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第二章 漂流漂着
26: HOKAIシステム
しおりを挟む「どの武術もそうじゃが、それらを極めれば極めるほど精神的なものに移行して行く。いくつかの宗教は、その為の方法として武術を発展させている。人間はその体内に広大な宇宙を秘めておるのじゃ。」
「けっ。まるでその精神世界の探求の為に研究をしているような口振りじゃねぇか?俺はあんたの過去を知っているんだぜ。あんたが金でどれだけの人間を殺して回ったか、俺が知らないとでも思っているのか?まあ、そのお陰であんたは貧民窟から這い上がり、物騒なスポーツトレーニングジムの会長に納まったて訳だがな。俺達のような人間にはあんたみたいな人間も必要だって事だ。」
「銀甲虫のお前に、この儂を非難する権利があるのか?」
流の顔色が青ざめた。
ここにも流の正体を知る男が、もう一人現れたのである。
流の身体が緊張した。
「止めておけ。この儂は、弥勒会議によって守られておる。儂は弥勒会議の正式な顧問だからな。言っては何だが、儂は銀甲虫の正体ごときを知った所で、警察権力に手出しをされるような存在ではない。」
「住む世界が違うとそう言いたいのか?」
流が色めき立った。
「いや。この世界には様々な現実があると、そういう事だ。世界は、目に見え、この手で触れる、それらだけで構成されている訳ではない。思念や意識下が支配する現実もあるのだ。弥勒会議はそう言った領域を預かっている。儂はその端くれにいるに過ぎない。」
グェンダナヤンは、流を挑発しておいて今度は流を宥めるように言った。
「一体、HOKAIシステムを巡って何が起こっているんだ。」
いったん起きあがりかけた流は再び椅子に体を沈めた。
「儂が、それをお前に教える必要が何処にある?」
老人の目が悪戯ぽっく光った。
流は、ギリリと歯ぎしりをした。
やり合うかこの老人と。しかし流がたとえ勝負に勝ったとしても、この老人は、自らの意志でない限りは、口を割るまい。
この老人は相手に肉体的な苦痛を与える全ての術を知り尽くし、同じ様に、それらを耐える術も身につけているのだ。
流は戦法を変えた。
この老人には秘密を持たない方がいい。
グェンダナヤンはある意味で世捨て人だった。
彼には通常の保身はない。しかし興に乗れば、計算外の答えが返って来るかも知れない。
「じいさん、よく聞けよ。あの坊やは、親父から余分なモノを引き継がされたらしい。例えば、厚みの全くない刀だ。未だに自分の目が信じられないくらいだ。二次元なんてものは概念上のものだと思っていたんだが、、。」
「二次元?会議ではそんな話は出ていなかったが、、。HOKAIシステムがとうとう突き抜けたのか、、。」
グェンダナヤンは呟くように言った。
二次元刀について、老人は深く追求しなかった。
既に思い当たる節があるのかも知れなかった。
「突き抜ける?どういう事なんだ。HOKAIシステムは単なるCUVR・W3ではないのか?」
「違うな。あれは、何というか、まったく別の世界に入り込むための一種の探査システムというかランチャーの様なものだ。会議メンバーの中の神秘主義者どもは、魔法陣とも呼んでいるが。CUVR・W3を使っての探査では、保海源次郎自身が一番優秀だったのかも知れない。保海は随分前に会議とは袂を分けている。会議を支配していたカオス理論が気に食わなかったようだ。それに元から組織の中で生きるような男ではなかったしな。会議はΩウェブ誕生の後から正式に生まれたものだ。離脱しようとする保海に対しての強制力もなかった。」
「今は、その別の世界とやらを、誰が探査しているんだ。」
「保海なき後は、ビッグマザーだ。ビッグマザーが十二の動的エレメントを使用して異世界を探査している。エレメントの中身は人間だよ。彼らはそれぞれ違う姿をCUVR・W3の中では身に纏っている。十二の動的エレメントの内、自分の役目を自覚しているのは一人だけだ。」
「そのビッグマザーの使うエレメントとは、アッシュ・コーナンウェイ・ガタナの事か?」
流は、ここに来てガタナの死を、そう判断した。
「儂はしらん。弥勒会議は余分な事を顧問団には伝えない。」
グェンダナヤンはその口調に少し悔しさを混ぜたようだった。
「弥勒会議に対する対抗組織はあるのか?」
「対抗組織だと?そんなものが。」と言いかけてグェンダナヤン老師は流の顔をまじまじと見た。
それから、流は保海真言に起こった事を、銀甲虫の角度からグェンダナヤンに説明してやった。
「戦車の焼け跡から出てきたモノもビニィなんだな?車で突っ込んできた時も、ビニィ。要するにその攻撃には人の手が介在していないという事だろう?お前は、相手が、自分の足取りを掴まさない為に、ビニィやプログラミングされたマシンを、使っていると思いこんでおる様じゃが、、。」
そこまで言われて流はようやく気づいた。
『ビッグマザーなら、、、合点がゆく。ビッグマザーは擬体重人格的存在だ。その内の一人が全てを企んでやがるのか?』
相手は国家や組織という生臭い存在ではないのだ。
又、そんなものが相手なら、銀甲虫達が巻き込まれた「戦名乗り」の様な、儀式めいた市街戦は必要なかったはずだ。
相手は巨大なくせに、子供じみた存在。
そして超国家的な存在である弥勒会議は、ビッグマザーとの共生関係故に、徹底抗戦を仕掛けられなかったのである。
だが流はまだ迷っていた。
ビッグマザーという巨大なコンピューターネットワークシステムは、人類が夢物語の中で悪役に仕立て上げてきた事に反して、実際には人類に敵対する行動に出る可能性が極めて低い存在だった筈だ。
しかしいくつかの矛盾点を抜きにすれば、現実的に銀甲虫がかり出された理由の決着はつく。
保海真言の護衛にあたるものは、ロボットやビニィではなく、中身が生身の人間である必要があったのだ。
少なくとも生身の人間はコンピュータには制御されないからだ。
「とにかく、真言に伝えてやることだ。もう深入りはするなと。真言が動けば、二つの対立するモノがどんどん動き出す。これは儂の直感じゃが、結果はろくなものにならんはずじゃ。今日、会った坊主が面白いことを言っておった。『人間が、えらい修練を経なければ、悟りの境地に到達できないのには訳があるのではないか?。』とな。儂も同じ意見じゃ、越えては成らぬ河を身近に引き寄せるべきではない。」
「老師。それだけでは、説明にならない!」
流は、思わず目の前の老人を老師と呼んだ。
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