白と黒

上野蜜子

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第6章

宿泊と外出1

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…あれ?ここどこだ?

俺、白石さんの家に泊まったんじゃなかったっけ?

「…あ!白石さん!」

なぜか学ラン姿の白石さんを見付ける。この人、なんでこんな格好してるんだ?

俺の呼び声に気付くと、こちらを振り返りにこっとして敬礼をする。なぜ敬礼?

「黒原さん、そろそろ行ってきますね」

「あ、待ってください!あの、俺のこと…もう嫌いじゃないですか?」

何言ってんだ俺?

ああそうだ、この間俺の家で嫌いって言われたから。

ずっと気にしてたんだよ。白石さんに嫌われたって…

それを聞くと、白石さんは少し驚いたような顔をして

「どうして?大好きに決まってるじゃないですか。僕もう行かなきゃ。またね、黒原さん…」



「あ、アルマゲドンーーーー!!!」

がばっと意味の分からない言葉とともに起き上がったと同時に、締め付けるような痛みが頭全体を覆い、思わず唸り声が出た。

な、なんだ?白石さんは?学ランのコスプレしてた??なんで??アルマゲドンって何??

いや、また変な夢見た?もともと夢はよく見る方だけど、最近変な夢ばかりだな…

ていうかなんだ、頭が痛い…風邪か?頭痛すぎて気持ち悪い。ここはどこだ?白石さんの家か、そうだよ泊まったんだよ。それは夢じゃないはず。そんでこの頭の痛さは、昨日酒を飲みすぎたツケであって、風邪ではない。

だが、肝心の白石さんの姿がない。

こめかみを揉みながらサイドテーブルの方にのそのそと移動すると、充電器の刺さったスマホの横に昨晩と同じ新品のペットポトルと、鍵が…

鍵?俺の?いや違う、白石さんの?

あれ?まさか、今何時だ…

画面をタップすると大きく表示された「11:29」の数字…

……え?

じゅういち…は?え?もうすぐ…昼?何?え?

じゃあ白石さんはもうとっくに家出てて仕事してて…え?待って、俺…こんな時間まで寝てたってこと?だよな?

家主の白石さんと一緒に家を出ることはおろか、白石さんを送り出すこともなく?こんな時間まで?1人でダラダラと??寝てたってこと???

え、待てよ、しかも昨日出してくれてたお金も返してない。ちょっと待て、もしかしなくても俺すごいクズじゃない??

ズキズキと痛む頭を押さえながら、画面に数件表示されている通知を上からざっと確認する。

ニュースやアプリからの通知に混ざって、朝の8時頃に白石さんからのメッセージがあった。今から3時間半前ってこと?やばい、普通にやばい。完全にやらかしてる。そして頭痛がひどい。絶対に二日酔いだ。もう2度と酒は飲まない…絶対に飲まない。

とりあえずメッセージを読もう…

ーおはようございます。体調はいかがですか?声もかけずに出てしまってすみません。時間は気にせずゆっくり休んでくださいね。パンと卵、ヨーグルトならあるので、何かしら召し上がってから頭痛薬を飲んでください。テーブルに出してあります。家を出られる場合には施錠をお願いしたいのと、鍵を下のポストに入れて頂きたいと思いますが、僕は家に帰って黒原さんが居たら嬉しいです。v(^o^)v

ゔっっ!!

か、かわいい!!!

じゃないじゃない!!ときめいてる場合じゃないだろ!!

大急ぎで返信の文面を作る。

おはようございます、朝一緒に起きられなくて申し訳ございません、何から何までありがとうございます、鍵の件承知致しました、薬と朝食いただきます…昨晩はお手数おかけ致しました、ゆっくり寝られましたか、お仕事頑張ってください…

これを良い感じに組み立てて…違和感ないかな?頭痛のせいで、うまく頭が回らない。もう一度決意表明するけど、もう2度と酒は飲まない。

あ、あと吉川さんにもメッセージ送っとかないとだ。昨晩送り忘れて寝てしまったから……

…………告白のことには触れずに…当たり障りない感じで…謝罪と感謝のお気持ちを送っておこう。そうしよう。

酔ってた時の会話は仕事の領域に持ち込まないのが社会人のルールだ…と、俺は思う…

とりあえず用意してもらった水をありがたく頂こう…

と、蓋を開けペットボトルに口をつけると、

…ん?

何かほんのりミントっぽい風味がする…

開封した時にカチカチ音がしたから、確かに新品のはずなんだけど…たしかに鼻をすーっとした清涼感が抜けていった。なんだ?これ、普通の天然水だよな。何でだろう…もしかして昨晩の歯磨き粉、口の周りについてたとか?

そんなことより…とにかく頭が痛い。猛烈に痛い。

テーブルに薬出しといてくれてるって書いてあったな。本当にありがたい…俺の家だったら、まず薬探し漁るところから始めないといけなかっただろうから…迷惑しかかけてないけど、昨晩泊めてもらって正解だった。ありがとう白石さん。

寝室からキッチンへとふらふらと移動し、どでかい冷蔵庫を開けさせてもらう。

おお…ものすごく整頓されている…俺の家と大違いだ。

味違いで、同じメーカーのヨーグルトがいくつか綺麗に並んでいる。ヨーグルトって、これのことだよな?これしかないもんな。薬のためにもありがたく頂こう…

食器棚からスプーンを借りて、さっそく頂く。美味しい…が、今は味わってる暇も惜しい。早く薬飲まないと…頭が痛すぎて倒れてしまう…

ていうか、昨日あのあとびっくりするぐらい何もなかったな…

歯磨いて戻ったらスープカップは片付けられてて、白石さんに白湯飲まされて、

寝ましょ~ってナチュラルにベッドに誘われて、

今までの経験から、ちょっと期待…?いや期待はおかしいな、ちょっと覚悟してベッドに向かったら、

『念の為横向いて寝てくださいね、壁側でも良いですし僕を見ながら寝るでもいいですよ。でも右側を下にして寝た方が消化には良いので、残念ですね。僕を見ながら寝られなくて』

なんて冗談ぽく言われ、

特に触れられることもなく壁向いて横になって気付いたら俺も寝てた…

んだよなぁ…

ほっとしたような、残念なような。

いや残念とかそんなこと考えてる場合じゃない。早く薬飲もう薬!!

効いてくるまで、もう少し休ませてもらおう…とてもじゃないが、この頭の痛さでは駅までですら歩ける気がしない…

うう…頭が痛い…酒なんて嫌いだ…2度と飲まない2度と…って、二日酔いになるたびに毎回思っているはずなのに…そんなことなんてすっかり忘れて、懲りずにまた飲んじゃうんだよなぁ…愚かだ…
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