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第1章 宇宙回廊の修理者
06: 切断と接合
しおりを挟む「おまえが話に聞いてたリペイヤーか?勝手に自分ですっころんで、今度は割れ目にツッコンだ腕が抜けないとはな。ずいぶんな間抜け野郎だぜ。」
護は反射的に腰の拳銃に手を伸ばした。
だが、そこに拳銃はなかった。
「・・なんだよそれ、さっきチャカは自分で抜いて失ったじゃないか。もう惚けちゃったのかい。」
男はうれしそうな顔をして、護の見覚えのある拳銃をベルトから抜き出して見せた。
護の大型拳銃だった。
拳銃はあの階段の踊り場で、サクリファイスとぶつかった時に落としたようだ。
つまりこの男は、護の転落を一部始終観察しており、しかも護が身動きとれなくなったのを見定めてから、ここに姿を現した事になる。
だが男はサクリファイスの事については言及しなかったし、『勝手に自分ですっころんで』と言った、男にはサクリファイスの姿は見えていなかったのかも知れない。
「特異点にダイブしてからの勝負は、二つあると聞いていたんだぜ。一つは化けられるかどうか、、まあこれは仕方がないな。そいつの運命ってヤツだ。もう一つは、お前らリペイヤーの存在だ。化ける前に、連行されるほど悔しい事はねぇからな。所がだ、俺の場合は、超まぬけなリペイヤーに出くわしたって訳だ。幸先がいいねぇ、、運があるんだ。本当の運ってのは、ギリギリの所で判るもんなんだよな・・ついでだ、もう少し楽しませてもらうよ。おたくも自分の運を試してみるといいぜ、、。」
男は拳銃をしまうと、ベルトにくくりつけてある弾倉クリップのような固まりを一つ外し、表面を弄ったかと思うと、それを護に見せつけた。
「タイマー付き爆弾だ。向こうの世界じゃ、逃げるとき、押し込みをするとき、結構役に立って来た代物だ。度胸なしと、まぬけににゃ使いこなせないがな。ここにダイブしてからの身の安全の為にと持ってきたんだが、、、。」
男は言葉をきって、何がおかしいのか、低く笑って、タイマー付き爆弾を出窓の奥に置き、今度は、護に最も近い出窓の位置に自分の身体を寄せた。
「それにこいつだ。特異点の中はジャングルやブッシュが多いと聞いてたんでな。良く切れるんだぜ。」
男は出窓の平坦な手すりの上に、いかにも凶暴そうな大鉈のグリップを、護の方に向けて置いた。
護は、男の顔を訝しそうに見る。
大鉈は、護が思い切り手を伸ばせば、もしかすると届く距離にあった。
「ふん、勘だけは良いようだな。そうだよ。爆弾は4分後にセットしておいた。相当な威力だぜ。あんたは勿論、吹き飛ぶ。逃げ道はあるさ。この大鉈で、そこから抜けなくなった自分の手首を切り離せばいい。爆弾が爆発する前に、下に落っこちる事が出来れば、なんとかなる。もっとも痛みで失神でもしたら、爆発からは逃れられても、出血多量とかでおっちぬかも知れないがな。いずれにしても、根性勝負だよ。あんたに出来るかな?、、じゃあな、先を急ぐんでな。」
男は笑ったのかも知れない。
これ以上もなく顔を歪めると、男は出窓から姿を消した。
時間がない!!
護は再びの激痛を覚悟して、隙間にはまりこんだ左腕を引き抜こうとした。
腕からはなんの感覚もかえって来ず、その位置も微動だにしなかった。
斜め上にある大鉈の刃が鈍く光っている。
男の言った事が本当なら、爆弾の破裂まであと3分も残っていないだろう。
腕時計は左手首に巻いてある、実際の時間は確認できない。
残り時間で出来る事を考えて見た。
男の言った事しか出来そうになかった。
しかし男が言ったことがまったくのデタラメだったら、、。
爆発もないまま、護は男の嘘の為に自分の手を切り落とす事になる。
しかし、自ら自分の手首を切り落とす痛みと、自分の命は比べモノにはならない筈だ。
それでも護は躊躇し続けた。
ためらっている間にも時間は刻々と過ぎていく。
自分で引き起こす壮絶な痛みと、不可避な爆発による死。
生き延びたいならどちらを選ぶか、やはり答えは決まっていた。
「根性勝負だよ。」という男が残した言葉と共に、あの試合の際のロバート長谷川の顔が浮かんだ。
いつだってそうだ、勝負は一瞬で決まる。
そして負けた時の代償は大きい。
護は雄叫びをあげながら、左手を中心に身体を振り出し、身体を目一杯開いて、右手で大鉈のグリップを握り取った。
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