HAMA

わらびもち

文字の大きさ
95 / 100
第十三章 生残競争

第92話 死んでるから

しおりを挟む
「ッ…………はぁ……はぁ……」

「ふははッ……! もっと頑張ってくれよ」

 変身したデスバルトに対し、セリア達はほぼ一瞬で殲滅させられた。全快のデスバルトと限界の近いセリア達、当然と言えば当然の結果であった。

「おい! エスト! いい加減治れよ……! みんな……みんなやられちまうじゃねーかよ……!」

 セリア達が戦っている間、イリアは後方でエストの怪我を治そうとしていた。だがいくら魔力を流しても一向に治る気配がなかった。

 それどころかどんどん血が流れ出てくる。イリアは願うようにエストに声をかけ続けた。だが勿論、返事はない。

 止まった心臓からは、血も次第に流れなくなっていった。

「君、どいてくれる?」

「ゔッ……!」

 イリアの方に迫ったデスバルトが、そう声を掛けながらイリアを蹴り飛ばした。

 既に魔力をほとんど使い切っていたイリアは抵抗もできなかった。そしてデスバルトはエストに手を向け、魔力を溜めた。

「ッ……また君は……!!」

「……彼は……まだ……死んじゃいない……。それなら彼が起きるまで……この俺がお前の相手をしてやる……!」

 エストに向けて立っていたデスバルトを、起き上がったバンリューが殴り飛ばした。

 傷は回復していない。体力が戻った訳でもない。それでも意地で彼は立っており、根性だけで能力スキルを発動していた。

「これ以上動くと本当に死ぬだろ? 君」

「死ぬのを恐れて……冒険者なんかになれる訳がないだろ……。それに死んだとて……無意味な死には……ならない……!」

「まッ……たくさぁ……! 君は僕が呼んだ魔族もほとんど全員殺しちゃうし……僕の邪魔ばっかだな! エスト君が本当に生きてるとでも思ってるの!?」

「お前も……そう思っているから……トドメを刺したいのだろう……? 彼の危険性を……感じているから……」

 頭を抱えながら話すデスバルトに、バンリューは力強くそう言った。それから2人はぶつかった。

 イリアはエストを抱えて離れたところに行った。そこで再び魔力を注ぐが、依然反応はない。いよいよイリアの魔力は底をつき、成す術はなくなった。

 イリアは普段の強気な態度を崩し、静かに涙を流すしかなかった。

***

「…………死んだと思ったんだが……またここか」

 意識を失ったと思ったら、おれは真っ白な世界に立っていた。おれがこの世界に来るのは初めてではない。

 3度目だ。既に2回、おれはここに来たことがある。だがこれまでと違い、今回は随分とはっきりしている。

 これまでの曖昧な世界ではなく、広さも匂いも上下も、この世界の全てがはっきりと定義されているようだった。

 ……いや、正しく言えば全てがおれの認識によって定義された。今だから分かる。ここはおれの世界だ。おれの能力スキルの世界だ。そして、相変わらず一つの黒い影がおれを待っている。

「や! 久しぶりだね。この前会ったのは3年前だろ? ……君からしたら何十年も前か。そのときもデスバルトにボコボコにされてたよね」

 影はケラケラと笑いながらそう言った。ムカつくがこいつは敵じゃない。この世界にいるってことはおれ自身なんだろう。おれの能力スキルそのものなのだろう。……。

「笑い事じゃねぇよ。おれはまだ死んでねぇのか? もうすぐ死ぬのか?」

「ははッ! どうだと思う? ま、俺が生きてるってことは君も死なないだろうね」

 なんでも知っているかのような口ぶりだ。でもこんな言い方をしてるってことは、やっぱりおれはまだ死なないのだろう。

 ……でもなんでコイツはそれを自信満々に言えるんだ? なぜおれが死んでないと断言できる? 何か……確実にコイツは何かを知っている。

 おれの能力スキルの擬人化かなんかかと思っていたが、もしかしたらそんな単純なものでもないのかも知れない。もっと……能力スキルよりもずっと、おれに近い何か……。

「お前……本当に何者なんだ……? おれの能力スキルなのかと思ってたんだが……」

「その考えはある意味合ってるよ。でも最初に言ったろ? 俺は君さ。……君がもっと成長すれば分かる」

「……じゃあ、お前からはおれはどう見えてんだ? おれはお前を見れてないぞ。それなのにお前がおれだって?」

「俺達は本来会ってはいけない存在だからね。俺だって君のことはよく見えてない」

 …………聞きたいことがことごとく聞けないな。含みのある言い方しやがって。おれはあんまり考えられねぇってのによ。

 ……っていうかこんなことを考えている暇は無いんだった。現世ではみんなが戦っている。早く手伝いに行かないと。

「どうやったらここから出れる? 今までは現世で目が覚めたら勝手に出れたよな?」

「あぁ、君は今死んでるから簡単には出られないよ」

「死んでんのかいッ!!」

 黒い影はサラッとそう言った。死んでるって……一度も死んだことない人になんて残酷なことを言うんだ。人の命を何だと思ってんだよ。

 て言うかさっき死んでないとかなんとか言ってたばっかじゃねぇかよ。

「あっはっは! いやいや、正しく言えば肉体が死んでるってだけね。魂はまだ生きてるから戻れるよ」

「“だけ”って……。じゃあどうすればいいんだ……?」

「君が能力スキルを完成させたら戻れるはずだ。ここに用は無くなるからね。正しく言えば君は既に完成させてるから慣れればいいだけだよ」

「完成………?」

「昇華だよ。君が死ぬ直前に完成してただろ」

 ……そうだったのか。……そうだったのか!! 今になってやっと……でも昇華しただけじゃあまり変わらねぇんじゃねぇかな。

 いや、でも確実に強くはなるはずだ。……でも身体が死んでるんじゃ結局だよな……。イリアがおれのことを治してくれてはいないだろうか。

「あ、昇華して次元強さが段違いになったからイリアじゃ治せないと思うよ」

「なッ……ダメじゃねぇかよ!!」

「まぁまぁ、君が出てくるまで代わりに俺が出とくから。ゆっくり準備しときな」

 影は少しずつ薄くなっていった。おれの代わりに出るってことはおれの身体をコイツが使うってことか?

 戦えんのか……? コイツは。戦えなかったらデスバルトに殺されて結局死んじまうぞ。……でも今は任せるしかないか。

「あ、そうそう。昇華した君の能力スキル『———————』だからね」

 現世にて、エストの心臓は少しずつ鼓動を再開した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界異話 天使降臨

yahimoti
ファンタジー
空から天使が降って来た。 落ちたんだよ。転生かと思ったらいきなりゲームの世界「ロストヒストリーワールド」の設定をもとにしたような剣と魔法の世界にね。 それも面白がってちょっとだけ設定してみたキャラメイクのせいで天使族って。こんなのどうすんの?なんの目的もなければ何をしていいかわからないまま、巻き込まれるままにストーリーは進んでいく。

【完結】モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる!

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 15歳になった男子は、冒険者になる。それが当たり前の世界。だがクテュールは、冒険者になるつもりはなかった。男だけど裁縫が好きで、道具屋とかに勤めたいと思っていた。 クテュールは、15歳になる前日に、幼馴染のエジンに稽古すると連れ出され殺されかけた!いや、偶然魔物の上に落ち助かったのだ!それが『レッドアイの森』のボス、キュイだった!

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮
恋愛
ランバルディア王国では、王族から約100年ごとに『裁定者』なる者が誕生する。 国王の補佐を務め、時には王族さえも裁く至高の権威を持ち、裏の最高権力者とも称される裁定者。その今代は、先国王の末弟ユスターシュ。 そんな雲の上の存在であるユスターシュから、何故か彼の番だと名指しされたヘレナだったが。 え? どうして? 獣人でもないのに番とか聞いたことないんですけど。 ヒーローが、想像力豊かなヒロインを自分の番にでっち上げて溺愛するお話です。 ※ 同時に掲載した小説がシリアスだった反動で、こちらは非常にはっちゃけたお話になってます。 時々シリアスが入る予定ですが、基本コメディです。

【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香
ファンタジー
ある日、リィカの住む村が大量の魔物に襲われた。恐怖から魔力を暴走させそうになったとき前世の記憶が蘇り、奇跡的に暴走を制御する。その後、国立の学園へと入学。王族や貴族と遭遇しつつも無事に一年が過ぎたとき、魔王が誕生した。そして、召喚された勇者が、前世の夫と息子であったことに驚くことになる。 【改稿】2026/02/20、第一章の40話までを大幅改稿しました。 これまで一人称だった第一章を三人称へと改稿。その後の話も徐々に三人称へ改稿していきます。話の展開など色々変わっていますが、大きな話の流れは変更ありません。 ・都合により、リィカの前世「凪沙」を「渚沙」へ変更していきます(徐々に変更予定)。 ・12から16話までにあったレーナニアの過去編は、第十六章(第二部)へ移動となりました。

処理中です...