ボクのおじさん探偵は調子パズレでいつもヘトヘト 『ディドリームビリーバーとハードディズナイト』

Ann Noraaile

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第4章 魔界チェルノボグ・サーカスでの彷徨

36: 暗黒のシャンバラへ

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 猪豚の次は河童、、そして額にワッカのある煙猿。
 これじゃ、まるで西遊記だ。
 ・・じゃぁこの僕は三蔵法師なのか?
 三蔵法師はテレビドラマの世界じゃ、ずーっとノーブルな顔立ちをした女優が演じるものと決まっている。
 そしてハゲヅラが似合う女優は数少ない。
 僕は男子で、一度、女子に化けて、もう一度、男子になるわけだから、三蔵役の女優が男装をしてる状態との関係は、、えーい、もういいや。

 今度のメイクは、普段とは違う感じの女子に見えるように、かなり変化を付けている。
 ウィッグも付けてないし、、まあ一種の変装だ。
 というのは、例の猪豚が、僕を捜し求めているからだ。

 噂によると、猪豚が僕を捜しているのは、僕に痛めつけられた復讐の為にというより、どうやら僕にずっぽり填ってしまって、四六時中発情状態にあるからなんだとか。
 どちらにしても、まだまだ捜査の続く僕にとっては迷惑な話だった。
 けれど、猪豚が動き回ってくれているお陰で、僕はあらたな情報を掴む事が出来た。
 まあ情報と言っても、都市伝説のようなものだ。

 臓器を抜き取った後の人体を剥製にして、その人体剥製を展示する秘密クラブがあるらしい。
 これに関係する殺人の動機につては、臓器が目的でそれを抜き取る為に人を殺すのか、それとも剥製にする為に人を殺し、その死体から臓器を抜き取るのか?それははっきりしないという事だった。
 でもそんなグロい話はどうでも良くて、、、問題は、その秘密クラブに、時々、煙猿が顔を見せるということだった。

 で、そのクラブのオーナーが、「河童」だった。
 この「河童」、なんと、元は刑事だったとか。
 「河童」と呼ばれるこの男、刑事時代に、綺麗な女性の死体を見て、現場検証の最中なのに勃起して歩けなくなったという話が残っているらしい。

 そんな話だけを聞くと、随分間抜けな男のように思えるが、この刑事の凶暴ぶり悪徳ぶりのエピソードは、山のようにあって、その中には作り話と思えぬような妙にリアルなものまで混じっていた。
 それに、刑事を辞める前の数年間は、かなりディープな潜入捜査をやっていて、そこでミイラ取りがミイラになり至極危険な暗黒人間に堕ちてしまったのだという。
 そしてそれらの逸話が、彼が主催する人体剥製秘密クラブの存在に箔を付けているのだ。

 「河童」というのは、この元刑事の存在が、都市伝説的に広がってから付けられたあだ名のようで、元は沙悟浄と呼ばれていたらしい。
 日本人はテレビ好きな国民だから、この元刑事、沙悟浄を演じてきた過去の男優達の風貌のいずれかに似ていたに違いない。
 少なくとも太った男や、明るい性格の男には、沙悟浄の名前は与えられないだろう。

 ちなみに、沙悟浄の首に掛けられている九つの髑髏は、全て三蔵法師の前世の髑髏なのだそうだ。
 三蔵は、下界に転生させられてから、これまで九回も天竺に経文を取りに行く旅にでていて、そのいずれの時も流沙河で立ち往生している。
 つまり三蔵は、なんと都合九回、沙悟浄に取って喰われていたわけになる。
 三蔵は十回生まれ変わる間、一度も射精したことがない聖僧であった為、妖仙達の間で三蔵法師を喰えば不老長生となると考えられていたようだ。

 色んな意味で、三蔵法師は僕とよく似ている気がした。
 だから僕は、三蔵法師が十回目のチャレンジで宿敵の沙悟浄を部下にしたように、今回の調査では「河童」を、なんとか僕に協力させたいものだと思っている。



 黄昏時の夢殿三区から見える十龍城は、まるで巨大な黒牛がうずくまっているように見えた。
 十龍城が黒牛なら、この街は、その黒牛が放りだした糞尿だ。
 夢殿三区は、十龍城が鳴り物入りで華々しく誕生した時には、そのおこぼれを預かろうとし、十龍城が今のような姿に変わり果てた今では、その黒い威光を傘に着て生き延びている薄汚い街だ。
 裏十龍の住人はアウトサイダー達だが、夢殿三区に巣くう人間達は正真正銘の犯罪者で、この街で息を吸い込むだけで、胸にぽっかりと黒い穴があく。

 それでも人々が、三区に引き寄せられるのは、ここには十龍城とは、又、違った黒い魅力があるからだ。
 十龍城の内側には、選ばれた者しか入れないが、三区にそんな拒絶はない。
 なぜならこの街は「穴」だから。
 人のあらゆる欲望を飲み込み、吸い込んでいく、、、河童はこの街にいるらしい。

 今、僕は三区のど真ん中の街角に立っている。
 僕の手の平は、緊張で汗だらけだ。
 しかもあのミスター・スポッキィに又、会っていた。
 ミスター・スポッキィにまつわる都市伝説でも、彼に二度会った人間のことなど出てこない。
 しかたがないから、僕は軽く頭を下げて挨拶をした。
 ミスター・スポッキィは、それに満足してくれたのか、今度は例のダブルピースサインを出さずに闇の中に消えてくれた。

 僕は、今時流行らないパンクメイクとファッションで決めて来たが、そんなものは、この街では虚仮威しにもならない事は充分判っている。
 頼りと言えば、半分破れかけたポケットに突っ込んであるブラックジャックに、アクセサリー代わりに見せかけたメリケンサック、、。
 両方とも武器としては非力なものだ。
 いざとなれば暴漢に対して、この身体を差し出すことも厭わない覚悟でいたが、それだけに見合う発見が、この街とあの都市伝説にあるのだろうか?


 そんな思いに囚われている僕の側を、一台の高級外車が追い抜いていったが、何を思ったのか数メートル先で急停止した。
 車の後部座席の窓が開いて、そこからいかにも上流階級の子弟然とした顔立ちの青年が、頭を突き出してこちらを向いた。

「ヘイ、お嬢ちゃん。こんな所一人で、歩いてちゃ物騒だぜ。この車に乗らない?」
 精一杯悪ぶった口調に、デザインカットされたヘヤースタイル、、ご丁寧にファッショングラスまでかけている。
 その存在自体が軽くて甘い、こんな人間はこの街には似合わない。
 しかしこんな奴でも、潤沢な金さえあれば、この街で「安全」に遊べる。
 それが三区の特徴だ。

 この時、僕はこの坊やを利用する事に決めた。
 河童の経営する秘密のモルグバーをこの坊やに探させるのだ。

「鷹匠澄斗だ。よろしく。」
 どうだい、名前まで格好いいだろう、と言わんばかりのにやけ野郎の差し出す手を無視して、僕はレザー張りの後部座席にするりと潜り込む。
 もちろん、多少の笑顔付きでだけど。
 言っちゃなんだけど、僕の笑顔は凄く男好きがするらしい。
 僕の背後で、わざわざ運転手が車から降りてきてドアを閉めてくれる。
 灰色の詰め襟服を着込んだ、刈り上げ頭の頑丈で強そうな男だった。

 瞬間、僕は、この前、所長が勧めてきたビンテージ・アクションドラマの「グリーン・ホーネット」を思い出した。
 主人公のグリーン・ホーネットの助手である武道の達人カトーを、若い頃のブルース・リーが演じて出世作になったやつだ。
 この二人が乗る自動車が、66年式「クライスラー クラウン インペリアル・ル・バロン」という黒塗りの凄い高級車で、これを運転するのが助手カトーという具合だった。
 ちなみに、主人公達はこの車をブラックビューティー号と呼んでいる。

「えーっ、凄いんだ。運転手付きなんだね。」
 鷹匠クンの視線は、時々、僕の破けたジーンズから覗き見える白い肌に吸い付けられている。
 太股のジーンズのすり切れは計算尽くだ。

「・・ああ、それもボディガード兼のね。さあ、何処に送ればいいんだい?可愛い子猫ちゃん。」
「あはは、もしかして子猫ってあっしのこと。そうねぇ、特別アテってないのよね。なんか面白いことないかなぁって、ぶらついてただけだし。」
 僕の手は、甘えたの子猫の顎のように、もう鷹匠君の膝の上にノッかっている。

「無茶するなぁ、この子猫ちゃんは。」
 鷹匠君は、自分の膝の上にさり気なく置かれた不良少女の手のひらが、誘いのモーションなのか、ただ開けっぴろげな性格の現れなのかを、猛烈な勢いで判断している筈だった。

「だったら今夜、僕につき合わないか。退屈はさせないと思うよ。」
「げーっ、それってナンパぁ?でも上手くすると、玉の輿に乗れたりしてぇ。」
 僕は置いた時と同じように、さり気なく手を引っ込める。
 鷹匠君は爽やかにそれを見逃してくれる。

 いやだぁ、こいつ、男相手に駆け引きしてやがる。
 吹き出しそうになるが、それをぐっと我慢した。
 それにこの鷹匠君、僕の股間にペニスを発見しても、喜んでそれを受け入れるタイプの男のような気がした。
 ・・まあ、とりあえず、今はこのおぼっちゃまを取り込んでしまう事が先決だった。

 僕は急に黙りこくって窓の外を見た。
 夕暮れの時は終わりかけていて、辺りは蒼から黒に色が変わり始めている。
 もちろん外の景色を見るのが目的じゃない。
 次の投球の為のセットアップだ。

「実を言うとね、、この街のどこかに、人間の死体の剥製を見せ物にしてる秘密クラブがあるんだって、、、今日はそれを見つけに来たわけ。それ手伝ってくれると嬉しいな。」
 僕は、自分が一番可愛く見える顔の角度で、鷹匠君へ振り向き、おまけにもう一度、彼の膝の上に手を置いてやった。
 今度は、手のひらからフェロモン波動を放射する。

「ああ、、そうだね。それ、面白そうじゃん。」
 ボディガード兼運転手とやらが、運転席で軽い咳払いをする。
 わざとらしく左手を丸めて口の前に持って行く。
 その手首に腕輪数珠が巻いてあるのが見えた。
 それはやめておけという合図らしいが、僕の可愛い唇から転がり出た言葉を、拒否できる男は滅多にいない。

「じゃ、話は決まりだ。三区で困った時はソーヤにお任せだな、剛人君。」
 ソーヤ?タケヒトクン?一体、誰?
 でもそれは僕に言ったのではなく、運転手に指示した言葉のようだった。



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