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第5章 混沌王の創世
55: 『回天』を討つ
しおりを挟む「『曙の荊冠』とやらが言っておる方法は、特に目新しい考えではないぞ。以前のゲヘナの中でもチラホラと聞かれた方法だ。それが間違いであることは、アクアリュウムの腐敗によって証明されたではないか。又、怠惰の温床を作ってまわるのか?我々の方が、革新的ではないか。侵略ではない、援助だ。力のある国が、貧しさに喘いでいる国に手を差し伸べて何が悪い。将来的には、その国もアクアゲヘナの一部となるのだぞ。民のことを本当に考えていると言えるのか?反政府運動が聞いて呆れる。」
バルトロマイ・アルニア将軍が言った。
「まあ待て、バルトロマイ将軍、、。つまり彼らの主張の根本は、人間の自由意志の尊重にあり、私はそれを尊重していないという事なのだな?」
「仰る通りです。」
「なら、様子を見よう。、、民が私に付いてくるのか、『曙の荊冠』の考えになびくのか、いずれ、答えは判る事だ。彼らの活動については、実害が出る部分だけを抑えればいい。で『曙の荊冠』の主要メンバーの名前はなんという。」
「今のところリーダーを含めて詳しくは掴み切れていません。その名前と思想以外は完全な地下活動ですから。メンバーではないものの、あのクン・バイヤーが背後にいるという話もあります。今、ハッキリ判っているのは広告塔として派手に動き回っているレイチェル・奥田という若い女性の存在です。彼女の動向は追えますし、拿捕も出来ますが、組織側のガードが堅く、それを突破するには私達が引いている一線を越え、干戈を交えることになるでしょう。隠密理に処理は出来ません。腹を括って事を構えれば、逆に我々が彼らの指摘を気にしていると宣伝材料にされます。彼らはそういう情報戦に長けています。」
アレンは思いもよらない場面で出てきたレイチェル・奥田の名前を聞いて、その身を固くした。
そして光の壁近くで彼女と話し合った時、混沌王の対抗馬として、しきり彼女が口にした「あの人」を思い出した。
フィリポ・ベトサイダの話の流れからすると、やはり「あの人」とは、クン・バイヤーではなかったのだ。
自分の側に立っているアレンの動揺を見抜いたのか、混沌王は静かに言った。
「『曙の荊冠』については、この私が心にとめておく。、、取り敢えずの対処については、私が先ほど言った方向でいいね?」
混沌王は主にフィリポ・ベトサイダとバルトロマイ・アルニアの顔を交互に見、最後に全員を見渡した。
もちろん混沌王がこういう「言い方」をして、それに逆らうものはいない。
「はい。了解いたしました。」
フィリポ・ベトサイダは平坦に答えたが、その内心に不満があるようではなかった。
「次は、『回天』とやらだ。こっちはやっている事が、相当派手なようだね。この私の耳にも届いている。」
「はい、申し訳ありません。」
「なにもフィリポ君が謝る必要はないよ。我々は、この星を取り戻す為の同士じゃないか。足りない部分はお互いが補い合う。責任は、もっと大きな場面でとりあうものだ。」
その混沌王の反応に、居並ぶ十一人の男達の顔が少し緩んだ。
「私は、お許しが戴けるなら、こちらは直ぐにでも処断すべきだと思っています。王が大切にされている民の命ですが、その犠牲が最低限の数で済みます。『回天』は『曙の荊冠』とは違って思想のようなものはなにもありません。民の不安や昔に戻りたいという気持ちをただ煽っているだけです。直ぐに火が付きますが、しっかりした政が継続されれば勝手に消えていきます。問題は、そこに至る時間です。その間に、多くの被害と混乱が起こるでしょう。更に彼らがやっている事は、現政府組織の弱い部分に向かっての強奪行為でしかありません。その多くは、新政府にかた入れをしてくれている企業への見せしめを含めた強奪です。」
混沌王は、最初にアクアリュウムを覆っているママス&パパスを中心にした経済構造を解体した。
結果、現在はアクアリュウムは完全な自由経済になっている。
そこには各企業の新政府に対する賞賛と不満が渦巻いている。
おそらく『回天』への援助資金は、新政府に不満を持つ企業から出ているのだろう。
その程度の事は、アレンにも判った。
つまり『回天』の動きは、非常に判りやすいケースだと言うことだ。
「首謀者を叩けば、火は直ぐに消えるという目算があるんだね。」
「ええ、そうすれば現在の同調者さえも、あっというまに四散するでしょう。彼らは『曙の荊冠』とは違って、その程度の繋がりしかありません。」
「誰を叩けば良いのか、もう判っているのだろう?」
「ええ実働隊のトップである周騎冥です。回天のリーダーは叩いても意味はないでしょう。回天自体がそういう組織ですから。周騎冥は、もと李警備保障の社員でした。マシンマンでもあります。前の戦いでは、李が旧アクアリュウム軍に吸収されて、その中でも周騎冥は激しい戦いぶりを見せていました。」
アレンは周騎冥の名前を聞いて、自分の血が沸騰するのを感じた。
旧アクアリュウム軍と聞いてバルトロマイ・アルニアの眉が吊り上がったが、戦乱時にキングが招聘して軍に組み入れた李警備保障の事は、あまり記憶にないようだった。
あの時は、それどころではなかったというのが、バルトロマイ・アルニアの本当の所だろう。
「ほう李警備保障か、あれは私が特に力を入れて解体させた企業だからな。きっと私を恨んでいるだろうな。」
「いえ、周騎冥はそんな男ではありません。企業に押し込みを働くのも、金品に目が眩んでの事でさえないようです。ただ殺戮を楽しんでいるとしか言いようがありません。」
それを聞いた混沌王の目が底光りした。
後ろにいたアレンは、それが混沌王の正義感からではないのを知っている。
自分の庭に放たれた野獣を、自分の手で屠りたい、そういう感覚だった。
だがもちろん、今の混沌王はそれを口に出したりするような事はしない。
「わかった、君の思うようにしてくれ。だが、それで巻き込まれて命を落とす民の数は出来るだけ少なくだ。実戦上、その数をゼロに出来ないのは判っている。ただし、君の部下、それは私の部下でもあるのだが、そっちは一人たりとも欠損させてはならない。全部、君の手駒なのだから、それは作戦の立案で可能な事だ。その程度の事は、私が見込んだ男なのだ、当然、出来るな?」
「わかりました。」
混沌王の静かな凄みと静かな押しだった。
作戦実行にあたって、民の命が最優先などという戯れ言も言わない。
混沌王は、時々、なんの前触れもなくこういうやり取りをする。
だがそんな混沌王配下の公安を相手にしても、周騎冥は手強いと、アレンは思った。
そして、そんな成り行きなら、周騎冥はこの手で絶命させたいと願った。
混沌王の語り部という役割が、もどかしかった。
周騎冥は自分をこっぴどく痛めつけ屈辱を与え、キャップ老とチャリオットを殺した男なのだ。
そして自分は、あの時とは違うという気持ちも何処かにあった。
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