ボクのおじさん探偵は調子パズレでいつもヘトヘト 『ディドリームビリーバーとハードディズナイト』

Ann Noraaile

文字の大きさ
38 / 85
第4章 魔界チェルノボグ・サーカスでの彷徨

37: 危険なシンデレラ

しおりを挟む

 初めて同性の男とキスをした。
 そして、やったのか?
 あれは夢オチでしたなんて言いたくないのだが、本当に判らないんだ。
 熱でうなされていたしな、、。
 しかし、なんとも言えず不思議な感じがしたし、正直に告白すると、恐ろしく興奮した。
 途中まで行ったのは確かだと思う、、それでもやっぱり俺とマリーは、結ばれなかった。
 ・・・と思う。
 本当は定かではない。やっちまったような気もするが。

 俺はシュレーディンガーが考えた箱の中の猫で、蓋はまだ開けられていない。
 肌を深く合わす前に、自ら身を引いたのはマリーの方だった。
 ・・・と思う。何度も言うが、本当は定かではない。
 それにゴォークを駆動させているのは俺ではない。
 マリーがあの行為の途中で、蛇喰への自分の想いを思いだし、それを大切にしようとしたのだろうか?それも判らない。
 何もかもが判らないのだが、、俺の肌はマリーを憶えていた。


 とにかくそんな事があった翌日、すっかり熱が引いた俺は、マリーに教えて貰ったパスワードと、非常通路に入る為の鍵を持って、白目十蔵の部屋の前で張り込みを続けていた。
 思い立ったが吉日というか、決行を伸ばしたら、ズルズルと何もしない状態になるのは自分の性格から判っていた。
 涙目探偵、、、クソっ。

 パスワードが今でも通用するのか、事前に確かめたい所だったが、30分間も総てのセキュリティが停止するようなテストなど出来るはずもない。
 一発勝負だったが、このパスワードでドアが開かなければ、そのまま引き返せばいいことでダメージは少ない。

 俺は裏十龍のありとあらゆる場所に仕掛けられた監視カメラの死角に潜みながら、ただひたすら白目十蔵が自分の部屋から出てくるのを待った。
 ここから一番近い非常通路ドアまで走って約3分、パスワードを打ち込むのに1分ほどかかったとして十蔵の部屋に進入を果たす為には7分は必要だ。

 マリーの言葉を信じるなら、残り23分で十蔵が隠し持っている筈の人体臓器を盗み出すか、損傷させなければならない。
 盗み出しても処理に困るのが目に見えていたが、対象が人間の臓器だけに、簡単にその場で傷つければ良いとも思えず、どちらにするかは未だに決め兼ねていた。

 ここのマンションは、内側からでも許可された使用者として認知されなければ、そのドアは開かない。
 つまり30分以上、俺が十蔵の部屋に留まっていれば、俺は奴の部屋に閉じこめられてしまう可能性があった。

『不確定要素ばかりだ。・・いつもの俺なら十蔵と飲み友達になるまで接近して情報を集めてる。奴が一番大切にしてるものだって既に判っているワケだし、入室の認証権も十蔵を丸め込んで奴から直接貰っているかも知れない。それが俺のやりかただ。ところがどうだ。このざまは、、これじゃまるで蛇喰に都合がいい、使い捨ての操り人形じゃないか。』

 張り込みの間中、俺の頭の中では、そういった堂々巡りする愚痴めいた思いと、リョウの晴れやかな笑顔ばかりが交互に浮かんでは消えていた。
 男とだって寝れる、、、それは昨日の夜、マリーとの絡みで確証を得た。
 いや、得た、筈だ、、。
 ・・・本当の意味でリョウを愛せるかも知れない。
 これからは自分を誤魔化さないで、リョウとつき合っていける筈だ、、、早く、仕事を終えて、この城を出たい。
 そんな気持ちだけが、今の俺を動かす唯一の原動力だった。


    ・・・・・・・・・


 鷹匠君がソーヤと呼んだ人物は、三区の奥まった場所にあるバーのマスターの名前だった。
 漢字で書けば「宗谷」とでもなるのかも知れない。
 どうやらこの人物、バーのマスターとしてより、外部の人間が三区でディープな遊びをする時のガイド役というのか、便利屋で有名らしい。
 三区ではあらゆる事が、お金になるのだ。

 そのソーヤに対して、僕が持ち出した物騒な夜遊びを成立させる為に、交渉に入っているのが、剛人、、タケヒトクン、つまりあのボディガード兼運転手だった。
 剛人がソーヤと店の奥まった事務室で密談を交わしている最中、我らがおぼっちゃまクンは何もせずに、僕に自分の腕をぴったりくっ付けながらカウンターで酒を飲んでいた。

「タケヒトって、よく働くのね。あっしなら、てめぇ自分の事は自分でしろよ、ぐらいは澄斗君に言ってるよ。」
 なれなれしくも、もう澄斗君だ。
 僕が男なら(実際に男だけど)こんな女は絶対に信用しない。
 けれど男は、遊ぶなら「こんな女」と遊ぶんだ。

「あっ、、剛人ね。それだけの金を払ってるからね。判るかい?世の中ってそんなもんだよ。第一、世間のみんなが畏れるこの街だって、金持ちには優しい。なぜだか判る?それは僕たちが金を払い続けるからさ。ここは本物の悪党が多くて助かるよ。強盗して、僕らの高々数万の金とカードが入った財布を盗み取るよりも、よってたかって相手の財産を長い間つまみ食いする方がいいって判ってるわけさ。もちろんその為には、こっちも、僕は金蔓になる間抜けな金持ちですってゆー名札を付けとかないとやばいけどね。」

 この坊やは、一体、お金の事をどう考えているんだろう?
 諏訪光先輩の爪の垢を煎じて、注射器に入れてこいつに打ってやりたかった。
 貧乏人には何もやるな、という金持ちの台詞があるらしいけど、そのまったく逆を言ってやりたかった。

「・・ねえ、それより、その服、なんとかしない。今夜、一晩だけでいいからさ。」
「こんな格好じゃ、澄斗に釣り合わない?でも、お金ないよ。」
 ワザと僕は澄斗に肩をぶつけてやる。
 それにさり気なく「クン」を外した。
 この辺りの駆け引きが難しい。
 ひっかけやすい女と思われれば安くみられるけれど、いつまでも望みなしの女では、一晩勝負の出会いでは芽がでない。

「だから、さっき言ったろう。この世は金次第。金持ちがキングさ。そのキングが言うんだ。それにノッかればいいじゃん。そうと決まれば、早速行こう。三区ならではの面白いブティックがあるんだよ。僕の知ってる子達は嫌がるけどさ。君ならきっと似合う。」
 おぼっちゃまクンは、さりげなく僕の手を握ってスツールから降りる。
 たぶんそのまま、握った手は離さない筈だ。
 それにしても「僕の知ってる子達が嫌がる服」を、なんで僕なら喜んで着るわけ?
 『お前、この時点で失点1、きっと何処かで泣かしてやるぜ。』
 その時の僕はそんなふうに、これから起こる事の成り行きを軽く予想していた。


 姿見の中に、ピンヒールとシーム付きのストッキング、黒のなめし革のマイクロミニスカートに幅ひろのエナメルベルト、上は絹のブラウスに毛皮のショールをかけた少女売春婦が立っていた。
 ウィッグのトゲトゲ頭がアンバランスで結構いけてる。
 高級娼婦ファッションがモチーフ?
 確かにどのアイテムにしても細部には凝ったデザインが施されているけれど「ファッション」を名乗る程ではない、笑わせる、こんな服、娼婦そのものじゃん。

 けれどさすが三区だ。
 世話をしてくれる店の女の子に、僕の真っ平らな胸を見せてウィンクしたら、精巧な偽乳セット付きで黒いレースのブラを用意してくれた。
 それに僕が自分で作った、シリコン製の前用と後用のパッドが裏に縫い込んである女装用パンティを発見して、しきりと感心し、「ブラとのバランスが悪いけど、それはそのまま履いておく方が良いわね」とさえアドバイスされた。
 どうやらこの店の子は、鷹匠クンと僕との間に勝手なストーリーを作り上げて楽しんでいるらしい。
 シンデレラな女装少年に騙された王子様とか、まあその妄想は当たらずとも遠からずだけど。

「お着替え済みのお洋服はどうされます?」
 預かって置いて、と言う前に鷹匠君がこう遮った。
「処分してもらいなよ。前のパンクがいいなら、又、俺がもっといいやつ準備するからさ。」

 買って貰った高級娼婦使用のハンドバッグの中には、メリケンサックも含めて主要なものは既に移し替えてある。
 店員の女の子と僕は顔を見合わす。
 そこで交わされたアイコンタクトの中身は、「グッドラック」と「馬鹿な男よねぇ」の二文字だが、鷹匠君はそれに気付かない。
 店内の時計を見た。
 夜中の12時近い、僕は危険なシンデレラになろうとしていた。




 ソーヤの店に戻った時、剛人はようやく交渉を終えていたようだ。
 剛人は思い切り不機嫌な顔をしていた。
 彼は、どんな交渉をしても、自腹を切るわけではないのだから、金銭面以外で個人的に引っかかる何かがあったのだろう。
 彼と顔見知りになって数時間間しかたっていないこの僕にさえ、それぐらいの事は判るというのに、鷹匠クンは、いかにも待ちかねたと言わんばかりに結果はどうだった?と、剛人をせかせるだけだった。

「澄斗さん。私は今回の遊び、あまり賛成できません。」
 この時、僕の前では頷くだけの剛人が初めて喋った。
 ・・・渋い声、この人、凄くしっかりしてる、、声だけで判ることもあるんだ世の中には、、これからこの人を呼ぶ時は、「剛人」じゃなくて「剛人さん」にしよう。

「危険ですよ。下手をすれば、お父様のお立場に影響を与えかねない。」
 そういうことか、、、いくらリッチな家だって、こんな放蕩息子一人の為に、運転手兼ボディガードなんて専属で張り付けたりはしない。
 つまり剛人さんは、鷹匠クンが火遊びに出た時のお目付役ってわけだ。

「、、、だったら尚更、僕は行く。これは命令だ。」
 こちらも、又、今までに見せたことなない鷹匠クンの気色ばんだ口調だった。
 よくありがちな、父親に反抗する屈折した金持ちの坊や、、、僕的には剛人さんの味方だけど、僕には僕の別の目的がある。
 事態がすっ転んで、どこぞの大金持ちである鷹匠パパに累が及ぼうと、知ったこっちゃない。
 で僕は、鷹匠君の腕に可愛くしがみついた。
 剛人さんの僕に対する心の中の舌打ちが聞こえて来そうだった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

(完結)姑が勝手に連れてきた第二夫人が身籠ったようですが、夫は恐らく……

泉花ゆき
恋愛
蘭珠(ランジュ)が名門である凌家の嫡男、涼珩(リャンハン)に嫁いで一年ほど経ったころ。 一向に後継ぎが出来ないことに業を煮やした夫の母親は、どこからか第二夫人として一人の女性を屋敷へ連れてくる。 やがてその女が「子が出来た」と告げると、姑も夫も大喜び。 蘭珠の実家が商いで傾いたことを口実に、彼女には離縁が言い渡される。 ……けれど、蘭珠は知っていた。 夫の涼珩が、「男女が同じ寝台で眠るだけで子ができる」と本気で信じているほど無知だということを。 どんなトラブルが待っているか分からないし、離縁は望むところ。 嫁ぐ時に用意した大量の持参金は、もちろん引き上げさせていただきます。 ※ゆるゆる設定です ※以前上げていた作の設定、展開を改稿しています

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処理中です...