。
「ぐすっ、アルフの怪我を治したのは⋯、ニコなんだ。ニコがアルフの肩に触ったら、怪我が治ったんだ。僕は隠れて見てただけ」
ああ、やはりあの時、医務室に残っていた香りはニコだったんだ。
俺は確信した。
ニコが俺の運命の番だと。
そう思った時、俺を地獄に突き落とすセリフを、リオが吐いた。
「アルフ、今頃気づいても、もう遅いよ。ずっとニコの好意に気づかないふりをしてたのは、アルフ自身でしょ?」
「どういう事だ?」
嫌な予感がして、酷い吐き気を覚えた。
「今頃もう、オルドー様がニコを番にしてるよ」
「⋯っ!」
俺は今になって、ようやく腑に落ちた。
何か違和感があった。高価な薬まで使って、リオが一人でこんな事を考える訳がない。何故もっと早く気づかなかったんだ。オルドー、あいつが裏で糸を引いていたんだ。
「くそっ!!」
俺は腕から血が滴り落ちるのも構わず、ニコの香りを探してひたすら走った。
俺の脳裏によぎったのは、オルドーに怯えて泣く、あの時のニコの姿だった。
164
あなたにおすすめの小説
大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った
こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。最後におじいさまの番外編を追加しました。
追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜
あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。
行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。
異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?
祝福を授かりましたが、まるで呪いです。
めっちゃ抹茶
BL
異世界に生まれ変わって出会った、一組の運命の番であるαとΩの話。
※ご都合主義があります
※オメガバースの知識がある人向け/作中で説明は一切ありません
※主人公が可哀想、ハッピーエンドではありません
主人公目線、あまり悲壮感はありませんがタグをご確認のうえ以上の事を念頭に、大丈夫な方のみお進み下さい。
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。
めちゅう
BL
末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。
お読みくださりありがとうございます。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
僕の策略は婚約者に通じるか
藍
BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。
フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン
※他サイト投稿済です
※攻視点があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる