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エルフの過去
閑 話 青春のポルチーニ (中編)
しおりを挟む【 side ポルチーニ 】
僕は酷くむしゃくしゃして、門前の小石をコツンと蹴り上げた。ころころと転がる白い玉砂利の先に、ニヤニヤとイタズラを思いついた、子供のような笑みを浮かべる次兄がいた。
「よぉ、今から大婆様んトコ行くんだろ?だったらついでに、お使いを頼まれてくれないか。」
軽く手を挙げ親しげに声をかけてくる次兄は、つい最近結婚したばかり、今は夫婦2人で離れの別宅に住んでいる。
僕と兄は歳が30ほど離れているから、小さな頃は殆ど会った事が無かった。エルフの平均寿命は600歳前後、30才の歳の差は結構近い方だけど。
歳が近くっても、幼少期に一緒に遊んだ経験は全く無い。次兄は数年前、深い森の奥で雑草を食べる赤子を見たそうだ。皆んなはイタズラ妖精に化かされたんじゃ無いかって言ってたけど。必死で這いずる様が、酷く恐ろしかったんだとか。それ以来、次兄は小さな子供が苦手なんだ。
だから、幼い僕に会いに来る事が出来なかったらしい。まぁ、兄弟なのに500も歳の差があって、顔すら見た事が無いってエルフも沢山いるから、それに比べたら僕達はまだ仲が良い方なのかもな。
「なんだよ、何買ってくりゃ良いんだ??」
次兄は僕の肩を抱いて顔を寄せ、ヒソヒソと囁くように耳打ちした。
「大婆様に、テングを4粒くれって言えば分かるからさ。そいつをこっそり買ってきて欲しいんだ。」
「テング???何だ、それ。飴玉か?」
大婆様はこの里1番の薬師で、病気の時はみんな大婆様の店で薬を買う。最近では、子供用の安い雑菓子なんかも一緒に売っていて、里のどの薬屋よりも人気がある。
「ははっ。まだまだお子様のお前は、知らなくても良いんだよ。流行りの世界樹グミを一緒に買ってやるから、それでも食ってろ。」
姉さん女房で尻に敷かれている癖に、次兄は会うとこんな風に僕をからかって来る。今年で僕は16才、もう成人なのに。
「なんだよそれ、買ってこないぞ!」
「まぁ。そう言うなって、小遣いをやるからさ。テングは、あれだよ。オトナの気付け薬みたいなもんだ。体の一部を強化してくれる。」
次兄は得意げに片方の眉を上げ、グッと右肩に力を込めた。力こぶを作ってフフンと笑う。
「テングは、腕力を強化するのか??まさか森に出て、魔物を倒しに行くとか?」
「ぷははっ。バカだな、そんな訳無いだろ。今夜ヨメと特訓するんだ、寝技のな。」
そう言って、僕にコインを握らせる。
「ふーん。組み手じゃなく?」
「くくっ。あれだ、ベットの上でスコーピオンデスロックを試す。これ以上は、聞いてくれるな?さぁ、判ったら早く買ってこい。」
「チッ。変な夫婦だな、意味わかんねー。」
次兄は昔からお調子者で、周りから全く期待されていない、その癖、皆んなからは可愛がられていた。この掴みどころの無い要領の良さが、僕には酷く羨ましかったりする。
「ウチだけじゃ無いぞ?仲のいい夫婦は、テングを飲むんだって。」
「へーへー。」
僕は気の抜けた返事をしてから、歩き出す。次兄はからかって来るけど、何故か憎めないんだよな。結局、テングが何の薬なのかわからずじまいだ。
ーーーでも。たぶん、その薬はきっと。
精霊魔法の強化訓練にでも使うんだろう。魔法ってのは、競争相手がいた方が上達するしな。次兄はだらしない性格だから、寝転がったまま筋トレでもするのかもな。
僕はそう決めつけて、預かったコインをポケットの中でジャラリと鳴らした。貰った小遣いで、最近売り出した世界樹グミでも買うか。空色の水たまりをぴょんと飛び越え、大婆さまの家に続く薬草畑の急な丘を登る。
「はぁ、面倒だな。おい、ブナピ手伝え。」
風が吹き抜け、乾いた芝が空を舞う。僕は契約した、しもべ精霊のブナピを呼び寄せた。
「ポルチーニ様っ、魔力を下さい!」
「わかってるって、ほらよ。」
僕は少し多め、10分の1程度の魔力をブナピに与えた。最近、精霊同士の力比べでコテンパンに負けて帰って来る。プナピは高位の精霊の筈なんだけどな。いったいどこの精霊にやられてるんだ?
僕は、風魔法で疾風を発動させる。そして緑香る坂道を、精霊魔法を使ってビュンビュンと風を切って駆け上がった。
*****************
古びた木製のドアをいつものように、軽くコンコンとノックしてドアノブを回す。そして僕は、にっこりと笑って挨拶をした。
「こんにちは!大婆様!」
近所の奥方エルフ達にも評判だった僕の爽やかスマイルは、大婆さまには全く通用しない。
「なんだ、また来たのかい。弟子は間に合ってるって言ってるだろ。さっさと帰んな。」
嫌そうな顔をする大婆様に、僕は慌てて言葉をつけ足す。
「今日は用事があって来ました!テングを4粒買いに来たんです。」
「ん?まさか、アンタが使うんじゃないだろうね?」
訝しげな表情でジロリと睨む大婆さまに、僕ってかなり嫌われているのか?と、ショックを受ける。
「え?あ、はい。次兄の使いです。」
大婆様はそれを聞いて、納得顔で頷いた。
「あぁ。そうかい、あの新婚の。じゃぁ、ご祝儀に少しだけ安くしておこうかね。」
僕は次兄から預かったコインで、薬の代金を支払った。お釣りの駄賃が、多めに手に入ったので人気のグミも2つ注文した。
「ところで大婆さま。テングとは何に効く薬なのですか?いったい、何処をを強化するんです?」
「ん、ん?ま、まぁ、漢の為のクスリじゃ。アンタにゃまだ早いからね。間違っても飲むんじゃ無いよ!!一錠でも大変な事になるからね!」
「は、はぁ。」
男だけが飲む物なのか?何故か大婆さまの説明も曖昧で、やっぱりよくわからない。この薬が一体何用なのか、こうなると酷く気になってしまう。
大婆さまは、隣の倉庫に向かって大声を上げた。
「エリンー!客だよ、調合しとくれ!」
「はーい。」
遠くから、人モドキが返事をした。
「倉庫にエリンがいるから、このメモを渡して商品を受け取っておくれ。あの子に渡せば調合出来るからね。」
「・・・分かりました。」
モドキは、この薬が何なのか知っている。それに調合までできる。あいつだって僕と同い年くらいの筈だ。自分だけが子供扱いされたみたいで、僕は何故だかイライラした。
「ああ、そうだった。ついでに丸薬を作る魔道具の魔石が切れそうだって、言っといておくれ。」
「はい。」
僕は作り笑顔でにっこり笑い、モドキの場所に向かう。大婆様に背を向けると、無理して笑みを作ったせいで、右下の瞼がピクピクと痙攣した。
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