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第四章 ハートランドのゲーム
65: 子守歌
しおりを挟むディスプレイの前に、泣き疲れて眠ってしまったメロディがいる。
彼がかけていた音楽が、地下シェルター内にただ流れていた。
その音源は、メロディがウェスト・ウビコンのデータベースから掘り出した母なる母星「地球」の音楽ライブラリからのものだった。
ウェスト・ウビコンの人間たちは、もう「古い歌」は聞かない。
この星で生まれた新しい歌が好きなのだ。
ウェスト・ウビコン内の新しい回線で流通している最新音楽を、メロディは手に入れることが出来ない。
だから仕方なく昔の音楽を聞いている。
今、シェルター内に流れている楽曲を歌っているのは、若い白人女性だ。
絞り出すような、悲しくそして不思議と力強い声が印象的だった。
原曲は、ジョージ・ガーシュウィン作曲、デュポーズ・ヘイワード作詩の「Summertime」。
皮肉な事に、この歌は子守唄だった。
外の殺風景な光景にまったく似合わない高級車のだだっ広い後部座席で、流騎冥は目覚めた。
頭全体が痺れた感じで目眩もした。
そしてその目眩の奥の方で、もう一人の自分がいて何かを訴えているのが見えたが、意味が良く分からなかった。
「まだ、じっとしてた方がいいな。」
今や聞き慣れたカサノバベックの声が、彼の側から聞こえた。
(ひょっとして、こいつが真言とリンクする人間なのか?)
「ここは天国か?いや、俺が天国にいけるわけがないな、、。」
「おいおい、本気で言ってるのか。ここは俺の車の中だよ、」
「俺を助けてくれたのか?」
「助けちゃいない。たまたま、お前さんが例の場所近くで倒れていたのを見つけて、拾って来ただけだ。」
「たまたまなぁ、、しかし、何で俺が生きてる?」
「知るかよ」
カサノバベックは楽しそうに笑った。
「ただ、お前さんの頭の側に弾の潰れたのが落ちてた。よっぽど石頭なんだな。」
今度こそ駄目だと思ったが、又、ベルトに命を救われたワケだ。
メロディ。おまえ、最高だぜ。
「、、そうか。今度の勝負。スネークの勝ちだな」
「いや、そうでもないかも知れないぞ、コイツを調べに走らせてみたんだが、丘の上に大量の血の跡があったそうだ。」
カサノバベックが、若い運転手に顎をしゃくってから言った。
運転手が軽く頷いたのが流騎冥にも見えた。
「・・・俺のも当たったか、、、」
「みたいだな。引き分けってところじゃないのか。しかしこれで奴も、そう派手には動けなくなるだろう。お前さんにとっちゃ、引き分けでも、奴の評判上の評価は2敗目だ。まあ、ああいう奴は、地下に潜ったら潜ったらで、又、厄介だがな。いや、もう諦めるかな?あんた、奴の仲間を全員絞め上げたんだろう?」
「ああ、締め上げすぎた、、。でもスネークは諦めないだろうな。誤解が解けるまでは、、。」
「誤解、なんの事だ?」
「・・・いや、なんでもない、」
そう言って流騎冥は車外の光景を黙って眺めた。
世の中に「誤解」なんてものは、ないのかも知れない。
誰かのせいで、ああなったとか、こうなったとか、皆、後付の理由だ。
結局、人は自分がそう思いたいように思い、そう生きるものだ。
道の遥か遠くに、クルナギ大聖堂の尖塔が小さく見え始めていた。
いつか、、メロディをあのクルナギ大聖堂に連れて行って世界の広さを見せてやろう。
いや、いつかではなく、明日にでもだ。
メロディはそれを嫌がるだろうか?
流騎冥は、それだけを考えて再び瞼を閉じた。
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