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第三章 時空バイパス
46: 対決前夜
しおりを挟むいつしか岩崎は、故郷のそれとは位置関係のまったく異なる満天の星々の美しさを、違和感なく眺められる様になっていた。
彼にとっては見覚えのない星座ばかりだったが、テラスに引き出した椅子に座って夜の一時を過ごすのには申し分のない美しさをそれらは持っていた。
「カンジ。又、星を見ているのね?足にはこたえないの?」
「君のお陰で随分楽になったよ。」
自分の隣に佇むアマンダを見て、岩崎は胸の痛みを覚えた。
ここには、岩崎が心の奥底で望んでいたもの、例えば平穏があったが、故郷の星では、彼の妻は未だに精神を蝕まれているままで毎日の生活を送っているはずだった。
自分だけが幸せであっていいわけがない。
もしかすると岩崎の悔恨と同じ様なものが、アマンダの胸の中にもあったかも知れない。
けれどアマンダの場合は男が彼女を捨てたのだ。
岩崎の場合とは立場が逆だった。
そして岩崎は又、自分が彼女を捨てる事になるのだろうと思った。
全てはブキャナン次第だ。
「君との生活が始まってもう何ヶ月が経つかな?」
「二ヶ月とちょっとかしら、まだまだよ、短すぎるわ。私の失った時間を埋めるにはまだまだ足りない。」
アマンダは微笑みながら言った。
「『老いらくの恋』という言葉が、かっての君の国にもあったかね?」
「良く知らないわ。私はあの星にいた頃は、若さの真っ直中にいたもの。でもそれは素敵な言葉だわ。輝きはいつでも取り戻せるという事を教えてくれる。」
アマンダの手が岩崎の肩に掛かる。
岩崎はBBの言葉を思い出した。
(目の前の現実を受け入れること。それがこの世界で生き延びる方法だ。)
岩崎は彼女の手の上に自分の手を重ねた。
「冷えてきたわ。もう中に入りましょう。良い紅茶がロバートの店で手に入ったの。彼が何処からか種を見つけだしてきて、自分の裏庭で栽培してたものよ。もしこれがちゃんと紅茶の味がしたら彼は一躍、街のヒーローになるわね。」
「ああそうしよう。もしそれが本当ならロバートのやった事と私とのは大違いだ。」
岩崎はこの二ヶ月間、対アルビーノ戦に備えての武器作りだけに専念していた。
悪魔狩りの名目がなければ、なんらの生産性を持たない岩崎は、アマンダの年老いたヒモに過ぎず、町中の鼻つまみ者になっていたに違いない。
部屋に戻った岩崎は、アマンダが紅茶の用意をしている間、薄暗いランプの下で一枚の古ぼけたポラロイド写真を眺めていた。
あれから足繁く通うこととなったBBからプレゼントされた写真だった。
そのポラロイド写真は一人の流れ者の男からもらったという。
男は『今夜の曲のお礼だ。しっかりした写真はこの世界では現像できないなから、これで我慢してくれ』と言ったそうだ。
『目の見えない儂に何の冗談だ?』とBBが言うと男は『あんたが見えなくとも他の人間には見えるから、ここに写っているのが、この星のクソ喰らえの神様だ、と言ってやればいい。それで、俺達の神様の方がずっとましだと思えたなら、俺の歌の値打ちがもっと分かるだろう、と冗談の一つでも言ってやればいい』と答えたらしい。
そしてBBは、その後、流れ者の人間達に写真を見せて、その反応から、どうやらその写真に、この星の事実上の支配者が写っているのは確かだという確信を得たと言うのだ。
しかし写真に写っているのは、奇妙な色に輝く針金の混乱した塊にしか過ぎず、とてもこの星の生き物とは思えなかった。
背景は無数に穴の開いた狭苦しいロッカーの中の様な印象があった。
とにかくこの場面を写した人間の勇気に敬意を払うべきだろう。
BBの説明によると、この写真に写っているものは、あの頭頂に角の生えたヒューマノイドに代表される生き物達を作りだした存在でもあるらしい。
(それじゃ彼らがこの星の神なのか?)と尋ねた岩崎に対して(君たちはビニィとやらの人間そっくりのものを作り出したが、神とは呼ばれていないんだろ?)とBBはやり返してきた。
とにかくいざとなれば、この針金生物にコンタクトを取る必要がでるのかも知れないと岩崎は考え始めていた。
「又、そんなものを見ているの?」
紅茶を持ってきたアマンダが岩崎の手元の写真を見咎めた。
写真自体の存在は秘密でもなんでもないらしくアマンダを含め村の多くの人間はその事を普通に知っていた。
ただ、知っているからと言って実物の針金生物を見たわけではないようである。
その点は地球で聖書や仏典によって、神や仏が当たり前の様に詳しく語られるのとよく似ていた。
「君たちはなぜ、こいつと話し合おうとしないんだ?彼らなら君たちが元の世界に戻れる方法を知っているかも知れない。」
「前にも教えて上げたでしょう。彼らは、神様ごっこが大好きなだけのとても危険な存在なのよ。どこで見て覚えてくるのか、自分の姿とは似てもにつかない奇妙な形や性格をした生き物を創っては、飽きたら皆殺しにするのよ。そんな相手と誰が話をしたがるもんですか。」
アマンダは、岩崎達が見たこの世界の入り口の『角の生えた人間達』の事を言っているのだ。
だとすれば、真言がジェノサイドと呼んでいた行為は、この針金生物が行ったことになる。
「だが彼らは時々、人間の町にも視察にやって来るんだろう?」
「そうらしいわね。私は見た事がないけど、噂話で聞いた事があるわ。見せ物小屋を見て回るようなものらしいわよ。何をされるか気が気じゃないわ。」
アマンダは忌々しそうに答えた。
人間は人間の神を持っていて良かったと岩崎は思った。
そうでなければ、アマンダ達が、このような強力な存在に対等の言葉をはけるのもではなかったはずだ。
彼らは電子的な生命体ではないかと岩崎は推測していた。
針金のような生命体は、この星の「神」ではないにしても「王」くらいの力は持っているようだ。
それで真言がいった(この世界は電脳空間と親和力がある)という説明に繋がりが付くはずだった。
さしものBBにもコンピュータの概念を理解させるのには手間取ったが、理解をおえたBBはその可能性を否定しなかった。
ならばブキャナンは、意図的にこの針金生物に会いに行った可能性もあるのだ。
ブキャナン、いやビッグマザーはさらなる進化か、それに近い変化を求めている。
そう思うと岩崎は身の引き締まる思いがした。
彼の目が、壁に掛けて在る不格好な銃火器に自然に吸い寄せられた。
火縄銃に毛の生えた程度だが、岩崎の重ねた改造によってそこそこの破壊力は持っている筈だった。
もちろん、岩崎は銃本体の完成度の精度を上げたり、火薬の爆発力を上げる技術をもたなかったし、この世界にはそれを可能にする道具も無かった。
岩崎は弾丸に炸裂弾の方式を採用したのだ。
手製である。炸裂弾と言えば聞こえが良いが、いつ暴発してもおかしくない危険な代物だった。
だが何よりもこの世界で調達できる材料には限界があったのだから、それ以上は望むことが無理だった。
ここに真言とあの日本刀があればどんなに心強い事だろうか。
岩崎は紅茶に口を付けながら、真言の事を思った。
「ねぇ貴方。明日はお祭りなのよ。どんな服を着ていこうかしら?」
アマンダは沈みがちな岩崎の気を紛らわそうとして話題を変えた。
「ああ。建国祭だったな。君ならどんな服を着ても似合うさ。それより私は明日のスピーチが心配だ。」
アマンダ達に(国)などはなかったが、彼らはこの町が出来た日を記念してそう呼んでいる。
誰も正式には、何時、町が町と呼べるようになったのか、知らない。
彼らの中の故郷の国のかすかな記憶を準えているだけの事かも知れない。
けれどそんな事は問題ではなかった。
大勢の人間が楽しめる行事があればそれでいいのだ。
この世界には息抜きが必要だった。
岩崎がスピーチの担当に選ばれたのは、彼が、年長者でしかも、この町に流れ着いた最新の人間だったからだろう。
「気になさらないで、貴方こそ大丈夫だわ。私たちの故郷の星の一番新しい姿を、みんなに聞かせて、あげればいいのよ。それでみんなは納得する。故郷の話は何度聞いてもいいものだわ。でも暗い話はしないでね。」
「それが頭痛の種なんだよ。私にはこの町の方が、元の世界よりもずっと優れている様な気がしてならないんだ。犯罪の数を見てご覧。」
「又、そんな事を。もう貴方は刑事じゃないのよ。貴方は、ただの年老いたぐうたら亭主。そのつもりでお話になって。」
アマンダは笑いながら言った。
彼女は岩崎の何もかもを信頼しているようだった。
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