10044年の時間跳躍(タイムリープ)

ハル

文字の大きさ
38 / 47

第37話 後悔

しおりを挟む


(しまった……)

 リョウは突然のことに不意を突かれ、唇を噛んだ。まさか、このタイミングで彼が現れるとは思っていなかったのだ。
 だが、すぐに動揺から立ち直り、覚悟を決めた。

(もう、こうなったら仕方ない)

 またテレポーターに向き直って、操作するフリをしながら胸のポケットから小さな布袋を取り出した。アリシアからもらったお守りだ。そして、その中身を手のひらに出す。
 それは小型のビンだった。中にマナ回復剤が入っている。リョウは蓋を開け、一瞬、見つめた後、青い液体を一気に飲み干した。そして、ビンとお守りをポケットに戻す。

 バシッ

 何の前触れもなく、自分の足元の床から激しい音が鳴った。キースが背後からレイガンを撃ったのだ。

「操作をやめろ。そして、武器を捨ててこちらを向くのだ」
「……分かった」

 リョウは、言われた通り振り向き、レイガンとビームソードをベルトから抜いて床に落とした。

(あ、れ……?)

 最初は、軽いめまいがしたのかと思ったリョウだったが、激しい悪寒と共に、めまいが急激に激しくなる。もはや、自分で立っていることができず、テレポーターにもたれかかった。さらに、今度は激しい咳が出て止まらなくなった。
 テレポーターに手をついて体を支えながらも、激しく咳き込む。

「どうした? 体調でも悪いのか?」

 自分をだます企みかと疑いの眼差しを向けたキースだったが、リョウの様子が明らかにおかしいことに気づいたようだった。

「ゴホッゴホッ、な、何でもない……ゴホッ」

『リ、リズ。どうなってる?』

 リョウはこの状態に狼狽し、慌ててリズに尋ねた。まさか、このような激烈な反応を起こそうとは考えていなかったのだ。

『マナ回復剤に対するアレルギー反応よ。症状を和らげる処置をしてるからもうちょっと我慢してて』

(ま、まさか、ここまでとは……)

 リズからは、「一度目は対処できるが、二度目以降はアレルギー反応をコントロールできない」と警告されている。たしかに、これより激しくなるなら体は持たないだろう。

 やがて、リズの処置が功を奏したようで、めまいと咳、悪寒が収まってきた。
 荒い息を落ち着かせながら、リョウはテレポーターに寄りかかるのをやめ、まっすぐ立つ。

「フン、難儀なことだ。まあ、いい。それよりも、時限爆弾の解除コードを教えろ」

 リョウの容態には全く関心がない様子で、キースが尋ねた。

「何のことだ?」
「とぼけるな。お前が反応炉に仕掛けた爆弾の解除コードだ」
「断る。お前にミサイルを撃たせるわけにはいかない」

(……ということは、爆弾を解除しようとしたのか)

 おそらく、リョウとアリシアが機関部を出るのを見計らって中に入り、爆弾を解除しようとしたのだろう。その上で彼がここに来たということは、リョウにとってはいい知らせだった。この基地のテクノロジーを使っても、やはりキースは爆弾を解除できなかったのだ。

「馬鹿な真似はよせ。ここでお前も死ぬのだぞ」
「見ろ、ここにテレポーターがある。お前も一緒に脱出しよう」

 リョウは自分の後ろにそびえ立つ巨大な装置を指し示した。
 キースはせせら嗤った。
 
「何を言っている。そいつは動作が不安定で、生物を使った実験もしていなかったではないか」
「いや。こちらに来て時空同定プロセスの改良方法を思いついたんだ。さっき、他のみんなをテレポートして脱出させたんだぜ」
「なんだと……?」
「俺たちのテレポーターはとうとう完成したんだよ!」

 リョウは、一瞬この状況を忘れ、共に研究に打ち込んだテレポーターの完成を一緒に喜ぼうという気持ちだった。

「フン、なるほど、それであの小娘どもの姿が見えないのか」

 だが、リョウの興奮や達成感という感情は、キースには一切感じられない。

(お前だって、あれほど情熱を掛けて取り組んでいただろうに……)

 それも無理からぬことかもしれない。自分にとっては現在の研究であっても、キースにとっては30年前のことである。しかも、こんな大掛かりな装置を使わなくても、グスタフの呪文で自分もテレポートを経験しているのだ。

「……もうこの基地も爆破される。一緒に脱出しよう」

 キースに何の感動も呼び起こさなかったことに失望を押し隠しながら、リョウは説得を試みる。

「……」

 しばらく考えるようなそぶりを見せたキースは、顔を上げた。

「……分かった。私の負けだ。ミサイル発射は取りやめる」
「本当か?」
「ああ。その代わり、時限爆弾を解除してくれ」
「えっ?」
「私もまだ死にたくはない。お前もそうだろう」

 その言葉を聞いてリョウは悟った。キースが復讐心を持つ限り、この基地の兵器と科学力を悪用しようとするだろう。そして、彼が司令官である以上、それを止める手段はない。もう、事は今ミサイル発射を止めるかどうかではないのだ。
 どうあってもこの基地を破壊しなければならない。

「……だめだ。残念だが、俺は今のお前が信用できない。基地はこのまま破壊する」
「お前も一緒に死ぬというのか」
「覚悟はできてるさ。自分たちの兵器でこの時代の人たちが殺されるのを見るよりましだ」
「バカなことはよせ。この基地があれば、世界は我々の思うままにできるのだぞ」

 キースさらにレイガンを突きつける。その表情には焦りの色が見えた。

「何を言ってもお断りだ」
「……フン、どうしても解除コードを教えないのなら仕方がない」
「どうするつもりだ?」
「手足一本ずつ、レイガンで撃ち抜いてやる。どこまで苦痛に耐えられるのか見ものだな」
「……お前、本当に変わったな」
「やかましい。さあ、教えろ。まずは右足から行こうか」

 そう言って、レイガンを右足に狙いを定めた。

「3つ数えるまで待ってやる」
「……」

 リョウも覚悟を決めた。脅しではなくキースは本当に撃つだろう。もう、彼は昔の彼ではないのだ。

『リズ。オミクロン波の発動を頼む』
『了解』

 リズに命じて、リョウは急いで呪文を唱える。

「大気に眠る水よ。我が捧げる祈りに応え、万物の根源である汝の力を、我に使わしめ給い……」

「ん? 何の世迷言だ?」

 キースは、最初、それが魔道の呪文だとは気がついていなかった、リョウに魔道が使えるなど夢にも思っていなかったということがあるだろう。しかし、さすがにこの世界に30年も住んでいたせいか、それが呪文であることに気づいた。

「も、もしや……、それは……?」

「……凍てつく氷柱となりて、仇なす者を貫け」

 リョウは、呪文を唱え終わると、両手を上に突き上げた。
 その瞬間、彼の頭上が青白く発光し、冷気とともにいくつもの氷柱が現れる。
 それは先日のものとは比べ物にならないくらいの大きさと数だった。
 悪夢のように見上げるキース。

「ハッ」

 リョウが両手を振り下ろすと、氷柱は、風を切る音を響かせながら、猛烈なスピードでキース目掛けて飛んでいく。

「うわああ」

 キースが慌てふためいてレイガンを撃ちまくる。何条もの光線が放たれ、次々と氷柱を破壊する。だが、そのうちの一本が彼の胸を刺し貫いた。

「ぐふっ」

 キースは呆然とした表情で、自分の胸に突き刺さった氷柱に目をやった。そして、レイガンを床に落とし、緩慢な動きで氷柱を両手で抜き取ろうとする。だが、掴もうとした瞬間、氷柱はまるで最初からそこになかったかのように消えた。そして、そこから血が溢れるように流れ出す。
 彼は、胸を押さえながら、顔を上げた。

「ぐうぅ、な、なぜだ。なぜ、お前に魔道が使える? か、科学者ともあろうものが、ま、魔道など……」
「それは違うぜ。魔道は、あやしい力でも何でもなく科学の法則に則って発動してるんだ。ただ俺たちが、その力を解明していなかっただけだったんだよ」
「ど、どういうことだ?」
「俺は、魔道を分析した。そして、ある程度の理論は分かった。だから、今の呪文も、俺がBICを使って科学的に出したんだ。別に魔道士の修行を積んだわけじゃない。しかも、知ってるか? 魔道の力の根源は、ダークマターとダークエネルギーなんだぜ。俺たちがろくに正体すら掴んでないのに、この時代の人たちは使い方まで習得したんだ」
「な、何だと……、そ、そうだったのか……、クッ、そ、そんなことなら私も……」
「魔法使いになれたのにな」
「あ、ああ。そ、そうだな、フフ、ざ、残念だよ……、グフッ」

 口から血を流し、キースは崩れ落ちた。床に血が広がっていく。

「……」

 リョウはかつて親友だった男の亡骸を、ただ悲しみの気持ちで見つめた。
 最後にキースが見せた表情、あれは復讐に身を滅ぼされた男の顔でも、残忍な人殺しの顔でもなかった。自分が信じていた科学を使って魔道を研究しようとする姿勢になれなかったことへの後悔、そして、科学を駆使して呪文を発動する自分を想像して、微笑んだのだと思えた。

(やっぱり、お前も科学者だったな)

 最後の最後に、かつてのキースの面影を見た気がして、リョウは少しだけ慰められた気がした。

『リョウ、急いで。時限爆弾のタイマー発動まであと8分よ』

 リズの声が彼を現実に引き戻す。

(おっと、急がないと)

 今の状況を思い出し、再びコンソールに向き直る。感傷に身をゆだねるのは脱出してからでも遅くない。

 しかし

「そ、そんな……」

 リョウは目の前の光景に愕然とした。

 目に飛び込んできたもの。それは、キースのレイガンに撃たれて激しい損傷を受けたテレポーターだった。氷柱を撃とうとして放った光線が直撃したのだ。

 操作パネルからいくつもの煙が上がっている。小さな放電もそこかしこで起こっていた。焼き焦げた跡も見える。
 テレポーターが使えなくなったのは明らかだった。
 
 リョウは、今度こそ本当に脱出の手段を失ったのだった。
 


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...