気弱なΩと不機嫌なα~次期辺境伯は運命の番を認めたくない~

まんまる

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「ククッ、効いてきたか」
「はぁはぁ、オルドー様、僕に何を飲ませたのですか?」
「分からないか?発情促進剤だよ。その様子だと、もう私が欲しくてたまらないのだろう?」
「えっ⋯?う、そ⋯」

この国では、発情促進剤は子を成す事を願った夫婦(夫)のみが、使用する事を許されている薬だ。
それは犯罪に使われるのを防ぎ、Ωの人権を守るという意味合いもある。

「うっ⋯、何故、このような、事を、はぁはぁ」
「何故?はははは!話してやってもいいが、ニコ、その様子では、半分も話が入ってこないだろう?」

その様子って⋯。

僕は下を向いて、自分の体に目を遣った。
驚きすぎて、言葉を失った。

僕は自分でも気づかないうちに、上着を脱ぎ捨て、シャツのボタンを外しかけていた。

「いや⋯、いや⋯、いや⋯、いやああぁぁっ!」

「あははははは!大人しい顔して、ニコ、お前もただのΩだと言う事だ」

薬のせいだと頭では理解できても、こんなふうに本能を丸出しにした自分が気持ち悪くてたまらなかった。

心はアルフレッド様ただ一人しか求めていないのに、体が勝手に目の前のαを求めてしまう。
僕が慌てて上着を拾い上げると、オルドー様がニヤリと僕に笑いかけてきた。

「ニコ、どうして自分がこんな目に合っているのか、知りたいって顔だな」
「⋯⋯」
「ククッ、どうせ逃げられない。話してやろう。私はね、アルフレッドに絶望を味わわせてやりたいんだよ。ニコ、お前は私と結婚するはずだった。お前は見目だけは美しいから、連れて歩くにはちょうどいい。大人しいお前なら、私が愛人を何人作ろうとも、何も言わないだろう?だから、都合が良かったんだ。だが、アルフレッドから、私の計画を邪魔されそうになった。今までニコを無視していたのに、今頃になって好意をチラつかせるとは⋯。だからお前を私の番にして、アルフレッドに絶望のどん底を味わわせてやるのさ」

この人は、何を勝手な事を言っているんだろう。
僕は段々怒りが込み上げてきた。でも、そのお陰で、少し頭がすっきりしてきた。

「オルドー様は、アルフレッド様に何もかも敵わないから、逆恨みをしているだけです」
「ニコ!貴様、自分の立場が分かってるのか!」

オルドー様に怒鳴られ、本当は怖くて仕方なかった。でも、こんな卑怯な男の言いなりには絶対なりたくなかった。

何か方法はないかと思った時、ふっと、アルフレッド様のあの爽やかな香りを思い出した。
そして僕はある事に気づいた。

Ωの発情に当てられているにしては、オルドー様は随分と落ち着いている。オルドー様の香りも全然分からない。
そうか、オルドー様は僕のフェロモンが分からないんだ。
僕のフェロモンは、誰からも気づかれない程弱い。それは発情しても変わらなかったんだ。
両親や弟には心配されたけど、まさかこんな時にそれが役に立つなんて思ってもみなかった。

僕はわざと上着をゆっくり着て、震える指が分からないように必死に力を入れて、釦を止めた。

「オルドー様、残念ですが、薬の効果はもう切れたようです」
「何だと?」

オルドー様の地を這うような不機嫌な声に、一瞬ひるみそうになったけど、僕はオルドー様から目を逸らさなかった。

「ニコ、どうせ強がっているのだろう?」
「いいえ、オルドー様には僕の香りが分からないでしょう?それが証拠です」
「⋯っ!くそっ!あの薬屋、私にまがい物を掴ませやがって!」

オルドー様が、地団駄を踏んで悔しがっている。
僕は一刻も早く、この場から逃げ出したかった。

「では、オルドー様、失礼します」

どうにか冷静に言葉を絞り出して、オルドー様に背中を向けて、じっとりと汗で濡れている手で扉の取っ手を掴んだ瞬間、僕はオルドー様にシャツの襟を掴まれていた。

「さっきから随分汗をかいているようだな。やはり、薬が効いていないって言うのは嘘だろ?」
「いやっ!やめてっ!」
「クッ、クククッ、あははははは!」

オルドー様は高笑いをしながら、掴んだ襟をグッと引き下げた。


「ニコ、これでお前は私の番だ」

「いやあああぁぁぁぁ!!」


うなじに気持ちの悪い、生暖かな息がかかった。

絶望の沼に突き落とされ、苦しくて、僕の体中の細胞が悲鳴を上げた。

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