宇宙は巨大な幽霊屋敷、修理屋ヒーロー家業も楽じゃない

Ann Noraaile

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第2章 「左巻き虫」の街

19: 半年後

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 護は、連行してきた夾雑物を、特異点進入路側にある保安ブースに連行し、その身柄を保安員に引き渡した。
 簡単な書類交換の後で、保安員二人が挟むようにして壮年の男を連れ去っていく。
 その右目の周りには、くっきりとした痣があった。

 護が特異点内で男に負わせた打撲痕だった。
 その右目の下の頬が引き連れる。
 嗤ったのか歪めたのか、、とにかくその男は、保安員に連れ去られながら護に振り返って、こう言ったのだ。

「これが最後のチャンスだったんだ。あんたを怨むぜ。」
「・・・怨まれる筋合いは、ないな、むしろ感謝して欲しいもんだ。」
 護はそう返したのだが、その声が遠ざかっていく男に届いたかどうかは判らない。
 むしろその言葉を聞いたのは、護の隣にいたゲッコの方だろう。

「やれやれ、まだまだ不幸は続くのにな、、。特異点内部を一度でも覗き込んだ一般人は、秘密保持の為に、脳の一部を焼かれる。その記憶の消し方は、半端じゃない。人によっては、いろんな後遺症がでるそうだ。運良く力を得ても、リペイヤーに捕まれば、機構で実験材料として一生飼い殺しだ。護。お前さんはそう言う意味で怨まれても仕方ないんじゃないか。」
 ゲッコは、うんざりしたように言った。

「普通の人間が特異点の中で力を得る、、、見方を変えれば、人間が強烈な放射能に被爆して身体に異常をきたすのと同じ事だ。俺達、リペイヤーの中じゃ、夾雑物が力を得るのは、特異点と繋がるレシーバーみたいな癌細胞が、奴らの体内に発生するからじゃないかと考えられている。俺も、その点については同意見だね。奴らは、そういう後の人生を、政府に面倒見て貰えるんだ。やっぱり俺たちは、奴らに感謝されてしかるべきなんじゃないかな。」

「変わったな、お前は、、。」

「よしてくれよ、俺は昔から夾雑物には厳しかったし、あのドジの後から、生活が荒んだって訳でもないだろう。」

「ああ、相変わらず、拿捕率はトップクラスというか、いやダントツの成績だな、、お前、休養なんか全然取ってないんだろう?オフの時でも、機構の宿舎でずーっと待機したままだって話だ。」

「奴らがダイビングした直後は、暫くグレーゾーンにいる、俺達の内の誰に墜ちるかはまだ決まっていない。そういう時は、ルーレットが回るのを待たないで、奴らの真下にこっちから移動して、ネットを広げて待っていればいい。移動式の蟻地獄だな。」

「仲間の評判は、よくないぞ。そのやり方だと、人の獲物を横取りしてる可能性がある。」

「なんだ?わざわざそれを言うために、こんな所までやって来たのか。トンネルでいつでも話が出来るじゃないか。」

「あっちに行く直前は、誰もがナーバスになる。そんな場面で難しい話はしたくない。管制官としては当たり前だろう。それにお前は、最近仕事以外は、ずっと俺の事を避けている。ゆっくり話をしようとも、しない。」
 あんただけを避けてるわけじゃない、と思わず言いそうになった護だが、その場は、肩をすくめるだけにして歩き始めた。

「お前のことで、仲間内からサーフスターに色々と苦情が上がっているそうだ。彼は自分が動く前に、なんとかならないかと、俺に相談を持ちかけてきたんだ。」
 サーフスターはリペイヤー達にとっての直属の上司だった。

「まさか、この俺が夾雑物を横取りしてるとかで、文句垂れてる野郎がいるのか?俺達の仕事は、ノルマ制じゃないし、俺だって、こっちに墜ちてくる奴らを全員処理できてるわけじゃない。」

「それでも拿捕率は、リペイヤーにとって勲章みたいなものだ。」

「だったら俺みたいに、夾雑物がグレーゾーンにいる内にスタンバイすればいい。その時、夾雑物がどっちの世界に墜ちるかは、それこそ運の問題だ。」

「リペイヤーの中には家族持ちだっている。きちんとした勤務時間やシフトがあるから、私生活が成立するんじゃないか。」
 二人で並んで歩いていた護が、急に立ち止まってゲッコを睨み付けた。

「俺達はサラリーマンじゃない。それにサラリーマンだって、残業もあれば休日出勤もあるぞ、あんたは、わざわざそんな事を俺に言うために、ここに来たのか。」

「マモル、お前、銃も持たずに特異点に入ってるだろ。」

「銃は無くした、あんた知ってるだろうが、」

「いいや、銃はちゃんと支給されている。なんでそれを持っていかない!」

「武器は、あるさ、」

「特異点から拾って来たあの大鉈だろ。いつまで、あの事に拘ってるんだ。特異点の中で、侵入者に逃げられた事は、今までだって、何度かあったじゃないか?どうして今度のだけは、そんなに拘るんだ。」

「・・・・ケリが付いていない。あのドジだけはな。」

「特異点の中で力を得た人間が、もう一度特異点に戻って来るっていうケースはほとんどないだろ。だから、お前さんの頑張り方では、ケリの付けようが、ないんじゃないか?いくら拿捕率を上げてみたって、あの件は無くならない。そんな忘れ方なんかしたって無駄だってことさ!そんな無茶をやり続けたら、そのうち特異点に取り込まれるぞ!」
 ゲッコの言葉は最後、怒鳴り声になっていた。

 ・・・自分の命が欲しくて、俺は奴のいいなりになり自分の左手を切った。
 そんな事は当たり前だと思う自分もいれば、その左手が過去において他人の命を奪ったのだという思いもあった。
 更に、そんなゲームを、面白半分で仕掛けて来たあの男がどうしても許せないような、あるいは男の仕掛けたゲームにのった自分が許せないような、全てがない交ぜになった思いが護にあったのだ。

 それらの思いは、未だに護の中で整理が付いていない。
 そのもやもやを、護は拿捕率を上げる事で吹っ切ろうとしていたのだ。
 ゲッコが「お前は変わった」と言ったのは、まさにそれを指していたのだろう。

「、、、。」
 護の顔は無表情のまま凍り付いている。
 こうして年上の友人の偽らざる心情に触れると、自分が抱いていることなど、下らない拘りだと思わない事もなかった。
 だが、己が犯した過去の人殺しの罪を、事故だったと忘れ去ることが出来ないように、命ほしさに自分の手首を切ったこと、更に、そのような状況に追い込まれる侮辱を受けた事実は、忘れ去ることは出来ないのだ。

「、、もうすぐサーフスターからの呼び出しがあるだろう。これからは大人しく通常勤務で頑張りますと言え、それが、お前の為だ!」
 ゲッコは、そう言い残すときびすを返した。








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