異世界で魔族が全滅してるらしいが、俺は普通にゴルフしてるだけ ~無能扱いされた男が 、距離だけで世界を変える話~

ぬこまる

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12 湖を走る玉

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朝、ガルドの家は静かすぎる。

石造りの壁は夜の冷えをまだ少し残していて、床に置いた足の裏がひんやりする。
窓から入る風は、城下町の芝域よりも湿り気が少ない。

俺は家の前に出て、芝域の端でゆっくりと素振りをした。
工房ドラン製の木製アイアン。
持つたびに、手の形に馴染んでくる。

肩、腰、背中。
力は入れない。
流れだけを確認する。

「トップ、きれい」
「きょう、いい」

肩の上で、シルフィが満足そうに言う。

「それ、毎日言ってない?」

「でも」
「ほんと」

(妖精の評価は信用することにしている)

少し離れたところで、ガルドが地面を見ている。
視線は俺じゃない。
芝でもない。
もっと先、距離の向こうだ。

「……二歩前は、踏むな」
「……沈む」

「了解です」

一歩下がると、確かに足裏の感触が変わった。

「地面、信用できないですね」

「……この世界では、よくある」

(信用できる地面のほうが少ないな)

そのとき、家の中から声がした。

「朝ごはん、できましたよ」

料理人ローナの声だ。もはや通い妻かな?

木の机を囲んで、みんなで座る。
パン、卵、野菜のスープ。
温かいだけでありがたい。

「いただきます」

「いただきます」
「おいしい」

シルフィが即答する。

「まだ食べてないだろ」

「はやいのが、おいしい」

(理屈が成立してない)

そこへ、もう見慣れた人影が自然に紛れ込む。

「おはようございます」

フードを被った女性。
誰も驚かない。

「おはようございます」

俺も普通に返す。

リリアーナ姫は席に着くと、パンを一口かじった。

「あら……」
「はしたないですね」

一瞬、全員が固まる。

「いや、普通です」
「むしろ健康的です」

「……そうですか?」

全員、同時にズッコケた。

「この家、王族耐性ついてきてるな」
俺が言うと、

「……慣れた」
ガルドが短く言った。

(慣れるな)



朝食後、工房ドランの作業場に寄った。

ドランは俺のクラブを丁寧に手入れしている。
磨くというより、機嫌を確かめている感じだ。

「……いい音になってきた」

「音、分かるんですか」

「分かる」
「道具は、嘘をつかん」

そこへ、やけに元気な声。

「おー!」
「久しぶり!」

ユウマとアヤだった。

「旅してたんですけど」
アヤが肩をすくめる。
「湖の漁村で魚料理食べようと思ったら……」

「飛行魔族がいてさ」
ユウマが続ける。
「空から来るやつ」
「怖くて無理だった」

「倒せばいいだろ」
ガルドが即答する。

「いや、筋トレだけだから無理!」
ユウマが胸を張る。

全員、笑った。

「筋トレ、空に弱いな」
俺が言うと、

「地上限定です!」
ユウマが即反論する。

(限定されすぎだろ)

話を聞きながら、俺の頭は別のことを考えていた。

(湖か……)
(芝はないけど、ラウンドはできそうだな)

「行ってきます」
俺はそう言って、荷物をまとめた。

料理人が、布包みを差し出す。

「お弁当です」
「湖は、遠いですから」

「助かります」
「腹減ると判断鈍るんで」

「判断……?」

(説明は省略)



湖が見えたとき、正直、テンションが上がった。

水面が広く、風が一定だ。
芝はないが、地面は締まっている。
反射がきれいで、距離感も掴みやすい。

「……芝はないけど」
「ラウンドはできそうだな」

ガルドが溜息をつく。

「……何でもラウンドだな」

「はい」

漁村ミレは、静かだった。

舟は岸に繋がれたまま。
網は干され、誰も触っていない。
魚の匂いが、薄い。

大人たちは、空を見ない。
視線を下げ、話し声も小さい。

「最近、魚が獲れなくて」
年配の漁師がぽつりと言った。
「空から来るんだ」
「影が落ちると、誰も舟を出せない」

「冒険者は?」
俺が聞くと、

「空は無理だって」
「矢も届かない」

俺は頷いた。

(まあ、普通そうだよな)

湖畔で、少年が一人、魚を見ていた。

「リオ!」
誰かが叫ぶ。

空に影。

飛行魔族が急降下する。

俺は反射的に構えた。
空を狙って、打つ。

カキィン。

……外れた。

風に流され、高さも合わない。

「あ、これ無理だ」

魔族は一瞬こちらを警戒し、距離を取って引いた。

少年は逃げ、助かったが、
村人たちはさらに怯えた。

「ほらな……」
「刺激しただけだ」

視線が、俺に集まる。
冷たい。

(まあ、そうなるよな)

「帰るか」
俺は小さく言った。

そのとき、ガルドがぽつりと呟いた。

「……魚料理」
「うまそうだ」

「そこ?」

「……本音だ」

俺は湖を見た。

飛行魔族は、魚を狙っている。
必ず、水面近くまで降りる。

「あ」
俺は声を出した。
「魚か」

ガルドが俺を見る。

「……下りるな」

「ええ」
「そこを狙います」



夕方。

湖面がオレンジ色に染まる。
風が安定し、波が落ち着く。

飛行魔族が、魚を狙って降りてくる。

俺は構えた。

素振りを一度。
低く。
高くしない。
転がす意識。

ゴルフ雑誌の写真みたいに、
構え、トップ、切り返し。
体の流れが一本になる。

「スティンガーショットだ!」

シルフィが、嬉しそうに叫んだ。

(なんで知ってる)

カキィン。

低い音。
水面すれすれ。

ドガッ。

一体、撃墜。

次も来る。
同じ高さ。
同じ動き。

カキィン。
ドガッ。

カキィン。
ドガガッ。

俺は淡々と打つ。
練習場みたいに、次々と。

飛行魔族は、全滅した。



湖は、静かになった。

水面が落ち着き、魚が跳ねる。
鳥が戻り、風が優しくなる。

「もどった」
シルフィが言う。

村人たちが、呆然とこちらを見る。

次の瞬間。

「ありがとうございました!」

全員が、頭を下げた。
土下座に近い。

「ちょ、ちょっと」
「そこまでじゃ……」

少年リオが走ってくる。

「ありがとう!」
「おじちゃん!」

「おじちゃんはやめて」

笑いが起きる。

その夜、久しぶりに魚料理が並んだ。

焼き魚。
煮魚。
汁物。

「うまい……」
俺は正直に言った。

「でしょ!」
リオが胸を張る。

「持ってって!」
「お持ち帰り!」

(遠慮する間もなかった)



翌朝、ガルドの家。

料理人ローナが魚料理を手際よく仕上げる。
ユウマとアヤ、お忍び姫リリアーナも混ざり、にぎやかだ。

「空から来るやつを、下から全滅ってヤバっ!」
ユウマが目を丸くする。

「筋トレでは無理だねー」
アヤが即答する。

「筋トレ万能じゃないです」

姫が魚を一口食べて、目を輝かせる。

「……おいしい」
「すてきな一日ですね」

俺は笑った。

「まあ、普通にゴルフしてるだけですよ……あはは」
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