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第二章 漂流漂着
32: 時空ハリケーンの後で
しおりを挟む戦いの最中、その異変を一番最初に感じ取ったのは、最もCUVR・W3に馴染みのあるイマヌェルだった。
床に転がっていたバールを拾い上げ、それを怪物の頭部に叩きつけようとした時、激しいラップ音が聞こえたのだ。
続いて地面が少しうねる感じがした。
イマヌェルが岩崎達に警告を与えようとした時、電気を流すような風が吹き始め、やがてそれは、あらゆる存在の中を激しく突き抜け始めた。
イマヌェルは自分の身体が、いやこの世界の全てのものが分解されると思った。
そして、時空のハリケーンとしか言いようのないものが終わった。
それは化け物達との戦いの最中に突然発生し、あっけなく終わったのだ。
「ここは、どこだね?」
辺りは暗い、しかし地下室の暗さではない。
どうやら夜のようだ。
返り血でどす黒く汚れた岩崎が草むらの中から頭を振って起きあがり、隣にいるイマヌェルに尋ねた。
極度の興奮状態から目覚めたばかりで、二人とも半分、放心状態だった。
岩崎の脳裏には、追い詰める直前に、時空嵐の中へ消え去ったブキャナンの高笑いが未だに鳴り響いている。
「判りません。こんな世界は第一レベルでは見たことがない。それにあそこからの転移の仕方が凄かった。、、初めての経験でした。自分の身体が、粉々に分解されて、ブキャナンの地下室から吹き上げられた様な感じがしませんでしたか?」
そう答えたイマヌェルの目は、無意識に忍・ハートランドの姿を探し求めている。
彼は先ほどの戦いの中で、何度もハートランドに窮地を救われていたのだ。
「彼女はあそこにいるよ。これでゆっくりと彼女とも情報交換が出来そうだ。」
岩崎は彼らの後方の草むらで澄み渡った夜空を眺めている女性を指さしていった。
その姿は、すさまじいばかりの星明かりのせいで全身が輝いているように見えている。
「こちらに来てくれんかな。お嬢さん。情けない話だが私は暫く動けそうにない。」
保海真言はその呼びかけに従って岩崎の元に戻ってくると、彼の側に腰を下ろした。
「星を見ていました。位置が奇妙です。」
真言の言葉にイマヌェルが急いで夜空を見上げる。
彼の白い喉仏がごくりと動いた。
「確かに違う。いや違いすぎる。まるでどこかの違う星から夜空を眺めているように見えますね。」
確かに、夜空には、人の手で掻き編められるかのような圧倒的な星の量があり、それらは不吉なぐらい怪しく輝いていた。
そしてそれらの位置関係は彼の知るどの星座にも当てはまらない。
「今なら、ビッグマザーが違う世界に進出する為になぜ、アルビーノ・ブキャナンの疑似人格を選んだのか判るような気がするわ。、、昔から、魔界や違う次元を呼び出すためには生け贄が必要だったでしょ。人間の恐怖、怒り、迷い、そういった暗黒面の凄まじいパワーが、精神世界の未知の扉を開けて来たのね。アルビーノ・ブキャナンはこの仮想現実世界で、そういった司祭の役割を果たすのに適役だったと言うわけ。そして、転移の穴が開いたあの場面で私たちをここに運んだのは、岩崎警部。貴方だったかも知れないわ。」
岩崎は自分の隣に座った奇妙で美しい女性の横顔をまじまじと見つめた。
「ブキャナンでなく、私が?」
「と言うより、貴方の情念のエネルギーの持つ指向性みたいなものかしら?」
「私の愚かな悔恨がか?」
岩崎が納得出来ないという顔で言った。
「愚かかどうかは関係ないのですよ。特質というか、その感情の方向性の事を言っているのです。話が少しずれますが、僕はブキャナンのガタナ殺しの動機は嫉妬だったんじゃないかと思っています。」
岩崎はブキャナンのガタナ批判が常軌を逸しており、ストーカーのそれに近かった事を思い出した。
「そして恐らく、殺しがあった時には、まだブキャナンはマスターとして生きていたんだと思います。その後、ブキャナンは死に、彼を基にした仮想人格はマスターから完全に独立した。でもその仮想人格はこの世界の入り口を開ける所までは行ったが、中には入れずに、ただCUVR・W3の中をうろつき回っていた。もしかしたら、ブキャナンの仮想人格に、自分の嫉妬心で人を殺すような愚かな情念が実装されていれば、この世界に入る事も可能だったかも知れない。」
「それが人間と人工知能の決定的な違いという事なのかね?」
「そう単純でもないのでしょうが、おおよそはそうなのでしょうね。ビッグマザーには、接続出来ない部分が人間にあるのでしょう。そしてそれがこの世界に来るための鍵になる。」
岩崎はため息をついた。
事は、一刑事の捜査の範囲を遙かに超えている。
「、、貴方にはここが何処かが判るのかね?」
「何処かは分からないけれど、どんな場所は判るわ。『気』でね。ここは全てに『気』が充満している。そのくせ、一つ一つは死んでいる。そんな場所なのよ。ここは。」
「電脳世界ではないのですか?」
イマヌェルは恐る恐る聞いた。
真言が忍の面影のあるハートランドの顔で頷く。
「アルビーノ・ブキャナンは、ここで生まれ変わりたがっている。彼の気配が漂ってくるわ。つまりビッグマザーが、次の段階に進化したがっていると言う事ね。」
「、、生まれ変わる?!」
「人工知能が?!」
岩崎とイマヌェルが同時に呻いた。
しかし真言は自分でそう喋りながらも、『疑似人格が生まれ変わる』とは我ながら奇妙な発想だと考えていた。
だが幾ら考えても、結論はそうなる。
そしてこの世界に転移してから、真言の気配を感じる能力は異常なまでに高まっている。
アルビーノの残留思念ともよべるものが『彼は生まれ変わりたがっている』と、そう真言に教えるのだ。
「駄目だ!それは阻止しなければならない!こんな分野には素人である私でも判ることだ。恐らくガタナ氏もそれを我々に伝えたかったに違いない。」
岩崎警部が歯がみしながら言った。
岩崎もまた、別な意味で真言の言った意味を理解していたのだ。
しかし岩崎の存在の結び目は、光り輝きながら既に緩み掛けている。
現実世界への呼び戻しが始まっているのだ。
「イマヌェル君、これはどうにかならんのかね?」
岩崎は消え去り行く自分の右手を見て、悔しそうに言った。
消滅のスピードが遅いのは、岩崎が精神的な力で接続解除に抵抗しているからだ。
「カーマインが帰納の処置を初めているんです。貴方に保障された約束の時間が迫っている。しかし、ある意味で我々は彼に感謝しなければならないのかも知れない。未知の世界である、ここから帰れるんだから、、。」
イマヌェルが複雑な表情を見せて答えた。
「本当にそうですね。この世界の『気』が、どんどん強くなってきている。今、帰れなければ、これから先どうしていいのか、僕には皆目見当が付かない。」
そう言った真言の身体も分解が始まっている。
異変を察知したハートランドが、真言の回収を進めているのだろう。
イマヌェルは、最後にこの光景を自分の目に焼きけようと、不思議な精気を放つ夜の森を眺めていた。
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