ボクのおじさん探偵は調子パズレでいつもヘトヘト 『ディドリームビリーバーとハードディズナイト』

Ann Noraaile

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第4章 魔界チェルノボグ・サーカスでの彷徨

44: セーフハウス

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「あんたが裏テンロンに潜入してる間に、ここらで最近あった、変わった事?。、、夢殿三区の酔象川の川原あたりで何かドンパチがあったらしいな。あそこじゃ珍しくもないだろうがな。昔の俺なら、それ以上の情報が入って来てたが、今の俺じゃ、まあ、そんなもんだ。」

 数歩先を歩きながら、俺の質問に答えてくれた阿木のアフロヘヤーの先端が、力のある夕日のせいで、陽炎のように揺らめいて見える。
 その襟元は黒いシャツで、さらにその上着は白いスーツだった。
 ただしそのスーツの袖口から出ている手は、金のチェーンで飾られてはいるものの、コンビニのビニール袋を幾つもぶら下げているから、少し間抜けな感じがする。

 その袋の中身は、俺達の数日分の食料だ。
 いや、もしかしたら「俺達」ではなく、俺一人だけに用意されたものかも知れないが、、。
 パンパンに膨れあがったコンビニの袋の上に、ブルボンのチョコブラウニーの端っこが顔を覗かせている。
 何か要望がないかと聞かれたから、ブルボンのチョコブラウニーがもしあったら買っておいてくれと、俺が冗談で言ったのだ。
 あれは工場ラインから吐き出されるチョコブラウニーにしては滅法美味い、、。
 酒やコーヒーに良く合う。
 これから行くセーフハウスで、そんなものを味わっていられる生活が待っているかどうかは判らないが。

 ここは位置的に言えば、大阪湾湾岸造成地の何処かだ。
 それもUSJとか海遊館等がないほうの、キーやんの歌う大阪ベイブルースが似合いそうな場所だと思う。
 空気の中に微かだが、重油と潮の匂いが混じり込んでいる。
 一度だけ、道すがらに「○○番地」の街区表示板を、何かの建物の壁に見つけたが、大阪に土地勘のない俺には意味がなかった。

 俺は、廃工場跡の敷地を、両左右の後方に別れて遅れてついて来る、いかにもチンピラ然とした二人の若者達を振り返り、愛想良く手を振ってみせる。
 俺はその挨拶に、ハローキティの純白さの笑顔を追加したが、彼らに通用したかどうかは判らない。

 若者たちには、阿木ほどの箔こそなかったが、抜き身の刃のような凶暴さがある。
 それが街の単純なチンピラとは、少し違っている部分だった。
 そしてその若者の一人は、リョウにどことなく面差しが似ていた。
 リョウと同じく女性と見紛う美少年と言って良かったが、それをわざとリーゼントの髪型や胸元の開いた派手な柄シャツで誤魔化そうとしているようだった。

 二人の若者は俺の仕草に、どう反応していいのか判らず、視線を泳がせている。
 どうみても俺は彼らより年上だ。
 しかも、その身辺警護を、組の上から仰せつかった人物なのだ。
 そんな人間から、愛想をヘラヘラ振りまかれたら確かに困るだろう。

「悪いね、、人手を割いてもらって。」
 俺は前に向き直って阿木に言った。

「軽いな、あんた。蛇喰さんからは、あの裏十龍を陥没させた男だと聞いたんだが、」 

 そうさ、俺は軽いんだ。
 そういう軽い男だから、金に目が眩んで、あんたらの親分に乗せられ、我が愛すべきアウトサイダー達の塒を潰しちまったのさ。

 特にマリーの気持ちを思うと複雑な気持ちになった。
 裏切り者といえば、マリーもそうなるのだが、彼女に裏十龍を裏切らせたのは蛇喰だ。
 俺なら、リョウと自分の何か大切なモノを、天秤に掛けられる様な事になったら、どうするだろう?
 マリーのように、蛇喰を選ぶのだろうか?

 俺達の行く道筋に見えるのは、コンクリート壁と味気のない金網フェンスの連続で、巨大なコンテナが幾つも積み上げてあり、この場所が、人の住む場所でない事を嫌と言うほど教えてくれる。
 そして夕焼けの空に、又、あのUFOが浮かんているのが見えたが、俺はもう慣れっこになっていて、気にもならなかった。

 俺達が乗ってきた車は、5分ほど前に、この広大な敷地に設置されたゲートの前に置いて来た。
 この敷地に入り込む為に、超えなければならないゲートは、車でも強行突破しようと思えば乗り入れられるような簡単ものだったが、俺達は律儀にもそこで車を降りて、ここまで歩きで移動してきたのだ。

 おそらくこの広大な工場廃墟は、神代組の所有地なのだろう。
 アコギな手段で手に入れたは良いものの、現金化が出来ずに持て余している内に、それなりの使い道が出来たという所か。

「、、それに俺の舎弟に変な愛想をふるな、奴ら困ってるぜ。」
 阿木は意外に楽しそうに言った。
 それなりに、ジョークが理解できるヤクザのようだった。
 ジョークを理解するヤクザはアフロヘヤーをしている、、俺の脳内データベースに付け加えておこう。
 いやひょっとすると、阿木は黒人の血が少し混じっているのかも知れない。
 肌の色の褐色が深い。

「これからお世話になるんだ、後ろの彼らとも仲良くしようと思ってね。それに一人は俺の知り合いによく似てる。可愛い方だ。」

「ちっ、あんたホモっ気があるのか?・・それにしても、まったく邪魔くせぇ、話だ。この歳になって、人を守ってやる側に、また回るとはな。」

「ほう、阿木さんは、攻撃専門ですか?」

「へっ、攻撃専門か、、ゲームみたいな言いぐさだな」

 阿木相手に、だらだらと軽口を叩いている俺だが、正直、胸ん中は穏やかではなかった。
 裏十龍の俺への報復が、どのような形で始まるのか予想もつかなかったからだ。
 今のままだと、事務所にも帰れないし、リョウにも会えない。
 周囲の人間を巻き添えにする訳にはいかないからだ。
 裏十龍から逃げ出し、暫くリョウに会えないでいる俺の頭の中で、リョウの姿が美しく何倍にも膨れ上がっていた。
 そして時には、その姿があの二人のマリーに変化していた。

 リョウにこれ以上、迷惑はかけられない。
 十蔵が、いや裏十龍がきっと復讐にくるだろう。
 俺は一体何の為に、この仕事を始めたのか、、、リョウに自分のいいところを見せる為か?
 報酬金でリョウと一時の甘い夢を見るためか?
 蛇喰の依頼は果たしたものの、煙猿の調査は一向に進まず、沢父谷姫子の消息などまったく掴めていない。
 なんなんだ、俺のこのザマは、、。

 この世界ではトラブルを抱え込んだら、頼りなく見えても結局は警察に頼るのが一番良いのは、探偵業の経験から判りきっているのだが、今回の場合、いかに治外法権である裏十龍の内の事とは言えど、「罪」を犯したのは俺の方だった。
 俺は結局、蛇喰に頼るしかなかったのだ。

 蛇喰は俺の為に、阿木を始めとする用心棒付きの隠れ家を用意してくれた。
 匿われている期間の目安は、裏十龍が内部崩壊すると言われている二週間だった。
 実際には、俺が裏十龍で種を蒔いてから、もう数日経っているから二週間も必要ないだろう。

 裏十龍の残党のカタは俺が付けてやるから、暫く我慢しろと蛇喰は言った。
 やくざにしては良心的な対応だった。
 おそらく俺は、裏十龍に残った最後の潜在戦力を外界におびき出す為の餌として使われるのだろうが、それでも蛇喰の庇護は、今の俺には有り難い話だった。



 阿木は、他と比べるとやや小規模で、周囲の建物から独立した箱形の倉庫の前で立ち止まりポケットから鍵を取り出した。
 その倉庫は、ほかの倉庫と違って機密性が高そうだった。
 本来は薬品や可燃物の類を保管する目的のものだったかも知れない。
 ほとんど窓がない。
 一つの壁面に小さいものが一つ、申し訳程度の窓があったが、その位置は高く格子がはめ込まれているようだった。
 アクセサリー程度の明かり取りなのだろう。
 倉庫の中には阿木と俺だけが入り、二人の若者たちは外に残った。


「ここにはバスユニットもあるし、簡単な調理器具もある。冷蔵庫もテレビも、、、組が用意したものだ。外には俺たちがいる。一本しかない鍵は、あんたに渡す。これからは内側からしか開け閉めができない。食料は俺たちが調達する、その他、、、ケンタを抱きたいってのは無理だが、大概の用事なら、俺たちが済ませてやろう。」
 阿木の部下の内、可愛い顔をした方を、彼らはケンタと呼んでいるのだろう。
 その口調から阿木の部下に対する暖かさが感じられた。

「人を入れる時は、必ずモニター付きのインターホンで確認しろ。」
 阿木は振り向きもせず、自分の背後にあるドアの方向を親指で指して言う。
 阿木の肩越しにインターホンの受信部が壁に取り付けてあるのが見えた。
 入る時には気づかなかったが、玄関にはレンズ付きのインターホンがあったのだろう。

 それにしても随分なれた指示の仕方だった。
 この倉庫にかくまわれた人間が、過去に何人もいたのだろう。
 確かに、この敷地内なら、昼間から銃撃戦が行われても、警察に通報がいくのは数時間後になるような気がした。
 街中から1時間以上離れているという距離の問題以上に、ここは生活上の消費生産のルートそのものから見放されたような場所だったからだ。

 続いて、阿木は倉庫の中央におかれたスチール製のテーブルの上に、買い込んだ食料の詰まったビニール袋を置くと、さらにその横に、自分の白いスーツから取り出した拳銃をゴトリと添えた。

「これはあんたのだ。使い方は知っていると聞いている。予備の弾はいるかい?俺の分を回してやる。同じのを使っているからな。」
 どうやら俺は阿木に、気に入られているようだ。

「いや結構。あんたたちがいてくれるんだ。これはお守りとしては十分すぎる。」

「・・なら、いいがな。ここにつれて来られる時点で、あんた、状況としては相当厳しいんだぞ。」

「いくら拳銃があっても、あんたらが突破されるくらいなら、俺はそれを防ぎようがない。」

「まあ、そういうことかな。しかしそう長くはかからないだろう。蛇喰さんが動いてるんだ。・・そうそう、後はこれだ。ホットラインって奴だな。隠れている間、このスマホ以外の情報は信用するな。」
 阿木は思いだしたように、自分のポケットから真新しいスマホを引き抜くと俺にそれを差し出した。
 例のスマホ型トランシーバーは神代組に返上させていただいた。

「あんた、自分のスマホ持ってるんだろ。これは蛇喰さんと俺だけに使うんだ。俺たちの分の登録は済ませてあるから、誰からの着信なのかは目で見てわかる。できれば、自分のスマホも使わない方がいいとは思うがな。人間、喋れば喋るほど、自分では気づかないうちに、いろんな情報をまき散らすことになる。あんたの居場所は、今のところ誰にも知られていない。その状況を大切にしろ。」
 居場所を知られていない、、あんたら神代組以外はな、、という言葉を俺は飲み込んだ。







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