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第十三章 生残競争
第93話 起死回生
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「ッ!?」
エストの心臓は鼓動を再開した。初めはまるで小動物のように弱く、しかし次第に明らかな存在感を示すように大きくなっていく。
ドクン……ドクン……
傷口は塞がり、血液も流れ始めた。潰れていたはずの右目もいつの間にか治っていた。
隣にいたイリアはこの不思議な現象に何も出来ずにいた。そしてこの異様な気配を感じ取ったのはイリアだけではない。この場の全員が肌で感じ取っていた。
依然魔力は持っていない。だが何かが変わっていた。
「!? 何か嫌な予感がするな。君の相手はもう終わりだ」
「ぐふッ……!」
離れたところで戦わされていたデスバルトはバンリューを蹴り飛ばしてエストの方へと向かった。
だがそのときには既にエストの身体は“完成”していた。
髪は白く、瞳は赤く変化した。失ったはずの右腕も新たに作られていた。これまでの異質な黒い腕ではない。確かに肉のついた腕だった。
エストは起き上がり、腰を抜かしているイリアの頭をポンポンと叩いて言った。
「久しぶりだな、イリア。心配かけたか?」
「……? 久しぶり……?」
不思議な言葉に困惑しているイリアを見て、エストは静かに微笑んだ。久しぶり、彼にとっては本当に久しぶりだったのだ。
そして大地に手を置いてセリア達、全員に魔素を届かせた。そして全員の傷を回復させた。魔素をそのまま血肉に変換させたのだ。
圧倒的に精度の上がった魔素の操作力によってこんなことも可能になっていた。
「みんな、どこか遠くに行っててくれ。巻き込むかもしれないから」
「エスト……その姿って……」
セリアも回復したようだ。そしてエストの姿を見て察したらしい。
「…………向こうにバンリューがいるから拾ってやってくれ」
「分かった。……エスト! カッコいいわよ」
セリアはそう言って走り出した。その様子を見たデスバルトがセリアに手を向けて世界を歪めようとした。それに合わせるようにエストも手を向ける。
「……ッ!? 今のは……!?」
「案外単純な能力なんだな。……アンタは俺に会いに来たんだろ? 兄さん。他の人に構うなんて嫉妬しちゃうじゃないか」
エストは世界を歪める力を、同じ力で相殺したのだ。能力の魔力回路を完全に再現すれば同じ力を生み出せる。
当然、常人には決して出来ないものの、エストは簡単にそれを再現していた。複雑な能力でない限りは再現できるらしい。だがそれ以上に、エストは不思議な雰囲気を纏っていた。
「君……何者だ? さっきのエスト君とはまるで違う……」
「昇華しただけだよ。よし、始め……!」
「ッ!?」
エストが言い終わる直前に、デスバルトは世界をずらしてエストを切断しようとした。だがそうはならなかった。今度は防がれた訳でもなかった。確実に当たってはいたのに、効かなかったのだ。
「行儀の悪いヤツだ。俺はな、あらゆる制限から解放されてるんだ。何にも制限されちゃいない。それこそ世界そのものにもな」
「…………なるほど……ッ!」
「俺達も少し離れようか」
そう言ってデスバルトの顔を掴み、そのまま飛んでいった。デスバルトはその手を振り払おうとしたが、あまりの力であったために、そのまま放り投げられた。
反撃するように殴りかかったものの、その拳を掴み、エストは逆に腹を殴って飛ばした。デスバルトは息を切らしながらも再び構えて白天を撃つ。
その白天を、より大きく強力な白天で粉砕した。そして相手に接近し、首に蹴りを入れて吹き飛ばす。
吹き飛ばされつつもデスバルトはすぐさま体勢を立て直し、エストに殴りかかる。しかし、エストはそれを全て捌きながら一発二発と攻撃をした。
より強力になった念力で動きを制限し、エストは両手を合わせてその腕をデスバルトに向かって思いっ切り振り下ろす。デスバルトは大地を割って地下深くまで落下していった。
「くッ……! はぁ……はぁ……」
「おッ! そろそろ出てくるな!」
「……?」
エストは大地を破壊しながら上がってきたデスバルトを尻目に、立ったまま下を向いた。
そしてビクッと身体を震わせたと思うと、再び正面を向いた。今度のエストは、見慣れた雰囲気であった。
「テメェは……おれが殺すからな……!」
「……どういう情緒してんだよ。お前は」
おれは白い世界から現世に戻ってきた。どうやらアイツが出てデスバルトの相手をしていたようだ。
それにデスバルトがそれなりに負傷しているところを見るに、アイツはちゃんと戦っていてくれたらしい。今度会ったら感謝でも伝えておこうかな。
それにしたって昇華した……か。確かに力が溢れてくる。魔素の操作もこれまで以上に出来そうだ。そして何より……細胞一つ一つが魔素によって強化されている……いや、魔素と融合しているようだった。魔素が細胞に、細胞が魔素になっていて、もはやおれの肉体は実体をなくしている。
魔力を纏った攻撃でもなければおれに傷を負わせることは出来ないだろう。
「“割れろ”!」
「わッ!」
「“戻れ”ッ!」
デスバルトは世界ごと大陸を割り、おれは重力に足を掴まれてその穴に落ちていった。そしてすぐさま世界を元に戻しておれを押し潰そうとした。
「危ねぇな! 『天爆』!」
「なッ……!?」
「うおッ!」
おれは一瞬のうちにデスバルトの前へ行って爆発する拳で殴った。思った以上の火力であった。
それに一瞬というか……一瞬ですらなかった。止まった世界に移動することができたのだ。デモンゲートの能力を真似できた。
それに今、穴に落ちていったものの本来なら落ちる必要もなかったな。今のおれはあらゆる制限を無視できている。重力にすら縛られてはいない。
おれが掌を見ながらそう考えていると、天爆の衝撃によって割れた大地からデスバルトが上がってきた。
「今度のお前は……エストだよな?」
「そうだ。『純粋なる解放者』のネフィル=エスト。覚えとけ」
「…………『純粋なる解放者』か……。やはり危険だ。お前のことは本気で殺すとしよう」
「へッ! やってみろ、クソ野郎」
エストの心臓は鼓動を再開した。初めはまるで小動物のように弱く、しかし次第に明らかな存在感を示すように大きくなっていく。
ドクン……ドクン……
傷口は塞がり、血液も流れ始めた。潰れていたはずの右目もいつの間にか治っていた。
隣にいたイリアはこの不思議な現象に何も出来ずにいた。そしてこの異様な気配を感じ取ったのはイリアだけではない。この場の全員が肌で感じ取っていた。
依然魔力は持っていない。だが何かが変わっていた。
「!? 何か嫌な予感がするな。君の相手はもう終わりだ」
「ぐふッ……!」
離れたところで戦わされていたデスバルトはバンリューを蹴り飛ばしてエストの方へと向かった。
だがそのときには既にエストの身体は“完成”していた。
髪は白く、瞳は赤く変化した。失ったはずの右腕も新たに作られていた。これまでの異質な黒い腕ではない。確かに肉のついた腕だった。
エストは起き上がり、腰を抜かしているイリアの頭をポンポンと叩いて言った。
「久しぶりだな、イリア。心配かけたか?」
「……? 久しぶり……?」
不思議な言葉に困惑しているイリアを見て、エストは静かに微笑んだ。久しぶり、彼にとっては本当に久しぶりだったのだ。
そして大地に手を置いてセリア達、全員に魔素を届かせた。そして全員の傷を回復させた。魔素をそのまま血肉に変換させたのだ。
圧倒的に精度の上がった魔素の操作力によってこんなことも可能になっていた。
「みんな、どこか遠くに行っててくれ。巻き込むかもしれないから」
「エスト……その姿って……」
セリアも回復したようだ。そしてエストの姿を見て察したらしい。
「…………向こうにバンリューがいるから拾ってやってくれ」
「分かった。……エスト! カッコいいわよ」
セリアはそう言って走り出した。その様子を見たデスバルトがセリアに手を向けて世界を歪めようとした。それに合わせるようにエストも手を向ける。
「……ッ!? 今のは……!?」
「案外単純な能力なんだな。……アンタは俺に会いに来たんだろ? 兄さん。他の人に構うなんて嫉妬しちゃうじゃないか」
エストは世界を歪める力を、同じ力で相殺したのだ。能力の魔力回路を完全に再現すれば同じ力を生み出せる。
当然、常人には決して出来ないものの、エストは簡単にそれを再現していた。複雑な能力でない限りは再現できるらしい。だがそれ以上に、エストは不思議な雰囲気を纏っていた。
「君……何者だ? さっきのエスト君とはまるで違う……」
「昇華しただけだよ。よし、始め……!」
「ッ!?」
エストが言い終わる直前に、デスバルトは世界をずらしてエストを切断しようとした。だがそうはならなかった。今度は防がれた訳でもなかった。確実に当たってはいたのに、効かなかったのだ。
「行儀の悪いヤツだ。俺はな、あらゆる制限から解放されてるんだ。何にも制限されちゃいない。それこそ世界そのものにもな」
「…………なるほど……ッ!」
「俺達も少し離れようか」
そう言ってデスバルトの顔を掴み、そのまま飛んでいった。デスバルトはその手を振り払おうとしたが、あまりの力であったために、そのまま放り投げられた。
反撃するように殴りかかったものの、その拳を掴み、エストは逆に腹を殴って飛ばした。デスバルトは息を切らしながらも再び構えて白天を撃つ。
その白天を、より大きく強力な白天で粉砕した。そして相手に接近し、首に蹴りを入れて吹き飛ばす。
吹き飛ばされつつもデスバルトはすぐさま体勢を立て直し、エストに殴りかかる。しかし、エストはそれを全て捌きながら一発二発と攻撃をした。
より強力になった念力で動きを制限し、エストは両手を合わせてその腕をデスバルトに向かって思いっ切り振り下ろす。デスバルトは大地を割って地下深くまで落下していった。
「くッ……! はぁ……はぁ……」
「おッ! そろそろ出てくるな!」
「……?」
エストは大地を破壊しながら上がってきたデスバルトを尻目に、立ったまま下を向いた。
そしてビクッと身体を震わせたと思うと、再び正面を向いた。今度のエストは、見慣れた雰囲気であった。
「テメェは……おれが殺すからな……!」
「……どういう情緒してんだよ。お前は」
おれは白い世界から現世に戻ってきた。どうやらアイツが出てデスバルトの相手をしていたようだ。
それにデスバルトがそれなりに負傷しているところを見るに、アイツはちゃんと戦っていてくれたらしい。今度会ったら感謝でも伝えておこうかな。
それにしたって昇華した……か。確かに力が溢れてくる。魔素の操作もこれまで以上に出来そうだ。そして何より……細胞一つ一つが魔素によって強化されている……いや、魔素と融合しているようだった。魔素が細胞に、細胞が魔素になっていて、もはやおれの肉体は実体をなくしている。
魔力を纏った攻撃でもなければおれに傷を負わせることは出来ないだろう。
「“割れろ”!」
「わッ!」
「“戻れ”ッ!」
デスバルトは世界ごと大陸を割り、おれは重力に足を掴まれてその穴に落ちていった。そしてすぐさま世界を元に戻しておれを押し潰そうとした。
「危ねぇな! 『天爆』!」
「なッ……!?」
「うおッ!」
おれは一瞬のうちにデスバルトの前へ行って爆発する拳で殴った。思った以上の火力であった。
それに一瞬というか……一瞬ですらなかった。止まった世界に移動することができたのだ。デモンゲートの能力を真似できた。
それに今、穴に落ちていったものの本来なら落ちる必要もなかったな。今のおれはあらゆる制限を無視できている。重力にすら縛られてはいない。
おれが掌を見ながらそう考えていると、天爆の衝撃によって割れた大地からデスバルトが上がってきた。
「今度のお前は……エストだよな?」
「そうだ。『純粋なる解放者』のネフィル=エスト。覚えとけ」
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