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第1章 宇宙回廊の修理者
13: レズリーに睨まれる
しおりを挟む「思い出してくれたまえ、レズリー・ロー。特異点は、巨大かつ同時に極小だ。と言うよりも(点)に過ぎない。つまり大きさという概念から外れた所にある。それはどう説明する?そして、君の言う(みんな)の事だが、、、ノアの箱船が、地球上の総ての生命サンプルを積んだように、特異点は、リペイヤーに示すあの精神感応機能を応用して、地球上の総ての人間の心を積もうとしている、その為に特異点はこの星にやってきた、、つまり救済だ、、。そう信じているリペイヤーもいるらしいな。そんな彼らは、あまりナノロボット等の合理的解釈を信じていないようだね。つまり彼らは、特異点はもっと神聖で超越的な存在だと考えている。」
ヘンデルは楽しげにローの言葉を混ぜ返した。
「さあ話の先を続けてくれたまえ。藍沢君は、そんな解釈上のヨタ話はもう沢山だという顔をしてるぞ。」
「・・藍沢リペイヤーは、ジッグラトの麓で、砂に埋もれて意識を失っていました。彼は血だらけだったので、私はかなり動揺しました。特異点内部で、仲間の救出活動などをした事がなかったからです。しかし、すぐに気がついたのです。それは相手がリペイヤーだと思うからであって、普段、私たちは特異点に無断侵入してくる人間を掴まえ、連行しているのです。その際、こちらが傷を負わせた相手も、たくさんいます。つまりそう考えればいいのだと。」
「それで君は、藍沢特異点から離脱する際に藍沢ルートを使わず、逆進しながら自分の世界に、わざわざ戻ったのか。」
「自分の特異点進入路から、他人の特異点の内部に入り、出る時は他人のものを使うという事が、実際に可能なのかとても心配でしたし、そんな事をしたら、私のデバイスは藍沢世界では完全に迷子になるだろうと思ってもいました。それに虹は、元来た道を戻るという前提で、この私を導いたのだと考えましたから。」
「・・・うむ、君がその時抱いた懸念はわかる。だがいずれ、リペイヤーの内、誰かが、その突き抜けをやる事になるだろう。現に、藍沢リペイヤーは、デバイスを乗り継いだとはいえ、自分の入り口から入って、他人の出口からこちらに戻ってきているのだからね。」
この時、ヘンデルは、この査問会もどきの核心内容を口にしたのだが、それは護には判らなかった。
というよりも、護には、ヘンデルがこの審問で拘っている事など、重要でもなんでもなかったのだ。
「それが、そんなに大切なことなんですか?レズリーは俺を助けてくれました。それが重要なんだと思います。少なくとも、俺にはそうです。」
自分の名前が出た護は、またもや思わず口を挟んでしまう。
ゲッコのアドバイスも、レズリーの忠告もほとんど効果を失っている。
つまり護は、普通のリペイヤーなら決してやらないことをやって自分を救ってくれたレズリーに、彼自身が思っている以上に、強い恩義を感じていたのだ。
「特異点が作られた本当の目的は、未だに解明出来ていない。ただ、その移動原理や機能から見て、時空を遠く隔てた世界同士を繋ぐ通路のような側面を持っていたのは確かだろうと思う。通路なら、誰もが行って帰ってこれなければ意味がない。単純な一方通行では困るわけだ。それに、異世界同士を繋ぐのはいいが、訪問先がかならず訪問者が生存するに適した環境であるとは限らないわけだろう?同じように、異動先の異世界の住人が、逆にこの通路を使うときも同じ問題が起きる。まさか、いくら超絶的なテクノロジーを駆使したとしても、訪問先の一つの既存世界の環境を、丸ごと全部自分の都合の良いように、一瞬にして変えるなんて事は不可能だ。出来たとして、それは完全な侵略行為であるしな。そこで、君たちが使っている移動デバイスと、同調内部世界の考え方が出てくる。移動デバイスは、特異点内部専用だが、それのもっと大がかりなものを作って、そこに入って通路に接続された新世界に出向けばいい。巨大移動デバイス内くらいは、その使用者に合わせて環境を整えることは出来る、、、そう考えれば、君たちの特異点内部世界についての色々な謎が腑に落ちるだろう。今回の出来事は、そういう仮説を考えていく上で、非常に重要な出来事だったんだよ。」
ヘンデルは出来の悪い生徒に、高度な内容を理解させようとする熱心な教師のように、それだけの事をゆっくりと喋った。
「では、そろそろ藍沢君への質問に移る頃合いなのだが、その前に、最後にレズリー、君に一つ質問だ。」
「はい」
「君は、自分の世界で聞いた叫び声の正体を知るために、行動を起こした。結果は思いもよらず、藍沢リペイヤーの救出に結びついた訳だが、その叫び声の正体は、なんだったと思う?」
「あの声は、確かにジッグラトから聞こえたと思います。そして恐らくは違う世界の、、、つまり特異点本来の時空ゲート機能で、たどり着ける別の世界のものかと、、、一瞬だけ、ほんの一瞬、特異点の本来の機能が回復したのではないかと。そう推測する根拠はありません。ただ、私の感覚がそうなのではないかと、、。」
「みんなが言ってる、宇宙回廊説がやはり正しいか、、、だったら素晴らしいね、・・・・・判った。では藍沢君にうつろうか。」
今度は護の番だった、護は珍しく緊張している。
「ジッグラトの上部で侵入者を発見し、男を捕獲する為に俺、いや私は階段を駆け上がって行きました。頂上近くで男を掴まえたのですが、もみ合いの乱闘になりました。私は不覚にも、銃を奪われた上、階段の踊り場から突き落とされました。ですが、転落する直前に、なんとか壁面の凹凸にしがみつくことが出来ました。いや偶然、しがみつこうとした腕が、岩の間に挟まった感じです。侵入者は、そんな私を見て、加虐的な気持ちになったのか、自分が逃走用に持参したという時限爆弾を私の頭上位置にある踊り場の手すりに置いて逃亡したのです。爆発の時刻まで、予告されました。騙されているのかも知れないと考えたのですが、、実際はこう言った結果になっています。爆発と私が自ら凹凸を掴んでいた手を離したのは、殆ど同時だったように思います。それから後の事は、本部で手当を受け意識を取り戻すまで、何も覚えて居ません。」
サクリファイス王女の事は意識して伏せた。
「君は、どこかの時点で、悲鳴を上げなかったかね?例えば、頭上で爆発が起こった瞬間だとか。」
もちろん、この質問は、ローが聞いたという「叫び声」が、護のものだったのかどうかという確認の為だったろう。
「総ての事が、興奮状態の中で行われましたから、自分の行動については記憶が曖昧なのです、ですが、叫び声や悲鳴を上げたという事は、ないと思います。」
「藍沢君、君は学生時代、フルコンタクト空手の頂点を極めた男だと聞いている。それに、君たちの言い方では、ああ、なんと言ったか、夾雑物か。君の夾雑物の排除率は、リペイヤーの中でもずば抜けている。そんな君が、自分自身の特異点内部世界の戦いに、そうやすやすと負けるものなのかな?」
ヘンデルは、もっと他の何かを聞き出そうとしていた。
『お前は本当のことを全部喋っていない、それを言え、、、』
ヘンデルは、まっすぐに護の目を覗き込んでくる。
そしてこの会話は、神の目と耳を持つと言われているグレーテルも、どこかで聞いているのだ。
嘘が通用するとは思えなかった。
思えなかったが、なぜか護には、自分の左手の事とジッグラト内にいたあの女の事は口に出してはいけないという確固たる思いがあった。
それはゲッコが言った「特異点に関する切り札を握ったらそれをうまく利用しろ」とういうような入れ知恵のせいではなく、もっと心の奥から沸いてくる真実への直感に通じるものだった。
報告書を書いている時点でも、そういった気持ちはあったが、どうした事か、ヘンデルを目の前にしている今この時の方が、その思いがより強くなっていた。
護は、サクリファイス王女が見せた、あの世界の事を考えた。
自分が、あの世界を見た意味を考えた。
判らない、、ただ、ここでヘンデルに、つまり機構に、総てを話すために、あの世界が見えたのではないという事だけは判った。
「胴着を着、正式な場所で戦うのと、あのような場所で戦うのでは、いくら空手を身につけていても、その結果は変わってきます。武術の鍛錬をした事がないやくざ者でも、命のやりとりなら、有段者を軽くしのぐ場合もあります。」
それも嘘だった。
本物の武術の鍛錬を積んだ者は、やくざ者には絶対に負けない。
負けるときは、慢心がそうさせるのだ。
ましてや、護が選んだ武道はフルコンタクトの実践空手で、挙げ句の果てに、護は試合で人を打ち殺している。
あの男と、ああいった状況で出会わなければ、自分が拿捕に失敗したとは今でも護は思っていない。
「いいかね、藍沢君。私はこの聴取を行う前に、グレーテルも、ここでの話を聞いていると君たちに伝えた。たしか、そうだったね。」
「はい、仰るとおりです。」
「そのグレーテルに誓って、君の話総てに、虚偽はないと言えるかね?」
「その答えなら、総てを見通す神のようなドクターグレーテルが、既にご存じだと思います。」
「・・・なるほど。立派な答えだ。」
レズリー・ローが凄まじい目で護を睨み付けていた。
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