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第2章 「左巻き虫」の街
27: 修羅王の謎
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香坂は、碇に現れた新造麻薬販売を先兵とする新興勢力の本体は、碇の外にあって、しかもその実態は思いもかけぬもの、例えば、この国を代表するような優良巨大企業、、そのようなものではないかと、見当を付けていた。
勿論、彼らの最終的な目標は、犯罪組織としての裏の顔を確立させ泡銭を稼ぐことではないだろう。
碇にどっかりと犯罪組織として根を下ろしながら、非合法な手段で、特異点テクノロジーからの利益を吸い上げることの筈だ。
おそらく丹治もそう考えているに違いなかった。
なぜ巨大企業が、そのような手の込んだ迂回路を使って、特異点テクノロジーを盗みだそうとしているのか、香坂には判らなかったが、丹治はその理由にも、ある程度の見当を付けているようだった。
たぶんそれは、犯罪者達が手に入れる特異点へのダイビングポイントが記されたマップと関係があるのだ。
特異点は多元的な存在だ。
宇宙回廊は、その一つの顔に過ぎない。
現に、特異点が現れた当初には、不治の病を治癒させるなどと言った様々な奇蹟を起こしているy。
現在、それらの管理は「機構」が、総てを掌握していると言われているが、もしかしたら特異点は、碇において別の顔を、人々に見せているのかも知れなかった。
「香坂さん、つきましたよ。」
「、、ん、何だって?」
「だから、ジムに着いたんですよ、」
「すまん、ついうとうとしちまった。」
「大丈夫ですか、寝ながら、なんかぶつぶつ言ってましたよ。地図がどうとかこうとか。」
「大丈夫だよ。」
そういいながら香坂は車を降りた。
目の前は小体育館を改造したような大沢ジムの入り口だ。
表向きはボクシングジム、裏ではナックルファイトのプロモートと興行をこなしているジムだった。
ナックルファイトは素手で殴り合って相手を倒し、その試合に観客が現金を掛けるという昔からある賭け事だが、時代が時代だ、今は金輪際、表舞台には出てこれない。
リング上でスパーリング中の選手に声を掛けていた大沢が、香坂らの訪れを知って嫌な顔をした。
「碇署の凸凹コンビが、又、何のようだ?」
大沢は、その肉厚で丸い肩に掛けていたタオルを、側にいた若い練習生らしい若者に手渡すと、事務所の方に歩き出した。
一応、香坂らの話を聞くつもりはあるらしい。
と言うか、ジムのど中で、いかにも刑事然としたこの二人に陣取られたくないのだろう。
香坂達は、黙って逢坂の髪の薄くなった後頭部を眺めながら事務所に入っていく。
「で、今日は何のようだ、、。」
「判っているでしょうが、、、ジョーキングの事についてお聞きしたい。」
香坂が切り出した。
「その事なら前にも話したろうが、ジョーキングは、昔この俺が直接トレーナーになって指導したボクサーだ。それ以上でもそれ以下でもない。」
「うんにゃ、ジョーキングはボクサーであると同時に、優れたナックルファイターでもあった。この前は、そこまで教えてくれたじゃないですか。俺ら、大沢さんの協力に、感謝してるんすよ。」
固い姿勢を見せる大沢に、響児が軽い口調で対応をする。
響児は、何故かこの大沢に気に入られている。
「感謝?バカを言うな。こっちが裏でナックルファイトをやってるのは、丹治の野郎は先刻承知だし、奴から暗黙の許可は得てる。それにジョーキングは、ここを随分昔におんでたままだ。だからお前達に、あのことを教えてやったまでだ。これ以上、痛くもない腹を探られたくないからな。」
「孤児同然のジョーキングを育て上げたのは、他ならぬ大沢さんだ。彼については、もっと色々な情報を持っている筈だ。それに今だって、大沢さんはジョーキングと接触があるって話を聞いたことがあるんですがね。」
普段、物腰の柔らかい香坂だが、今はフォロー役の響児が側にいるから、大沢に強く切り込んでいく。
「奴は、恩を仇で返して、ここを出て行った人間だ。奴が向こうから連絡をとって来るような事があったら、逆に俺が、きっちり責任をとらせてやるよ。」
「、、被害者は、この街の顔役だ。ナックルファイターが拳に巻く革ベルトの跡を顔中に刻印されて殺されている。」
「だから犯人はナックルファイターか?お前達刑事は、小学生並みの知能しかないのか?それとも丹治の野郎の部下になると、みんなそうなるのか?お前ら、この碇中のナックルファイターのその日のアリバイを全員調べ上げたって聞いたぜ。みんなシロだったんだろ?だから仕方なく、無理な引き算をやって、まだ見つからないジョーキングに的を絞ったてんなら、本当にお笑いぐさだ。いいか、この街には、サイボーグ手術でブーストアップした奴がゴマンといるんだぞ。奴らなら、それくらいの事は軽くやる!」
「だって、親父さん、ジョーキングが現役の頃は、相手の頭部にしこたまパンチをぶち込んで、完全にしずめちまうのが奴のスタイルだったんだろ。」
響児が取りなし半分の口調で、香坂と大沢の会話に入り込んでいく。
響児は格闘スポーツに詳しい。
しかも彼自身が学生時代に生半可ではないフルコンタクト空手に打ち込んでいた。
それが大沢が響児を好く理由の一つでもある。
「あのスタイルはジョーキングが好きこのんでやってたわけじゃない。相手の顔をパンチで潰していくと、観客がより興奮するからやれって言ったのは、この俺だ。」
「頭部はたしかに脆いんだけど、人間は顔面を本能的に防御するから、相手がプロだと、意外にそこを突破するのは難しいんですよ。実際の試合でのダメージは、ボディーブロウだったりするのが多い。そこんとこを、技巧を駆使して派手にやってのけるから、ジョーキングは凄いんだ。」
響児は頼まれもしないのに、大沢の言葉を香坂に補足してみせる。
「私は格闘技のプロじゃないから、その辺りの事はよく分からない。大沢さん。我々がジョーキングを一つの可能性として考えたのは、彼がナックルファイターだったからじゃない。殺されたのは、ジョージ・ナッシュ、あんたも知ってるだろう?ヤツの正体は麻薬の売人達の元締めだ。しかもナッシュは、この街の古株だ。普通だっら手は出せない。犯人は、そういう男を苛烈な意志を持って素手で撲殺した。そんな犯人像に合致する人間を調べていたらジョーキングが浮かび上がってきた。そういう事だ。」
「苛烈な男?あの修羅王か?ふん、くだらない。修羅王の正体が、ジョーキングだって言う根も葉もない噂を警察は信じているのか?第一、修羅王自体が、実在の人物かどうかも判らないんだろが?実際に存在するのは、修羅王の手下だと言われてる、どこにも所属しないジェミニみたいな過激なちんぴらどもの集団だけだ。」
「修羅王、スキンヘッドの頭に龍の入れ墨をした東洋系の男、、架空の男にしては、リアルすぎ。ジョーキングも東洋系ですよね。」
響児が又、くちばしを挟む。
「バカをいえ。確かにジョーキングは東洋系だが、それだけだ。東洋系と言えば、響児、お前だってそうだろうが。スキンヘッドのカツラだってあるし、頭をそってからタトゥシールだって貼れる。第一、もしジョージ・ナッシュの野郎を殺したのが、ナックルの関係者だとして、どうしてわざわざ身元が分かるように、拳にベルトを巻いたりするんだ?しむけてるんだよ。素人でも判る。」
なぜか大沢は、響児が相手だと子供じみてムキになる傾向がある。
それには、大沢がジムの選手達に常に我が子を可愛がるように接することと通底している部分があるようだった。
「・・・逆に、己の意思を誇示するために、そうしてる可能性もある。判る人間には、判るように宣戦布告をしたとも。」
香坂が意図的に、大沢を煽るような事を言う。
「ジョーキングの両親は、ヤクで身を滅ぼした。孤児になった奴のボクサーとしての才能を見込んで引き取ったは、この俺だ。それを隠しはせんよ。それぐらい、あんたらだって、とっくの昔に調べてるんだろうしな、、。だがジェミニの奴らは、新しい麻薬を碇に持ち込んでるって、噂じゃないか?俺の知ってるジョーキングは、麻薬を心底憎んでた。そんな奴が、わざわざ修羅王と名前を変えて、ジェミニ達の上に立つはずがない、、。」
大沢の顔が苦渋に歪んだ。
香坂と響児が、お互いの顔を見合せる。
今日はここらが引き際か、、。
今回の聞き込みにおいて、大沢の人情を揺さぶる役割を負っていた響児は、香坂への引き上げに合意する気持ちを自分の表情に強く込めた。
・・・これ以上、この話で大沢を苦しめたくない。
響児も又、大沢に負けぬ人情家だったからである。
勿論、彼らの最終的な目標は、犯罪組織としての裏の顔を確立させ泡銭を稼ぐことではないだろう。
碇にどっかりと犯罪組織として根を下ろしながら、非合法な手段で、特異点テクノロジーからの利益を吸い上げることの筈だ。
おそらく丹治もそう考えているに違いなかった。
なぜ巨大企業が、そのような手の込んだ迂回路を使って、特異点テクノロジーを盗みだそうとしているのか、香坂には判らなかったが、丹治はその理由にも、ある程度の見当を付けているようだった。
たぶんそれは、犯罪者達が手に入れる特異点へのダイビングポイントが記されたマップと関係があるのだ。
特異点は多元的な存在だ。
宇宙回廊は、その一つの顔に過ぎない。
現に、特異点が現れた当初には、不治の病を治癒させるなどと言った様々な奇蹟を起こしているy。
現在、それらの管理は「機構」が、総てを掌握していると言われているが、もしかしたら特異点は、碇において別の顔を、人々に見せているのかも知れなかった。
「香坂さん、つきましたよ。」
「、、ん、何だって?」
「だから、ジムに着いたんですよ、」
「すまん、ついうとうとしちまった。」
「大丈夫ですか、寝ながら、なんかぶつぶつ言ってましたよ。地図がどうとかこうとか。」
「大丈夫だよ。」
そういいながら香坂は車を降りた。
目の前は小体育館を改造したような大沢ジムの入り口だ。
表向きはボクシングジム、裏ではナックルファイトのプロモートと興行をこなしているジムだった。
ナックルファイトは素手で殴り合って相手を倒し、その試合に観客が現金を掛けるという昔からある賭け事だが、時代が時代だ、今は金輪際、表舞台には出てこれない。
リング上でスパーリング中の選手に声を掛けていた大沢が、香坂らの訪れを知って嫌な顔をした。
「碇署の凸凹コンビが、又、何のようだ?」
大沢は、その肉厚で丸い肩に掛けていたタオルを、側にいた若い練習生らしい若者に手渡すと、事務所の方に歩き出した。
一応、香坂らの話を聞くつもりはあるらしい。
と言うか、ジムのど中で、いかにも刑事然としたこの二人に陣取られたくないのだろう。
香坂達は、黙って逢坂の髪の薄くなった後頭部を眺めながら事務所に入っていく。
「で、今日は何のようだ、、。」
「判っているでしょうが、、、ジョーキングの事についてお聞きしたい。」
香坂が切り出した。
「その事なら前にも話したろうが、ジョーキングは、昔この俺が直接トレーナーになって指導したボクサーだ。それ以上でもそれ以下でもない。」
「うんにゃ、ジョーキングはボクサーであると同時に、優れたナックルファイターでもあった。この前は、そこまで教えてくれたじゃないですか。俺ら、大沢さんの協力に、感謝してるんすよ。」
固い姿勢を見せる大沢に、響児が軽い口調で対応をする。
響児は、何故かこの大沢に気に入られている。
「感謝?バカを言うな。こっちが裏でナックルファイトをやってるのは、丹治の野郎は先刻承知だし、奴から暗黙の許可は得てる。それにジョーキングは、ここを随分昔におんでたままだ。だからお前達に、あのことを教えてやったまでだ。これ以上、痛くもない腹を探られたくないからな。」
「孤児同然のジョーキングを育て上げたのは、他ならぬ大沢さんだ。彼については、もっと色々な情報を持っている筈だ。それに今だって、大沢さんはジョーキングと接触があるって話を聞いたことがあるんですがね。」
普段、物腰の柔らかい香坂だが、今はフォロー役の響児が側にいるから、大沢に強く切り込んでいく。
「奴は、恩を仇で返して、ここを出て行った人間だ。奴が向こうから連絡をとって来るような事があったら、逆に俺が、きっちり責任をとらせてやるよ。」
「、、被害者は、この街の顔役だ。ナックルファイターが拳に巻く革ベルトの跡を顔中に刻印されて殺されている。」
「だから犯人はナックルファイターか?お前達刑事は、小学生並みの知能しかないのか?それとも丹治の野郎の部下になると、みんなそうなるのか?お前ら、この碇中のナックルファイターのその日のアリバイを全員調べ上げたって聞いたぜ。みんなシロだったんだろ?だから仕方なく、無理な引き算をやって、まだ見つからないジョーキングに的を絞ったてんなら、本当にお笑いぐさだ。いいか、この街には、サイボーグ手術でブーストアップした奴がゴマンといるんだぞ。奴らなら、それくらいの事は軽くやる!」
「だって、親父さん、ジョーキングが現役の頃は、相手の頭部にしこたまパンチをぶち込んで、完全にしずめちまうのが奴のスタイルだったんだろ。」
響児が取りなし半分の口調で、香坂と大沢の会話に入り込んでいく。
響児は格闘スポーツに詳しい。
しかも彼自身が学生時代に生半可ではないフルコンタクト空手に打ち込んでいた。
それが大沢が響児を好く理由の一つでもある。
「あのスタイルはジョーキングが好きこのんでやってたわけじゃない。相手の顔をパンチで潰していくと、観客がより興奮するからやれって言ったのは、この俺だ。」
「頭部はたしかに脆いんだけど、人間は顔面を本能的に防御するから、相手がプロだと、意外にそこを突破するのは難しいんですよ。実際の試合でのダメージは、ボディーブロウだったりするのが多い。そこんとこを、技巧を駆使して派手にやってのけるから、ジョーキングは凄いんだ。」
響児は頼まれもしないのに、大沢の言葉を香坂に補足してみせる。
「私は格闘技のプロじゃないから、その辺りの事はよく分からない。大沢さん。我々がジョーキングを一つの可能性として考えたのは、彼がナックルファイターだったからじゃない。殺されたのは、ジョージ・ナッシュ、あんたも知ってるだろう?ヤツの正体は麻薬の売人達の元締めだ。しかもナッシュは、この街の古株だ。普通だっら手は出せない。犯人は、そういう男を苛烈な意志を持って素手で撲殺した。そんな犯人像に合致する人間を調べていたらジョーキングが浮かび上がってきた。そういう事だ。」
「苛烈な男?あの修羅王か?ふん、くだらない。修羅王の正体が、ジョーキングだって言う根も葉もない噂を警察は信じているのか?第一、修羅王自体が、実在の人物かどうかも判らないんだろが?実際に存在するのは、修羅王の手下だと言われてる、どこにも所属しないジェミニみたいな過激なちんぴらどもの集団だけだ。」
「修羅王、スキンヘッドの頭に龍の入れ墨をした東洋系の男、、架空の男にしては、リアルすぎ。ジョーキングも東洋系ですよね。」
響児が又、くちばしを挟む。
「バカをいえ。確かにジョーキングは東洋系だが、それだけだ。東洋系と言えば、響児、お前だってそうだろうが。スキンヘッドのカツラだってあるし、頭をそってからタトゥシールだって貼れる。第一、もしジョージ・ナッシュの野郎を殺したのが、ナックルの関係者だとして、どうしてわざわざ身元が分かるように、拳にベルトを巻いたりするんだ?しむけてるんだよ。素人でも判る。」
なぜか大沢は、響児が相手だと子供じみてムキになる傾向がある。
それには、大沢がジムの選手達に常に我が子を可愛がるように接することと通底している部分があるようだった。
「・・・逆に、己の意思を誇示するために、そうしてる可能性もある。判る人間には、判るように宣戦布告をしたとも。」
香坂が意図的に、大沢を煽るような事を言う。
「ジョーキングの両親は、ヤクで身を滅ぼした。孤児になった奴のボクサーとしての才能を見込んで引き取ったは、この俺だ。それを隠しはせんよ。それぐらい、あんたらだって、とっくの昔に調べてるんだろうしな、、。だがジェミニの奴らは、新しい麻薬を碇に持ち込んでるって、噂じゃないか?俺の知ってるジョーキングは、麻薬を心底憎んでた。そんな奴が、わざわざ修羅王と名前を変えて、ジェミニ達の上に立つはずがない、、。」
大沢の顔が苦渋に歪んだ。
香坂と響児が、お互いの顔を見合せる。
今日はここらが引き際か、、。
今回の聞き込みにおいて、大沢の人情を揺さぶる役割を負っていた響児は、香坂への引き上げに合意する気持ちを自分の表情に強く込めた。
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響児も又、大沢に負けぬ人情家だったからである。
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