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プロローグ
気がついたとき、俺は真っ暗な部屋にいた。
まばたきを数回しても、視界はぼんやりと霞んだままだったが、何度か瞬きを繰り返すうちに徐々に見えてくる。そこは薄暗い地下室のようで、蝋燭の灯りがぼんやりと揺らめく。目に映るのは怪しげな祭壇、床には血塗られた魔法陣、それら全てが異様に感じられた。
「ここは……どこだ?」
頭が痛む。重くて、鈍い痛みだ。まるで何かを失ったかのような感覚。それとも逆に、何かを無理やり詰め込まれたかのような。手のひらで額を押さえながら立ち上がると、ふと、目の前に映る鏡に映った自分の姿を見た瞬間、言葉を失った。
そこに映っていたのは、俺自身ではなかった。
「え……?」
映っているのは、翡翠の瞳に紅髪の美しい青年。しかし、自分自身の顔とはまったく違う。恐る恐る手を上げ、その鏡に映る姿が自分の動きに追随しているのを確認する。そう、この体は……間違いなく俺のものなのだ。
パニックに陥りかけたその瞬間、頭の中に突然、フラッシュのように大量の記憶が流れ込んできた。
「カイン・デュフレ……伯爵家の……悪役令息?」
一瞬、頭が混乱して訳が分からなかった。だが、すぐに全てが繋がった。そうだ、これはゲームの世界だ。気を失う直前の俺が製作に携わったBL乙女ゲーム。発売日直前まで、会社に詰めてこのゲームのPR用の動画を作成していたからわかる。
コイツはヒロインや攻略対象に憎まれ、断罪される悪役……「カイン・デュフレ」。そのカインに、俺は憑依してしまったのか。
「なんてこった……」
思い返せば、このカインは、ただの悪役令息じゃない。フィン・アルヴェール――小柄でピンク色の髪を持つ平民の青年、王子たちに愛される純粋な存在――彼を標的にして虐めていた張本人だ。嫉妬と優越感に駆られてフィンをいじめ抜き、周囲からの憎悪を一身に背負うことになった。それだけではない。フィンの心身を傷つけ、彼の笑顔を奪ったその元凶がカインだ。
記憶がどんどん蘇ってくる。王子たちに恨まれ、フィンに恐れられ、やがて断罪される運命が避けられないことも分かっていた。カインとしての罪も、その結果も、俺にはすべてが見えていた。
「やばい……このままじゃ、俺は断罪される……」
心臓が早鐘を打つ。ゲームの中では、カインは最終的に破滅する。婚約者である王子たちに冷酷に断罪され、全てを失うのだ。そして、俺はその運命を、逃れられない。
だって全てが遅すぎる。俺が憑依したコイツ、カインはもう取り返しのつかない事までやった後だからだ。今更誰も俺を許さないだろう。
だが、だからといってこのまま黙って破滅を待つつもりはない。俺がカインに憑依してしまった以上、何とかして生き延びる方法を探さなければならない。
「生き残るには……恨みを晴らすしかない」
そうだ、あいつらの憎しみを晴らさなければ、この世界で生き延びることはできない。カインが犯した数々の悪行、フィンをいじめた過去も含め、すべてが俺の足枷になるだろう。
だが、それなら……こちらから「ざまあ」を自作自演すればいい。俺が過去の罪を懺悔し、王子たちの前で恥をかき、彼らに憎しみを吐き出させれば、俺は自由になれるのではないか?
「自作自演のざまあ、か……」
考えれば考えるほど、その計画は理にかなっているように思えた。俺は悪役として恨まれている。しかし、それを利用して、自ら破滅する演出を作り出せば、彼らの恨みは晴れる。そしたら俺は新しい人生を平民として歩み、自由を手に入れることができるかも知れない。
そうと決まれば、早速行動だ。俺は、自らの「ざまあ劇」を成功させるために、綿密な計画を練り始めた。全ては、俺が生き延びるため。これから始まるのは、カイン・デュフレの過去を清算し、自由を手にするために必要な事なんだ。
――だが、まだ知らなかった。俺が手に入れようとした自由が、やがて狂気じみた執着を生むって事に。
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