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第6章 第6特殊犯捜査・第6係の本気

55: 檻の鍵

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「最後に貴方を付き合わせてしまって、申し訳ありませんね。」
 指尻ゑ梨花女史が運転するツーシーターの隣で、レザーパンツに包まれた長い足を窮屈そうにして蘭府虎臥警部補が座っている。
「いいえ、この方が、貴方と門戸との出会いに重みがついていいでしょう。それにしても、、、蘭府さんのそのジャケット、凄いですね。」
「ああ、これですか。これはエド・ゲインにインスパイアされたオーストラリアのアーティストがラテックスを加工して仕立てたのものですよ。これと同じように、人面や皮膚を模したバッグもありましたがね。」

 蘭府のジャケットには、よく見ると生地のあちこちに人の耳や顔などが縫いこまれている。
 エド・ゲインはアメリカに実在した類まれなる殺人者だ。
 墓場を回り、掘り出した遺体を切り刻み、切り取った皮膚の一部を体に身に着けるという奇行を繰り返し行っていた彼は、ついに殺人に手を染め始める。
 そんなエド・ゲインは、1957年にようやく逮捕となるのだが、その際、警察の家宅捜査で発見されたのは、15人の女性の変わり果てた姿だった。
 全ての遺体は解体されていて、一部はベストや食器・家具に加工され、また一部は食用として保存されていた。
 もちろん、この知識は指尻ゑ梨花女史にもある。

「でも、そのスタイルで門戸に会うというのは、ちょっとあざと過ぎるんじゃありませんか?」
「いや、これくらいの方が良い。貴方に頂いたネクロフィリアの資料は全て精読させて頂きましたし、自分なりに門戸という人物を分析してみました。それに加えて、今までの潜入捜査で得た私の勘所ですね。それらを総動員すると、こうなる。これはベストチョイスですよ。」
 蘭府虎臥警部補が、自信たっぷりに言った。
 普通の男が、これをやると胡散臭く聞こえるが、彼の場合は、相手にそうなのかも知れないと思わせる何かがあった。
 おそらくそれは、蘭府という男が潜入の中で体験した凄惨さの積み上げがそうさせるのだろう。

「、、そうですか。潜入捜査の部分は私にはまったく想像が付きませんからね。蘭府さんは潜入捜査の達人だと、真澄警部からお聞きしています。この件は、蘭府さんに任せて大丈夫だと。」
「達人ねえ、、。確かに、今まで生き延びては、来ましたが。」
 その声だけは、年相応の寂れたものだった。
 蘭府虎臥警部補は、暫く車外に流れる都市のネオンや灯りを眺めたあと、ゆっくりと言った。

「実を言うと真澄警部からは、戸橋を門戸の元から直ぐに回収して来いと命令を受けているんですよ。それなりの情報を得られなくともかまわないと。有り難いことだ。私にも、そういう上司がいたらと、思わなくもない。、、潜入とはそんなもんだ。常に危険と隣り合わせ、いつ自分が向こう側に完全に取り込まれてしまうかという恐怖と闘っている。自分を支えているのは、使命感と目に見えない警察の仲間との繋がりだけだ。特に、自分をそこに送り込んだ上司とのね。戸橋の場合は、6係全員が常に彼の安否を気遣っている状況にあるが、私の場合は、私の潜入を知っているのは一人しかいないという事が何回かあった。、、だから判るんですよ、色々な事がね。まあ戸橋の場合は、私が帰って来いと言っても帰ってこんだろうから、そうせざるを得ない状況を作る。もちろん、戸橋が帰りやすいように、それなりの手みやげを持たせてね。」

「そんな事が出来るんですか?戸橋君は、美馬にも辿りついていないのに。」
「さあね。だがソレが出来る人間と思って警察のお偉方は、私を6係の応援に差し向けたんでしょうな。私としては長い間、潜入をやりすぎて地元では顔が割れつつある、そろそろ潜る方は引退かなと思ってたんだが、、、若い後輩の危機とあっちゃ、仕方ありませんしね。それに噂に聞くトリプルシックスってのも、この目で見たかったし。」
 戸橋は確かに、まだ美馬には辿り付けていない。
 しかし寂寥ファミリーを初めとする海馬美園国との関係や、香革の情報を掴み出してきている。
 もうそれで充分なのではないか、、指尻女史自身はそう考えていた。

「さっきの話ですが、戸橋ってのは、檻の中の餌を狙って、鍵を持って檻に自ら入り込んだ動物に似てますな。他の動物に餌を取られたくないから、檻の内側から扉を閉めて錠をかけてしまった。もちろん自分自身が、鍵を持っている訳で、そこから出ようと思えば自分で出られる。ところが、動物の悲しさで、自分が鍵を持っていることをもう忘れてしまっている。」
「、、、。」
 戸橋は動物じゃない、、と指尻女史は言いたかったが、門戸は特に戸橋を監禁している訳ではなく、戸橋は撤退しようと思えば、いつでも撤退できるわけで、その意味ではあながち蘭府の比喩は間違ってはいなかった。
 戸橋が潜入を止めないのは、美馬に辿り着けないからではなく、6係へ、いや真澄警部へ持って帰れるものがないからだ、と指尻女史は思っていた。
 この蘭府虎臥警部補は、その手みやげを戸橋に与えてやると言っているのだった。

 その夜、指尻女史はクラブ・アンクレットで、蘭府虎臥警部補を門戸照人に引き合わせ、戸橋巡査との連絡役を完全に終了させた。
 蘭府虎臥警部補と門戸照人を引き合わせた夜、指尻ゑ梨花は戸橋の姿を又、思い出していた。
 しかし思い出すのは、何故か、戸橋をトレーニングした日々の様子ばかりだった。
 これは無意識からくる一種の私の罪悪感なのだろうか?と、ゑ梨花はとまどっていた。


 未知矢が門戸屋敷に潜る事になった、前の夜の事である。
 未知矢は、ゑ梨花の見ている前でメイクを直した。 
 素っ裸のままでベッドの枕板にもたれてコンパクトを覗き、パフを使ってパウダーの乱れを整えている。 
 どこかの男が、咆哮をあげて未知矢の肛の奥に射精した後の話だ。 
 ここは、トイレかバスルームに行って、尻穴から漏れる精液をきれいにして、化粧も直してくるべきところだろう。
 けれども、未知矢は敢えてゑ梨花の前にすべてを晒していた。 

 ゑ梨花はその横で、未知矢と同じように枕板にもたれて煙草をくゆらせている。
 ゑ梨花は、未知矢が女の顔を造っているのを注視していた。 
 未知矢はルージュのスティックをコスメポーチから取り出して、口唇を扇情的な真っ赤に彩った。 
 それから、化粧道具をポーチに片付け、未知矢はゑ梨花のほうを向き、 「どう?」 と、艶然と微笑んだ。 

「女ぶりがあがったわね、お化粧も、以前と比べるとちょっと変わって来てるし、」 
「ねえ、あたしにも吸わせてくださいな」 と言って、未知矢はゑ梨花の手から煙草を奪い取るようにして、塗りこめたばかりの鮮烈な赤い口唇に咥えた。 
 そうして、紫煙を婀娜っぽく宙に吹き出す。 
 ゑ梨花は、その成長に少しだけ驚きを見せた。 
 未知矢は、「うふふふ、、」と誘惑的な笑みをこぼれさせながら、べっとりと吸い口にルージュの付いた煙草をゑ梨花の口に戻してやる。 

「未知矢の新たな一面を見せられているようだわね。」 
「あたし淑やかな女じゃないし、従順な女でもない、あえて言うなら征服したい女。」 
「ははは、本物の女でもないし。」 
「うふふ、男の人にお尻を掘ってもらうのが、大好きな淫乱のオカマの完成。」 
「未知矢は淫乱どころか、ド淫乱になっちゃったわよ。」 
「それ、けなされているの?」 
「いや、ほめているのよ。よく化けたわ。」  
「ゑ梨花さん、ほら」 と、未知矢は自分のペニスに手指を添えた。 
 未知矢の男根は小康状態だが、溢れ出たカウパー腺液で亀頭が濡れそぼっている。 

「ご褒美が欲しいって事?」 
「あたしのペニスをしごいてくださいな、」 
「こう?」 
 ゑ梨花は煙草を消して、未知矢を横から抱きかかえるような格好になり、未知矢のペニスを握った。 
「あんっ、、」 
「未知矢がオナニーするのを、手伝ってあげてるんだよね。」 
「ああ、ねえ、キスして!」 
「可愛い弟子といっしよに、溺れてみるのも悪くないかな。」 
「んん。キスしたままでいかせて、おねがい。」 
 ゑ梨花は、未知矢の唇に口唇を重ねた。 
 そして、美女を粧った青年のそそりたつ肉棒を擦りあげて行った。 
 ほどなく、未知矢のペニスから白濁粘液が飛び散り、あの特有の匂いがホテルの一室に濃く漂った。 

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