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最終章

80: 新たなる決意

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 二日後、指尻女史は、私と共に香山微笑花巡査が入っている病室にいた。
「香革が使った凶器が鋭利だったのが返って幸いした様です。背中には大した傷は残らないだろうという事でした。それに、何より応急処置が適切だったと医師が褒めてましたよ。普通の状態で、あんなに上手く止血は出来ないだろうと。」
 その止血の秘密を二人は知っているのか、ベッド脇に腰掛けていた指尻女史と香山微笑花巡査はお互いの顔を見合わせて声を出さずに笑っていた。
「みんな、ゑ梨花さんのお陰です。あの時も、ゑ梨花さんが咄嗟に身体を私ごと後ろに引いてくれたから、浅い傷で済んだんです。」
 香山微笑花巡査がベッドの中で、か細い声で言った。

「喋らないで、私は貴方に無理をさせに来たんじゃないのよ。」
 香山微笑花巡査が首を振った。
「ゑ梨花さん、刑事になればよかったのに。体術だってやれば相当のものですよ。」
「私はシーメールなのよ。忘れたの。とにかくもう黙って、寝なさい。これは命令よ。貴方の信頼する上司じゃないけど。」
 ちらりと香山微笑花巡査が、こちらを見たので私は苦笑した。

「貴方が寝るまで手を握っていてあげるから。」
 香山微笑花巡査は、その言葉に従って、本当にすぐに眠ってしまった。
 香革のあんな攻撃を受けて、軽傷で済むわけがないのだ。
 指尻女史は握っていた香山微笑花巡査の手を、掛け布団の下にそっと入れてやると、ゆっくり立ち上がった。
「これからも、私に警護を当ててくれるんですか?」
「当然です。夜の方は、香山微笑花巡査に代わる誰かを準備します。」
「いえ、御白羅さん一人で充分です。御白羅さんが嫌でなければ。」
 その御白羅は今、病室の外の廊下で、警護に当たっている。

「御白羅が嫌がる?」
「ええ、私、御白羅さんを呼び捨てにして、怒鳴り付けちゃったから。」
「ああ、その事ですね。それは私も御白羅から聞いています。自分は、指尻さんに叱られたと。」
「叱られた?」
「ええ、叱られたと。」
 私達二人は、暫く笑いを抑えるのに必死だった。

「私、仕事の方は暫く休みますわ。」
「え?」
「御白羅さんと一緒に休暇を楽しもうって思ってます。昼も夜も。その方が6係としても安心でしょう?」
「、、駄目だ。それは危険すぎる。」
「普通に仕事をしてる方が無防備なんですよ。私は仕事の方に集中してますからね。ところがずっと殺し屋に狙われている。だったら、常に御白羅さんと一緒にいて、相手に向き合ってる方が、逆に安全だと思いませんか?それに、私なんかの為に、御白羅さんを遊ばせているの、勿体ないでしょ?」
 私は考え込んでしまった。
 どの道、この提案を断っても指尻女史は、自分のやりたいようにやるだろう。
 今回、自分を守る為に香山微笑花巡査が傷ついた事が、指尻女史の決意の決定打となった筈だった。
 なら指尻女史の行動を、完全に6係の管理下においてしまう方が安全だ。
 それでも普通は、こんな申し出に、首を立てに振る刑事などいない。
 いたら刑事失格だ。
 だが、私も我々も、トリプルシックスだった。

「貴方の休暇に付き合わせる内のメンバーはいません。それに貴方は今から6係のコンサル業務で忙しくなるんですよ。、、朝から晩までね。」
 そんな私の答えを聞いて、指尻ゑ梨花女史は握手を求める手を差し出してきた。
 私は指尻女史の手を握った。
 それは柔らかいくせに、しっかりしている、実に不思議なシーメールの手だった。



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