悪夢

ふにゃー

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  そう小さい時からそうだった。

  眠ると、大概、怖い夢を見て、泣いて目覚めるを繰り返した。

  見る頻度は毎日ではないけど、とてもリアルな夢だった。

  今、目覚める前に見た夢は……

  会った事の無い白髪混じりの口髭を生やした初老の男性が、青筋を立てて怒り、杖を振り上げていた。

  「私の!私の孫を!赤ん坊を何処にやった!」

  その怒鳴り声と形相が、余りにもリアルで飛び起きたんだけど……

  ふと、夢に出て来たお爺さんが、以前の夢にも出て来た事を思い出した。

  「どうした?」と言って、横で寝てた男が声を掛けて来たが……

  彼は自分の夫ではない。





  自分は、リリアンヌ・ソビジェーブ、伯爵家の長女として生まれた。

  生まれた時から、愛くるしい女の子だったので、愛されていたと思うのだが、気付いた時には遠巻きにされ、疎まれていた様に思う。

  特に、私の下に、これまた可愛く生まれた妹と、家を継ぐ弟が生まれれば。

  自分が見る夢は、物心がつく頃にはあって、毎日ではないけど、度々あって、その度に、泣き叫んで起きるので、いつの間にか、部屋も屋敷の隅に置いやれた。

  そうなれば、両親に仕えてる者たちは、自分の事をおろそかにし始めた。

  自分の乳母だった者や自分付きの侍女が居なければ、衣食住が滞っていただろう。

  ただ、自分の見る夢が、ただの悪夢ではなく、予知夢だと気付いたのは、いつだったか。

  当初は、両親に、夢の内容を訴えていたのだけど……

  気の引く為の与太話だと受け止められ、母は可哀想な子を見る目で見、父には余計に邪険にされた為、話すのを止めた。


  父は、アマルディア王国で、伯爵に任じられ、代々領地管理し、税を納める立場だったのだが、代々実直な性格の者が多かったからか、領地は肥沃で富んでいた。

  その領地で、収穫間近の小麦畑が火に包まれ、1夜にして焼け野原になる夢を見た。

  さすがに、両親に言おうと、震えながらも思ったんだけど、反対に気味悪がられる気がして、勇気が出なかった。

  似たような夢を何度も見る事で気付いたのは、火が燃え盛る中、聞こえて来るのは悲鳴ではなく、面白そうに笑ってる声だと言うこと。

  雷が落ちて発火した事になってるけど、火を付けてる者が居るんだ。と思ったけど、自分にはどうしたら良いのか、分からなかった。

  それで、1番なんでも話せた彼に話す事にした。

  隣の領地の侯爵家子息で、継嗣予定のレイノルドに。


  次男なのに継嗣予定なのは、長男が弱いからって事になってるけど、たぶん違うんだろうな?と、自分は思ってた。

  今、目の前に居る彼、レイノルドに、可愛がられてるシンディが寄り付かないのは……

  彼が食べるのが大好きで、おデブだから。

  それだけじゃなく、シンディに可愛いねと言ってあげないから。

  両親は、シンディと自分に接待を任せたんだけどね。

  当時5歳の彼女に無理というものだ。

  身体をよく動かしていれば、顔立ちからもイケメンだったろうと思えるほどだけど、気持ちいい程の食べっぷりだからねえ。

  今も、自分の話を、片手に茶請けとして出されたマドレーヌを持ち、口をもぐもぐさせながら、聞いてた。

  特に、頷くでもなく、ただ聞いてるだけだったけど。

  それでも、当時8歳だった自分には、胸の中に留めてもおけなかったの。

  王様の耳はロバの耳と、穴の中に叫んだのと同じだと言うのに、口に出来た事でホッとしてた。

  ただ……もぐもぐと食べてるだけのレイノルドが、思案していると思ってなかった。

  そう、隣の領地だけあって、親が旧知の仲と言う事で、縁談の話があって……

  候補の2人を会わせたのだと、自分はその時は知らなかった。

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