【18R】悪役令息は断罪前に誘拐されました

厨二病・末期

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2.現実



俺が召喚されたあの地下室は、カインが人知れず、魔法の実験を行う為の部屋だった。地下室から自室へと繋がる階段を、静かに登る。夜の帳が降りた窓の外には、赤黒く穴の空いた不気味な月が薄ぼんやりと浮かんでいた。その光景が、あまりにも現実とかけ離れていて、俺は迷子の様に打ちひしがれた。

「……ここは、魔力に満ちている。」

身体を巡る魔力の感覚に、ゾクリと肌を震わせる。俺は自室に備え付けられた華美なソファに腰掛け、息を詰めた。かつての自身の記憶、そこからゲームの結末を必死に呼び起こす。

「確か、物語の終盤。卒業パーティの会場で、カインは第三王子とその取り巻き連中に断罪される流れだったはずだ……」

王子たちに囲まれたカインは、これまでの数々の悪行を一つ一つ暴かれてゆき、婚約破棄される。そしてお家取り潰しを宣言され、牢に囚われ、これまでの報いとして処刑を受ける。

「過去のやらかしで、カインは酷く恨まれているからな……」

婚約者に近づくヒロインを目障りに思った当時のカインは、魔法で王子以外の攻略対象者達を操り、ヒロインを襲わせだんだ。攻略対象の令息達は、好ましく思っている相手を自分の意思と相反して傷つけてしまった。

「その時ヒロインは、尻の純潔を散らしてるから、王子達の憎悪は計り知れない……」

そういえば、唯一生き残るルートがあった。それはヒロインが、ハーレムルートをクリアした時。その場合のみカインは、犯罪奴隷に堕とされ鉱山送りとなる。そこで汚い奴隷達の慰み者になるんだっけ。それが、ゲーム内でのカインの運命ざまぁだった。

「男で、腹ボテエンドとか勘弁してくれ。」

18禁BLゲーよろしく、最後の見せ場として描かれていたが。実際俺がそうなるって考えたら、処刑の方が優しく思える。ヒロインがどのルートを選んだのか不明だが、コレだけは絶対に阻止したい。

「この世界では、魔法の力で男でも妊娠が可能だ……。だから貴族同士の婚姻において、性別がまったく問題視されていないのも、そのおかげというわけか。」

思えば、男の自分が第三王子と婚約したのに、周りから少しも不思議がられることはなかった。男女の違いは形式にすぎず、重要なのはその結びつきによって家同士がいかに利益を得るか、それだけだ。

「もっともカインは、父にとって利益と権力のための道具に過ぎないのだろうが……」

貴族にとって婚姻は、家同士の絆を強固にし、血筋や財産、影響力を次世代へと引き継ぐためのもの。そのため、性別に関係なく「産む」ことができる魔法が使えるならば、男同士の婚姻もあたりまえに受け入れられているのだ。

俺は複雑な思いを抱えつつ、瞳を細め、冷ややかな笑みを浮かべた。

「いっそ皮肉なものだな。魔法のおかげで、こんな婚約が成り立つというのに、その結びつきには少しの情もなかった。」

俺は自身カインの婚約者、第三王子のユリウス・エバートの顔を思い浮かべ、苦い思いでその記憶を振り払った。金髪に碧眼をもつ、華やかな美貌の持ち主。周りにはいつも明るく優しげに振る舞っていたが、裏ではカインを見下していた。王子は元から婚姻などするつもりがなかったからな。

「ユリウスは美しい、確かにそうだ。けれど、俺の好みではない。」

憑依する前の「カイン」は、まるで取り憑かれたかのようにユリウスに惹かれていた。持って生まれた権力に、甘い顔立ち。そして男女問わず人望があった……そのどれもが「カイン」にとっては魅力の塊で、彼を手に入れようと躍起になっていた。だから、カインは王子に媚薬を盛り、無理にでも振り向かせようとしたことさえあった。

「それも結局裏目に出て、阻止された挙句、主人公とユリウスが懇ろになる為のエピソードにしかならなかったんだが。」

俺から見れば、カインの執着は愚かに思えてならなかった。王子の美しさは確かに目を奪われるものがあるが、それもどこか「作られた」完璧さだ。煌びやかすぎる金髪や、鮮やかすぎる瞳は目がチカチカするようで落ち着かず、むしろ苦手だ。

「派手すぎるんだよな……。鑑賞するには良いが、俺はやっぱり、髪と瞳は落ち着いた色の方が好みだ。」

男女関係なく、純粋に美しい人に惹かれる気持ちはあるが、それでもハリウッドスターと付き合いたいか?と問われれば、そんなことはないのだ。

「まぁ、今の俺の容姿も、慣れる気がしないが。だって中身は地味な日本人だしな……」

俺は部屋の鏡を覗き込んだ。鋭利な瞳の下にある泣きぼくろが、なんとも妖艶な雰囲気を出している。騙されたとしても、一回くらいお願いしてみたくなる、そんな美青年なんだがな。

「ユリウスに執着してなきゃ、それなりに楽しい人生を送れただろうに。」

王子に対し報われない恋情を抱いていたカインを少し哀れに思いながらも、俺は別の生き方を選ぶことを心に決め、自嘲気味に笑みを浮かべた。


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