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第七章 地獄の主
第50話 片道切符
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「……クソッ!」
「『圧縮身体強化』!」
「グギャウ!」
おれは意を決して『圧縮身体強化』を発動し、氷を砕いて脱出した。そしてケルベロスの後ろに回し、デュールの方へ蹴り飛ばした。
「痛ッ……! ぐぁアアアア!」
「圧縮身体強化《それ》は身体を痛める技じゃないのか? そんなことをしたら炎の火力が上がっちまうぞ?」
「ハァ……ハァ……ぐッ……! ハァ……もう……この程度は……関係ないだろ……! さっさと決着つけてやる……!」
「ふッ! だがその痛みではまともに戦えないだろ!」
「行け! ケルベロス!」
「心が死ななければいくらでも戦えるさ!」
「『天爆』!」
おれに向かってくるケルベロスを殴り飛ばした。身体中が痛むものの、倒れなければ戦える。だが、あの犬は以上なほど硬く、戦闘不能に持ち込むには少し手間取りそうだ。
デュールを直接叩くとしても簡単にはいかない。それなら……。
「誘導弾でも……撃ち込んでやろうか……」
「……?」
おれは圧縮した魔素を精霊の力で空中で操作した。そして一つ一つの塊を大きく、濃くしていく……。
「何かしているぞ! さっさと攻撃しろ! ケルベロスよ!!」
「グガゥァアアアア!!!」
「もっと……頭ァ使いやがれ……!」
「グヮ!?」
突進してくるケルベロスの真ん中の頭を左手で止めた。『圧縮身体強化』を発動していれば力負けすることはない。おれは痛みを忘れて魔素の操作にのみ集中した。
「喰らいやがれ……! クソ犬がァ!!」
「『万華穿衝』!」
「グキャウ!!」
「な……! うわッ!?」
おれの背後から数十にも上る拳大の“白天”を繰り出した。一つ一つが大地を抉るエネルギーを持っている。
ケルベロスはなす術なく消滅した。後ろにいたデュールにも掠ったが、そちらはダメージになるほどではなかった。
だがそんなことは関係ない。今ヤツは最大の武器を失ったのだ。再召喚させぬよう、おれはデュールに接近し追い討ちをかけた。
「『業天爆』!」
「ぐはッ……! ま……待て……!」
「待たねぇよ……!」
「『散桜』!」
「……!!」
おれはデュールの腹部に左手を当て、圧縮した魔素を流し込んだ。魔素は魔力を掻き乱し、強化魔法で防ぐこともできない。おれはそのまま魔素を爆発させた。
身体の内側から全身が破壊されたのだ。かろうじて原形は留めていたが、ヤツの召喚した炎は消え、決着がついた。おれも酷い傷を負ったが、死ぬほどではない。これを吉とするか凶とするか。
そんなことを考えていると後ろから竜が人を乗せて飛んできた。グラとセリアだ。
「エストー!! ……!? エ、エスト……? その腕は……?」
「ハァ……これか……? ……犬っころの餌になっちまったよ」
「……ッ! ……うそ……」
「悪ぃけど……止血してくれねぇか……? 炎でジュッと……」
「……!? ……」
セリアは動揺していた。まぁ無理もないか。ついさっきまで戦闘中なだけあっておれは変に落ち着いているだけで、重症も重症だ。この腕はもう治らない。
セリアは泣きそうになりながらも腕の傷口を焼いてくれた。痛いし熱いが、このままでは血を失って死にかねない。しかも処置せずに暴れたせいですでにだいぶ血を失くしていた。
そして服を破いてその布で腕を縛ろうとしたときだった。デュールがかすかに動き、おれの足元に異質な魔法陣が出現した。そしてその魔法陣が赤黒い沼へと変化し、そこから現れた無数の骨の腕がおれの足を掴んだ。
「お……お前……! まだ生きてたのか……!?」
「ハァ……ハァ……俺は魔神様の子だぞ……! そう簡単に死ぬわけがないだろう……!」
「くッ……!」
だがアイツは虫の息だ。トドメを指すことは出来る。だが今、おれは足を掴まれている。もの凄い力だ。何かが起こっている。
「……フハハッ……! 自慢の力が通用しないか……!? 条約さ……。俺が死ぬ代わりに……ネフィル=エスト……貴様を地獄に引き摺り込む……! 貴様だけは危険な存在だ!!」
「!?」
そう言われ、おれの身体が沼へ沈んでいった。少しずつ、骨の腕に引き摺り込まれていく。
死にかけのヤツでも自死の条約でこれだけの力を出せるのか……? いや、恐らくおれも死にかけだからだ。だからこんなにもぶっ飛んだことが出来る。
「エスト……!! 今助け……!?」
「離れろ!!」
おれは、おれの手を掴もうとしたセリアを突き放した。おれに触れていてはセリアも巻き込まれるかもしれない。
それだけはダメだ。念の為、おれとセリアとの間に魔素の壁を作り出し、こちらに来れないようにした。
「クソッ!」
「『白天』!」
「フフッ……俺はもう死ぬんだ。条約に守られ……外的要因で死ぬことはない……!」
ダメだ……! 体がどんどん沈んでいく……。逆らうことができない……。
「エスト! エスト!」
セリアがおれに向けて叫んでいる。おれは死ぬのか……? だとしたら……おれが今するべきことは……。
「セリア! グラ!」
「!!?」
飛びそうな意識を繋ぎ止め、なんとか声を発した。本当はフリナにも伝えたい……だが、今いないなら2人に伝えるしかない。
「後は頼んだ……!」
おれはどんな顔をしていただろうか。悔しい顔だったろうか、それとも笑顔だったろうか。こんなところで死にたくはなかったが、おれが死んだとしても2人には戦いをやめないで欲しい。とにかく手短に一言だけ伝え、おれは沼に溺れた。
「……エスト……? ……エスト!!」
デュールの生命活動は完全に停止し、沼も消滅した。
***
その日、世界中を渡った知らせは大きく分けて3つであった。
1つは、ルドンに邪教の拠点のうちの1つが発見されたことだ。しかし、それを発見した冒険者パーティ“豪炎”によって壊滅させられたこと。
そして1つは、そこの魔王と相打ちになり、Sランクのネフィル=エストが戦死したこと。
最後の1つ、最も大きく知らされたものは、“新たなる法帝の誕生も近い”ということである。
「『圧縮身体強化』!」
「グギャウ!」
おれは意を決して『圧縮身体強化』を発動し、氷を砕いて脱出した。そしてケルベロスの後ろに回し、デュールの方へ蹴り飛ばした。
「痛ッ……! ぐぁアアアア!」
「圧縮身体強化《それ》は身体を痛める技じゃないのか? そんなことをしたら炎の火力が上がっちまうぞ?」
「ハァ……ハァ……ぐッ……! ハァ……もう……この程度は……関係ないだろ……! さっさと決着つけてやる……!」
「ふッ! だがその痛みではまともに戦えないだろ!」
「行け! ケルベロス!」
「心が死ななければいくらでも戦えるさ!」
「『天爆』!」
おれに向かってくるケルベロスを殴り飛ばした。身体中が痛むものの、倒れなければ戦える。だが、あの犬は以上なほど硬く、戦闘不能に持ち込むには少し手間取りそうだ。
デュールを直接叩くとしても簡単にはいかない。それなら……。
「誘導弾でも……撃ち込んでやろうか……」
「……?」
おれは圧縮した魔素を精霊の力で空中で操作した。そして一つ一つの塊を大きく、濃くしていく……。
「何かしているぞ! さっさと攻撃しろ! ケルベロスよ!!」
「グガゥァアアアア!!!」
「もっと……頭ァ使いやがれ……!」
「グヮ!?」
突進してくるケルベロスの真ん中の頭を左手で止めた。『圧縮身体強化』を発動していれば力負けすることはない。おれは痛みを忘れて魔素の操作にのみ集中した。
「喰らいやがれ……! クソ犬がァ!!」
「『万華穿衝』!」
「グキャウ!!」
「な……! うわッ!?」
おれの背後から数十にも上る拳大の“白天”を繰り出した。一つ一つが大地を抉るエネルギーを持っている。
ケルベロスはなす術なく消滅した。後ろにいたデュールにも掠ったが、そちらはダメージになるほどではなかった。
だがそんなことは関係ない。今ヤツは最大の武器を失ったのだ。再召喚させぬよう、おれはデュールに接近し追い討ちをかけた。
「『業天爆』!」
「ぐはッ……! ま……待て……!」
「待たねぇよ……!」
「『散桜』!」
「……!!」
おれはデュールの腹部に左手を当て、圧縮した魔素を流し込んだ。魔素は魔力を掻き乱し、強化魔法で防ぐこともできない。おれはそのまま魔素を爆発させた。
身体の内側から全身が破壊されたのだ。かろうじて原形は留めていたが、ヤツの召喚した炎は消え、決着がついた。おれも酷い傷を負ったが、死ぬほどではない。これを吉とするか凶とするか。
そんなことを考えていると後ろから竜が人を乗せて飛んできた。グラとセリアだ。
「エストー!! ……!? エ、エスト……? その腕は……?」
「ハァ……これか……? ……犬っころの餌になっちまったよ」
「……ッ! ……うそ……」
「悪ぃけど……止血してくれねぇか……? 炎でジュッと……」
「……!? ……」
セリアは動揺していた。まぁ無理もないか。ついさっきまで戦闘中なだけあっておれは変に落ち着いているだけで、重症も重症だ。この腕はもう治らない。
セリアは泣きそうになりながらも腕の傷口を焼いてくれた。痛いし熱いが、このままでは血を失って死にかねない。しかも処置せずに暴れたせいですでにだいぶ血を失くしていた。
そして服を破いてその布で腕を縛ろうとしたときだった。デュールがかすかに動き、おれの足元に異質な魔法陣が出現した。そしてその魔法陣が赤黒い沼へと変化し、そこから現れた無数の骨の腕がおれの足を掴んだ。
「お……お前……! まだ生きてたのか……!?」
「ハァ……ハァ……俺は魔神様の子だぞ……! そう簡単に死ぬわけがないだろう……!」
「くッ……!」
だがアイツは虫の息だ。トドメを指すことは出来る。だが今、おれは足を掴まれている。もの凄い力だ。何かが起こっている。
「……フハハッ……! 自慢の力が通用しないか……!? 条約さ……。俺が死ぬ代わりに……ネフィル=エスト……貴様を地獄に引き摺り込む……! 貴様だけは危険な存在だ!!」
「!?」
そう言われ、おれの身体が沼へ沈んでいった。少しずつ、骨の腕に引き摺り込まれていく。
死にかけのヤツでも自死の条約でこれだけの力を出せるのか……? いや、恐らくおれも死にかけだからだ。だからこんなにもぶっ飛んだことが出来る。
「エスト……!! 今助け……!?」
「離れろ!!」
おれは、おれの手を掴もうとしたセリアを突き放した。おれに触れていてはセリアも巻き込まれるかもしれない。
それだけはダメだ。念の為、おれとセリアとの間に魔素の壁を作り出し、こちらに来れないようにした。
「クソッ!」
「『白天』!」
「フフッ……俺はもう死ぬんだ。条約に守られ……外的要因で死ぬことはない……!」
ダメだ……! 体がどんどん沈んでいく……。逆らうことができない……。
「エスト! エスト!」
セリアがおれに向けて叫んでいる。おれは死ぬのか……? だとしたら……おれが今するべきことは……。
「セリア! グラ!」
「!!?」
飛びそうな意識を繋ぎ止め、なんとか声を発した。本当はフリナにも伝えたい……だが、今いないなら2人に伝えるしかない。
「後は頼んだ……!」
おれはどんな顔をしていただろうか。悔しい顔だったろうか、それとも笑顔だったろうか。こんなところで死にたくはなかったが、おれが死んだとしても2人には戦いをやめないで欲しい。とにかく手短に一言だけ伝え、おれは沼に溺れた。
「……エスト……? ……エスト!!」
デュールの生命活動は完全に停止し、沼も消滅した。
***
その日、世界中を渡った知らせは大きく分けて3つであった。
1つは、ルドンに邪教の拠点のうちの1つが発見されたことだ。しかし、それを発見した冒険者パーティ“豪炎”によって壊滅させられたこと。
そして1つは、そこの魔王と相打ちになり、Sランクのネフィル=エストが戦死したこと。
最後の1つ、最も大きく知らされたものは、“新たなる法帝の誕生も近い”ということである。
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