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第十三章 生残競争
第92話 死んでるから
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「ッ…………はぁ……はぁ……」
「ふははッ……! もっと頑張ってくれよ」
変身したデスバルトに対し、セリア達はほぼ一瞬で殲滅させられた。全快のデスバルトと限界の近いセリア達、当然と言えば当然の結果であった。
「おい! エスト! いい加減治れよ……! みんな……みんなやられちまうじゃねーかよ……!」
セリア達が戦っている間、イリアは後方でエストの怪我を治そうとしていた。だがいくら魔力を流しても一向に治る気配がなかった。
それどころかどんどん血が流れ出てくる。イリアは願うようにエストに声をかけ続けた。だが勿論、返事はない。
止まった心臓からは、血も次第に流れなくなっていった。
「君、どいてくれる?」
「ゔッ……!」
イリアの方に迫ったデスバルトが、そう声を掛けながらイリアを蹴り飛ばした。
既に魔力をほとんど使い切っていたイリアは抵抗もできなかった。そしてデスバルトはエストに手を向け、魔力を溜めた。
「ッ……また君は……!!」
「……彼は……まだ……死んじゃいない……。それなら彼が起きるまで……この俺がお前の相手をしてやる……!」
エストに向けて立っていたデスバルトを、起き上がったバンリューが殴り飛ばした。
傷は回復していない。体力が戻った訳でもない。それでも意地で彼は立っており、根性だけで能力を発動していた。
「これ以上動くと本当に死ぬだろ? 君」
「死ぬのを恐れて……冒険者なんかになれる訳がないだろ……。それに死んだとて……無意味な死には……ならない……!」
「まッ……たくさぁ……! 君は僕が呼んだ魔族もほとんど全員殺しちゃうし……僕の邪魔ばっかだな! エスト君が本当に生きてるとでも思ってるの!?」
「お前も……そう思っているから……トドメを刺したいのだろう……? 彼の危険性を……感じているから……」
頭を抱えながら話すデスバルトに、バンリューは力強くそう言った。それから2人はぶつかった。
イリアはエストを抱えて離れたところに行った。そこで再び魔力を注ぐが、依然反応はない。いよいよイリアの魔力は底をつき、成す術はなくなった。
イリアは普段の強気な態度を崩し、静かに涙を流すしかなかった。
***
「…………死んだと思ったんだが……またここか」
意識を失ったと思ったら、おれは真っ白な世界に立っていた。おれがこの世界に来るのは初めてではない。
3度目だ。既に2回、おれはここに来たことがある。だがこれまでと違い、今回は随分とはっきりしている。
これまでの曖昧な世界ではなく、広さも匂いも上下も、この世界の全てがはっきりと定義されているようだった。
……いや、正しく言えば全てがおれの認識によって定義された。今だから分かる。ここはおれの世界だ。おれの能力の世界だ。そして、相変わらず一つの黒い影がおれを待っている。
「や! 久しぶりだね。この前会ったのは3年前だろ? ……君からしたら何十年も前か。そのときもデスバルトにボコボコにされてたよね」
影はケラケラと笑いながらそう言った。ムカつくがこいつは敵じゃない。この世界にいるってことはおれ自身なんだろう。おれの能力そのものなのだろう。……。
「笑い事じゃねぇよ。おれはまだ死んでねぇのか? もうすぐ死ぬのか?」
「ははッ! どうだと思う? ま、俺が生きてるってことは君も死なないだろうね」
なんでも知っているかのような口ぶりだ。でもこんな言い方をしてるってことは、やっぱりおれはまだ死なないのだろう。
……でもなんでコイツはそれを自信満々に言えるんだ? なぜおれが死んでないと断言できる? 何か……確実にコイツは何かを知っている。
おれの能力の擬人化かなんかかと思っていたが、もしかしたらそんな単純なものでもないのかも知れない。もっと……能力よりもずっと、おれに近い何か……。
「お前……本当に何者なんだ……? おれの能力なのかと思ってたんだが……」
「その考えはある意味合ってるよ。でも最初に言ったろ? 俺は君さ。……君がもっと成長すれば分かる」
「……じゃあ、お前からはおれはどう見えてんだ? おれはお前を見れてないぞ。それなのにお前がおれだって?」
「俺達は本来会ってはいけない存在だからね。俺だって君のことはよく見えてない」
…………聞きたいことがことごとく聞けないな。含みのある言い方しやがって。おれはあんまり考えられねぇってのによ。
……っていうかこんなことを考えている暇は無いんだった。現世ではみんなが戦っている。早く手伝いに行かないと。
「どうやったらここから出れる? 今までは現世で目が覚めたら勝手に出れたよな?」
「あぁ、君は今死んでるから簡単には出られないよ」
「死んでんのかいッ!!」
黒い影はサラッとそう言った。死んでるって……一度も死んだことない人になんて残酷なことを言うんだ。人の命を何だと思ってんだよ。
て言うかさっき死んでないとかなんとか言ってたばっかじゃねぇかよ。
「あっはっは! いやいや、正しく言えば肉体が死んでるってだけね。魂はまだ生きてるから戻れるよ」
「“だけ”って……。じゃあどうすればいいんだ……?」
「君が能力を完成させたら戻れるはずだ。ここに用は無くなるからね。正しく言えば君は既に完成させてるから慣れればいいだけだよ」
「完成………?」
「昇華だよ。君が死ぬ直前に完成してただろ」
……そうだったのか。……そうだったのか!! 今になってやっと……でも昇華しただけじゃあまり変わらねぇんじゃねぇかな。
いや、でも確実に強くはなるはずだ。……でも身体が死んでるんじゃ結局だよな……。イリアがおれのことを治してくれてはいないだろうか。
「あ、昇華して次元が段違いになったからイリアじゃ治せないと思うよ」
「なッ……ダメじゃねぇかよ!!」
「まぁまぁ、君が出てくるまで代わりに俺が出とくから。ゆっくり準備しときな」
影は少しずつ薄くなっていった。おれの代わりに出るってことはおれの身体をコイツが使うってことか?
戦えんのか……? コイツは。戦えなかったらデスバルトに殺されて結局死んじまうぞ。……でも今は任せるしかないか。
「あ、そうそう。昇華した君の能力『———————』だからね」
現世にて、エストの心臓は少しずつ鼓動を再開した。
「ふははッ……! もっと頑張ってくれよ」
変身したデスバルトに対し、セリア達はほぼ一瞬で殲滅させられた。全快のデスバルトと限界の近いセリア達、当然と言えば当然の結果であった。
「おい! エスト! いい加減治れよ……! みんな……みんなやられちまうじゃねーかよ……!」
セリア達が戦っている間、イリアは後方でエストの怪我を治そうとしていた。だがいくら魔力を流しても一向に治る気配がなかった。
それどころかどんどん血が流れ出てくる。イリアは願うようにエストに声をかけ続けた。だが勿論、返事はない。
止まった心臓からは、血も次第に流れなくなっていった。
「君、どいてくれる?」
「ゔッ……!」
イリアの方に迫ったデスバルトが、そう声を掛けながらイリアを蹴り飛ばした。
既に魔力をほとんど使い切っていたイリアは抵抗もできなかった。そしてデスバルトはエストに手を向け、魔力を溜めた。
「ッ……また君は……!!」
「……彼は……まだ……死んじゃいない……。それなら彼が起きるまで……この俺がお前の相手をしてやる……!」
エストに向けて立っていたデスバルトを、起き上がったバンリューが殴り飛ばした。
傷は回復していない。体力が戻った訳でもない。それでも意地で彼は立っており、根性だけで能力を発動していた。
「これ以上動くと本当に死ぬだろ? 君」
「死ぬのを恐れて……冒険者なんかになれる訳がないだろ……。それに死んだとて……無意味な死には……ならない……!」
「まッ……たくさぁ……! 君は僕が呼んだ魔族もほとんど全員殺しちゃうし……僕の邪魔ばっかだな! エスト君が本当に生きてるとでも思ってるの!?」
「お前も……そう思っているから……トドメを刺したいのだろう……? 彼の危険性を……感じているから……」
頭を抱えながら話すデスバルトに、バンリューは力強くそう言った。それから2人はぶつかった。
イリアはエストを抱えて離れたところに行った。そこで再び魔力を注ぐが、依然反応はない。いよいよイリアの魔力は底をつき、成す術はなくなった。
イリアは普段の強気な態度を崩し、静かに涙を流すしかなかった。
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「…………死んだと思ったんだが……またここか」
意識を失ったと思ったら、おれは真っ白な世界に立っていた。おれがこの世界に来るのは初めてではない。
3度目だ。既に2回、おれはここに来たことがある。だがこれまでと違い、今回は随分とはっきりしている。
これまでの曖昧な世界ではなく、広さも匂いも上下も、この世界の全てがはっきりと定義されているようだった。
……いや、正しく言えば全てがおれの認識によって定義された。今だから分かる。ここはおれの世界だ。おれの能力の世界だ。そして、相変わらず一つの黒い影がおれを待っている。
「や! 久しぶりだね。この前会ったのは3年前だろ? ……君からしたら何十年も前か。そのときもデスバルトにボコボコにされてたよね」
影はケラケラと笑いながらそう言った。ムカつくがこいつは敵じゃない。この世界にいるってことはおれ自身なんだろう。おれの能力そのものなのだろう。……。
「笑い事じゃねぇよ。おれはまだ死んでねぇのか? もうすぐ死ぬのか?」
「ははッ! どうだと思う? ま、俺が生きてるってことは君も死なないだろうね」
なんでも知っているかのような口ぶりだ。でもこんな言い方をしてるってことは、やっぱりおれはまだ死なないのだろう。
……でもなんでコイツはそれを自信満々に言えるんだ? なぜおれが死んでないと断言できる? 何か……確実にコイツは何かを知っている。
おれの能力の擬人化かなんかかと思っていたが、もしかしたらそんな単純なものでもないのかも知れない。もっと……能力よりもずっと、おれに近い何か……。
「お前……本当に何者なんだ……? おれの能力なのかと思ってたんだが……」
「その考えはある意味合ってるよ。でも最初に言ったろ? 俺は君さ。……君がもっと成長すれば分かる」
「……じゃあ、お前からはおれはどう見えてんだ? おれはお前を見れてないぞ。それなのにお前がおれだって?」
「俺達は本来会ってはいけない存在だからね。俺だって君のことはよく見えてない」
…………聞きたいことがことごとく聞けないな。含みのある言い方しやがって。おれはあんまり考えられねぇってのによ。
……っていうかこんなことを考えている暇は無いんだった。現世ではみんなが戦っている。早く手伝いに行かないと。
「どうやったらここから出れる? 今までは現世で目が覚めたら勝手に出れたよな?」
「あぁ、君は今死んでるから簡単には出られないよ」
「死んでんのかいッ!!」
黒い影はサラッとそう言った。死んでるって……一度も死んだことない人になんて残酷なことを言うんだ。人の命を何だと思ってんだよ。
て言うかさっき死んでないとかなんとか言ってたばっかじゃねぇかよ。
「あっはっは! いやいや、正しく言えば肉体が死んでるってだけね。魂はまだ生きてるから戻れるよ」
「“だけ”って……。じゃあどうすればいいんだ……?」
「君が能力を完成させたら戻れるはずだ。ここに用は無くなるからね。正しく言えば君は既に完成させてるから慣れればいいだけだよ」
「完成………?」
「昇華だよ。君が死ぬ直前に完成してただろ」
……そうだったのか。……そうだったのか!! 今になってやっと……でも昇華しただけじゃあまり変わらねぇんじゃねぇかな。
いや、でも確実に強くはなるはずだ。……でも身体が死んでるんじゃ結局だよな……。イリアがおれのことを治してくれてはいないだろうか。
「あ、昇華して次元が段違いになったからイリアじゃ治せないと思うよ」
「なッ……ダメじゃねぇかよ!!」
「まぁまぁ、君が出てくるまで代わりに俺が出とくから。ゆっくり準備しときな」
影は少しずつ薄くなっていった。おれの代わりに出るってことはおれの身体をコイツが使うってことか?
戦えんのか……? コイツは。戦えなかったらデスバルトに殺されて結局死んじまうぞ。……でも今は任せるしかないか。
「あ、そうそう。昇華した君の能力『———————』だからね」
現世にて、エストの心臓は少しずつ鼓動を再開した。
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