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第1章 宇宙回廊の修理者
04: マップの疑惑
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「マモルか。通信状態がもう一つなんだよ。良く聞け。ターゲットは例のジッグラトの方向に移動しつつある。ダイビング直後から、こんなに早く動き始めた奴は初めてだ。よほど良質なダイビングポイントの情報を手に入れたんだろうな。繰り返す、ターゲットはジッグラト・・・」
唐突にゲッコからの無線が切れた。
だが、これでもまあまあの出来だろう。
こちらが、無事に特異点に入れた事を報告できただけでも上出来と言えた。
その報告がないと、現世側は何時までも、いらぬ心配をしなければならない。
逆に、通信は途絶えても不正侵入した人間は、特異点内部では一種の夾雑物であるから、特異点テクノロジーをそのまま拝借したレーダー装置・通称「マップ」で、その存在の追尾は可能だ。
そこが特異点と親和性の高いリペイヤーと一般人の大きな違いだ。
場合によれば、このマップ上に、普通の人間が特異点内部に潜り込む事ができる唯一の「綻び」、つまりダイビングポイントが示されることすらある。
ただしそのマップでも、夾雑物の生死までは判定できない。
活動中の安否が把握しずらくなる特異点内部でのリペイヤーと、管理管制官の関係は特別なものだ。
しかも管理管制官とリペイヤーの現場は正に、生死の向こうにある「あの世」であり、それに携わる人間は、常に強い緊張感を強いられている。
そこには他のどの職種にも見られない、独自で奇妙な連帯感が発生する。
命綱を握り合うような人間関係が熟成されるのだ。
「それにしても不法侵入で、こっちに着いた途端に、あの城塞ジッグラトとはな、、。ツいてる野郎だ。」
護がそう苛立たしげにゲッコに愚痴を漏らした。
特異点に侵入した人間は、ある特定の場所で「力」を得る場合が多い。
ゲッコは、護が展開する特異点内部世界の場合、それが「バベルの塔」の東南の方向に位置する、変動しないもう一つの「ジッグラト」だと考えていた。
「・・気持ちを切り替えろマモル。ツいてるのは、お前さんも一緒だよ。あのジッグラトなら、派手な追走劇を繰り広げる必要がない、、」
ゲッコの声だ。
通信が再び回復しかけて、又、切れた。
そう言われれば、確かに、お互いに運がいいのかも知れないと護は思った。
本当にジッグラトで、「生まれ変わり」が起こるとするなら、侵入者もこちらも余計な手間だけは、かけなくて済むわけだ。
ジッグラトというストライクゾーンで起こることは、ホームランか空振りしかない。
既に力を手に入れた人間を掴まえる事は困難を極めるし、逆に特異点内部における普通の人間は、リペイヤーの敵ではない。
どちらがホームランを打つことになるのか、後はタイミングの問題だけだ。
もちろん護は相手にホームランを打たれても、今まで何度も、逆転劇をやってのけて来たが、それら全ては悲惨な戦いだった。
しかし今夜はツイているような気がした。
『もし、もう一度、ここでゲッコとの通信が回復したら、あの事を聞いてみようか。』と護はふぃに思いついた。
あの事とは、「マップ」にまつわる黒い噂だった。
つまり犯罪者達が街で手に入れるダイビングポイントの元になる情報の出所への疑惑だ。
特異点に関する総ての情報は、機関によって完全に管理されている。
これを外部から入手するには、他国の国家情報組織レベルでも難しいとされているのだ。
その情報の一部が、高額とはいえ、街の一犯罪者が手に入れられる値段で売り買いされているのだ。
機関内部の人間から情報が漏れている可能性があった。
「マップ」に最も近い人間は管理管制官だった。
そしてその疑惑の中にはゲッコの名前もあった。
ただし護は、それを問いただして、別段どうしようと言うわけではない。
護は、リペイヤーとしての腕は一級品だったが、職業意識は低かった。
組織と仲間のどちらを選ぶと言われれば、迷うことなく仲間を選ぶ。
ゲッコに纏わる黒い噂を確かめてみようと思ったのも、正義感ではなく、ただ相棒として気持ちが悪かっただけだ。
もしそうだとしたら護は、売り渡すマップ情報は自分のターゲットに関わりそうなものだけにしてくれと、ゲッコに言うつもりだった。
あのゲッコが、マップ情報を売らざるを得ないのは、それなりの理由があるからだろう。
ならば、そのマップ情報で、特異点に入り込んでくる侵入者を自分が総て処理すればいい。
それで機構には迷惑はかからない、護はそう考えていた。
だが、通信は、護の本当の気持ちを反映してか、切れたままだった。
気を取り直した護は、マーコスLM500のヘッドを、彼が城塞ジッグラトと呼ぶ遺構に向けた。
エンジンが唸りを上げ、ヘッドライトが闇を切り裂いていく。
地の底には、巨岩を切り崩した石畳が延々と伸びている。
左右の遠景には、荒廃しつくしたような巨大都市の遺構と、それに食い込むように繁殖したジャングルが見える。
古代都市アスティカと、未来において滅び去った近代都市の混合世界、、それが護の特異点世界の基本型だった。
唐突にゲッコからの無線が切れた。
だが、これでもまあまあの出来だろう。
こちらが、無事に特異点に入れた事を報告できただけでも上出来と言えた。
その報告がないと、現世側は何時までも、いらぬ心配をしなければならない。
逆に、通信は途絶えても不正侵入した人間は、特異点内部では一種の夾雑物であるから、特異点テクノロジーをそのまま拝借したレーダー装置・通称「マップ」で、その存在の追尾は可能だ。
そこが特異点と親和性の高いリペイヤーと一般人の大きな違いだ。
場合によれば、このマップ上に、普通の人間が特異点内部に潜り込む事ができる唯一の「綻び」、つまりダイビングポイントが示されることすらある。
ただしそのマップでも、夾雑物の生死までは判定できない。
活動中の安否が把握しずらくなる特異点内部でのリペイヤーと、管理管制官の関係は特別なものだ。
しかも管理管制官とリペイヤーの現場は正に、生死の向こうにある「あの世」であり、それに携わる人間は、常に強い緊張感を強いられている。
そこには他のどの職種にも見られない、独自で奇妙な連帯感が発生する。
命綱を握り合うような人間関係が熟成されるのだ。
「それにしても不法侵入で、こっちに着いた途端に、あの城塞ジッグラトとはな、、。ツいてる野郎だ。」
護がそう苛立たしげにゲッコに愚痴を漏らした。
特異点に侵入した人間は、ある特定の場所で「力」を得る場合が多い。
ゲッコは、護が展開する特異点内部世界の場合、それが「バベルの塔」の東南の方向に位置する、変動しないもう一つの「ジッグラト」だと考えていた。
「・・気持ちを切り替えろマモル。ツいてるのは、お前さんも一緒だよ。あのジッグラトなら、派手な追走劇を繰り広げる必要がない、、」
ゲッコの声だ。
通信が再び回復しかけて、又、切れた。
そう言われれば、確かに、お互いに運がいいのかも知れないと護は思った。
本当にジッグラトで、「生まれ変わり」が起こるとするなら、侵入者もこちらも余計な手間だけは、かけなくて済むわけだ。
ジッグラトというストライクゾーンで起こることは、ホームランか空振りしかない。
既に力を手に入れた人間を掴まえる事は困難を極めるし、逆に特異点内部における普通の人間は、リペイヤーの敵ではない。
どちらがホームランを打つことになるのか、後はタイミングの問題だけだ。
もちろん護は相手にホームランを打たれても、今まで何度も、逆転劇をやってのけて来たが、それら全ては悲惨な戦いだった。
しかし今夜はツイているような気がした。
『もし、もう一度、ここでゲッコとの通信が回復したら、あの事を聞いてみようか。』と護はふぃに思いついた。
あの事とは、「マップ」にまつわる黒い噂だった。
つまり犯罪者達が街で手に入れるダイビングポイントの元になる情報の出所への疑惑だ。
特異点に関する総ての情報は、機関によって完全に管理されている。
これを外部から入手するには、他国の国家情報組織レベルでも難しいとされているのだ。
その情報の一部が、高額とはいえ、街の一犯罪者が手に入れられる値段で売り買いされているのだ。
機関内部の人間から情報が漏れている可能性があった。
「マップ」に最も近い人間は管理管制官だった。
そしてその疑惑の中にはゲッコの名前もあった。
ただし護は、それを問いただして、別段どうしようと言うわけではない。
護は、リペイヤーとしての腕は一級品だったが、職業意識は低かった。
組織と仲間のどちらを選ぶと言われれば、迷うことなく仲間を選ぶ。
ゲッコに纏わる黒い噂を確かめてみようと思ったのも、正義感ではなく、ただ相棒として気持ちが悪かっただけだ。
もしそうだとしたら護は、売り渡すマップ情報は自分のターゲットに関わりそうなものだけにしてくれと、ゲッコに言うつもりだった。
あのゲッコが、マップ情報を売らざるを得ないのは、それなりの理由があるからだろう。
ならば、そのマップ情報で、特異点に入り込んでくる侵入者を自分が総て処理すればいい。
それで機構には迷惑はかからない、護はそう考えていた。
だが、通信は、護の本当の気持ちを反映してか、切れたままだった。
気を取り直した護は、マーコスLM500のヘッドを、彼が城塞ジッグラトと呼ぶ遺構に向けた。
エンジンが唸りを上げ、ヘッドライトが闇を切り裂いていく。
地の底には、巨岩を切り崩した石畳が延々と伸びている。
左右の遠景には、荒廃しつくしたような巨大都市の遺構と、それに食い込むように繁殖したジャングルが見える。
古代都市アスティカと、未来において滅び去った近代都市の混合世界、、それが護の特異点世界の基本型だった。
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