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第四章 ハートランドのゲーム
66: 月に向かって
しおりを挟む日暮れに、コロニーの外壁までは、メロディを一人で来させる事にした。
もちろん、メロディのいるシェルターまで迎えに行くのは簡単だったが、そうしなければならないのなら、メロディを、人がごった返すコロニーの中に到底連れて行くことは出来ないと、流騎冥は判断した。
メロディが、流騎冥の誘いにのる決心をしたのなら、外壁ぐらいまでは、来れる筈だった。
昔、メロディは砂漠で行き倒れになった彼を助けるためにシェルターを出ているのだ。
メロディは、外壁の待ち合わせ場所にやって来た。
顔色を見ると、それほど酷くない。
何かを決心して、ここにやって来たのだろう。
メロディは、外壁の側で待っていた流騎冥の姿を認めると、感情が抑えられないのか走り寄ってきた。
ぶつかるように流騎冥の胸の中に飛び込んできたメロディを抱き留めてやる。
「良く来たな!メロディ!ここからは俺がいる。」
流騎冥は、すこしメロディの身体を自分から離してから、腰のベルトに手を触れた。
「それに、お前に直して貰ったこのベルトもある。自分で試したいだろ?」
メロディが流騎冥の顔を見上げて頷いた。
「じゃ、俺につかまれ。飛ぶぞ。」
流騎冥はベルトを使ってコロニーの外壁を飛び越えるつもりでいた。
そしてそれから水平飛行にはいり、クルナギ大聖堂に直接入り込むのだ。
まだメロディは、コロニーの中の雑踏を歩いて移動するのは無理だ。
そういうことは、徐々にやればいい。
二人は外壁を背にして、ゆっくりと上昇していった。
外界の空は、夜の色に染まりつつある。
月だけがぼんやり見えていた。
今夜は一つだけだった。
ただ少しずつ、輝きを増しているように見えた。
天候が回復傾向に、あるのかも知れない。
外壁が途切れた。
眼下に広がるコロニーの夜景の方が余程、夜空に輝く満天の星を思わせた。
「、、凄い。綺麗だ。」
「綺麗だろう。でも、あの一つ一つの輝きの下に、お前が怖がってる人間の生活があるんだぞ。」
「、、、、。」
「お前の目は、人間に近づきすぎる。見なくて良いモノまで見るから嫌になる怖くなる。遠くで眺めてると、こんな風に違って見える。だからと言って、いくら外見が綺麗でも中身が同じとは限らない。勉強しろ、慣れればいい。」
流騎冥はゆっくりとコロニーの上空を移動して、やがてクルナギ大聖堂の中腹にある窓からその中に入り込んだ。
そこはかって、スネーククロスと狙撃対決をした場所だった。
「座れよ。狭い場所だが、この窓から月が良く見えるんだ。」
二人は並んで窓に向かって座った。
月はますます輝きを増している。
遙か上空では、風がきつくなって、汚染物質を吹き飛ばしているのだろう。
メロディがじっとその月を眺めている。
流騎冥はその横顔を見つめた。
「僕の顔に、何かついてますか?流さん。」
「へっ!?今、なんて言った?」
「見つめないで、気持ち悪いですよ。」
「おっ、お前、真言か!?」
「そうそう、その調子。頑張って、僕の知ってる流騎冥でいて下さい。」
「おっ!おう!で?これからどうするんだ?」
「お互いの近状を報告し合って、お別れですかね。」
「なに言ってるんだ!俺がどんだけ!」
苦労してここに来たと言いかけて、流騎冥はその言葉を飲み込んだ。
流騎冥の苦労など、真言の苦労に比べればなんという事はない筈だった。
「実は、ここには元の世界に戻る為の入り口を探す為に来たんです。そこに流さんがいたんで、吃驚しました。多分、ハートランドさん辺りが、ゲームシナリオに細工をして、こちらに接続しようとしたんでしょうね。」
「図星だが、、ここを通って、お前、元の世界に帰ってこれないのか?」
「無理ですね。ただこうやって、あなたと会って、話が出来るだけの事です。」
「俺がそっちに行くのは?ハートランドは、それが出来るような口ぶりだったぞ。」
「、、、。出来るかも知れませんね。この世界は、すごい力を持っている。出口は判らないが、入り口はあるようだ。地球の人間を今まで、何人も時空を越えて引っ張りこんでる。」
「、、、お前俺がそっちに行くのが、嫌なのか?多少は戦力になると思うがな。」
「、、、岩崎警部がお亡くなりになりました。アルビーノ・ブキャナンを道連れにしてくれました。、、でも僕はもう、そういう、人が死ぬ可能性を増やしたくない。」
「あのおっさん、、、やっぱりか、、だが、改めて聞くとショックだな。」
流騎冥は暫く黙り込んだ。
「岩崎のおっさんの墓は、あるのか?」
「墓と呼べるような立派なものは作れませんでしたが、一応、土にはお埋めしました。」
「だったら、手を合わせに行く。」
「、、流さん。」
「お前、俺を甘く見てねぇか?『闇の左手』の勝負を思い出せ。その気で向かいあったら、後はやるしかねえんだ。だから、お前も俺も、その勝負にしびれ、惹かれて来たんだろ?それと、今のこれと、どう違いがあるってんだ?」
「、、そうですね。謝ります。」
「それとな、岩崎のおっさんには悪いが、ビッグマザーいるの世界にいた俺には、どうもアルビーノ・ブキャナンが消えてなくなったとは思えないんだよ、、。だから尚更だろ、俺が行くのは。」
「、、、、!」
『ブキャナンは死んでいない?、、だが可能性はある。』
今度は、メロディの顔をした真言が、流騎冥の顔を穴が開くほど見つめた。
「行きましょう!今すぐ戻らなきゃ、あの場所に。ブキャナンを、針金に会わせちゃ、駄目だ!」
「おっ、おう!?でもどうやって行くんだ?俺には、やり方が判らない。」
「難しく考える必要はありません。場所や事柄が座標になっています。最適そうなのを選んで、強く念じ、それをなぞって行動すればいい。後は嫌でもやってくれる。例えば、あの月だ。」
クルナギ大聖堂の窓から見える月は、あの狙撃戦の夜のように強く光輝いていた。
「悪いな、メロディ。いや真言。もう一度、飛ぶぞ!」
そう言うと流騎冥は、メロディの姿をした真言の肩を抱いた。
流騎冥がベルトに手をかけた。
二人は一直線に、窓の向こうで輝く月に向かって、飛び出して行った。
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