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第四章 ハートランドのゲーム
61: スネーククロスの過去
しおりを挟むスネーククロスに指定された決闘の場所は、流騎冥愛用の野戦用バギーを使っても4時間ほどかかった。
バギーの太くてごついタイアは、流騎冥が「趣味の散歩」に出かける為のものだが、ウェスト・ウビコンの都市中心部以外はコロニー内であっても、それ程、整地された土地はないから、結構その威力を発揮した。
この高速走行をするバギーで「4時間」は、相当な距離である。
それでもコロニー全体の尺度でいえば、指定場所は特に「遠い場所」というわけでもなく、相対的には都市部中心地から、さほど離れていない採石場跡の敷地だった。
コロニー内に「無人の土地」が有るなどと知ったら、生存可能な土地を奪い合わざるを得ない他コロニーの人間なら卒倒しそうな話だが、現にこの巨大なコロニーにはそれが存在したのだ。
指定された時刻の少し前、採石場の様子がギリギリ見渡せる丘に、流騎冥は腰を落ち着けた。
バギーは丘の麓に隠してある。
ここでの事前の念入りな実地調査などしていない。
下手をすると、その場で相手側と鉢合わせになり、充分な準備もないまま交戦状態に陥るかも知れなかったからだ。
ぶっつけ本番の果し合いだった。
スネーククロスが複数で動いているなら、今回の場合、狙撃者同士のプライドをかけた戦いなど望むべくもない。
既に相手チームは流騎冥に1敗を期している。
暗殺稼業の業績回復の為には、もはやなんでもありだろう。
流騎冥は先の依頼で儲けた額の半分を注ぎ込んで、馴染みの故買屋から手に入れた多機能ライフル・カクタスB233からテレスコープを外し、それを望遠鏡代わりにして採石場跡を観察した。
カクタスは狙撃用の機能も備えているが、その主な性能は機銃掃射に力を発揮する。
つまり、流騎冥は狙撃戦を今度の戦いでのメインとは想定していなかったのだ。
採石場跡に人の気配はまったくない。
どうやらスネーククロスは完全に流騎冥を迎え撃つ準備が整い、流騎冥を待ちかまえている様子だった。
敷地内の構成は、採石機材を既に撤去してあるから、古びた倉庫が二つと、社屋らしい建物が一つ、物見櫓が一つと最後に給水塔だった。
採石場内に散らばる建物のあちこちにビデオカメラらしきものが取り付けてあった。
こちらの動きを監視する為なのは勿論だが、それ以外に流騎冥が射殺されるシーンを記録して公に広めるという目的もあるのだろう。
『ジェシー・ルー・リノが漏らした情報が正しければ、相手はスネークを含めて5人なんだが、、。』
二日前に流騎冥は、ジェシー・ルー・リノを、いつもの落合場所に呼び出し、依頼一回分を無報酬にするという条件で、この情報を引き出していた。
スネークが広めた公開狙撃の話は、既にジェシー・ルー・リノの元には届いていたようで、彼は流騎冥の要望に、その場でデータスティックを手渡すという用意周到さを見せた。
もしかしたらジェシー・ルー・リノは、この件で、軍の余り掘り返されたくない一般人虐殺の過去の一部を葬りされると思っていたのかも知れない。
「そうだ、これはオマケの一部だ。お前さんに良いことを教えてやろう。いつものガラクタの代わりだと思ってくれればいい。スネーククロスが軍を辞めた本当の理由だよ。多分、お前さんが昆爬の中を這いずりまわり、奴らを殺しまわってていた頃の話だ。」
リノはそこまで言って、口髭を油で固め、毛先を上向きにさせたカイゼル髭の先端を少し捻って間をおいた。
「コロニーは、あの薬のお陰で、軍が昆爬の戦線を押し戻し戦勝気分だった。そんな時に、誰がやったのか、昔、スネーク達がやらかした弱小コロニー住民皆殺しの記録をすっぱ抜いた奴がいた。そこで、コロニー内は、手のひらを返す様に、軍への評価を変えた。まあ、軍全体への批判じゃなかったがね。狙撃兵に対する評価がまっ二つになったんだ。初め、おぼっちゃまで役に立たない、ぐうたらと言われていたお前達が英雄になり、スネーク達は極悪人に格下げになった。自分たちを守ってくれる格好良い軍は正義で、弱くて非人道的な軍は悪ってわけだな。そんなものが二つに分けれる筈がないんだが、仕方がない。」
今更、自分が俺達の身内の様な言い草をするな、前線に来ないお前たちに何が解ると、流騎冥は言いたかったが、その場は黙って聞いていた。
これはいつもの取引とは、違うからだ。
「決定打は、コロニーに残っていたスネークの妹の自殺だったよ。妹も肩身が狭かったろうな。あの頃は、お前さんに限らず、スネークもまだ地元の英雄だったんだ。それが返って災いした。落ちた英雄に対する手の平返しが、余程きつかったんだろう。」
「・・大体、想像はついていたが、妹さんの事は識らなかった、、」
「もう一つサービスだ。彼らはもう人を殺すことをなんとも思っちゃいない。それを忘れない事だ。」
「・・・アンタに、言われたくないよ。」
流騎冥は、いつにもなく肩を落として、落合場所に指定していた軍の処刑場から、引き上げる事となった。
中半、予想はしていたが、ジェシー・ルー・リノから手渡されたそのデータの中身は、ワケありの退役軍人や逃亡兵のものばかりだった。
傷ついて軍を去ったスネーククロスと、彼らが結びつくのは簡単な事だったろう。
そして彼らは、いずれも勲章持ちだった。
軍はハリボテの勲章は兵士には与えない。彼らは優秀なのだ。
彼らの年齢を見ると、スネークと同じく、軍が昆爬に押され放しの時代をくぐり抜けていた。
『やれやれ、時間だ。先輩方、お手柔らかにお願いしますよ。』
そう呟いて流騎冥は、腰に巻いている重力制御ベルトの最終調整をし、カクタスを胸に抱いて丘を駆け降りた。
相手が遠距離狙撃を仕掛けてくるつもりなら、もう充分な距離に近づいている。
しかし通常の一般ビデオカメラで、俺の姿を明確に捉えるには、まだ距離がある。
「やはりそういう事か。相当な自信だな。」
流騎冥は不敵に笑った。
『奴らどうしても、俺の無様な死に様を映像で捉えたいらしい』と。
『撮るなら、撮ればいい。その映像で、今度こそ、あんたの暗殺者としての息の根を止めてやる。』
疾走する流騎冥に付き従うように、彼を中心に半径一メートルほどの砂の輪が地面を走っている。
ベルトが作り出した、バリアの目に見える痕跡だ。
『奴らは、この重力制御を利用したバリアの存在を知らない。だが、知ったが最後、それなりの対応策を臨機応変に考えて来るだろう。それが生き残る兵士の必須条件だ。だからこちらが距離を詰めたら、反重力を使って一気にやる。』
この頃、流騎冥は、ベルトを使ってのバリア展開をかなり自在に操れるようになっていたのが、反重力を応用した空中浮揚や移動には制御しきれない課題が幾つも残っていた。
しかし流騎冥の現状から言えば、このベルトの全ての力を借りなければ、勝てる見込みはまったくなかったのだ。
不完全でも、やるしかなかったのだ。
『あの物見の塔の麓近くまで行ったら飛ぶ。あれは絶好の狙撃ポイントだ。スネークがいるか?いないとしても、あそこを確保できれば一気に有利になる。』
そう、流騎冥は決めていた。
そして流騎冥は、カクタスを背中に担ぎ直して、自らにかかる重力のくびきを斜めに切り離し、物見櫓に向かって一気に跳んだ。
これほどの距離を飛んだのは初めてだった。
軍にいた頃、渓谷地形の土地へ中期展開した際、クレーンからカッぱらって来た伸縮ロープを使ってそれを狙撃位置固定ハーネスに繋ぎ、仲間連中と危険極まりないバンジージャンプゲームをやらかした事があったが、上に伸び上がる飛翔感覚はそれとそっくりだった。
だが勢いが付きすぎて、流騎冥は物見の塔をやり過ごしそうになり、思わず目の前にあった物見の塔の庇を掴み、素速く制御を切ってその危機を乗り切った。
庇にぶら下がる格好で、物見の塔の展望スペースを覗き込むと、そこに床に伏せてライフルを手に掛けた一人の男が居た。
男は唖然とした表情で流騎冥を見つめている。
男が我に返えってライフルを上に向けるのと、流騎冥が振り子のように自分の身体を、男のいる空間に振り込むのとが同時だった。
男の方が当然早い。
男はライフルを連射モードにしてその弾頭を流騎冥に一気にぶち込んだ。
「へっ、ざまあを見ろ」と言って顔を上げた男の前に、無傷の流騎冥が立っていた。
勿論、こんな至近距離でライフル弾を叩きこまれたのだ。
バリヤーによって守られた身体には、傷こそないが、送り込まれたエネルギーが全て0になるわけではなく、流騎冥はそれなりのダメージを受けていた。
だか流騎冥は、そんな様子は毛ほども見せず、容赦なくカクタスの銃床を男の側頭部に叩き込んだ。
手加減はしていない。
男は引っ繰り返るようにして倒れた。
だが、男は絶命してないようだ。
運がよれば男は助かるだろうし、悪ければ死が訪れる。
いつもの事だ。
そこには他の要素は何も入り込めない。
その時、流騎冥は気づいた。
どうして狙撃で考えれば、特等席だと言えるこの場所に、スネークがいない?
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