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第8章
吐露と懇意 7
しおりを挟む「ふふふ…美味しかった!一緒にお夕飯を食べられて、すごく幸せです僕…すごくすごく幸せです」
白石さんの仕事終わりに合わせて準備をして、以前2人で行った近所のイタリアンで食事。
少しだけワインを嗜んで、2人で白石さんの家に戻って来た。
なんかこれ…一緒に暮らしてるみたいだな。なんてぼんやり幸せに浸っていた。
白石さんも嬉しそうに上着をハンガーにかけている。
「白石さんは…どうして可愛いことを躊躇いもなく言えるんですか?」
「ええ?ただ思ったことを口に出してるだけですよ」
そのただ思ったことを口に出すのが、世間では照れ臭くて難しいことなんですよ…
白石さんは本当にストレートだ。大袈裟に言ったり社交辞令で言っているわけじゃないと最近やっと分かってきた。
以前は仮面を被ったような印象があったから…心の距離がだいぶ縮まってきてるということか。けどこれ以上縮まったらどうなってしまうんだ…心臓いくつあっても保たないぞ…
「俺も…幸せですよ。一緒に来られてよかったです」
やっぱり食事は一人より二人でした方が美味しく感じる。
同じテーブルで料理を囲むささやかな幸福、食事を取りながらでないと普段からは出てこない会話…
好きな人と美味しいものを食べるのが何よりも幸せだと以前白石さんが言っていたことが、最近本当によく分かる。
それだけで何よりのご馳走だ。
「お酒飲んじゃったから、湯船は明日入りましょうね。最近黒原さんうちで湯船入れてないですもんね、本当はあったまった方がよく寝れるんですよ」
「え、明日って…なんかナチュラルに明日も泊まるみたいな流れですけど」
「え?明日予定何かありましたか?」
白石さんが純粋な疑問の目線を送ってくる。
またこの流れ!!
「いや、ないですけど!だってそしたら俺3泊ですよ。先月も2泊させてもらってるし、さすがに泊まりすぎでしょ!」
「そうですか?昨日うちきたのは夜からだし、今日も僕仕事だったから夜しか一緒にいられないし…それにひとつき30日のうちのたったの2,3日ですよ?」
「た、確かにそうなんですけど…」
「スーツは昨日着てたのがあるし…お荷物もあるでしょ?他に月曜日に必要になるものって何かありますか?」
「え、えーー…ないと思いますけど…」
「不安なら明日一度黒原さんのお家に寄っても良いかもしれないですね。不在の間気になることもあるでしょうし。ね、そうしましょ!」
流れるように3日間の滞在が決まろうとしている。
そりゃ2人で過ごせるのは嬉しいけど…嬉しいけどさ…
「…白石さんは…家に俺がいて普段と勝手が変わるでしょうし、疲れたりしないですか」
「どうして?大好きな黒原さんが一緒に居てくれるのに…これほど疲れが取れることって他にないですよ。もちろん普段とは違いますけど、きっとそのうちこの状態が普段になっていくんでしょうし」
「ウッ」
心臓鷲掴みにするようなことをさらっと言ってくるんだから…!
「でも黒原さんは僕の家だと落ち着かない…ですよね、きっと」
「え、いや…そんなことないですよ!一緒にいられて嬉しいし、むしろ俺の家より落ち着きます、これは本当に…」
「そうですか?慣れなくて疲れてしまうようなことがあったらいつでも言ってくださいね。シャワーよかったらお先にどうぞ」
「あ…じゃあお先にいただきます…」
シャワーを浴びて寝る時間が近づいてくると思うと、どうしてもドギマギしてしまう。
恋愛はブランクが長く耐性がなさすぎて、何がどのタイミングで起きるのが普通なのか全く分からない。
昨日は全く何も起きずに気絶に近い形で寝てしまっていたわけだけど、
今日はどうなの…?今日も寝落ちで終了っていうのはさすがに無いのでは…?
なんか常にあま~い雰囲気が漂ってるのに、朝まで何事もないなんてこと本当にある?
白石さんはいつもと変わらない様子なのに、俺だけがドギマギしている気がする。白石さんは何も考えていないのか、それとも余裕なだけなのか…
日中、色々検索して色々なページを見てみたわけだけど、あまりにも未知の世界すぎて頭に情報が全然入ってこなかった。
とりあえず念入りに体を洗ってみる。正解が分からない…分からないけど、とりあえず装着するものは日中にコンビニで買って来てしまった…。
いや使うとか使わないとか関係なしに、あって損するものではないし恋人がいるのに全く持ってないですっていうよりはマナーとして?マナーとして正解じゃないですか…!?
なんか、めちゃくちゃ期待してる男みたいでダサいけど…別に白石さんに見せないようにすれば良いだけだし。今後ね、今後そういう雰囲気になったのにありませーんっていうより全然良いですもんね。
挙動不審にならないように風呂場を後にして、白石さんに声を掛ける。
交代で風呂場に移動する白石さんの背中を見送って、何度も同じ検索をして何度も開いたであろう見覚えのあるサイトにいくつか目を通す…
が、ダメだぁ…全然パッとしない…!
想像すらつかない。何をどうやって?どんな雰囲気になって?スタートは一体何!?突然体さわるの!?無理でしょ無理!!
前回うっかり脇腹なんて触ってしまったけど、どう考えてもセクハラだろ!!過去の俺ほんと何してんだよ!!しかもあの時付き合ってるわけでもないしなんなら直後に振られてるからね!?
うぐぐぐ…と唸りながら検索しては脳内シミュレーションをするが、全くどうにもならない。
やばい、どうしよう。シャワーだから白石さんもすぐ出て来てしまうというのに…!
落ち着け黒原三芳、そもそも今日何かが起こるなんて誰も言ってないし。そんな決まりはないし。
付き合ったからってすぐそういう感じになるわけじゃないし。付き合ってからも色んなステップを踏んで自然とそういう雰囲気になるのであって、何かが劇的に変わるわけじゃないし…!
落ち着け…!いつも通りに…平常心平常心…!
「あれ、黒原さん、もう寝るんですか?眠たくなっちゃいました?」
「ほあ!!!!!」
ベッドに腰掛ける俺に普通にリビングから顔を覗かせて声を掛けてくる白石さん。
「え、どうされました?驚かせちゃいました?」
「え!いや全然…すみませんスマホを充電させてもらおうと思ってただけです…」
「そうですか?眠たくなければ、何か映画みましょう映画!気になるものとかないですか!?」
「あ、あー…そういえば観たいのあったような…白石さんは何かあります?」
「僕観たいのたくさんあるんですよね。いいの探してみましょ黒原さん!」
ウキウキでリモコンを操作する白石さん。
「あ、あの…実は今日ちょっと日中に軽食を作ってみたんですよ…小腹すいたタイミングでお夜食にどうかなと思って」
「え!食べる!食べます!もうすいてます!」
「え!ほんとに!?もう食べれます?」
白石さんが食い気味に身を乗り出してくる。
おやつに飛びつく小学生みたい…なんか今日雰囲気が幼い気がする。ニコニコしていてとても嬉しそうだ。
「食べられますよ、僕の胃袋はすぐに空っぽになっちゃうんです…ありがとう黒原さん」
冷蔵庫から日中落ち着かなくて作っておいた夜食を取り出し、2人で良さそうなタイトルを選び健全に映画鑑賞を始める。
「ふふ、黒原さんはこういうのも作れちゃうんですね…美味しいです」
「簡単なものしか作れないですけど…何かできることはないかなと思って…」
掃除をしようとも思ったが白石さんの家は当たり前のようにロボット掃除機が徘徊するので、さっと棚の上を払ったり拭いたりしかすることがなかったし、そもそもどこも汚れてないし…まだ入ったことのない部屋は開けにくいし…
ダラダラサブスクでアニメ観るのも落ち着かないし、俺にできることと言ったら簡単な料理をするぐらいしか残されていなかった…というわけだ。
「えー、リラックスしてくれてて良かったのに。僕の家では気を遣わないでくださいね」
「ありがとうございます、これからどんどんだらけ始めると思います…」
俺が作った夜食を二人で食べて、くすくすと映画を観て笑う白石さんを観賞する夜…
なんだこれ…幸せすぎない…?
前も映画一緒に観たことはあったけど、恋人同士になってからは初の映画鑑賞だし…
告白したのを後悔したりもしたが、やっぱり勇気出して良かった。白石さんも、ちゃんと向き合ってくれて良かった…
応援ありがとうございます!
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