アンプラグド 接続されざる者

Ann Noraaile

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第一章 遺産 

07: ロイヤルロッカーの戦い

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 真言がオートバイを走らせている大通りの真正面に起立する建造物は、その昔、教会の大聖堂だったそうだ。
 この時代では、文化的価値など尊ばれなかった。
 経済効果が認めれられば、文化遺産であろうがなんであろうが、あらゆる建物が商業施設に転用されていた。
 この大聖堂の内部を改造して創られたのが、高級レンタルロッカールーム、通称ロイヤルロッカーだった。

 名称は庶民的だが、中身は違った。
 ワケアリ人間達専門の巨大貸し金庫と言った所か。
 銀行の貸し金庫の機密度よりも、このロイヤルロッカーは、それを専門にしているだけに安全精度が高いと言われる。
 又、契約料が高いと言う事だけでなく、ここと契約を結ぶためには、かなり名の通った法律資格を持つ者の仲介が必要とされていた。
 そこに厄介な物品を持ち込む人種達が持つ独自の権力が相互に絡み合い、この単純な貸金庫施設に一種の力場を与え始めていた。
 その結果、ロイヤルロッカーに納められている間、その物品には、一種の治外法権じみた権利さえ発生するのだとも言われている。

 今、保海真言はオートバイに乗って大通りを直進し、青空に突き刺すようなロイヤルロッカーの尖塔を見上げていた。
 彼の流囲には4台の銀甲虫の武装装甲オートバイが追走している。
 残りの4台は、保海の見えないところで彼らのバックアップに回っているのだろう。

(不審な大型輸送用ヘリが近づいてきている。本部は機体の照合を取れないでいる。保海を待避させるか?)
 直の追跡から、すこし遅れてのバックアップに回ったロックからの連絡がローズに寄せられた。
(こんな市街地の上空に大型輸送用ヘリ?でもって本部の照合が取れないだと?落とせ。落としちまうんだ。保海の進路は、このままだ。)
 市街地のど真ん中で大型ヘリを打ち落とす。
 どんな被害が出るか判ったものではない。
 しかしそれを敢えてやる。
 それが、権力が『銀甲虫を使う』という本当の意味だった。
 銀甲虫隊長のローズ自身が、誰よりもその事を理解していた。

(いよいよだな。)
 ロックが嬉しそうに言う。
(俺達を使うのは結局の所、デモンストレーションが目的なんだ。多少の被害なんて目じゃねぇ。派手にやってやる。アイスマンのひきつった顔が見物だぜ。)
 ローズがそう嘯いたとき、彼らの背後の上空が閃光に包まれた。
 ロックの武装オートバイが放った地対空ミサイルが、獲物を捉えたのだ。
 続いて、何か巨大なものが地面に激突する轟音が響いた。
 ローズは戦果など確かめる必要もないと言いたげに、自分の前を走る保海だけを見ていた。

(ローズ。ありゃ一体なんだ?)
 右翼にいたグリズリーがオートバイを反転させながら言った。
 ローズはバイザーの視野を前部と後部に分けた。
 後部の視野の中には、黒煙を上げている大型輸送ヘリコプターの残骸の中から何かが立ち上がろうとしていた。
(あれはパティオ戦で使われた補脚移動型戦車だ!)
 ゴリラが驚愕の声を上げた。

(気を付けろ。奴は子を産む!)
 ゴリラは、彼が幼い頃、自分の目でパティオの戦いを目撃していた。
 大きな巨大な八つの脚を持つ市街戦用の戦車は、そのいやらしく肥え太った腹から、自分とそっくりの小さな戦車を出産するのだ。
 ローズはゴリラが放った言葉の意味を瞬時に理解した。

(俺達四台は保海を囲み併走しながら、防御に入る。残りはあの蜘蛛をつぶせ。レベルDだ。)
 レベルDは市街戦を想定した戦いだ。
 民間人が戦禍に巻き込まれてしまう事を是認している。
 言い換えればレベルDを自己の判断によって発動できる事こそが、彼らを銀甲虫ならしめているのだ。

 補脚移動型戦車が駆動し始めた。
 その見てくれからは想像も出来ない、移動スピードだった。
 攻撃に回った四台の武装オートバイが包囲を縮めながら、小型ミサイルを浴びせかけている。
 目標を捉えきれないミサイルはなかった。
 しかし、戦車の移動速度は一向に落ちない。
 そしてその腹から真っ黒な細々したものが吐き出された。
 先頭を突き進む保海のオートバイの前の一般車両群は、突然の厄災を逃れようとパニックを起こしている。

(早く、ぶっつぶせ!)
(駄目だ。びくともしない!)
(弱音を吐くな。俺達は鬼と恐れられた銀甲虫だぞ!)
 近くの爆発と共に、ローズのバイザーの中の仲間の位置を知らせる光点が一つ消えた。
 誰かが死んだのか、誰かの外殻の機能が停止したのかのいずれかだった。

 バイザーの片面では、戦車の上部からせり上がった巨大な機関砲が、自分を取り囲む武装オートバイを凪払うように回転しながら凶悪な銃弾をまき散らしているのが見える。
 流れ弾が数十メートル離れたビルの壁面を、粉々に打ち砕いている。
 信じられない威力だった。
  ローズは次の戦局を予測しようとした。
  しかし、その暇は無かった。
 母蜘蛛から解き放たれた小さな破壊者達がローズ達の足下まで迫って来ていた。


 保海真言は、ロイヤルロッカーの前庭全体がせり上がって来るという非日常的な光景を目の前にしていた。
 緊急事態に反応して、ロイヤルロッカーの普段カモフラージュされている防護壁が起動し始めているのだ。
 真言は手近にある空荷の自動車運搬トレーラーを目敏く見つけ出して、その傾斜した荷台にオートバイを突っ込ませた。
  運良く停車中の自家用車を運搬するトレーラーの傾斜した荷台が手近にあり、それを使ってのジャンプが出来なければ、防護壁にオートバイごと激突していたに違いない。
 数十メートルに及ぶジャンプの着地は、オートバイの中のオートジャイロが何とかこなしてくれたが、着地のショックでマシン自体は二度と使いものにならなくなっていた。




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