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第2章 「左巻き虫」の街
16: アドリブの効かない男達
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「そうか、、、これから裏切りのシーンになるって言う方向だけ決めて、後は台本なしのアドリブ展開だったのか、、。道理で、俳優さん達が突然の闖入者にも驚かなかった筈だ。」
「ええ、ウチの監督は時々そういう仕掛けをやるんですよ。俳優さんの方もそれを判ってるから、、」
事件発生当初の警官達より、少し遅れて現場にやって来た二人組の刑事の内、香坂と名乗った男の質問にカメラマンが受け答えしている。
もう一人の若い刑事は、鑑識の人間に煙たがられながら、現場をうろつき回っていた。
この現場へ最初にやって来た警官と刑事は、本格的な聞き込みを彼らに託し、引き続き初動対応の為の各方面への連絡や業務にあたっているようだった。
どうやらそれも、丹治の内々の指示らしい。
丹治は、香坂の刑事としての手腕を買っていたのだ。
監督は、波止場に止めてあるトレーラーハウスに引き込んだままだ。
現場の責任者は、監督だが、事件の一番の目撃者は、このカメラマンだ。
目的が通常の捜査ではないこの聴取は、彼だけで事足りる。
通常の捜査活動なら、いい加減そのものだが、このケースではこれでも充分過ぎる程だった。
どの道、この事件は、機構のものになるのは目に見えていたから、署に帰ってから丹治にそれなりの事を報告できれば十分だと香坂は考えていた。
警察として、犯人を掴まえる為の非常配備はひいてはいるが、特異点がらみでは、それも二つの理由で無駄に終わるだろう。
犯人の登場の仕方を見る限り、男は特異点からの帰還者である可能性が高い。
見つけ次第、射殺できるならまだしも、特異点で力を得た人間を、警察が掴まえる事は難しいだろう。
二つ目の理由は、こうしている間にも、この事件の捜査の実権は、機構に移りつつあるということだ。
「で、男の方は、どの時点で、そのつまりだな。その犯人が、自分が出くわしたのが、映画の撮影現場だってことに気がついたと思う?」
「二人を撃ち殺した直後のような気がしますね。普通、一般人は、遠くからこういう光景を見てるから、すぐに撮影だなってわかりますよね。でも犯人は、ちょうど映画のフレームのどまん中に、飛び出しちゃた訳で、しかも迫真の演技の真っ最中でしょ。何をどう取り違えたのか知らないけど、銃をぶっぱなした。」
これが普通の悲劇なら、このカメラマンも俳優達の死の直後にこれ程、饒舌には語らなかっただろう。
それほど、彼が見た光景は奇異で衝撃的だったのだ。
「馬鹿げた話だが、奴はヤクと現金を、横取りしようとしたんだな。」
「・・・でしょうね。で、撃ち殺した後の周りの人間の反応が、自分の予想と違ったんだろうな。多分、その時点で奴は自分の間違いに気がついたと思いますよ。」
おそらく犯人の方も、自分が撮影現場のど真ん中に飛び出した等とは夢にも、思わなかったに違いない。
それに、ダイビングポイントを使ったり、拳銃を所持していた事を考えると、犯人は普段からも犯罪からはそう遠くないところにいた筈で、映画の撮影現場よりずっとヤク取引の現場の方が日常に近かった筈だ。
早とちりだと、頭が冷えてから、周りの状況に気付いた、そんなところかと香坂は思った。
しかし丹治はあの映像を何回も見ていた。
もしかすると丹治は、この犯人を知っているのかも知れない、だとすると、自分もその人間を知っている可能性があると香坂は思った。
「周りは本物のギャング団やマフィアの人間じゃなく、只の俳優さんたちだからな。想像はつくよ。で奴はその後どうしたんだ?」
「カメラの方を見て何か叫んでました。僕がカメラのスィッチを切って、逃げ出したから、当然、カメラは回ってませんけどね。きっと、英雄気取りだったんじゃないですか、素振りが、そんな感じでしたから。」
香坂には、それにも納得がいった。
普通の人間なら、自分の勘違いで、これだけの悲劇を引き起こしたのだから、恥じ入るところだろうが、奴らにはそんな感覚はない。
「あんた、それを撮ってたら、一躍有名になったかもしれんよ。」
「まさかでしょ。特異点がらみの事は、みんな闇の中に葬り去られる。知ってますよ、それくらい。監督がナーバスになってるのは、目の前で起きた殺人の事もあるけれど、実はそっちの方が大きいんじゃないかな。」
「いくら機構でも、その程度の関わりで、一般人をとっちめたりしないと思うがな。第一、あんたらは被害者だ。」
「ウチの監督、昔、特異点がらみのセミドキュメントを撮るつもりで、動き回っていたんですよ。でもそれがすぐにばれて、機構から凄い圧力がかかった。」
「なる程、、、。」
『カメラマンさん、あんたも、その計画に深く関わっていたわけだ、だから事前に特異点に関する知識がそれなりにあったんだな。犯人が何もない空間から、ぽっかり現れでても、その事自体には、あまり驚かなかったわけだ。実際、碇では、とんでもない事がひっきりなしに、何度も起こるからな。』
香坂刑事がそう言葉を続けようとした時、現場に黒塗りの車が、三台滑り込んできた。
「噂をすればなんとやらだな。俺達の出番も、ここまでのようだ。」
香坂刑事は、事情を薄々知って動いている鑑識の人間達に撤収の合図を送った。
同じ警察の仲間達だった、、何をやっても、いずれ機構が横取りをする。
警察では使えもしない鑑識結果を、報告させられるなんて、彼らに二度手間は取らせたくない。
被害者には申し訳ないが、この事案に限っては、鑑識活動もそこそこでいい、後は機構が好きなだけやれば良いのだ。
「最後に、俺からのアドバイス、いいかね、」
「是非、、警察と機構が対立関係にあるなんて、、なんとなく安心しましたよ。」
「こうやって事件を目の前でかっさらわれて行くんだ、あたり前だろ。さあ、アドバイスだ。機構には、犯人が突然出現したのには本当に吃驚しましたって言うんだ。今でもワケが解らないとね。特異点のトの字も出さないことだ。奴らは、それもあんたの嘘だって見破ってるけれど、それで許してくれる。特異点は巨大な公然の秘密、、機構は、それが判っている人間には、牙をむかない。監督さんにも、そう伝えてくれ。俺は、監督の撮った(夜霧の悪徳警官)が気に入ってんだ。だから監督には、これからも長く映画を取り続けてほしいんだ。、、じゃあな。」
そう言い終わると香坂は、相棒の若い刑事を呼び寄せて、カメラマンに背を向けた。
香坂の頭の中では、丹治が知っている筈の、この事件の犯人の存在が妙に引っかかったままだった。
「ええ、ウチの監督は時々そういう仕掛けをやるんですよ。俳優さんの方もそれを判ってるから、、」
事件発生当初の警官達より、少し遅れて現場にやって来た二人組の刑事の内、香坂と名乗った男の質問にカメラマンが受け答えしている。
もう一人の若い刑事は、鑑識の人間に煙たがられながら、現場をうろつき回っていた。
この現場へ最初にやって来た警官と刑事は、本格的な聞き込みを彼らに託し、引き続き初動対応の為の各方面への連絡や業務にあたっているようだった。
どうやらそれも、丹治の内々の指示らしい。
丹治は、香坂の刑事としての手腕を買っていたのだ。
監督は、波止場に止めてあるトレーラーハウスに引き込んだままだ。
現場の責任者は、監督だが、事件の一番の目撃者は、このカメラマンだ。
目的が通常の捜査ではないこの聴取は、彼だけで事足りる。
通常の捜査活動なら、いい加減そのものだが、このケースではこれでも充分過ぎる程だった。
どの道、この事件は、機構のものになるのは目に見えていたから、署に帰ってから丹治にそれなりの事を報告できれば十分だと香坂は考えていた。
警察として、犯人を掴まえる為の非常配備はひいてはいるが、特異点がらみでは、それも二つの理由で無駄に終わるだろう。
犯人の登場の仕方を見る限り、男は特異点からの帰還者である可能性が高い。
見つけ次第、射殺できるならまだしも、特異点で力を得た人間を、警察が掴まえる事は難しいだろう。
二つ目の理由は、こうしている間にも、この事件の捜査の実権は、機構に移りつつあるということだ。
「で、男の方は、どの時点で、そのつまりだな。その犯人が、自分が出くわしたのが、映画の撮影現場だってことに気がついたと思う?」
「二人を撃ち殺した直後のような気がしますね。普通、一般人は、遠くからこういう光景を見てるから、すぐに撮影だなってわかりますよね。でも犯人は、ちょうど映画のフレームのどまん中に、飛び出しちゃた訳で、しかも迫真の演技の真っ最中でしょ。何をどう取り違えたのか知らないけど、銃をぶっぱなした。」
これが普通の悲劇なら、このカメラマンも俳優達の死の直後にこれ程、饒舌には語らなかっただろう。
それほど、彼が見た光景は奇異で衝撃的だったのだ。
「馬鹿げた話だが、奴はヤクと現金を、横取りしようとしたんだな。」
「・・・でしょうね。で、撃ち殺した後の周りの人間の反応が、自分の予想と違ったんだろうな。多分、その時点で奴は自分の間違いに気がついたと思いますよ。」
おそらく犯人の方も、自分が撮影現場のど真ん中に飛び出した等とは夢にも、思わなかったに違いない。
それに、ダイビングポイントを使ったり、拳銃を所持していた事を考えると、犯人は普段からも犯罪からはそう遠くないところにいた筈で、映画の撮影現場よりずっとヤク取引の現場の方が日常に近かった筈だ。
早とちりだと、頭が冷えてから、周りの状況に気付いた、そんなところかと香坂は思った。
しかし丹治はあの映像を何回も見ていた。
もしかすると丹治は、この犯人を知っているのかも知れない、だとすると、自分もその人間を知っている可能性があると香坂は思った。
「周りは本物のギャング団やマフィアの人間じゃなく、只の俳優さんたちだからな。想像はつくよ。で奴はその後どうしたんだ?」
「カメラの方を見て何か叫んでました。僕がカメラのスィッチを切って、逃げ出したから、当然、カメラは回ってませんけどね。きっと、英雄気取りだったんじゃないですか、素振りが、そんな感じでしたから。」
香坂には、それにも納得がいった。
普通の人間なら、自分の勘違いで、これだけの悲劇を引き起こしたのだから、恥じ入るところだろうが、奴らにはそんな感覚はない。
「あんた、それを撮ってたら、一躍有名になったかもしれんよ。」
「まさかでしょ。特異点がらみの事は、みんな闇の中に葬り去られる。知ってますよ、それくらい。監督がナーバスになってるのは、目の前で起きた殺人の事もあるけれど、実はそっちの方が大きいんじゃないかな。」
「いくら機構でも、その程度の関わりで、一般人をとっちめたりしないと思うがな。第一、あんたらは被害者だ。」
「ウチの監督、昔、特異点がらみのセミドキュメントを撮るつもりで、動き回っていたんですよ。でもそれがすぐにばれて、機構から凄い圧力がかかった。」
「なる程、、、。」
『カメラマンさん、あんたも、その計画に深く関わっていたわけだ、だから事前に特異点に関する知識がそれなりにあったんだな。犯人が何もない空間から、ぽっかり現れでても、その事自体には、あまり驚かなかったわけだ。実際、碇では、とんでもない事がひっきりなしに、何度も起こるからな。』
香坂刑事がそう言葉を続けようとした時、現場に黒塗りの車が、三台滑り込んできた。
「噂をすればなんとやらだな。俺達の出番も、ここまでのようだ。」
香坂刑事は、事情を薄々知って動いている鑑識の人間達に撤収の合図を送った。
同じ警察の仲間達だった、、何をやっても、いずれ機構が横取りをする。
警察では使えもしない鑑識結果を、報告させられるなんて、彼らに二度手間は取らせたくない。
被害者には申し訳ないが、この事案に限っては、鑑識活動もそこそこでいい、後は機構が好きなだけやれば良いのだ。
「最後に、俺からのアドバイス、いいかね、」
「是非、、警察と機構が対立関係にあるなんて、、なんとなく安心しましたよ。」
「こうやって事件を目の前でかっさらわれて行くんだ、あたり前だろ。さあ、アドバイスだ。機構には、犯人が突然出現したのには本当に吃驚しましたって言うんだ。今でもワケが解らないとね。特異点のトの字も出さないことだ。奴らは、それもあんたの嘘だって見破ってるけれど、それで許してくれる。特異点は巨大な公然の秘密、、機構は、それが判っている人間には、牙をむかない。監督さんにも、そう伝えてくれ。俺は、監督の撮った(夜霧の悪徳警官)が気に入ってんだ。だから監督には、これからも長く映画を取り続けてほしいんだ。、、じゃあな。」
そう言い終わると香坂は、相棒の若い刑事を呼び寄せて、カメラマンに背を向けた。
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