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幸せのオムライス

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第二章 ヤマネコ商会、爆誕!:行列のできる露店

第109話 嗅覚に訴えろ! 香りの結界でお客様を引き寄せます

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「大丈夫ですよ、リックお兄ちゃん。これからが本番なんです」

 私は、足元でお座りをしているコロの頭を撫でる。
 今日一番の働き手となるであろう、我が商会のマスコット兼営業部長は、やる気満々で尻尾を振っていた。

『コトリ! お客さん、まだ? ご飯代、稼ぐ!』

「ふふ、頼もしいわね」

 朝日が完全に昇りきり、広場に人が増え始めてきた。
 さあ、ショータイムの始まりだ。

 ◇

「開店です! 目指せ完売! がんばりましょう!」

 私の元気な号令と共に、ヤマネコ商会の営業がスタートした。

(快適なスローライフの軍資金、ここでガッツリ稼がせてもらうのだ!)

 私は内心でそう叫びながら、気合を入れる。

 とはいえ、ただ立派なテントを張って待っているだけでは、客は来ない。
 何しろ、ここは一等地。周りを見渡せば、いかにも高級そうな商品を並べた立派なテントや、手慣れた様子でお客をさばくベテランっぽい露店がひしめき合っている。
 その中で、いくらテントが立派でも、ぽっと出の、しかも子供がやっている店なんて、普通なら見向きもされないだろう。

 でも、私には秘策がある。
 人間の五感のうち、最も本能に直結する感覚――『嗅覚』への攻撃だ。

「リックお兄ちゃん、お湯は沸いてますか?」

「お、おう。バッチリだ」

 リックが、テーブルの端に設置したカセットコンロを指差す。
 シュンシュンと音を立てて沸騰するケトル。
 私は、その熱湯を、あらかじめ茶葉を入れておいたガラスのティーポットに、高い位置から勢いよく注ぎ込んだ。

 ザアアッ……。

 その瞬間。
 ふわり、と。
 爽やかで、それでいて心が解けるような甘い香りが、湯気と共に立ち上った。
『安らぎのハーブティー』の香りだ。

 それだけじゃない。同時に、バスケットに入れておいた『森の恵みクッキー』の袋も、少しだけ口を開けておく。

 これらは全て、宿屋の厨房で製造直後に四次元バッグに収納しておいたものだ。
 バッグの中は時間が止まっているため、取り出した瞬間、まるで今焼き上がったばかりのようなバターと小麦の芳醇な香りが蘇るのだ。

 その香ばしい匂いが、ハーブティーの香りと混ざり合い、露店の周り一帯に「幸せの匂い」の結界を作り出す。

(ふふふ……この世界の人たちはまだ知らない。美味しいお茶とクッキーの匂いが持つ、抗いがたい破壊力を!)

 もちろん、嗅覚だけじゃない。視覚的なインパクトも十分だ。
 この赤と白のストライプ柄のテントや便利な道具は、この異世界では異質すぎて目立たないはずがない。
 でも、商売において「目立つ」ことは正義だ。集客にも有利に働くだろう。

 もしお客さんに質問されたら、「東の国の特別品です」と胸を張って答えれば、むしろ特別感が増すというものだ。
 多少目立ち過ぎたとしても、私にはバルガスさんという強力な後ろ盾がいるから、恐れるものは何もない!

 効果はすぐに現れた。
 道ゆく人々が、くんくんと鼻をひくつかせ始める。

「ん? なんだ、いい匂いがするぞ」
「甘いような、花のようないい香り……どこからかしら?」

 視線が集まり始めた。
 チャンスだ。
 私は、すかさず第二の矢を放つ。

「コロ、出番だよ!」

『わふっ!(任せて!)』

 私は、陳列台の横に用意した、少し背の高い椅子の上に、コロをひょいと乗せた。
 今日のコロは、ただのもふもふではない。
 首元に、商品と同じ「深紅のリボン」を蝶ネクタイのように結んだ、ヤマネコ商会専属のトップセールスマン(犬)なのだ!

「さあコロ、君の可愛さで人類を魅了するのだ!」

 コロは、私の期待に応えるように、背筋をピンと伸ばして「おすわり」をし、通りがかる人々に向かって、愛想よく「わん!」と鳴いてみせた。
 その姿は、完全にぬいぐるみが動いているようにしか見えない。あざとい。最高にあざといぞ、コロ!
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